白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

GAG『転校生』の話。

ルッキズム」という言葉がある。人を外見の美醜で評価する考え方を示すものだ。ざっくりと調べたところによると、1960年代のアメリカで誕生した「ファット・アクセプタンス運動」という、肥満体の人間に対する「意志が弱い」「怠惰」などといった偏見に基づいた差別に対する抗議運動の中で生まれた言葉らしい。

この「ルッキズム」という言葉を目にするたびに、私はGAGのコント『転校生』を思い出す。如何にも大人しそうな文化系といった風貌の転校生(ひろゆき)が、まだ誰からも喋りかけられていないことに気が付いたクラスメートの二人(福井俊太郎・坂本純一)が、親切心から話しかけてみるのだが、会話を重ねていくと、彼が見た目のイメージとはまったく違うバリバリのリア充であることが発覚する。

そんな転校生の見た目のイメージと性格のギャップに対し、「違うねん!」とツッコミを入れる福井。事実、その見た目と性格のギャップはあまりにも大きく、観客も福井のツッコミを受けて、笑ってしまう。しかし一方、坂本はそんな転校生の発言にまったく疑問を感じていない。そういう人間であるということを素直に受け入れている。よくよく考えてみると、確かにその通りなのだ。口調や態度が大幅に誇張されたキャラクターではあるものの、転校生の発言にそこまで非常識なところは見受けられない。あくまでも福井は、転校生のイメージとのギャップに違和感を覚え、ただただ勝手に腹を立てているのである。これぞまさに「ルッキズム」ではないかと私は思うのである。

しかし、だからといって、このコントが笑えないという話をしているのではない。むしろ、それはそれとして、このコントは面白い。一方的な言及にならないように二対一の構図で福井を孤立化させたり、福井の言い分に対して受け入れるでも否定するでもなくまったく理解を示さなかったり、ひろゆきの演じる転校生のキャラクターを強烈なキャラクターに仕立て上げたり、笑いのための仕掛けが随所に施されている。ただ、ルッキズムという考え方が浸透している今の時代に、こういった類いのコントが新たに生み出されることは困難かもしれない……(私はこのネタを十年以上前にテレビで目にした)。

ベストシーンは「ジェイ」のくだり。