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「M-1グランプリ2022」準々決勝敗退者・オススメの六組

勝戦まで残り一週間というタイミングですが、今年も準々決勝戦で敗退してしまったユニットの中から、個人的に面白かった人たちを紹介します。過去に紹介してきた人たちは以下の通り。

こうして記録に残しておくと、「俺はもっと前から目を付けてたもんね!」と威張れるから便利ですね。そんな目的でやっているわけではないですが。

今年は六組ほど紹介したいと思います。では、どうぞ。

 

・三遊間

吉本興業所属。稲継諒とさくらいによって2019年に結成。いわゆる「あるあるネタ」を作りにあたり、重要視すべきは「範囲」と「角度」の二点である。「範囲」とは、あるあるネタで取り上げるテーマの範囲、「角度」とは、テーマの中から見出すあるあるネタの視点の角度を意味している。例えば、いつもここからの『悲しいとき』を見てみると、テーマの範囲を「悲しい気分になってしまうシチュエーション」に限定し、その上で「彼女が映画館で寝てたとき」「ベルトの位置がすごく高いおじさんを見たとき」「頭が悪いのにノートだけはしっかりとっている人を見たとき」などのように様々な角度から「悲しいとき」を切り取っていることが分かる。つまり、この二点さえ押さえておけば、あるあるネタは幾らでも生み出すことが出来る……わけではない。「範囲」にせよ、「角度」にせよ、何のどういった部分に着目したら笑いに転換されるのかを選択するセンスが重要だからだ。で、三遊間である。今回の三遊間の漫才は、刑事の張り込みシーンをテーマにした漫才コント……と思わせておいて、その実、真に描かれているのは「車内のあるあるネタ」である。この「範囲」だけでもうちょっと面白いのだが、その「角度」がまたたまらない。ドライブの経験がある人間であれば共感できるだろうが、敢えて意識することはそれほどないようなあるあるが、見事に笑いへ昇華されている。あるあるを発進させる、さくらいの声質も丁度良い。昨年の準々決勝戦で敗退したときにも注目していたコンビだが、その時よりも更に気になるコンビになってしまった。売れてほしい。「マクドのポテトの一番長いヤツ消えるときあんねん!」

 

エバース

吉本興業所属。町田和樹と佐々木隆史によって2015年に結成。古典落語に『二階ぞめき』という演目がある。吉原の雰囲気が好きで入り浸っている若旦那のために、店の二階に吉原の街並みにそっくりな空間を作り上げてしまう噺である。こういうネタの面白さは落語でなければ表現できないだろう。現代の技術であれば映像化することは可能なのかもしれないが、それが落語の面白さ以上のモノになるとは到底思えない。こういうネタは、語り手の話術によって観客の想像力を誘導し、その世界を頭の中に描かせているからこそ面白いのである。この観客の想像力に委ねる手法は、漫才においても多く用いられている。今回のエバースの漫才もまさにそういったネタである。中学のときに転校していった女の子と「十五年後の今日、お互いに恋人がいなかったら、桜の木の下でもう一度会いましょう」と約束を交わした話で幕を開けるも、約束した日は2月28日でうるう年だし、桜の木があった場所は工事されて大型ショッピングモールが建っている。いつ、どこで、どうすれば彼女に会えるのか。ショッピングモールにおいて「桜の木の下」に当たる場所は何処なのかを二人が推察している様子を見ながら、モール内をうろうろ動き回っている二人の姿を想像してしまう。それがたまらなく面白い。個人的には、銀シャリの『騒音』のネタを思い出した。ドラマチックなシチュエーションに対して妙にロジカルなやり取りが展開するギャップも素晴らしい。こういう漫才を見つけると嬉しい気持ちになる。「好きな男を待っているときの女ぐらい、顔見たら分かるわぁ!!!」

 

アイロンヘッド

吉本興業所属。辻井亮平とナポリによって2008年に結成。はっきり言って、ネタそのものに関していえば、さほど珍しいものではない。『デート』をテーマにした漫才なんて、過去に数えきれないほどのネタが産み落とされている。かといって、ボケに魅力を感じているわけでもない。これといってセンスを感じさせるほどではない、トンチキなボケのオンパレードだ。それでも、彼らの漫才が好きで好きでしょうがなくなってしまったのは、辻井がナポリを引き留める際に発する「ナポリくん!」というツッコミがたまらなく面白いからである。声質も、口調も、「ナポリ」という名前の面白味に至るまで、全てが完璧なツッコミなのだ。こんなもん笑わずにいられるか、と言いたくなる。「何の意味もない改名」と囁かれていたナポリの名前が、ここにきて、漫才のネタに重要なアクセントを加えてくれることになるなんて、まったく予想していなかった。来年、是非とも決勝で見たい漫才だ。「見損なったで、ナポリくん!!!」

