なんにもやる気がないけれど、『THE SECOND ~漫才トーナメント~』の感想を書いてみようと思う。
やる気がないのに感想を書くのだから、評論や分析はやりたくない。私は三十になった時分から、これからは感想でなければいけないと決めた。そう決めても、やる気がなくて執筆依頼が来れば、止むを得ないから、分析をやるかもしれない。しかし、どっちつかずの評論は書きたくない。評論を書いている人の顔つきは嫌いである。
しかし、やる気がないという、そのいい境涯は、序盤にしか味わえない。なぜと云うに、書き始めたら投げっぱなしというわけにはいかないので、必ず書き終えなければならないから、結びまでの執筆は冗談の執筆ではない。だから、感想で始めて、分析で終わらせようと決めた。
以上、冗談の執筆である。以下、感想の執筆になる。
『THE SECOND ~漫才トーナメント~』、第一試合は金属バットとマシンガンズによる対戦である。
先攻は金属バット。金属バットは吉本興業に所属する漫才師だ。小林圭輔と友保隼平によって2007年に結成された。M-1には養成所時代の2006年から出場。ラストイヤーとなる2022年まで出場し続けていたが、決勝進出の経験はない。今大会ファイナリストの中で、最も芸歴の短いコンビである。
ネタは『ことわざ』。ことわざを知らないという小林が、友保から様々なことわざを教わって、自分なりの解釈を披露するのだが、その内容がいちいち危なっかしい。M-1の予選では、ヘンテコな設定のしゃべくり漫才を披露していた印象の強い彼らだが、今回ははっきりとアウトロー路線に踏み込んだスタイルの漫才で勝負を仕掛けている。
それでいて、不穏な空気にならないのは、先のM-1で優勝したウエストランドの『あるなしクイズ』における、井口があるなしクイズの答えを出すという目的のために結果として悪態をついてしまっていたことと同様に、小林があくまでことわざを理解するために自分の中から導き出した解釈が、結果として不穏な空気を漂わせているワードになっているだけに過ぎない、という演出が施されているためだろう。
ただ、アウトローなワードがアクセントとして散りばめられていたとはいえ、フリとボケとツッコミのラリーによる構成はやや単調な印象を与え、後半はちょっとばかり飽きを感じてしまった。単なるアウトローボケのインパクトだけではなく、ワクチンの話題から派生した「腕にICOCAを入れる」くだりのような、想像をかき立てるような掛け合いが設けられていれば、もうちょっと観続けることが出来たかもしれない。
後攻はマシンガンズ。マシンガンズは太田プロダクションに所属する漫才師だ。滝沢秀一と西堀亮によって1998年に結成された。M-1では2007年・2008年に準決勝進出を果たしているが、決勝進出の経験はない。近年、滝沢はゴミ清掃芸人として、西堀は発明家芸人として、注目を集め始めている。
ネタは『大変な仕事・居酒屋のバカな客』。二人がこれまでに経験してきた様々なイライラする出来事を、次から次へとぶちまけていく。
ネタの内容はかなりベタ。「ろくでもない場所で漫才をやらされた」「居酒屋のバイト中にろくでもない客に付き合わされた」という、時代が変わろうとも普遍的に共感を得られるだろう内容のボヤきがぶちまけられている。というか、なんなら今から15年ほど前に、『爆笑レッドカーペット』や『エンタの味方!』で、同じネタを観たような気がする。賞レースなんだから新ネタを用意してこいよ。ただ、ネタの内容が同じでも、演じている二人の年齢が重ねられたことで、15年前には出しきれていなかった人間臭さが出るようになったようには思う。特に西堀が滝沢の勢い余ってのブス発言に狼狽するくだりは、その表情と間に色々な思考が巡っているように見えて、非常に面白かった。あのくだりはアドリブなのだろうか。
また、ネタに入る前に、先の金属バットや自分たちについての言及、観客に対する労いなどのくだりを用意することで、演者である自分たちと観客の距離を縮めていたのも小技がきいていた。マシンガンズのように、不満に対して大声をあげる芸風のコンビの場合、ああいうくだりを用意するのとしないのとでは、まるで印象が変わってくる。ただ、こういうことは、彼らがネタでやっていることと、素の状態で客に気遣える態度が、キャラクターとして矛盾していないからこそ出来ることだろう。その意味でも、大変に人間臭い漫才だったといえる。
結果は、金属バットが269点、マシンガンズが271点で、マシンガンズの勝利。やや単調な後味を残した金属バットに対して、漫才がスウィングしていたマシンガンズの圧勝したのではないかと思っていたのだが、なかなかの僅差だった。
第二試合へ続く。