白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「タイタンシネマライブ」のついでに高知探訪(2017年8月25日~26日)

某月某日。

沖縄の妖怪こと“芽むしり”氏から「次のタイタンシネマライブに出るスペシャルシークレットゲスト、十中八九たけしだから観に行くべきですよ!」との助言を受ける。爆笑問題を筆頭とした芸能事務所・タイタンの所属芸人たちによるライブを映画館で生中継するイベント、タイタンシネマライブ。私も以前に一度だけ鑑賞したことがあるのだが、どの芸人のネタもとても面白くて、上演後は全身が強い満足感で満たされた記憶がある。ただ、四国では高知でしか上映されていないという地理的な理由から、それ以来、すっかり足が遠のいてしまっていた。しかし、あの天才が出演するとなれば、無視するわけにはいかない。私は「これは天命である!」と勝手に解釈し、「行けたら行く」から「絶対に行く」へと気持ちを切り替えたのであった。

ところが、前日になって、まさかまさかのシークレットゲストのドタキャンが発表。27時間テレビの影響なのか、ここしばらく不眠不休の日々が続いていたため、肝心要のネタを覚えられず、泣く泣く出演を辞退した……というのは、後から聞いた話である。とはいえ、こちらはすっかりお笑いスーパーエクスプレスモードに入ってしまっている。なんなら、せっかく高知まで行くのだから一泊してやろうと、ホテルまで予約してある。もはや、ノービートであろうとも、行かないという選択肢は有り得ないのである。

そして当日。コンビニで購入した菓子パンをかじりながら、私は高速道路を飛ばしていた。私の仕事場からタイタンシネマライブが上映されるイオンモール高知まで、車で一時間弱ほどかかる。この日、私は午後五時半に仕事を切り上げていたので、午後七時半からの上演には絶対に間に合う計算になる。とはいえ、予期せぬ事態が発生する可能性も否定できない。何事も油断は禁物である。

高知インターを降りて、国道に入る。時刻は午後六時半を過ぎたころ。こうなると絶対に遅刻することはない……と思っていたのだが、うっかり右折すべき道で右折レーンに入りそびれてしまう。高知インターを降りた後の道は少しだけ分かりにくいのである。いや、ホント。その後も、なんとかしてイオンモール高知に向かう道へ戻ろうと試行錯誤を重ねるのだが、どうにもこうにも戻れそうにない。気が付くと、どんどん奥まった道に入ってしまって、完全に迷子になってしまっていた。仕方がないので、一度車を適当な場所で停車し、スマホでナビ機能を立ち上げ、その指示に従って移動することに。……これが機械に支配されるということか。実に恐ろしい時代である。とはいえ、そのおかげで、無事に上演時刻までにイオンモール高知に到着することが出来た。機械サイコー。

駐車場に車を停め、時刻を確認すると午後七時を過ぎたばかり。まだまだ余裕はある。とりあえずチケットを購入するため、三階の映画館へ。途中、河島あなむがフリーライブを敢行している姿を見かけるが、見ている余裕はないからスルーだ(心の中では「うわーっ、アナム&マキの人や!」と少なからずテンションが上がっていた)。自動券売機のタッチパネルを巧みに操り、無事にチケットを手に入れる。チケット代は通常の映画よりも少し割高な2,200円。とはいえ、実際に行われているライブを生中継するために必要な予算などを思うと、まったくもって安いとしか言いようがない。うっかりハンカチ類を車に忘れてきてしまったため、二階のヴィレッジ・ヴァンガードでマフラータオル(500円)を購入。直前、トイレで用を足し、いざシアタールームへ。既に中は消灯されていて、巨大なスクリーンには自身の単独ツアーを宣伝する日本エレキテル連合の姿が映し出されていた。観客の数はまばら。昨年に来たときよりは人が入っていたような気がする。

午後七時半、開幕。

ゆりありく「コント:シンデレラ」
瞬間メタル「漫才:陸上競技
シティホテル3号室「コント:カップルと火事」
パペットマペット「このハゲーッ!」
ウエストランド「漫才:イケメン」
脳みそ夫「ラーメンヤンキーすすり」
まんじゅう大帝国「漫才:ものまね」
日本エレキテル連合「コント:イギリス」
つぶやきシロー「むかつくとき」
タイムマシーン3号「漫才:太い陸上・デブニーランド」
長井秀和「(雑に)間違いない・フリップ芸」
ハライチ「漫才:宇宙人に寄生されたら」
BOOMER&プリンプリン「コント:天才棋士
爆笑問題「漫才:世間を騒がせた人たち・北朝鮮・間接自慢」

