白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

あの日のドムドムバーガーを求めて(2021年12月29日)

理由もないのに気持ちが落ち込むことがある。

大切な人が亡くなったから、大事にしていた何かが壊れたから、などのように明確な理由があるならば、この気持ちを他人に説明することも容易い。だが、何もないのに落ち込んでいる、というのはどうも具合が悪い。どういうわけだか分からないが、他人の意志には常に理由が存在していると思い込んでいる人間が、世の中には一定数存在している。確かに、その心の奥底を弄ってみれば、何か理由となっているものがあるのかもしれない。しかし、誰もが常に、それが何なのかを詳細に知りたがっているとは限らない。さほど重要な状態であるわけではないならば、ひとまず心の安寧を待ち続けるという選択肢もある。だが、いつまで経っても安寧が訪れないとなると、話は変わる。何かしらかの策を講じ、現状を打破する必要性がある。

先日より、そのような状態に陥った。特に思い当たる理由もないのに、気持ちが落ち込んでいて、心が晴れ晴れとしない。しばらくすれば落ち着くだろうと思っていたのだが、一日が過ぎ、一週間が過ぎ、半月が過ぎても、一向に状態は改善されない。はてさて、どうしたものか。

そんなことを考えているときに、とある番組が目に留まった。12月6日放送の『激セマ年表を見てみませんか?』。まだ地球上で誰も年表にしていないようなジャンルを年表にして、オードリーとCreepyNutsがそのドラマチックな歴史を見るという趣旨の番組である。番組内で紹介された年表は二つ。一つは「ダチョウ倶楽部 偶然生まれたギャグ年表」。数々のギャグを生み出してきたダチョウ倶楽部のギャグの歴史を紐解き、その誕生のエピソードを伺うというものだ。

私が注目したのはもう一つの年表である。「自分を貫いたら道は開ける! ドムドム独自路線ひた走り年表」。日本初のハンバーガーチェーン「ドムドムバーガー」が生み出してきた、オリジナリティが溢れ過ぎているハンバーガーの歴史を辿るものである。この時の放送を見ていて、ふと思い出したことがあった。

「そういえば、今から数年前に、ドムドムバーガーのハンバーガーを食べに行ったことがあったっけ」

今から四年前の2017年12月。私はヒコ氏のブログ『青春ゾンビ』の記事を拝読し、ドムドムバーガーの存在を知り、岡山県倉敷市児島の店舗へ食べに出掛けたのである。当時のことはブログでも記事にしており、それなりの反響を得ることが出来た。以下がその記事である。

放送をリアルタイムで見ているときには何も感じてはいなかったのだが、しばらく日が経ってから、とある思いが自分の中に芽生えていることに気が付いた。「四年ぶりにドムドムバーガーに行きたい。否、行かねばならない」。何故か少しずつ減少していく虚しさと比例するかのように日に日に肥大するこの思いは、この多忙極まりない年の瀬の頃に大爆発を巻き起こしてしまった。

とどのつまり、四年ぶりに児島へ向かったのである。

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坂出駅から快速マリンライナーに乗り込み、二十分ほどで児島駅に到着する。児島に出掛けるのも四年ぶりだが、そもそも電車に乗ること自体が相当に久しぶりのことになる。なにせ、日常において電車を利用する機会が皆無に等しいので、駅で切符を購入した時点で、すっかり懐かしい気持ちに染まってしまった。

当時と同様、今も児島駅ジーンズをアピールしており、自動販売機もエレベーターも相変わらずジーンズ柄に染められていた。

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そして、こちらも変わらず、駅の通路や入口にはジーパンは吊るされていて、やはり当時と変わらず野ざらしの様である。アピールするのは構わないが、もうちょっと見た目の印象に配慮した方が良いのではないだろうか。どうにも清潔感がない。

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ドムドムバーガーがあるのは、駅から歩いて数分のところにある「天満屋ハピータウン」のフードコートである。前回と同様、今回も歩く。歩いている途中、道に敷き詰められた石畳(というのだろうか?)に、岡山県の名物をあしらったイラストが描かれていることに気付く。なかなかに可愛らしかったので、いくつかを撮影する。

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当時よりも栄えている景色を眺めているうちに、目的地に到着。

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記憶の中にある店舗よりも大きいように感じられて、些か物怖じする。否、思い返してみると、当時の私と今回の私とでは辿ってきた道筋が違っていたのである。厳密にいうと、当時の私は「児島ショッピングコートパティオ」の中を通り抜けて裏口から回ってきたのだが、今回の私は児島駅前から児島ジーンズストリート方面に繋がっている「武左衛門通り」を真っ直ぐ歩いてきて正門へとやってきたのである。……このような話に誰が興味を持つのかは分からないが、念のために書いておく。

正門から入って右手側にフードコートがあって、そこにドムドムバーガーもある。

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フードコート内は相変わらず老人たちにとっての社交場の様相を呈していた。ただ、冷静に見てみると、中には家族連れや子どもたちのグループ、若いカップルなどもおり、単純に近隣の人たちにとっての憩いの場となっているようだった。

……などと、冷静に状況を観察している場合ではない。来たからには食わねばならない。食うためには注文しなくてはならない。注文するからには何を食べるかを決めなくてはならない。当時のブログ記事によれば、「お好み焼きバーガー」と「ビッグドム」を注文していたようだ。また、ヒコ氏のオススメとして、「甘辛キチンバーガー」の名前が挙げられていた。

しばらく考え、他のハンバーガーチェーンでは食べられないであろう、「アジフライバーガー」のセットと期間限定商品の「丸ごと!カマンベールバーガー」を注文する。無論、電車で来ているので、お持ち帰りではなくフードコート内で食べる。

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写真左がアジフライバーガーで、写真右がカマンベールバーガーだ。

まずはアジフライバーガーから開封。見ての通り、アジフライを挟んだハンバーガーである。それ以上でも、それ以下でもない。本当にきちんと美味しいアジフライにタルタルソースを重ねているだけだ。だが、美味い。予想できる範囲に美味い。噛み締めるたびにフライのサクサク感が楽しめるし、タルタルの風味とアジの旨味がパンにしっかりと絡み合っている。尻尾まで余すことなく食べられたのもポイントが高い。

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続けて、カマンベールバーガーを開封。これが誤算だった。写真を見た私は、てっきり白いパンを使ったハンバーガーで、トマトと肉の間に挟まっているものがカマンベールチーズだと思い込んでいたのだが、この白いヤツはなんとカマンベールチーズだったのである。噛み締めるたびに、肉やトマトを凌駕するカマンベールチーズ。半分ほど食べたところで「これはフードコート内で食べきるための料理ではない。持って帰って、切り分けて、酒のツマミにしながら食べるヤツだ」と確信する。

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こってりとしたハンバーガーに胃腸の状態が不安になった私は、食べ終わってから、そそくさと帰路についたのであった。また来よう。

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帰りに見かけたジーンズバス。