白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「磁石単独ライブ「ZONE」」(2016年3月16日)

磁石単独ライブ「ZONE」 [DVD]

磁石単独ライブ「ZONE」 [DVD]

 

2016年8月2日に新宿明治安田生命ホールで開催された単独ライブを収録。

2010年に一度その幕を下ろした「M-1グランプリ」を引き継ぐ形で2011年から2014年にかけて開催された漫才賞レース「THE MANZAI」において、三度の決勝進出を果たしている磁石。その実力は「爆笑オンエアバトル」に出場していた2001年には既に語り草となっていたが、対して、業界における彼らに対する評価は決して高くはなく、同大会の決勝戦でも、予選を勝ち上がって最終決戦に進んだ経験は一度もない。思うに、その大きな要因は、彼らの漫才に「バックボーン」といえるものがないためだろう。例えば、中川家にとっての大阪の人々、ナイツにとっての浅草の師匠、サンドウィッチマンにとっての東北魂のように、磁石には「このコンビを形成しているもの」が存在しない。それらの要素は必ずしもネタに反映されているわけではないが、その背景として、積み上げてきたものとして、漫才の背骨になっている。磁石にはそれがない。

ただ、彼らにとって、そういった要素が絶対に必要であるとも言い難い。何故ならば、磁石の芸風は、とある言葉の流れにおいて、本来の適切な言い回しから逸脱して別の意味合いの言葉をはめ込むという、いわば表面的な言葉遊びを重視したものであるからだ。そんな芸風の彼らに、バックボーンなどという重荷は必要無い。徹底的に軽くて無意味な言葉の積み木を組み立てていく笑いに、背景などは求められない。無論、彼らと同じ芸風の漫才師は、他にも多く存在している。先に名前を挙げたナイツの「ヤホー漫才」やサンドウィッチマンなどもその類だ。だが、磁石の漫才は、それらより突出して“軽い”。かつて、彼らが披露した漫才に『床屋』というネタがあった。このネタ、当初は『床屋』を舞台とした漫才コントが始められるのだが、様々な理由で永沢が店を転々と移動するという既存の漫才コントのシステムを逆手に取った漫才だったのである。こういう漫才を平然とやってのけるところに、磁石の軽さの魅力が滲み出ているように思う。

本作では、そんな磁石の軽さが歴然と表れている。ただ、それがどのような形で表れているのか、ここでは書けない。ネタバレになってしまうからだ。本作には明確なチャプター画面が存在しないのだが、それもネタバレを配慮してのことだろう。ただ、私から言えるのは、本作に収録されている漫才もコントも、とても面白いという事実だけである。その姿は、これまでの作品で見てきた、どの磁石よりも伸び伸びとしていた。「THE MANZAI」が終了し、「M-1グランプリ」の出場資格を失った今、ようやく彼らは“漫才の呪縛”から解き放たれたのかもしれない。それでいて揺るぎない。全体の流れを意識した仕掛けを随所に散りばめている。

2015年に結成15周年を迎えた磁石。彼らが花開くのはこれから……なのかもしれない。

なお、特典映像は、本編の幕間映像として収録されている機械オンチの佐々木が電化製品に挑戦する「佐々木vsパソコン/コピー機」のロングバージョンと、ライブ終演後に行われたアフタートークライブの模様を収録している。これも実際に見てもらうのがベストなのだが、佐々木の機械オンチぶりは本当に衝撃だったので、是非ともご覧いただきたい。このご時世、あそこまでパソコンを使いこなせない人が存在するなんて……。

■本編【91分】

■特典映像【21分】

「炎の2番勝負「佐々木vsパソコン/コピー機」ロングバージョン」

「アフタートーク