白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

配信終了前に見てほしい「M-1グランプリ2023」準々決勝敗退・オススメの五組!

すがやしのぶです。

今年も準々決勝敗退者によるすべての漫才をチェックしたので、その中でも個人的にお気に入りだった漫才の紹介をやります。過去の記事は以下の通り。

見るきっかけにでもなってもらえれば幸いです。

 

・じぐざぐ

プロダクション人力舎所属。ジャンプと阿部未来によって2010年に結成。M-1で評価される漫才といえばコンビ同士の掛け合いが白熱するしゃべくり漫才のイメージが強いが、その歴史を紐解いてみると、若林のトークに春日が的外れなツッコミを入れるオードリー、きむのトークに田渕が話を脱線させるような相槌を打ち続けるインディアンスなどのように、ツッコミ役のトークをボケ役がジャマしてしまうスタイルの漫才も決して少なくない。じぐざぐの漫才もその延長線上にある。ただ、彼らが独特なのは、ツッコミ役である阿部のトークをジャマしてしまうジャンプの相槌が、すべてダジャレに帰結するところにある。しかも、それは単なるダジャレではない。しっかりと段階を踏んで繰り出される、単体でも成立するダジャレなのである。そして、話が進めば進むほど、そのダジャレのバカバカしさがボディーブローのようにじわりじわりと効いてくる。実はM-1に出られなくなってから真価を発揮するコンビなのではないかという気もするが……。「うっかり八兵衛!しっかり九兵衛!ちゃっかりPayPay―!」

 

・十九人

ASH&Dコーポレーション所属。松永勝忢とゆッちゃんwによって2018年に結成。漫才コントの形式を敢えて崩すタイプの漫才がある。例えば、コントに入ろうとするも、何かしらかの障害があるために、なかなかコントに入ることが出来ず、そのままネタが終わってしまう……というものだ。いわば漫才コントのスタイルを、メタ視点でネタとして昇華してしまうわけである。で、個人的には、この手法はあまり好きではない。アンタッチャブルサンドウィッチマンパンクブーブーなどといった漫才コントの名手たちのネタに比べて、そういったメタ視点のネタはどうしても見劣りするからだ。漫才コントを見慣れた観客に対して意表を突いてはいるが、それ以上のインパクトはない。「そういうネタなんだな」と認知されてしまえば、これほど退屈な手法はない。そんな印象を、今回の十九人の漫才は完全に打ち砕いてくれた。とにかくゆッちゃんwが最高なのだ。ネタの整合性などというものをかなぐり捨てて、ひたすら剛腕で相方と観客を引きずり回す。そして終盤には謎の感動が……なんだこれは。なんなんだこれは。気が付けば、得体の知れない面白さに、すっかり飲み込まれてしまった。「ツチノコなのにツチノコじゃない?……お前、なんだ?」

 

デルマパンゲ

吉本興業所属。広木英介と迫田篤によって2009年に結成。“コロンブスの卵”という慣用句がある。「西に向かって航海すれば誰でも辿り着けるのだから、アメリカ大陸の発見は大した業績とはいえない」という発言を受けて、コロンブスが「卵を立ててみなさい」と対応、誰も卵を立てることが出来ないところでコロンブスが卵の先端を割って平らな状態にすることで立ててみせた……という逸話に由来している。要するに、方法そのものが容易であったとしても、それを初めて行うのは非常に難しいという意味を持つ言葉である。芸人のネタにおいても同様のことがいえる。一見、ありきたりで、誰でも思いつきそうな発想であったとしても、それを最初にネタとして演じていることに意味がある。その意味において、今回のデルマパンゲの漫才は非常に素晴らしかった。誰もが知っている事象に対して、誰もツッコミを入れてこなかった事実を見事に拾い上げ、真っ直ぐに違和感をぶつけることによって、じわりじわりと妄想的な世界が広がっていく。とはいえ、観客には一定の共感を与えているところに、彼らの底知れなさがある。個人的には、今年の準々決勝敗退組の中で、最も準決勝進出してもらいたかったコンビである。来年がラストイヤーと聞いている。頑張ってほしい。「なんで羊は無限なのに、柵には限りがあるんか!!!」

