白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

「キングオブコント2017」(2017年10月1日)

【司会】浜田雅功

【進行】吉田明世(TBSアナウンサー)/国山ハセン(TBSアナウンサー)

【審査員】設楽統/日村勇紀三村マサカズ大竹一樹松本人志

 

◆1st Stage◆

わらふぢなるお

「お客様サポートセンター」。「めちゃくちゃやってやろうと思って!」という宣言通りにフザケたボケを連発するふぢわらに対し、それらのボケを的確に受け止めていく口笛なるおのやりとりが心地良い。キーボードのbを何度も何度も押させようとするくだりが、軽やかに下らなく展開していったのも良かった。「ビヨーン」からの「ノイローゼになるわ!」への安心感たるや。ただ、大きな笑いには繋がらず。ボケであれ、ツッコミであれ、記憶に突き刺さるパンチラインを繰り出すことが出来れば、もうちょっと評価は良かったのかも。あと、終盤でいきなり不穏な展開を匂わせたことで、シンプルに笑えるコントにしたかったのか、ちょっとホラーチックなコントにしたかったのか、どちらとも決め難い据わりの悪いオチになってしまったのは良くなかった。どちらかに振り切れないと。

 

ジャングルポケット

「エレベーター」。構成は完璧ではないだろうか。エレベーターで上の階に移動したいのに、見知らぬカップルの言い争いに巻き込まれてウンザリしていた斉藤が、彼氏のプロポーズをきっかけに、今度は上へと移動できなくなってしまう展開が素晴らしい。エレベーターも効果的に使われていて、とりわけラストカットの閉じていく扉の中で疲れ切った表情を浮かべながら「気まず~い」と本音を漏らす斉藤の姿は、古き良き時代のアニメやドラマでよく見かけたラストカットを彷彿とさせ(アイリスカットというらしい)、とても良かった。ただ、一点だけ引っ掛かったのが、さんざんエレベーターを待たせていたおたけが、実は上の階に用があるということが発覚するシーン。おたけが天然キャラであることを知っていれば多少は納得も出来るのだろうが、最後の最後であの違和感を残してしまったのは勿体無い。

 

かまいたち

「告白されたときの練習」。夕暮れの公園で、冴えない学生の山内が学校のマドンナに告白されている……のではなく、告白されたときの練習をしていることが濱家のツッコミによって発覚するまでのフリがとにかく丁寧。このフリでしっかりと観客の意識を引き込んでいたからこそ、思わぬ事実の発覚に爆笑が生まれる。ところが、この時点で出来上がる「山内が告白されたときの練習を密かに観察している濱家」というシチュエーションですら、後半の「山内に練習を密かに観察されていたかもしれない」という展開のフリになっている。実に上手い。この最終段階での盛り上げ方も上手い。まずは普通に練習を見られていたときの練習、次にスタンガンが用意されているという緊張感漂う状況の練習を見られていたときの練習を見られていたときの練習、そして最後は完全に見えてしまっているとしか思えない状況になっている練習を(以下略)。シンプルな内容だからこそ、コントとしての太さが感じられる。あと、個人的には、完全に山内と濱家の目が合っているとしか思えない状況を作り出したシーンに、往年のキングオブコメディの『教習所』を感じさせられた。意識的にやったのだろうか。

 

アンガールズ

「荷物がない」。このコントの根っこにあるのは“共感”だ。自分の身体のせいでナンパに成功しないのではないかと軽めに悲観したり、荷物を無くして落ち込んでいるのに友達の前だからと強がったり、それでも「俺の心の中のコップがいっぱいになっちゃっ」て涙が溢れ出たり、電車の中で乳首丸出しになりたくなかったり……二人のやりとりの随所に、身に覚えのある感情の記憶を無意識的に呼び覚ますスイッチが組み込まれている。その記憶蘇生装置ともいうべき台本が、独特のビジュアル・独特のしゃべり・独特の演技力を持ったアンガールズにより、実際の記憶よりも格段に誇張して演じられることで笑いになる。まさに唯一無二。だが、それだけでは伝わらない層には伝わらないだろうと考えたのか、後半はモノボケの要素を強めに押し出した展開に。実際、大きな笑いは起きていたのだが、キングオブコントという場であれば、徹底的に共感性を重視した内容であっても良かったような気がしないでもない。それはそれとして、田中の演技が逐一素晴らしい。慌てて自分の荷物を探しているときのステップも、山根の前で意地を張ろうとするも涙が溢れ出てしまう演技も、山根の名案にまんざらでもない気持ちになっている表情も、いちいち面白い。ビジュアルのイメージで見逃しがちだが、実は役者として優秀なのかもしれない。

 

