白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

ゾフィー『遺産』の感想文。

※今回の記事にはネタバレが含まれています。事前にコントの動画をご覧になられてからお読みください。

疎遠だった兄が父親の葬儀へ遺産目当てにやってくる……という、現実でも起こり得るシリアスなシチュエーションに、「父親の遺産はYouTubeチャンネル」という要素を掛け合わせているコントである。シリアスな「遺産相続」というシチュエーションに、まだまだ趣味としてのイメージを脱却しきれていない軽さの残る「YouTubeチャンネル」という要素を組み合わせることで生じる歪みが、笑いを生み出している。

こういうコントにはあからさまなボケが必要無い。シリアスに演じれば演じるほど、「YouTubeチャンネル」の違和感が強調され、大きな笑いへと繋がっていくからだ。とはいえ、まったく設定にリアリティがないわけではない、という塩梅も絶妙。動画の広告収入の存在が当たり前に認識されている今の時代において、YouTubeチャンネルの価値は安易に切り捨てられるものではない。今後、億単位の金を稼いでいるYouTuberが寿命で亡くなる時代が到来したら、遺族の間で本当にこのようなやり取りが行われるかもしれない。随所にYouTubeあるあるを絡めているところも上手い。世界観に奥行きが増す。兄が底辺YouTuberであることを指摘したときの弟の言い分の説得力たるや。

後半、「YouTubeチャンネル」の内容が明らかになることで、二人の言い争いの争点が「YouTubeチャンネルの相続権」から「チャンネルの主役である愛猫の可愛さをどのように映し出すかの方向性」へと切り替えられる展開も素晴らしい。相変わらずシリアスなトーンで会話は進んでいるし、流れには一切の乱れが感じられないのに、話の内容だけは更に一段階上のバカバカしさへシフトチェンジしている。その一方で、動物映像を流すタイプのYouTuberへの批判めいた台詞もブチ込んでいる、さりげない毒気もあるところがシビれる。この展開を経てからのオチも上手い。

ありがちなシチュエーションに現代的な要素を絡ませて、しかしメッセージ性を大きく掲げることなく、バカバカしさに主軸を置いた一品。ゾフィーのこういう面白さがもっと世間に知れ渡るといいのだけれども。……しっかし、二人とも演技が上手いな!