 

・マリオネットブラザーズ

浅井企画所属。肉汁と井上大生によって2013年に結成。霜降り明星マヂカルラブリー・錦鯉の優勝がもたらした功績の一つに、「ボケとツッコミが掛け合いを繰り広げなくても漫才として評価される」点がある。彼らの優勝は、これまで漠然と蔓延していた「掛け合いを繰り広げてこそ漫才」という風潮を破壊し、漫才の表現の幅は大きく広がった。この影響からか、今回の予選でも「ボケとツッコミが掛け合いに発展しない漫才」が多く演じられていた。例えば、銭湯での異常行動を表現した入間国際宣言、渋谷の風景を漫才世界に落とし込んだ10億円などは、その類いといえるだろう。それらの中でも、とりわけ笑わせてもらったのが、マリオネットブラザーズの漫才である。野球の気になった試合をスローで見返すことがあるという肉汁(なんだこの名前)が、その様子を無言で再現、それに井上がツッコミを入れるスタイルのネタなのだが、肉汁の動きがとにかく素晴らしい。スロー、コマ送り、三方向のカメラの表現があまりにも見事。徹底的に無言を貫いているのも、濃い顔を強調するのに適切だ。今後、漫才の表現を更に広げていくのは、こういった漫才なのかもしれない。「(ファースト、ライト、ビールの売り子への流れ)」

 

・素敵じゃないか

吉本興業所属。吉野晋右と柏木成彦によって2014年に結成。ツッコミ役の話をしている間、ボケ役がまったく別のことをしていて、まるで話を聞こうとしていない……というボケは、漫才におけるパターンの一つとして多くの芸人に使われているものだが、素敵じゃないかはそれだけで一本ネタを作り上げている。恋人のことについて相談している吉野を無視して、柏木が延々とまったく話とは無関係な行動をし続ける。その無関係な行動がおざなりに処理されずに、丁寧に片付けられるところに面白味がある。例えば、柏木が松井秀喜のモノマネをしていたら、吉野がバットとキャップを取り上げて、舞台の端へ片付けに行く。柏木が学校机を彫刻刀で削っていたら、吉野が学校机の上に椅子を逆さにして乗せた状態で、両手で担ぐように舞台の端へ片付けに行く。柏木のフリの情報量に対して、吉野の片付けによる情報量が上回る、このクイズのような構成が脳に心地良い刺激を与えてくれる。いつまでも見ていたい気持ちにさせられる漫才である。「デカい女とキスすんな!」

 

・トム・ブラウン

ケイダッシュステージ所属。布川ひろきとみちおによって2009年に結成。M-1ファイナリストに選ばれた経験がある芸人にとって、リベンジを果たすことがどれほど難しいかは想像に難くない。既に自らの芸風を世間に知らしめた後で、その初見時のインパクトを超えなくてはならないからだ。だからこそ、かつてのファイナリストたちは、その芸を進化させる必要がある。本大会でいえば、たくみの狂気性を爆発させるくだりを加えたカミナリ、下ネタの追求がポリコレ的な視点を獲得しかけているゆにばーすなどが、それに当たる。その中でも、既存の異常性と研ぎ澄まされた構成に更なる磨きをかけてきたのが、トム・ブラウンである。「星野源を合体させて星野エネルゲンを作る」というトンチキな発想が、星野源新垣結衣の新婚旅行へと発展し、その旅行の道中での出来事が合体の工程に溶け込まれることで生まれる一体感。その隙間に布川の無礼極まりないツッコミが挟み込まれることで、漫才はノンストップでヒートアップする。新婚旅行や広瀬香美への言及は文字通り腹を抱えて笑った。彼らの進化はまだまだ止まらないことを確信させられる一本だった。「新婚旅行って、つまんねぇんだなぁ~!!!」

 

以下、準々決勝戦のネタまとめ(面白かった芸人には◎を付けた)。

・11月12日(東京)
くらげ「合コンで知り合った女性」
【通過】シンクロニシティ
◎カミナリ「山手線ゲーム」
コットン「田舎の商店街で街ブラロケ」
TEAM BANANA「TUBEと一緒に海に」
【通過】男性ブランコ
【通過】ヨネダ2000
蛙亭「ママ友のマウントを笑顔で」
コロコロチキチキペッパーズ「熟女がムチで叩く店」
ぶるファー吉岡「太ももとお尻の境界線」
マッハスピード豪速球「自転車撤去のおじさん」
コマンダンテ「服屋の店員と勘違いされて……」
アインシュタイン「乾燥肌の妖精・ポリリちゃん」
深海魚「ギリギリの○○をやってみたい」
TCクラクション「ディベートが得意なのよ」

