白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

『ゾフィー傑作選ライブ「ZOBEST」』(2023年5月31日)

キングオブコント2017」「キングオブコント2019」ファイナリスト、ゾフィーによる初の単独作品集である。2023年1月から2月にかけて、東京・大阪・仙台・名古屋で開催された全国ツアーから、1月21日にシアターサンモールで行われた東京公演の模様が収録されている。本編に収められているネタは、キングオブコントの決勝戦で演じられた『母が出て行った』『謝罪会見』を含むコント全10本。幕間映像は無し。登場人物の設定やセリフ回し、世界観の共有などで、コント同士を一本に繋げた構成が採用されている。特典映像も無し。舞台上のコントだけで作り上げられた、非常にストイックな作品集といえるだろう。

本編で演じられているコントは倫理的に危ういものが主。実は薬物依存症になっている麻薬取締官の男が取引現場に残された僅かな麻薬を同僚にバレないようにこっそりと吸引し続ける『マトリ』、自殺しようとしている男の元へ葬儀屋が喜々として駆けつける『自殺を止める』、少人数の弱小野球部が部員集めに奮起したところ異常な規模へと発展してしまった『野球部の末路』など、テレビで披露されることを前提としていないアウトローなネタの目白押しだ。以前から、コンビとしての認知度や上田のコントに対する強い思い入れに反して、どうして先人に倣って映像作品集を出さないのかと疑問に思っていたのだが、その理由を理解できたような気がする。傑作選と銘打っている本作ですらコレなのだから、この奥には、もっと危うくて、もっと最悪なコントが秘められているのだろう。いつの日か見てみたいものである。

特に印象に残っているネタは、腹話術師が腹話術人形とともに謝罪会見に臨む様子を描いた『謝罪会見』。本編に収録されているコントの中では、「キングオブコント2019」決勝の舞台も含めて、もう何度も目にしているネタなのだが、腹話術人形のふくちゃんを操る上田の技術が当時よりも格段に向上。ちょっとした仕草でガンガン笑いを取っている様は圧巻だった。また、私の記憶が正しければ、当時の上田はふくちゃんを演じるときに声色だけを変えていたと思うのだが、本作では実際に腹話術を試みていて、その向上心にも感服させられた。このまま芸を突き詰めていけば、上田はいずれ令和を代表する腹話術師になってしまうかもしれない。

一方で、非常に勿体無いと感じたのは、上田の台詞が早口過ぎて聞き取りづらい場面が何度か見受けられたことである。もともと、ちょっと声のトーンが高めな上に、感情の見えづらいキャラクターを演じることが多いため平坦な喋りになりがちなところはあるのだが、その上で早口になると、これはもう聞き取れない。ただ、やりなれているネタを雑に演じている、というわけではない。きちんと役を演じた上で早いのである。ライブの後に別件でも控えていたのかと疑いたくなるほど、早かった。

ここまで、結果的に上田の話ばかりになってしまったので、サイトウの話もしておこう。今回、サイトウの演技が非常に良かった。どこにでもいるような年相応の中年男性を丁寧に演じていて、特異なキャラクターを演じる上田を支える土台としての役割をしっかりと担っていた。芸能の世界に身を置きながら、華を咲かせることなく、あの平凡な佇まいを維持することは、なかなか出来るものではないだろう。

ブラックユーモアとしての色合いが強いゾフィーのコント。コンプライアンス意識の高まった昨今の風潮を思うと、その深淵の部分をテレビの電波にのせることは、きっと今後もないのだろう。その記録を残すという意味でも、これからは単独ライブごとにソフト化されると大変に嬉しいのだけれど。

ちなみに、HMVでは本作の台本が販売されている。

二人によるネタ解説も掲載されているので、本編を鑑賞した後で、その制作過程などが気になる方は購入してみると良いだろう。個人的には、とあるコントが「キングオブコント2017」決勝の二本目に用意していたネタだったことが、ちょっと衝撃的だった。W炎上の可能性を思うと、予選敗退は二人にとってラッキーだったのかもしれない……!

・本編(77分)
「マトリ」「自殺を止める」「自殺で止まる」「母が出て行った」「あけみ荘殺人事件」「野球部の末路」「世の中に必要のない人」「博士とロボ」「弔辞」「謝罪会見」