白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚 ~諸国漫遊記~」(2021年8月18日)

2021年4月から8月にかけて全国八都市で開催したライブツアーより、4月8日になんばグランド花月で行われた初日の公演を収録。構成に里村仁志

すゑひろがりずは三島達矢と南條庄助によって2011年に結成された。NSC大阪校28期生にあたり、同期には、稲田直樹アインシュタイン)、祇園、ラフ次元、中山女子短期大学、清水誠(キュウ)などがいる。コンビ結成当初は「ドロスス」「みなみのしま」などの名前で活動していたが、2016年に芸風に合わせた「すゑひろがりず」という名前へと改名する。2019年に『M-1グランプリ』決勝進出、同年にYouTubeチャンネル『すゑひろがりず局番』を開設。2022年1月現在、37万人の登録者数を獲得している。

演じられているネタは全六本。いずれもすゑひろがりずお得意の“狂言風漫才”となっている。ただ、見せ方はそれぞれ微妙に違っていて、決して飽きさせない。例えば、一本目の漫才では、ヤンキーに扮した二人の目が合ってケンカを始めるときの定番の文言「ケツの穴に指入れて奥歯ガタガタ言わしたろか」を短歌のように読み上げる。三本目の漫才では、子どものころのありがちなシチュエーションに歴史上の出来事を掛け合わせる。四本目の漫才では名作アニメーション映画『となりのトトロ』の名シーンを和風に再現する。仕掛けは同じでも手法は多様、その狭い芸風の幅広さを改めて感じさせられるネタばかり。その愛おしいバカバカしさに改めて感心させられた。

特に面白かったのは、五本目の漫才。行き先も宿も決めない行き当たりばったりの一人旅をやりたい南條のために、三島が現地の町の人たちと演じることで、その雰囲気を味わわせる……という漫才コントである。旅人が現地の人間から「是非、ウチの宿に泊まってくださいませ」と勧誘を受ける展開が、古典落語のそれを思わせ、他のネタよりも妙に深みを感じさせ、なんとも味わい深かった。この味わいがあるからこそ、シンプルでバカバカしいオチが一層面白くなる。否、厳密にいえば、どれもこれも甲乙つけがたし、といったところなのだが。

また、本編中に、すゑひろがりず以前のコンビ“みなみのしま”が登場するくだりも。当時のオーディションを再現するように、漫才がつまらなければ脇で観ている作家が漫才を強制終了させるシステムの中、ネタを披露していた。結果がどうなったのかは……実際に鑑賞して、確かめてもらいたい。

以上のことから、本作は老若男女にオススメすべき一作……と言いたいところなのだが、オーラスのパフォーマンスがちょっと下ネタとしても厳しいラインなので、ここはむしろ一人でこっそりと観るべきなのかもしれない。少なくとも、子どもと一緒には観ない方がいいかもしれない。お茶の間が凍り付いてしまうかもしれないくだりがあるので。いやー、惜しいな。

・本編(76分) ※カッコ内のタイトルは適当に付けてます
「口上」「漫才 一(ヤンキーに憧れている)」「漫才 二(上品な食レポを心掛けたい)」「ご当地がりず検定」「漫才 三(懐かしい思い出)」「漫才 四(『となりのトトロ』の映画紹介)」「みなみのしま映像」「みなみのしま漫才」「漫才 五(行き当たりばったりの一人旅)」「漫才 六(酔っ払いを介抱したい)」「ご当地がりず検定」「結びの一番」

・特典映像(21分)
「マネージャー桑島の~舞台裏漫遊記~大阪編」