パーパー

「卒業式」。誰からも学生服のボタンを求められない男子が、クラスメートの女子から他のクラスメートの男子の学生服のボタンを貰ってきてほしいと頼まれて、それと引き換えにとんでもない要求をし始める……というスクールカースト感がたまらないコント。モテない男子たちの切ないやり取りで笑いをかっさらっていたアンガールズの後ということが幾らか向かい風になっていたように思えたが、とはいえ、ほしのディスコから発せられる制服のボタンに絡めたコミカルワードで上手く場の空気を掴み始めていた……そんな状況で、あのトチりである。あの台詞があるからこそ、終盤での山田のキツい別れの宣告がしっかりとハマった筈なのに、その肝心の台詞がトチりによって笑いで有耶無耶になってしまった。おかげで、なんだか締まりの悪い終わり方になってしまった。実に勿体無い。ただ、それはそれとして、ほしのディスコがキスする女性を見つけるために編み出したシステムのことを、自らで「マルチ商法」と説明してしまったのは、完全に失敗だったと思う。あれは山田にツッコませるべきだろう。あのキスに対する欲望から常識を逸脱している状況下で、それを異常(=ボケ)であることを自覚しているような台詞は良くない。

 

さらば青春の光

「居酒屋」。『さらば青春の光単独公演『会心の一撃』』に収録されているコント。とにかく着眼点が素晴らしい。注文ミスで他のテーブルの料理をうっかり持ってきたように見せかけて、本当の目的は実物の料理によるライブ感で客の食欲を引き出すことにあった……なんて発想、なかなか降りてくるものではない。ただ、このシステムが明らかになって以降の展開が、イマイチ盛り上がりに欠ける。経由された料理を注文する側から注文した料理を経由される側に立場が変化する流れは確かに面白いのだが、状況を大胆に切り替えるほどの動きではない。「エビを撒くな! 撒き餌をするな!」に代表される森田のツッコミも冴えてはいるが、場の空気を掌握するほどには至らない。……ただ、このような感想を抱いてしまうのは、私の頭の中に『イタトン!』の記憶が張り付いてしまっているからなのかもしれない。提示された設定の際まで自由に動き回るのではなく、そこから更に突き抜けてほしいのである。ただ、暗転する舞台の中で、ボソリと「……また来よ……」とつぶやいてみせるオチの見せ方は、たまらなく好きだった。

 

にゃんこスター

「リズムなわとびの発表会」。サンシャイン池崎を彷彿とさせるスーパー3助のシャウトな挨拶で一気に客の心を鷲掴みにしたかと思えば、卓越したなわとびのテクニックを見せるアンゴラ村長が最も盛り上がるであろうサビの部分でなわとびとは無関係のユカイなダンスをおっぱじめるというハードルの低すぎるボケで観客を爆笑の渦へと巻き込んでいく。無論、先に披露していたパフォーマンスが、しっかりと魅力的であったからこそ成立するボケである。しかし、この本来ならば不本意である筈のユカイなダンスに、何故かスーパー3助が引き込まれてしまう……そんな彼の姿に観客もまた二人の世界へと引きずり込まれていく。以降、アンゴラ村長のユカイなダンスに関わるボケは、基本的に8.6秒バズーカーの『ラッスンゴレライ』と同系統の笑いへと進展し始める。つまり、本来はボケであったはずの言動に、不思議な魅力を感じ、みるみるうちに虜になってしまう展開だ。だが、この手法は、理解できない人にはとことん理解できないので、その面白さをきっちりと伝えるための緻密な構成と、作家としての高いセンスが要求される。にゃんこスターはその決して低くないハードルを見事に飛び越えたのである。スゴいぞ。……だから、「このネタの面白さが分からない」なんて、いちいち言わなくてもいいのである。そういうネタなのだ。伝説のなわとびというアクセントも良い。なによりオチがサイコーだ。一連のパフォーマンスを終わりへと向かわせるのではなく、突っ切ってしまおうという大胆さ。否、ネタの最後に自身のユニット名を口にするコント師は過去にも存在していたので(ななめ45°とか)、決して突飛な行動ではないのだが。そのユニット名の通り、まさに流星のようなスピード感のコントであった。……高得点に関しては、順番に助けられた部分もあったのかもしれないけれど、勝負運もまた実力だろう。

 

・アキナ

「バイト仲間」。秋山のバイト仲間・山名の通常では有り得ない言動の数々を、『トワイライトゾーン』のテーマ曲でパッケージすることにより、「有り得ない言動」をボケに、「『トワイライトゾーン』のテーマ曲」をツッコミに転換したショートコントへと仕立て上げたネタである。山名のヤバさを丁寧に描き、そのヤバさ加減を巧みに積み重ねていき、最後のオチを『X-FILE』のテーマ曲に変えることでエンディング感を演出する構成はとても完成されている。ただ、展開があまりにも設定に忠実過ぎて、全体的に小さくまとまってしまっている。山名の有り得ない言動もそこまで独自性が感じられず、手法としての面白味以上の満足感は得られなかった。その純度の高いクレイジーさを笑いへと転換させられたことを評価すべきなのかもしれないが……。