 

・ミカボ

吉本興業所属。山田裕磨と土屋翼によって2021年に結成。このところSNSにおける有名人の立ち振る舞いの“正解”について考えることが多い。「有名人だって一人の人間なのだから、テレビメディアなどから距離を置いたSNSのような場においては一個人として言いたいことを言うべきである」と思うのだが、一方で、「芸能人は市井の人々に夢を売る商売なのだから、夢を覚ますような発言は控えるべきである」とも考えてしまう。おそらく、この問いに正解はない。人それぞれにそれぞれの不定形で無責任な回答を持ち合わせているからだ。今回のミカボの漫才は、特定の有名人に関する〇×クイズを提示し、その有名人の実情と照らし合わせることによって、そんな大衆の無責任さを抉り出している。漫才の中では、その有名人に対する底意地の悪いクイズとして処理されているが、その矛先が向けられているのは、都合の良いように有名人の言動を受け取ったり、時には妄想を抱いたりしている、我々の方である。ただ、それでもなお、こちらの想像を超えてくるところに、有名人の有名人たる所以があるようにも思うわけだが。「徳永が欲しいなーっ!徳永が欲しいわ!」

 

ヤングタウン

エイベックスマネジメントと毎日放送にそれぞれ所属。落語家の錦笑亭満堂とアナウンサーの福島暢啓によって2018年に結成。モノマネ芸とは一種の批評であるとされている。モノマネされる側の立ち振る舞いを観察し、その個性を部分的に強調することで、世間が当人をどのように見ているかを可視化しているからだ。もっとも、そのことに自覚的であるかどうかで、その芸の深みはまったく変わってしまうわけだが。今回のヤングタウンの漫才は、その点において非常に優秀であった。かつて学生時代に“志ん茶”というアマチュアコンビとして準決勝進出の経験がある福島アナによる田中角栄のモノマネは、「田中角Way」に代表されるラーメンズ的な言葉遊びや、「ロッキード事件」のような年表に書かれる事象を擦るようなレベルを超越した、とても批評的なパフォーマンスであったように思う。それはもはや、田中角栄個人に対するパロディというよりも、果てしなく遠回しに打ち出された今の時代の政治家に対する「君らは同じことやっとらんやろな?」という警告にすら感じられた。……というのは、流石に勘繰りすぎというものだろう。ただ、この令和の時代において、昭和末期に大規模な汚職事件を起こした田中角栄のモノマネ芸を軸とした漫才をやったことには、やはり何かしらかの意味を感じずにはいられない。「ハーハッハッハッハッハ……バンザーイ!」

 

以下、準々決勝敗退者のまとめ。

・11月20日(大阪予選)
釈迦虎「自己啓発セミナーで見かけたスゴいおばちゃん」
ウイスキーカノン「レジ打ちのイヤな客」○
オーサカクレオパトラ「高校生同士の恋愛ドラマ」
【通過】ぎょうぶ
ハスキーポーズ「レンタルおかあさんとレンタル旦那」
盆と正月「マッチングアプリで知り合った女の子とデート」
【通過】20世紀
【通過】豪快キャプテン
ジョックロック「ドロドロの不倫ドラマ」○
ボニーボニー「公園の老夫婦」
ぐろう「傘を失くさないように」
ヤングタウン「生徒会の応援演説」◎
イノシカチョウ「刑事ドラマの取り調べシーン」◎
アキナ「頂き物のローズマリー」○
【通過】ニッポンの社長
【通過】華山
祇園「奥さんからの頼まれごと」
チューリップフィクサー「早口言葉」
ツートライブ「立ちこぎ止めな」◎
滝音「おばあちゃんの思い出」○
【通過】カベポスター
【通過】フースーヤ
天才ピアニスト「カニか牛肉か」
黒帯「トム・クルーズさんの最後の作品」
三遊間「甲子園を目指せる高校の名前」○
デルマパンゲ「羊がいっぴき」◎
隣人「修学旅行でスカイダイビング」
ダブルヒガシ「引っ越しの挨拶」
セルライトスパ「ボクササイズ」
ハイツ友の会「Twitterが下手な人」
【通過】バッテリィズ
からし蓮根「レンタル彼氏」
らぶらいken「新幹線のBの席」
【通過】ヘンダーソン
【通過】ドーナツ・ピーナツ
【通過】鬼としみちゃむ
ビスケットブラザーズ「2000円の代わりになるお願い」
【通過】さや香

