白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

コントのリアリティについて

コントのリアリティ(現実性)について考えるときに、いつも思い出す人たちがいる。かつてマセキ芸能社に所属していたお笑いコンビ、ホーム・チームである。彼らのネタに『小田急線(急行)』というコントがある。仲の良い電車の運転士と車掌が、運行作業をこなしながらイチャイチャしている姿を描写したもので、正確無比を求められる仕事と思春期の学生を思わせる軽いノリがもたらすギャップを笑いに昇華している。この『小田急線(急行)』では、実際には起こり得ない状態が描かれている。本来であれば、電車の運行中において、車掌は乗務員室で自らの作業をこなすことになっている。ところが、このコントに登場する運転士と車掌の二人は、常に運転室で並んで座っているのである。これは明らかにおかしい。電車に乗り慣れている人間であれば、少なからず違和感を覚えるシチュエーションである。だが、『小田急線(急行)』に対する評価は高い。このコントが2000年6月に『爆笑オンエアバトル』で披露された際には、九割以上の観客票を獲得している。要するに、それが現実的であろうと、現実的ではなかろうと、コントというフィクションにおける演技や状況さえ成立していれば、観客からはそれなりに受け入れられてしまうものなのだ。もっとも、一般人が他者と違和感を容易に共有できるSNSというツールが存在している今の時代において、現代のネタとして『小田急線(急行)』がテレビでオンエアされたとしたら、電車愛好家たちからのツッコミが殺到していたかもしれないが……このネタが観客にウケたという事実は、未だに私のコント観を揺るがした出来事として、頭の中にこびりついている。