白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

もしかしてあれはもしかして むかし吉住の味方で

R-1グランプリ2024』決勝の舞台で吉住が披露したコントに対して、批判の声があがっている。デモ活動に参加した後で初めて彼氏の実家を訪れる女性を演じた一人コントが、デモ参加者に対する偏見を増長するものであるといわれているらしい。正直、よく分からない。ネタの中で吉住が演じていた人物は、ただただデモに参加した後で彼氏の実家を訪れただけの人間ではない。デモで使用した道具を持ち込んで、デモ中に壊れてしまった実家への贈り物を「戦った勲章なので……」とそのまま手渡し、衣服に他人の血がついていることを指摘されても平然としているような人間である。要するに、“デモ参加者”を演じているのではなく、“デモに参加しているちょっとヤバいヤツ”を演じているのだ。もし、このコントを見て、「デモに参加するような人間はこんなヤバいヤツばっかり」だと思い込む人がいるとすれば、それはそもそもデモ活動そのものに対して少なからず偏見を抱いているような人物だろう。

それよりも、個人的に気にかかっているのは、後半のくだりである。

デモ活動とは、個人では社会に対する発言力を持たない人々が、国や企業のような大きな組織に対抗するための手段である。一人一人が団結して集団になることによって、組織に対抗し得る力を獲得するのだ。しかし、その力が間違った方向へ向かってしまうと、とんでもない状況を招いてしまう危険性もある。『スパイダーマン』の名セリフにもあるように、【大いなる力には、大いなる責任が伴う】わけである。このコントの後半では、吉住の演じる人物の要求を満たすために、デモ活動に参加している集団の力が一介の夫婦へと向けられてしまう。ここに肝を感じる。権力を持つ組織に対抗するために作られた集団であったとしても、その矛先を誤れば、強大な力を持つ組織と成り得るのである。とどのつまり、権力に対抗するための力を持つのであれば、その力をきちんとコントロールしておくれよ、という小市民的なメッセージが組み込まれているのである……か、どうかは分からない。所詮は私が今の段階で個人的に感じただけのことなので、それを正解だと決めつけるような烏滸がましい真似は出来ない。それになにより、吉住という芸人の奥深さは、そんなものではないだろう。少なくとも、2022年のR-1決勝で彼女が披露していたコントを覚えていれば、とてもそんな軽率なことは言えない筈だ。それほどに凄まじいネタであった。そのコントのタイトルは……。