猿回しの新しいカタチを模索しているゆりありくは、童話「シンデレラ」をモチーフとしたコント。メチャクチャ面白かったのだが、今のテレビではコンプライアンスとかに引っかかりそうな気がしないでもない。実際の問題としてどうなのだろう。瞬間メタルはベーシックなしゃべくり漫才。いつ「男のコント」が始まるのかと身構えながら見ていたら、本当に純粋なしゃべくり漫才だったから驚いた。タケタリーノ山口が陸上競技にナンセンスな難癖をつけるというスタイルで、完全に芸風をシフトチェンジできれば、化ける可能性もありそう。とはいえ、終盤の前田ばっこーの妙な行動には、かつての彼ららしい粗さを感じさせられた。これからもあの雰囲気は残しておいてほしい。シティホテル3号室は火事で部屋を焼け出された同棲カップルの女が、何故か結婚情報誌だけを持って逃げ出していたというシチュエーションから始まるコント。ほんのりと狂気を帯びていて、不気味で可笑しいコントだった。ここはあと一歩で化けそうな予感。

パペットマペットはメタ的なやりとりの漫才と思わせておいて、うしくんの発言が某政治家の発言を匂わせている……という知性的なネタ。昨年のタイタンシネマライブでも時事を絡めたネタをやっていたので、もはやそういう方向性の笑いを志向しているのだろう。面白かった。ウエストランドはブサメンの卑屈な感情をこれでもかと煮詰めた漫才。井口の言っていることが正しいか正しくないかではなく、熱弁している姿がたまらなく面白い。今年こそはM-1グランプリで結果を残してもらいたいが……。脳みそ夫はいつもの一人コント。コントの内容と絡めたダジャレが安定して面白い。あと、ウケが弱かったときに発せられる「こんちわ~す」が、個人的にはツボ。スペシャルシークレットゲストのドタキャンにより、突如として出演が決まったまんじゅう大帝国は「ものまね」をテーマにした漫才。ただ、単純に誰かのものまねをするというわけではなく、誰が誰のものまねをやって、それが人気を集めるようになって……と、一つの設定がじっくりと掘り下げられていく奇妙な内容のネタで、とてつもなく面白かった。いずれ出るであろう単独DVDを心待ちにしよう。

日本エレキテル連合は2015年にリリースされた『グッバイヒューズ』に収録されているコント。彼女たちのファンではない観客の前で披露された場合、どのようなリアクションになるのかワクワクしながら観ていたが、思っていたよりもしっかりと爆笑をかっさらっていたので一安心。流石だ。終盤、とあるスキャンダルに見舞われた芸人のことを、しれっとイジッたのも笑った。つぶやきシローはいつもの漫談。ただ、妄想ネタには突入せずに、最初から最後までがっつりと“あるあるネタ”だけで乗り切っていた。あの質の高さと量の多さは異常としか言いようがない。ある種のバケモンだ。タイムマシーン3号は「どぅっかん!どぅっかん!」でもやっていた、世の中の人たちが太ってきたら生まれるであろう「太い陸上」「デブニーランド」のネタ。「デブニーランド」はかなり昔のネタなのだが、ここにきてリバイバルされるとは。

長井秀和は観客の期待に応えるカタチで「間違いない!」を連発し、そこから「ピン芸人ならフリップネタも出来ないと……」と、絶対にテレビでは放送することの出来ない「こんな(某宗教団体)はイヤだ!」を披露。それから更に「こんな(某宗教団体名誉会長)は(某宗教団体総裁)だ!」と更に悪意に満ちたネタを始め、一部の観客の腹を爆発させていた。そろそろ暗殺されるんじゃないか。そんな長井の後の空気をものともしなかったハライチは、「○○のヤーツ」フォーマットではない新しいスタイルの漫才で勝負。他に類を見ない設定もさることながら、澤部をどんどん追い詰めていくボケの方法がトリッキーで最高に面白かった。ただ、こういうネタは、M-1グランプリだと過小評価されそうな気もする。負けるな! BOOMER&プリンプリンはお馴染みのカルテットコント。藤井四段をテーマにした内容で、とことんバカバカしかったのに、四人の芸人としての風味が染み込みすぎていて軽いのやら重いのやら分からないトーンが不思議な後味に。そういうところがまた楽しい。