・11月13日(東京)
◎入間国際宣言「銭湯で漏れる「あぁ~」」
演芸おんせん「へぇ~って思った話」
大仰天「自動車学校で漫画みたいな恋愛」
◎さすらいラビー「マッチングアプリで出会った男女」
オドるキネマ「合コンのコンプライアンス
カナメストーン「自動ブレーキの車で立つ役」
◎パンプキンポテトフライ「相方の家を食べログに掲載させる」
Aマッソ「オカンにめっちゃ怒られた理由」
【通過】ダンビラムーチョ
吉田たち「気になる人」
【通過】かもめんたる
【通過】ストレッチーズ
10億円「渋谷のことを教えてやる」
【通過】キュウ
ランジャタイ「礼儀正しいゴリラの作りかた」
阿佐ヶ谷姉妹「お味噌汁っていいわよね」
とらふぐ「外国人に話しかけられて道案内
ひつじねいり「サッカー観戦のピザのサイドメニュー」
【通過】THIS IS パン
ダイタク「肝試しの記憶違い」
【通過】ダイヤモンド
ナイチンゲールダンス「なかるてぃんのハンバーグ屋さん」
◎素敵じゃないか「大事な相談中に……」

・11月15日(大阪)
どんちっち「オリンピックの狙い目の種目」
キングブルブリン「救われた恩師の言葉」
生ファラオ「犬の散歩中に」
豪快キャプテン「暴走族に注意する」
◎バッテリィズ「北海道の楽しいところ」
タイムキーパー「副業でアシカショー」
マルセイユ「ナイナイ著名人」
ダブルアート「電車で外国人に話しかけられたとき」
◎軍艦「前世の記憶」
タチマチ「犬と金魚」
◎チェリー大作戦「犬を飼いたい」
セルライトスパ「得意分野で勝負(○○vs相撲)」
◎三遊間「車の中で張り込み」
鬼としみちゃむ「干支全部入ってる話」
祇園コンプラ対応した『金の斧銀の斧』」
見取り図「記事の見出し」
ヘンダーソン「クラブでナンパ」
滝音メイドカフェ
たくろう「一般人の不倫をターゲットにした週刊誌」
モンスターエンジン「魚の目線で」
骨付きバナナ「三年が引退した後の女バスの二年」
【通過】ハイツ友の会
黒帯「新しくグーチョキパーに替わるもの」
◎金属バット「小学校の先生と不倫」
ダブルヒガシ「スナックおっさん」
紅しょうが「街頭演説のヤジ」
隣人「幻のダイヤを狙う怪盗」
【通過】からし蓮根
天才ピアニスト「ネイルサロン」
令和喜多みな実「チャッカマン」
【通過】コウテイ
デルマパンゲ「グルメリポート」
崋山「ツボを売る訪問販売」
【通過】さや香
ツートライブ「どえらいゴシップ」
【通過】ビスケットブラザーズ
【通過】カベポスター
【通過】マユリカ
【通過】ロングコートダディ

・11月16日(東京)
◎インテイク「サプライズでプロポーズ」
スパイク「ドライブの話でかましちゃいました」
忘れる。「卒業証書」
カラタチ「アイドルオタクとアニメオタク」
鶴亀「人間とゴリラの対談」
EXIT「スタバの日本出店会議」
◎オッパショ石「海に行きたい」
9番街レトロ「地元」
◎マリオネットブラザーズ「プロ野球の試合をスローで観返す」
【通過】ミキ
エバース「十五年後、約束の桜の木の下で」
【通過】オズワルド
きしたかのラーメン二郎の呪文」
キンボシ「相撲部屋へ遊びに行きたい」
ブレード・ランナー「オススメの泣ける映画」
【通過】カゲヤマ
東京ホテイソン「海外のサッカー実況・空耳ゲーム」
アイロンヘッドナポリくんのデートの感じ」
リニア「ビジュアル系バンドをやろう」
【通過】ケビンス
にぼしいわし「理想のフードコート」
大自然「群れからはぐれた動物を保護」
◎オフローズ「セフレ」
◎ゆにばーす「究極の選択」
怪奇!YesどんぐりRPGパイロットやれよ!!!」
【通過】ななまがり
【通過】ウエストランド
【通過】真空ジェシカ
インディアンス「反抗期の息子の対処法」
◎トム・ブラウン「星野エネル源を作りたい」
【通過】令和ロマン
◎サツキ「ムネタはそこにいる」
納言「枕営業に誘われて」
井下好井「文句は課金制」
【通過】ヤーレンズ
モグライダー「海外のアクション俳優の覚えかた」
【通過】ママタルト
シシガシラ「浜中クイズ」
ニッポンの社長「乗馬」