 

GAG少年楽団

「幼な馴染みの三角関係」。着眼点は素晴らしい。漫画やアニメのようなフィクションにありがちな幼な馴染み同士の三角関係が、もしもお互いに告白することもされることもなく、大人になってもその関係性を維持し続けていたとしたら……という奇妙な例え話を丁寧に描いている。ただ、コントが本格的に動き始めるきっかけとなる、福井の「俺たち幼な馴染みの恋路、進むの遅すぎねえか!?」という台詞の違和感が致命傷に。否、福井のこの台詞が発せられるまで、確かに三人は幼な馴染みの三角関係にありがちなビミョーな距離感をきちんと演じていた。ただ、福井から葛藤や不安のようなものがまったく感じられないため、くだんの台詞があまりにも唐突に見えてしまう。否、突然に感情が噴き上がった姿を見せたかったのかもしれないが、だとすれば「俺たち幼な馴染みの恋路、進むの遅すぎねえか!?」という遠回しな言いかたにはならないだろう。まず「いつまでこんな関係続けてるんだよ!」と一呼吸置いて、それからくだんの台詞だろう。いずれにしても、この台詞をきっかけに全ての状況が回り始めるのだから、それぐらい分かりやすい言い回しにしなければ観客の意識は掴み取れない。そこで失敗しなければ、このような結果にはならなかっただろう。「趣味も仕事も最終ステージ」「焦げていく特上ハラミの気持ち、考えてあげてよ!」「勇気さえ出せば二秒で終わる話や!!!」などの名台詞も多かっただけに、実に勿体無い。だから、諦めることなく来年も是非。

 

ゾフィー

「母さんの家出」。家を出ていった母親のことを心配しているような素振りを見せていた息子が、実は単に「メシを作る人(=母親)」がいなくなったことでメシが食えないことに苛立っているだけだった……という性格の悪いコント。放送当時、このネタが炎上していると聞いたときには、流石に今の時代の視聴者の創作物に対する抵抗力の無さに驚いた。炊事・洗濯・掃除といった日常生活に係わる作業を一手に引き受けている母親(恐らくは専業主婦だろう)のことを、一個人として尊重している子どもがどれだけいるだろうか。母親という絶対の存在に対して、その仕事を当たり前のものとして受け入れていないか。このコントは、そんな感覚を煮詰めに煮詰めて、最終的に「メシ」と表現することでその確かな異常性を表出させているのである……と、彼らにそういった意図があったのかどうかは分からないが、そういう風刺の笑いとして捉えられれば、炎上に加担している人たちの溜飲も多少は下がるのではないかと思う。知らんけどな。母親のことをメシと呼ぶヤバいヤツ(=母親のことをメシと呼ぶ行為はヤバい)のコントなのに、どうして作り手であるゾフィーが母親のことをメシだと喧伝しているかのように言われなくちゃならないのか、まったくもって意味が分からない。受け付ける・受け付けないとはまた別次元の問題だろう、そこは。肝心のネタについてだが、これがまたよく出来ている。前半において、単純に息子のヤバさだけを表すのではなく、父親側の責任についてしっかりと指摘することで、正常と異常の間をさらりと行き交っているバランス感がたまらない。ワードセンスも絶妙。「フン! 自分のメシに聞いてみれば!」には笑った。なんだそのファンタジー。

 

◆Final Stage◆

アンガールズ

「ストーカー」。『アンガールズ単独ライブ「俺、、、ギリギリ正常人間。」』に収録されているコント。台詞をじっくりと聞かせる間合いの絶妙な演技と、ところどころに挟み込まれるワードセンスは流石。「いいか! 俺は法の中で暴れているだけーっ!!!」「こんなヤツがいたんだよーっ!って、知ってほしくなっちゃったーっ!!!」「今後の人生を考えたら、はしゃげなくなりました」はなかなかのパンチラインだ。ただ、冷静に考えてみると、「ストーカーがどうして男の目の前に現れたのか?」という基本設定を説明しただけで終わってしまっているのは、少し勿体無いような気も。単独ライブで披露された完全版を知っているために、そのように感じてしまうのかもしれないが……もうちょっと、奥行きのある展開になってもらいたかったというのが正直なところ。

 

