■2月3日、M-1の感想をなかなか書かないことに突っかかってきた挑発的なコメントに対し、天邪鬼的な反抗を示すべく、当日に入手したばかりのエレ片のDVDを観る。
2019年2月から3月にかけて全国三都市で行われた新作コントライブの模様を収録。エレ片のコントライブといえば、とんでもなく面白いか、それなりに面白いけれど物足りないか、どちらかのパターンになることが多いのだけれど、今回は前者。エレ片の三人が演じる三姉妹を中心としたコントはどれもこれもハチャメチャで面白かった。なにせ、やついはイノシシのウンコを食べ、今立は舞台から落っことされそうになり、片桐は砂浜で詩を読みながら怪しげなサロンへと勧誘する。やがて降りてくる神の啓示。何がなんだか分からないが、とにもかくにも面白い。これら本編に加えて、特典映像は幕間で流された『片桐催眠キックボクシング』。催眠術によって恐怖心を取り除かれた片桐がキックボクシングに挑戦するのだが、ついでに色々な催眠をかけられてしまい、最後はドイヒーなことに。これまでに観た特典映像の中でも、サイテーの部類に入るケッ作だった。サイテー、だけどサイコー!
明けて4日、副音声コメンタリーで本編を鑑賞。コントのモチーフとなった出来事やとあるコントのキャラクターの衣装のモデル、ライブで起きた事件などが語られていて楽しい。やはりコメンタリーではライブ自体に関する話で構成されていてほしいなあと改めて思う。(本編75分+特典10分)
■2月10日、酒を飲みながらハナコのDVDを観る。
2019年4月から6月にかけて全国四か所でのツアーが敢行された単独ライブの模様を再現して収録。但し、前作の『しぼりたて』と同様、実際のライブでは披露されなかったコントも演じられている(実際のライブを観てきた方のレポートによると『親戚のおじさん』と『俺だ』がそれに該当するようだ)。舞台の両端に“TANACO”“TAROU4”の巨大なアルファベットが組まれていて、コントごとにそれらが小道具として使用される(例えば“CO”の部分を積んで机のように仕立てていたりする)演出が可愛い。ただ、コントによっては普通の椅子が使われていて、あんまり一貫性がなかったことが少し気になった。どうせなら貫いてほしい。
コント自体はとにかく安定の出来。新元号発表の場で浮かれてしまった人々を描いた『新元号発表』に始まり、男性バイトから恋愛にまつわる話を切り出されるたびに激しく動揺してしまう女性店員の所作がコミカルだけど愛らしい『距離感』、就職の最終面接を控えてロビーで待機している就活生の前にただならぬオーラを放つ清掃員が現れる『清掃員』など、どのコントもしっかりと面白い。ただ、ハナコならではのコント、ハナコだからこそ見せられるコントが、あまり見えてこなかったような気もする。多種多様なコントを自由奔放に演じている今のままでもいいのだけれど、これから先、じわりじわりと表出していくのだろうか。個人的に面白かったのはオーラスの『行かないで』。ネタバレしてしまうと台無しになってしまうタイプのコントなので、是非ともご覧いただきたい。
これら本編に加え、特典映像として『岡部ハーレーを買う?!』を収録。タイトル通りのロケ映像で、これといった意外性はない。ロケ芸人としての道は遠いのかもしれない。(本編60分+特典映像12分)
■2月11日、今年のDVDを早めに消化しておこうと思い立ち、ナイツのDVDを観る。
2019年10月から12月にかけて全国ツアーを展開した独演会より、11月16日の横浜にぎわい座での公演の模様を収録。“ヤホー漫才”で一世を風靡したナイツによる独演会も本作でとうとう十作目。ショートネタブームも遠くなりにけり。当時は浅草の星とも呼ばれるに相応しい正統派漫才師ぶりを見せつけていた彼らだが、経年変化の果てに、漫才と大義名分にやりたい放題をやり散らかす正統派の皮を被った地下芸人へと変貌を遂げてしまった。なのに、何をやっても、不思議と正統派の風格を漂わせているのだから、ずるい。しかし、それもすっかり定例化されてしまった昨今、本作で披露しているネタの多くは過去公演で披露したネタの延長線上にあり、これといって新たな発見は得られなかった。無論、それでも尚、しっかりと面白いのだが。ただ、特筆に値する漫才として、土屋がジッタリン・ジンの『プレゼント』を熱唱し、その内容に塙がハチャメチャなツッコミを挟み込む『解散してあげるわ』の存在は記録しておきたい。理不尽なことばかり言い続ける塙が、絶妙なタイミングで的を射たことを言う瞬間がたまらなく面白かった。特典映像は本編でも披露された『平成をヤホーで調べました』ダイジェスト。音質が悪く、映像も一部しか収録されていないが、平成を振り返るには絶妙なラインナップ。(本編73分+特典映像17分)
