白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

ラーメンズ「読書対決」(002/100)

それぞれに持参した本のどちらの内容がより面白いかを競い合う。初期のラーメンズを代表するコントのひとつ。彼らの名を世に広めるきっかけとなった『爆笑オンエアバトル』では三タイプの「読書対決」が披露され、いずれも多くの支持を集めた。2001年8月には番組内で映像化され、それを偶然に目撃した当時の私は「なんだこれは?」と不思議にコーフンしたものである。どうでもいい話だけど。

基本的に「読書対決」は三回に渡って繰り広げられる。一回戦と二回戦でそれぞれが勝ち星をあげ、三回戦で決着がつくという筋書きだ。今回の場合、一回戦は「ロミオとジュリエットvs鼻」、二回戦は「山椒魚vs伊豆の踊り子」、三回戦は「レ・ミゼラブルvs罪と罰」が取り上げられている。

「読書対決」には二つのパターンがある。一つは「持ち寄った作品の内容を読み合っていく中で、あるシーンをきっかけにマウントの取り合いが始まる」パターン。もう一つは「小林が読み上げる内容に片桐が寄せていく」パターン。前者のパターンの場合は相手の隙を突いて言いくるめてしまうことが多く、後者のパターンの場合は片桐がオチとなる一言を口にして終わらせてしまうことが多い。今回でいえば、一回戦と二回戦が後者のパターン、三回戦が前者のパターンによる展開を取っている。……このことに、私は少なからず違和感を覚える。というのも、「読書対決」のテーマはあくまでも「どちらの本がより面白いかを競い合う」という点にあるので、基本的には前者のパターンが採用されるべきだからだ。否、もっと言ってしまえば、一本目の勝負「ロミオとジュリエットvs鼻」の結果が、あのようにあやふやで不明瞭なものにはなっている点も引っ掛かる。独自のフォーマットを採用したコントの場合、まず観客にシステムを理解してもらう必要性がある。だからこそ、最初は見本として、はっきり明確で分かりやすい流れを作らないといけない。このバージョンは、そこをすっ飛ばしてしまっている。

恐らく、これは既に「読書対決」のフォーマットが認知されていることを前提として作られた台本なのだろう。それはそれで構わない。そういうコントがあってもいい。ただ、これも「無用途人間」と同様、ラーメンズのベスト盤『Rahmens 0001 select』に選出されていることを思うと、もうちょっと初心者にも優しい内容にしても良かったのではないか、という気がしないでもない。というわけで、先にまだ初心者でも内容を理解しやすい「読書対決news篇」、或いは『爆笑オンエアバトル ラーメンズ』に収録されているバージョンを視聴してから、こちらのバージョンを鑑賞することをお薦めしたい。

まどろっこしい話を長々と繰り広げてしまったが、「読書対決」そのものは優秀なコントである。名作の知名度を利用しているにも関わらず、「対決」という大義名分の元に内容をナンセンスにバカバカしく塗り替えていく発想力も兼ね備えた、非常に優れたコントである。さんざん文句を言ってしまった本作のバージョンも、鼻と耳が惹かれあったり、伊豆の踊り子が変なキノコを食べたり(実際の「伊豆の踊り子」は女性なのに、完全に踊り子=片桐に見えてしまう表現力が素晴らしい!)、ジャンバルジャンが新宿思い出横丁の火事の容疑をかけられたり、とんでもない発想が惜しげもなく放り込まれている。でも、もうちょっと、その魅力的な表現を素直に楽しませられる方法があったのではないか、と感じてしまう。うーむ……。