・11月21日(東京)
やわら「歌い方がヘンすぎる」
めっちゃ最高ズ「授業参観」
いぬ「俳優オーディションの審査員」
十九人「ツチノコハンター」◎
カナメストーン「裏を打つ」
そいつどいつ「刑事ドラマの突入シーン」
【通過】スタミナパン
男性ブランコ「ピッツァ屋さん」○
チルダ「イヤな上司の対処法」
わらふぢなるお「なるおさんの紹介」
人間横丁「しんにょう」○
【通過】くらげ
春組織「食べられるために」
ダウ90000「初デートの場所」
忘れる。「特別な駅弁」◎
【通過】ロングコートダディ
スーパーニュウニュウ「風俗をやりたい」○
イチゴ「木星に疑問を持つな」〇
ナユタ「マジカルバナナ」
ミカボ「○✕クイズ」◎
パンプキンポテトフライ「ハメ撮り」◎
紅しょうが「ええ女の正解」
トンツカタン「改めましてトンツカタンです」
ひつじねいり「カラオケに行きたい」
すゑひろがりず「和風チートデイ」
戦慄のピーカブー「深夜の神社で呪いの儀式」
カラタチ「アイドルの握手会」〇
オダウエダ「ウチの記憶の中の年越し」
10億円「電車内でマナーの悪いヤツをほっとける」〇
EXIT「こどものウソ」
【通過】エバース
【通過】真空ジェシカ
素敵じゃないか「刑事ドラマ」○
【通過】ダイタク
ダイヤモンド「マンガの週刊誌の発売日」
ちゃんぴおんず「ちょんってすんなよ」
【通過】ナイチンゲールダンス
ストレッチーズ「言葉はケツで取れ」

・11月22日(東京)
パーフェクトパワーズ 「刑事ドラマ」
きっと君はくるさ「ドミノを並べた家に彼女を招きたい」
きつね日和「おいなりくんの絵描き歌」
バンビーノ「しゃがみ鬼」
Let Me Show You THE まごころ「お前、名前なんていうの?」
モシモシ「前世は女教頭」
モンスーン「どっちがモテるか」
【通過】モグライダー
とらふぐ「やばいやつ」
インディアンス「高級レストランのおばはん」
じぐざぐ「親孝行のプレゼントを考える」◎
カゲヤマ「物申したいこと」
大仰天「お父さんの気持ち」〇
THIS IS パン「お節介焼きの友達」
【通過】マユリカ
【通過】トム・ブラウン
1000「子どもの友だち」○
9番街レトロ「プライドどこに落としてん」
ミキ「結婚記念日のプレゼント」
コーツ「四天王の中でも最弱」
ゆにばーす「おなら差別」
【通過】きしたかの
サブマごり押し「予言」
東京ホテイソン「英語の必殺技」
エルフ「ドライブスルーで元カレに会う」
オッパショ石「童貞を殺すセーター」
ケビンス「仁木くんのお葬式」
フランスピアノ「ビデオレター」○
アインシュタイン「第三の目が開くとき」
オフローズ「この世はVR世界かもしれない」◎
【通過】ママタルト
【通過】令和ロマン
シカゴ実業「高校野球のベンチ入りメンバー」
キンボシ「ゴルフ」
ジグザグジギー「ラジオの公開収録で人違い」
金魚番長「自慢してんじゃーん」
【通過】ダンビラムーチョ
キュウ「ハングリーマン」○
アイロンヘッドナポリくんのカフェ」
TCクラクション「王様になりたいでやんす」〇
ヨネダ2000「アヒル
【通過】シシガシラ
シンクロニシティ「俳句」
豆鉄砲「東京に人が集まる理由」○
【通過】オズワルド
【通過】ヤーレンズ
【通過】ななまがり