トリを飾った爆笑問題は、今まさに世間を騒がしている人たちの一人一人をクローズアップしていく漫才。まさに爆笑問題の本領発揮といったところ。しかし、不倫絡みの人たちが大半だったためか、漫才の内容の八割が下ネタというえげつない状況へ。更に、我らがウーチャカこと田中が大胆にネタを飛ばすも素知らぬ顔をしてネタを続けようとするも、観客には完全にバレバレという事態が発生。そんなこんなで色々と荒くれていたのだが、それすらもやたらに面白かった。

時間の関係上、エンドトークは短め。日本エレキテル連合が朱美ちゃんと細貝さんにフルチェンジしていて、そのサービス精神に少し感動めいた感情が湧き上がる。

午後九時四十五分、閉幕。

鑑賞後、ひとまず映画館を出て、イオンのアルコール飲料を販売するコーナーへと移動。晩酌用の缶チューハイを三本購入する。それから駐車場に戻り、車に乗り込んで予約しているホテルへと移動する。今回の宿に選んだのは「高知サンライズホテル」というビジネスホテルだ。繁華街にほど近い立地と駐車場代込みで一泊5,200円という安さに惹かれて、ここを選んだ。ホテル専用の駐車場が裏手にあるので、そちらに停車。必要な荷物をまとめて、裏口からホテルの中へ入り、カウンターでチェックインを済ませる。対応してくれたホテルマンの男性がちょっとぼんやりとしたご老人だったので、きちんと対応できるのかどうか少し不安になった。車のキーをカウンターに預け、部屋のキーを受け取る。そしてエレベーターで三階に上がり、案内された部屋へ突入する。部屋の内装は一般的なビジネスホテルのそれ。広めのベッド、ユニットバス、お茶の素とケトル。ここ最近、カプセルホテルばかり利用していたため、これらのビジネスホテルならではのアイテムがなんだか妙に懐かしい。

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とりあえず荷物を放り出し、服を着替え、夜の街へと繰り出す。とはいえ、一人で居酒屋に入る勇気はないし、地元民にも観光客にも愛されている「ひろめ市場」を訪れるには遅すぎる(ひろめ市場は午後十一時まで営業しているのだが、この当時、既に時刻は午後十時半を過ぎていた)ので、過去に高知を訪れた際に何度か利用しているつけ麺屋「製麺処 蔵木」に入り、牛モツつけ麺を注文する。文字通り、つけ汁に牛モツの入ったつけ麺で、こってりしていてとても美味しかった。

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食後、しばらく街中を散策。偶然、ひろめ市場の前を通りがかると、たくさんの酔っ払った若者たちが立ち話をしている姿を目にする。恐らく、営業時間を過ぎて、店の外へと追いやられたのだろう。いわば彼らはひろめ市場難民である。その後、コンビニでおつまみを購入し、ホテルへ戻る。風呂に入り、ついでに髭を剃り、それから缶チューハイとおつまみで一人酒を楽しんでいると、午前二時半を回っていることに気が付いたので、とっとと寝る。旅行先での無意味な夜更かしは無駄でしかない。

明けて、午前九時に起床。

しばらくゴロゴロして身体の状態を整えて、午前九時半に外出。昨夜、入ることの出来なかった「ひろめ市場」に向かう。ひろめ市場は居酒屋と料理屋とお土産屋がないまぜになったような施設で、食事時には沢山の人で賑わっているのだが、この時はまだ開けて間もない時刻だったこともあったためか、あまり客が入っていなかった。そのおかげで、通常ならばなかなか座ることのできない席も、簡単に獲ることが出来た(ひろめ市場内の席は自由に座ることができるため、常に他の客たちと取り合いになるのだ)。とはいえ、その少なくない客の大半は、早朝だというのにアルコールをせっせと摂取している。私も今日が帰りでなければ……と羨望の眼差しで彼らを見つめた。ううむ。

