どうも、すが家です。
『キングオブコント2023』の興奮が冷めやらぬまま、気が付けば三週間が経過しようとしています。お笑い評論家を自称する者としては、とっとと感想文のひとつやふたつぐらい書いて、ブログアクセスの増数を目指した方が良いのだろうとは理解しているのですが、当時の余韻がまだまだ止まらないから困ったものです。味の消えないガムやスルメのように、貪欲に噛み続けるばかりで、まるで飲み込む気が起きません。
そんな最中、まったく想像していなかった方向から、大会に対する批判の風が巻き起こりました。「審査員の後ろに座らされている女性問題」と「女性審査員の不在問題」です。今回の記事では、これら二つの問題について私見を述べたいと思います。
まずは「審査員の後ろに座らされている同じ服を着た女性問題」について。
『キングオブコント』の決勝戦では、審査員の後ろに大勢の同じデザインのTシャツを着た女性たちを座らせる演出が採用されています。この様子が、ジェンダーバランスが偏っている、という批判の声があがっているようです。これはおそらく、かつて『キングオブコント』が準決勝戦敗退者100人による審査システムだった時代の名残ではないかと思われます。現行の5人審査制に移行する際に、当時の賑やかな雰囲気を損なわないようにするために取られた措置なのでしょう。
ただ、当時の映像を確認してみると、5人審査制に移行した2015年大会から2019年大会において、審査員の後ろに座らされている女性たちは私服姿で参加しています。その姿はまったくの一般客のようです。ところが、2020年大会になると、途端に彼女たちは同じシャツを着て、大会を鑑賞するようになるのです。では、どうして2020年に、そのような変化が生じたのでしょう。
実は、2020年から『キングオブコント』は単独のお笑い特番ではなくなり、TBSの大型お笑い特番『お笑いの日』での企画のひとつとして放送されるようになったのです。
およそ八時間にもおよぶ生放送特番である『お笑いの日』は、いくつものスペシャルコンテンツが一緒くたに凝縮された一大イベントです。放送前にはタイムテーブルやセットリストも公表され、その盛り上がりはロックフェスを思わせます。このロックフェス感を高めるために、審査員の後ろに座らされている女性たちをフェスの観客に見立てる演出として、彼女たちに特定のデザインのTシャツを着させるようになったのではないでしょうか。
だから、審査員の後ろに同じ服を着た女性たちを座らせても問題はないのだ……とは思いません。その構造がジェンダー的な問題を抱えていることには変わりないからです。一般の老若男女による審査システムを採用した『THE SECOND ~漫才トーナメント~』の成功があった年だからこそ、考える余地はある筈です。……とはいえ、現状に対して疑問を呈するだけにとどまらず、そこに至るまでの流れについて理解する姿勢を見せることも大事なのではないかとは思います。ただ否定するだけでは、隔絶を作るばかりですし。ひとまず、これだけ大きな話題になったので、来年以降の対応がどうなるのかについて、見守っていければいいのではないでしょうか。
続いて、もうひとつの問題である「女性審査員の不在」について。
現在、キングオブコントの審査員を務めているのは、今のお笑い界に多大なる影響を及ぼしている松本人志(ダウンタウン)を筆頭に、歴代王者である飯塚悟志(東京03)、秋山竜次(ロバート)、小峠英二(バイきんぐ)、山内健司(かまいたち)の5人です。全員が男性というのは、これもまたジェンダーバランスが取れていないという批判が持ち上がっています。……正直、先程の審査員の後ろに座らされている女性たちの件が持ち上がったことで、相対的に話題になっているだけのような気がしないでもないですけれども、こちらについても少し考えていきましょう。
(余談:ていうか、これはもう何年も言い続けていることなんですけど、女性審査員云々以前に、そもそも審査員が5人っていうのが少なすぎるんじゃねーかって思うんですよね。松本人志+歴代王者4人ってカタチはおさまりが良いようにも思えるけれど、もう二人ぐらいほしい。だから、ここに岩崎う大(かもめんたる)を加えて、更に女性審査員として誰かを入れればいいんじゃないかね)
この件についても反論の余地はありません。ただ、これを実現する際に、ひとつの問題が生じます。それは「誰が審査員をやってくれるのか」という問題です。お笑い賞レースの審査員をベテラン芸人が務めるのが当たり前のようになっている昨今において、一般の視聴者にはあまり実感を持たれにくい話なのかもしれませんが、現実問題として、芸人には審査員をやりたがらない人の方が多いといわれています。例えば、明石家さんま、ビートたけし、太田光(爆笑問題)など、賞レースの審査員を断っていることを公言している人も少なくありません。
現在、全国規模の賞レースにおいて、審査員を務めた経験のある女性芸人は、上沼恵美子(「M-1」)、山田邦子(「M-1」)、清水ミチコ(「R-1」「THE W」)、久本雅美(「R-1」「THE W」)、友近(「R-1」「THE W」)、ハイヒール・リンゴ(「THE W」)の六名のみ。そのうち、清水、久本、友近の三名に関しては、複数の大会で審査員を務めているあたり、審査に前向きな女性芸人の少なさが伺えます。
もっとも「審査員が芸人である必要性はないのではないか」という考え方も出来ます。M-1の第一回大会を見てみると、青島幸男(放送作家出身)や鴻上尚史(劇作家)のように、芸人ではない立場の審査員の参加もありました。最前線を行く女性クリエイターの視点から、コントを評価することは決して不可能ではないでしょう。
問題は、それで視聴者が納得してくれるのか、というところ。特に近年は、賞レースの時にばかりしゃしゃり出るような野放図な輩が、一介のご意見番のような顔つきで、審査員のコメントの中身ではなく態度を観察し、「話が長い」「面白くない」「何を言いたいのかがわからない」という身も蓋もない言葉をSNS上に撒き散らしていることも少なくありません。もし仮に、芸人ではない女性審査員を採用した場合に、そういった意見が飛んでこないなんてことはないでしょう。それでも審査員を続ける、審査員を続けさせられる、確固たる意志を持ち続けられるかどうか。ともあれ、物は試しに、一度チャレンジしてもらいたいとは思います。
個人的には、数々の芸人を見てきているだろうK-PRO代表を推薦したいところですが、やりませんかねえ……やらないでしょうねえ……。
こちらからは、ひとまず以上です。