アンガールズ単独ライブ「俺、、、ギリギリ正常人間。」 [DVD]
- 出版社/メーカー: Sony Music Marketing inc. (JDS) = DVD =
- 発売日: 2017/07/26
- メディア: DVD
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2017年4月20日・21日に本多劇場で行われたライブを収録。アンガールズの単独ライブがソフト化されるのは、2016年7月にリリースされた『アンガールズ単独ライブ「~ゴミにも息づく生命がある~」』以来、一年ぶり。
◆本編【84分】
「洗濯機」
「新宿の家」
VTR「ギリギリ正常クイズ」
「先輩の電話」
VTR「お母さんに電話1」
「追跡」
VTR「お母さんに電話2」
「水族館」
VTR「山根良顕YouTuberへの道」
「泥棒」
VTR「原付イントロクイズ」
「友達の彼女」
◆特典映像【18分】
「昔のネタ帳朗読1「高校球児」」
「昔のネタ帳朗読2「カヌー部」」
「昔のネタ帳朗読3「落とし穴大作戦」」
「山根良顕YouTuberへの道(フルバージョン)」
「お母さんのネタ再現」
結論からいうと、傑作である。
人生のド真ん中を歩くことの出来ない、しかし異常と呼ばれるほど狂気の沼へ身を投じてはいない、そんな“ギリギリ正常人間”たちの生き様が哀愁たっぷりに描かれている。だが、彼らの思考や感情を表出させている田中卓志の台本からは、蔑みの意図は感じられない。恐らく、田中は知っているのだろう。彼らのようなギリギリ正常人間たちが、我々にとってまったく無縁の存在であるとはいえないことを。本編のオープニングコント『洗濯機』において、登場と同時に見知らぬ女性からゴミの入った袋を投げつけられ、自分について回っているストーカーに似ているといわれ、挙句の果てに、捨てられようとしていた洗濯機を譲ってほしいと申し出ただけで変態呼ばわりされた結果、「俺、そんなに変態に見えてるんだったら、もう変態になろう! 変態に見えてるのにマジメに生きてたら損だもん!」と間違った方向に振り切れてしまった青年のように……誰しもがギリギリ正常人間に成り得るのだ。
これ以降のコントも、実に多種多様なギリギリ正常人間たちが登場し、コントの世界の中で自らの感情を爆発させている。新宿に住みたいという気持ちが強すぎるあまり、安い家賃の事故物件を借りて、そこで起きている数々の心霊現象も甘んじて受け入れている男の夜を描いた『新宿の家』。恋人に二股をかけられるも、彼女のことを諦めることが出来ずに、彼女……ではなく、相手の男の方を付け回すようになったストーカーの告白があまりにも哀しい『追跡』。とある金持ちの家に忍び込んだ泥棒が、うっかり家の人間に見つかってしまうのだが、「好きなだけ持っていってください」「ただし、ゲームをやってもらいたいんです」と怪しいゲームを持ち掛けられる『泥棒』……。
どのギリギリ正常人間たちも共通して、誰もが独自の理論を展開し、自分なりの正論に辿り着いている。そこには確固たる理由が、根拠が、確信がある。だからこそ、そこはあくまで狂気の淵であって、狂気そのものではないのだろう……否、田中が彼女にプロポーズするため、友達の山根にサプライズの協力してもらおうとするのだが、いざ実行してみると、何故か山根には田中の彼女の姿が見えない『友達の彼女』に関しては、一瞬だけ狂気の沼にはまってしまったような気もするが。
その一方で、従来のアンガールズらしさの残る、ほのぼのとしたやりとりのコントも演じられている。『水族館』がそれだ。水族館を訪れた二人が、一緒に色々な水槽の中の魚たちを眺めていくのだが、山根の見て回るペースの早さに驚いた田中が、二人にとって適した水族館を回るペースを模索し始める。……ここまでギリギリ正常人間たちのことをさんざん持ち上げておいてなんだが、私が本編で最も感動したコントはこの『水族館』である。適度に共感を覚える絶妙な切り口もさることながら、このテーマをじわりじわりと掘り下げていく手堅い構成、そしてバカバカしくも慎ましいオチ。単純に水槽を眺めているだけの二人の表情の微妙さ加減も面白くて、まったく捨てるところがない。最高傑作でないかと思う。
これら本編に加えて、特典映像として、本公演では披露されなかった未公開映像「昔のネタ帳朗読」「山根良顕YouTuberへの道(フルバージョン)」、本公演終了後に披露された「お母さんのネタ再現」が収録されている。いずれも安定の面白さだが、とりわけ「昔のネタ帳朗読」は素晴らしかった。文字通り、アンガールズの二人が昔のネタ帳を朗読するだけの映像なのだが、本当に最初期のネタのようで、読み上げるネタがどれもこれも規格外に緩すぎて、笑いが止まらない。否、アンガールズがここから始まり、今に至ったのだと思うと、なんとも感慨深い映像である。
前作『アンガールズ単独ライブ「~ゴミにも息づく生命がある~」』もかなりの傑作ではあったが、本作はそのハードルを軽やかに飛び越えていった。こうなると、次回の公演がどうなるのかが気になるところ。「キングオブコント2017」で決勝進出を果たし、松本人志に審査してもらうという一つの目標を達成した今、彼らは今後も単独ライブを続けてくれるのだろうか。続けてもらいたいところだが……果たして。