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以前に食べたかつおのタタキ丼が美味しかった「本池澤」で今回もかつおのタタキ丼を注文。まだ店の準備が整っていなかったため、十分ほど待たされてから受け取る。席に戻り、箸でつまんだ一山を、ぽいと口の中へと放り込む。しかしなにやら違和感が。決して不味いわけではないのだが、以前ほど美味しいと感じられなかったのである。味付けを変えたのだろうか。或いは、当時はしたたかに酔っていたので、平常とは味覚にズレが生じていたのだろうか。何が原因なのかは定かではないが、とにかく残念である。

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食後、「吉岡精肉店」で唐揚げを、ひろめ市場の外にあるスーパー「毎日屋」で飲料水を購入する。ホテルに戻り、準備を整え、午前十一時にチェックアウト。部屋のキーを返却し、車のキーを返してもらう。

ホテルの駐車場を出発し、ひとまず近場のインターネットカフェ「ファンキータイム 朝倉店」へと向かう。次回のタイタンシネマライブが行われる十月に高知を訪れた際に利用できそうかどうか、事前に確認するためである。店舗は国道38号線沿いにあり、コンビニや電器屋などが隣接していて、利便性が高そうに思えた。フラットシートに一時間半ほど滞在してみたのだが、静かで涼しく、なかなか居心地の良さそうな空間ではあった。ただ、トイレが大便器と小便器それぞれ一つずつしかなかったので、いざというときの対応が難しいような気もした。うっかり漏らしてしまった日には目も当てられない。

それなりにネットカフェを堪能したところで、車で再び繁華街の方向へ移動。適当な有料駐車場に車を停めて、二階建ての店舗が眩い「ヴィレッジヴァンガード 高知中央店」を覗く。雑貨や本も多いがファッション関連のアイテムも多く、一人で来るよりも友達や家族を連れて来たほうが楽しめる場所のように思えた。この時は何も買わなかったが、また改めて訪れる日が来るかもしれない。

店を出て、しばらく高知の街を散策する。未知なる商店街のアーケードを行く当てもなく歩いていくのは、新しい図鑑や通販カタログをとりとめもなくめくっているような楽しさがある。

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道中、須崎名物の鍋焼きラーメンを扱っている「鍋焼きラーメン 谷口食堂」という店を見つけたので、飛び込む。竹輪、鶏肉、葱などの具材とともに煮込まれたであろうラーメンが、文字通り鍋に入った状態で出てくる。味に独自性は感じられなかったが、美味かった。

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食後、「サウナ ルーマプラザ」へ。こちらも、ファンキータイムと同様、次回の宿に使えるかどうかの下見が目的である。一時間1,100円のコースで入店。ロッカーに衣服と手荷物を預けて、大浴場へ。十数ヶ所の洗い場にシャワールーム、大浴場には浴槽が三つ。但し、いわゆる湯船湯槽は一つだけで、残りは白湯と水風呂である。屋外にはジェットバスと休憩用のデッキチェア。なかなかに充実しているといえる。サウナも低温サウナ(ロウリュウ)と高温サウナの二種類があり、サウナ好きならば楽しめることだろう。

浴室を出ると、すぐ脇の棚に誰でも使用可能な館内着・パンツ(レギュラーと大きいサイズの二種類)が常備されているので、同じく常備されているタオルで水分を拭ってから、これらを着用する。階下に移動すると、薄暗い休憩所が。仮眠用のリクライニングシートがズラリと並んでいて、それぞれにテレビがセットされている。枕やブランケットも貸し出されていて、実に快適そうだ。更に、食堂やパソコンルームも隣接されているのだから、充実している。但し、大浴場の階上にある肝心の宿泊ルームが、二段ベッドがぎゅうぎゅうに敷き詰められた、あまりにも窮屈そうな空間になっていたことが気がかりではあった。

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午後三時、店を出る。日が暮れ始めてきたので、帰路につくことを決意。車に乗り込み、高知インターへと向かう。と、ここで少しお腹が空いてきたので、インターチェンジの手前にある回転寿司「寿し一貫 あぞうの店」に入り、したたかに食べる。美味しいという情報を聞きつけて乗り込んだのだが、特筆するような味ではなかったように思う。……無論、私の味覚の問題もあるのだろうが。

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食後、すぐ側にあるTSUTAYAで、以前から欲しかった漫画を購入する。

カメントツのルポ漫画地獄 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

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そして帰路についた私は午後六時に帰宅、無事に「ゴッドタン」のゴールデンスペシャルを視聴できたのであった。お疲れ様でした。