ジャングルポケット

「ロッカー」。脅されるたびに身体をロッカーへと押し付けられていた斉藤が、だんだんと敵側の二人の行動パターンを理解し始めていく展開がナンセンスで面白い。とりわけ、おたけがロッカーの音に反応していることが発覚した瞬間は、そのあまりのバカバカしさに大笑いした。人間の行動から法則性を見出し、設定されたとおりに稼働する機械のように描いてみせている……という意味では、過去の決勝戦で披露されたロッチの『試着室』と似ているのかもしれない。ただ、複数の行動パターンが一本のコントの中に適切に組み込まれているため、一つの行動パターンだけをじっくりと掘り下げていた『試着室』までの爆発は起こせていない。また、一本目に披露された『エレベーター』に比べて、演出面に真新しさが感じられなかったことが、ちょっとだけ物足りなさを残してしまっている。斉藤が舞台から見えないところで太田にロッカーで攻撃される展開はかなり好きではあったが。

 

さらば青春の光

「パワースポット」。パワースポットに最も近いところにいる警備員があんまり幸せそうに見えない……という視点の底意地の悪さが素晴らしい。構成も巧みで、当初は“パワースポットの効果”に観客の視点を向けていたのに、警備員が幸せなのかどうかを確認するためにその素性を確認していくにつれて、だんだんと観客の視点が“警備員の半生”に向けられていく、この誘導の上手さ。その絶妙なタイミングで警備員が自らの人生の不遇に対する苛立ちから感情を爆発させ、一気に悲愴感の漂う状況に……なるかと思いきや、ここで序盤から引っ掛かっていたビミョーな滑舌をフリとした思わぬ事実が露呈されることにより、再び笑いの空気を引き戻す! 素晴らしい技術力だ。惜しむらくはラストシーン。警備員が報われるかと思いきや報われず、その怒りの矛先がパワースポットへと向けられる……というオチは悪くないが、あまりにも無難で当たり障りが無さすぎる。斬新な視点から切り込んだネタなので、それを最後まで貫いてもらいたかった。

 

かまいたち

「ウェットスーツ」。とことん視野の狭い店員の濱家に振り回される客の山内という構図のコント。店員のリアリティある出来の悪さに対して、シンプルかつ的確な客のツッコミが冴えている。「見た目のウェットスーツの部分、減らしたいんとちゃうで!?」「目途が立ってんねん!」の絶妙さ。しかし、この時点ではまだ、あくまでも出来の良いコントというレベルでしかなかったのだが、ウェットスーツを脱がすために店員が客をモノのように乱暴に扱うくだりをブチ込むことで、強引に笑いをもぎ取る! 「ヒザの皿、割れる!」には笑った。そして、ダイナミックな動きに対して、あまりにもさらりとしたオチ。緩急のバランスが整った、見事なラストスパートだった。

 

にゃんこスター

「リズムフラフープの発表会」。基本的なネタの流れは一本目と同じ。巧みなパフォーマンスを見せつけていながら、最も盛り上がることが予想されるサビの部分でパフォーマンスそのものを放棄し、よく分からないユカイなダンスを踊り始める。ただ、細かいところにちょこちょこと変化があったおかげで、一本目のネタと同じ構成でありながらまた違った味わいが。「くるくるチョキはやめて!」「これ使ってください! あー! やめてー!」「えぐってけオラー! えぐってかんかーい!」のくだりなどは、一本目に引けを取らない面白さだった。賞レースの決勝戦において、一本目と二本目で同じパターンのネタを披露してしまい、自滅するかのように敗退していった芸人は過去にも見たことがあるが、今回のにゃんこスターは、敗退したものの自滅したような印象を残さない正解の状態を見せてくれたように思う。いや、面白かった。

 

◆総評のようなもの◆

にゃんこスターの飛躍だとか、ジャングルポケットの失速だとか、アンガールズの難しさだとか、GAG少年楽団の悲劇だとか、ゾフィーの炎上だとか、色々と語りたいことはあるけれども、コントそのものにだけ視点を向ければ、どのユニットもちゃんと面白いネタを提示出来ていて、とても実りのある大会になっていたように思う。しかし、こうなると、一番手でちゃんとしたコントを演じていた、わらふぢなるおのことが忘れ去られてしまいそうな気がするので、しっかりと覚えておいてもらいたい。ふぢわら口笛なるおの二人でわらふぢなるおである。忘れるなよ。ふぢわらサンミュージック所属で、口笛なるおグレープカンパニー所属である。これは忘れてもいい。どっちでもいい。

他にも色々と言いたかったことがあったような気がするが、大会から一週間以上も経ってしまって、今や「M-1グランプリ2017」の二回戦ですっきりソングとまめのきが敗退してしまっていることの方が気になっている次第。というわけで、優勝者のかまいたちと二位のにゃんこスターの活躍、そしてGAG少年楽団が挫けずに来年の大会へ臨むことを願いながら(良ければよしもとはライブDVD出してください)、本文を終わらせたいと思う。お疲れさまでした。

追記(2017年10月22日)。すっきりソングとまめのきは追加合格になりました。やれやれ。