白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

しっかり甘い、けどほろ苦い『映画 21エモン 宇宙へいらっしゃい!』

プライムビデオで『映画 21エモン 宇宙へいらっしゃい!』が見放題配信になっていたので、鑑賞する。1981年の夏に『ドラえもん ぼく、桃太郎のなんなのさ』と同時上映されたアニメ映画である。原作は藤子・F・不二雄による同名作品で、監督は芝山努、脚本は辻真先。小学生だったころに、親がダビングしていたビデオテープを夢中になって見ていた記憶が蘇り、半ば衝動的に視聴ボタンをクリックし、気が付くとスタッフロールまでしっかりと観てしまっていた。正直、本編を再生するまでは、「大人になった今だと、作品の粗が見えてしまうのではないか」と不安を感じていたのだが、当時以上に前のめりになっていたような気がする。

その理由は二つ。一つ目は物語の中で描かれている未来と現実のリンクだ。自分の部屋にいながら作品世界に入り込んでいるような体験が出来るバーチャルリアリティ、ハンドルを握らなくても自動車が目的地へと向かってくれる自動運転機能、これまた自分の部屋にいながら学校の授業を受けられるリモート授業など、今まさに現実が追いかけている延長線上の未来が見事に描写されている。作品が描かれた当時の状況が分からないので、どこまで作者である藤子・F・不二雄氏による創作なのかは分からないが、まるで未来を予知したかのような適合ぶりに感動した。来てるな!未来!

二つ目は、主人公である21エモンの心の動き21エモンには宇宙を旅するパイロットになるという夢があるのだが、両親は彼がホテルを継いでくれることに期待している。自分のやりたいことと、自分が求められていること。二つの未来の間で、21エモンは揺れ動く。本編における21エモンは、落語に登場する若旦那のように軽やかで呑気なキャラクターだ。なので、そこまで将来の自分について、シリアスに思い悩んでいるわけではない。だが、彼は彼なりに考えて、様々な人たちの言動を考慮した上で自分の将来について考える。ここに、子どものころには理解できなかった、思春期のリアルを感じた。思春期を思春期の子どもと同じ目線からシリアスに描きがちな昨今の作品よりも、よっぽど冷静に客観的に描けているのではあるまいか(などと思えるのも、今の自分がすっかり大人になってしまったからなのかもしれない)。

……と、なんやかんやと偉そうに書いたが、とどのつまりは「大人になってから見てもきちんと面白いから、知らない人は見てほしい」という結論になる。正直、アニメーションとしては古臭さを感じさせられるところはあるし、家業を継ぐという設定に嫌悪感を覚える人もいるだろう。21エモンの直情的な振る舞いに苛立ちを感じる人もいるかもしれないし、どんな状況下でもイモのことしか考えていないゴンスケにマジギレする人もいるかもしれない。それでも、やっぱり見てほしい。ウキキの木と迎えた朝日の美しさを、騙されていたことを知って火星のホテルを飛び出す21エモンの感情を、スタッフロールで高層ビルに挟まれる形で光り輝くホテル“つづれ屋”を、甘口だけれどビターな味わいをどうぞ味わってもらいたい。