■2月21日、キュウのDVDを三枚同時購入したので、観る。
2018年4月27日に関交響ハーモニックホールで行われた第一回単独公演の模様を収録。当時、一部界隈において、ぴろの素っ頓狂な発言に清水が「めっちゃええやん!」と受け入れているように見せながら、その実、しっかりとツッコミを入れていく『めっちゃええやん』というフォーマットが注目され始めていたキュウ。そのため、そういう傾向のネタが多く演じられているのだろう……と思いながら鑑賞し始めたのだが、期待は良い意味で裏切られる。とにかく自由奔放。有名な昔話に挟み込まれた異物がどんどん肥大し始める『猿かに合戦』、有名なアニメに出てくる青だるまの名前が分からない『ドラえもん』、シュークリームになることが夢だというぴろが如何にしてシュークリームになるのかを説明する『シュークリーム』など、非現実的な会話が延々と繰り広げられている。とりわけ『ルパン』は衝撃だった。言葉が意味から解放され、無意味なのに何故か理解できる不思議な世界がそこには広がっていた。素晴らしい。(本編60分)
■2月24日、第二回単独公演のDVDを観る。
2018年12月14日に関交響ハーモニックホールで行われた単独公演の模様を収録。再生と同時にエンドトークが始まり、困惑。観客のリアクションから察するに、どうやらチャプターが間違っているわけではないようだ。なんと本公演は、本来の香盤とは逆の順序で構成されているのである。だからエンディングのトークで幕を開け、オープニングトークで幕を閉じる。漫才ライブとは思えないレベルの濃いコンセプトである。ただ、肝心のネタに関しては、いずれも前作の延長線上という印象で、新しい衝撃は得られず。とはいえ全体的にクオリティは高め。清水がティラノサウルスよりも格好良いと称賛される違和感がたまらない『ティラノサウルス』、とある有名な映画をコメディ映画として捉えて酷評する『最低のコメディ映画』、動物との距離感が独特な二人の会話が面白い『動物』など、他に類を見ない設定が目白押し。そしてエンディング、とあるバカバカしい企画が行われていたことが告げられる。あの違和感の理由はそういうことかー……と思いながら、エンドロールを眺めていると、更に衝撃の事実が。キュウというコンビが只者ではないことを提示した、驚くべき仕掛けだった。(68分)
同日、続けざまに第三回単独公演のDVDも観る。
2019年8月6日、座・高円寺2で行われた第三回単独公演の模様を収録。本作から企画・制作として現在の所属事務所であるタイタンの名前が書かれるように。不穏な雰囲気を漂わせるオープニング映像を経て、漫才が始まる。しかし、この漫才が、とにかく退屈でつまらない。ボケにキレがないし、掛け合いも冗長でテンポが悪い。妙な違和感を残しながら、これといった引っ掛かりもなくネタが終わる。幸先の悪いオープニング。ところが、これ以降の漫才は、過去作でも目にしたキュウの漫才が展開されていく。誰でも正解を当てられるだろうクイズを清水が延々と間違え続ける『松崎しげる』、「カレー」のことを「カリー」と言い続けるぴろに清水のストレスが止まらない『好きな食べ物』、有名な昔話について話しているときに突如として出てきた脱線話を舞台上のあっちこっちに置いて回る『桃太郎』、ぴろの好きなものにはある共通点が存在することが発覚する『好きなものを聞き合う』など、ひねりの利いた漫才がこれでもかと見せつけられる。こちらの意識の斜め上を貫く心地良さ。ところが終盤、突如として清水のツッコミが大爆発。そして、あの不穏なオープニングが、あの退屈な漫才が、全てが仕掛けの一環だったことが分かる。公演タイトルですらも……。なんだこれは。なんなんだこれは。通常の漫才ライブでは有り得ない、狐につままれたような感覚が残る作品だった。(90分)
ちなみにキュウは三月、ベスト盤をリリースする。