白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ニッポンおもひで探訪 ~北信濃 神々が集う里で~」(2023年11月20日)

俳優の宍戸開が豪雪地帯として知られている長野県飯山市を訪れる。飯山駅を降りて、向かったのは沓津(くっつ)といわれる集落。川沿いの道を歩きながら、住民たちと交流を深めることで、宍戸は様々な沓津の文化に触れていく。ハチノコでイワナを釣ろうとしている親子、マムシを探しながら肝の美味しさを楽しげに語る老人、“たけのこ汁”“ゼンマイの煮物”“ビスケットの天ぷら”といった地元の名物を振る舞う女性たち……。やがて宍戸は二百年以上の歴史があるという神社“沓津神社”へと足を踏み入れる。そこではちょうど秋祭りの準備が行われているところだった。宍戸は翌日の本番にも立ち会い、その模様を見学する。「これがずっと代々続いていくといいんじゃないですかね」。そう言い残し、宍戸は沓津を後にしようとするのだが、その道中で彼は驚くべきものを発見してしまう。その驚くべきものとは……。

NHKの若手制作者たちによる実験枠『ドキュメント20min.』で放送された『ニッポンおもひで探訪 ~北信濃 神々が集う里で~』。その番組内の仕掛けについて、2017年製作の映画『カメラを止めるな!』との類似性を指摘する声がある。確かに似ている。前半パートでは、うっすらと違和感の残る映像を流し、後半パートでは、前半パートでは語られなかった舞台裏を見せることで答え合わせをする。構図だけを見るならば、まったく同じ傾向の作品と言ってしまっても差し支えないだろう。

だが、両者には決定的な違いがある。

カメラを止めるな!』の物語は、番組の作り手も、その番組を見ている受け手も、その関係性は作品内で完結している。その様子を、観客である私たちは、無責任な神の視点からエンターテインメントとして消費するだけである。

しかし、『ニッポンおもひで探訪』は違う。番組の作り手は、ありとあらゆる現実の問題ですら、無邪気にエンターテインメントとして消費することに慣れてしまった視聴者に、今まさに同じことが全国で起こっているという現実を突きつけている。それも、ただ現実を突きつけるだけではなく、そこで起こっていることがつまりどういうことなのか、【おもひで】になるということはどういうことなのか、その重みを丁寧に表現している。だからこそ、番組の仕掛けにいち早く気付き、その仕掛けの答え合わせを待ち構えながら視聴しているような、エンターテイメント慣れして浅はかに消費しようと油断している人にこそ、このメッセージは突き刺さる。それはつまり私のことである。いや、見事にやられた。撃ち抜かれた。

近年、様々なテレビ番組の企画が話題になり、その新しさがもたらす衝撃が注目を集めているが、これはその中でもトップクラスのインパクトを与えてくれた番組だった。そろそろ見逃し配信が終わりそうなので、ちょっと踏み込んだ話をしてしまったが、とりあえず「何か仕掛けがあるんだろうな」という程度の認識ならさほど問題無いと思うので、未見の人は是非とも今からでも見るべきである(なんとNHKなのにTVerでも見られるぞ!)。11月27日深夜まで配信中。