白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

『氷の城壁』を読んだ後で聴いたとある曲に感心した話。

ジャンプ+で『正反対な君と僕』を連載中の阿賀沢紅茶氏が、LINEマンガで連載していた作品『氷の城壁』の単行本を、遅ればせながら読み始めた。男女の関係性について苦悩する主要人物たちの気質が『正反対な君と僕』よりも煮詰められていて、いわゆるところの青春の面倒臭さが存分に表現されている。否、こういう感情の揺らめきを“面倒臭い”と断じてしまう自分こそが、むしろ老けてしまったということなのだろう。いつまで経っても青春の心持ちで在り続けるつもりだったはずなのにねえ。

そんな『氷の城壁』のエピソードにおいて、これまで単なる友人だと思っていた人物が、どうやら自分のことを恋愛対象として見ているようだということに気付いて、「これまでの態度は友人としての好意ではなくて異性としての好意だったのでは……?」と考え込んでしまうくだりがある。一方的に好意を寄せられていることが必ずしも良い出来事として受け止められるとは限らない、という描写は、近年の恋愛漫画でよく見かけるような気がする。そんなこんなで人間性って、時代の変化とともにアップデートされていくものなんだなーっ……と、そんなことを呑気に感じていたところで、ひっさしぶりに吉田拓郎のアルバムを聴いていたら、まさに“一方的に好意を寄せられていることが必ずしも良い出来事として受け止められるとは限らない”を表現した曲があったのでビックリした。

松本隆が作詞を手掛けた『言葉』である。

『言葉』は1978年にリリースされた『ローリング30』に収録されているアルバム曲である。この楽曲の存在は知っていたし、歌詞の内容についても認識していたつもりだったのだが、『氷の城壁』のくだんのエピソードを読み終えた後ということもあってか、やたらガツンと脳天に突き刺さったのであった。その歌詞というのがこちら。「愛してる」というありふれた言葉を「こわい言葉」と表現する繊細さは、今こそ突き刺さるものなのかもしれない。いやー、松本隆ってすげーんだなー。