白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

植田まさし『かりあげクン』の記憶。

子どものころに読んだ植田まさし四コマ漫画かりあげクン』に、講習会で「人の嫌がることを率先してやろう」という話を聞いたかりあげクンが、同じ課の人間にイタズラを仕掛けて「アイツは人の嫌がることしかやらないな」と陰口を叩かれる、というネタがあった。他にも色んな四コマが掲載されていて、それらにも目を通しているはずなのだが、やたらとこれをはっきりと覚えているということは、当時の自分にとってよっぽど衝撃的なネタだったのだろう。確かに、言葉遊びとしては非常に良く出来ている。「人の嫌がることを率先してやろう」という発言が意味しているのは、本来なら「人が嫌がってやろうとはしない面倒な作業を率先してやろう」というものだが、かりあげクンは「人に嫌悪感を与えるようなことを率先してやろう」というニュアンスで受け取っている。ここに生じている齟齬が笑いに昇華されている。アンジャッシュのコントを彷彿とさせるような、巧みな着眼点である。そして今や、このネタは風刺的でもある。昨今のインターネット界隈には、このネタにおけるかりあげクンのように、印象的な言葉だけを鵜呑みにして、本来の文脈を無視して自分勝手な理論を展開し、他人に迷惑をかけるようなことをやらかしてしまう人たちが少なくない。しかも、次から次へと話題が転換するインターネットの世界においては、それが正されもしないままになってしまうこともしばしば起こっている。ことによると、単なる勘違いどころか、敢えて言葉を歪曲して受け取ることで、他人に迷惑をかける際の免罪符にしている可能性もある(本編におけるかりあげクンも、件の発言をイタズラの免罪符としているフシがある)。真に優秀なネタは時に人間の本質をうっかり突いてしまうものだ、ということなのかもしれない。知らんけど。