白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

とかくこの世は無責任

テレビのバラエティ番組において、胸の大きい女性が「こっそり(私の)胸を見てくる人がいるんだけど、あれって全部バレているからね!」と話している場面をたまに見かける。そういう話を聞くたびに、「見られている回数が多いから「全部バレている」と勘違いしているだけで、見てくる人間の実数はもっと多い可能性があるのではないか」と考えてしまう。店頭の商品棚が品薄になっていても、倉庫には在庫が山積みになっているかもしれない。見えているところだけで状況を判断するのは愚鈍である。……などと、当事者でも何でもない無責任な立場から上から目線で考えてしまうわけだが、そもそもこの話は「こっそり胸を見てくるんじゃねえ!こっちは気付いているからな!クソどもが!」という注意喚起に本質があるため、実際には確認しようがない微々たる点を掘り下げたところで、さほど意味がない。そんなところを掘ったところで石油も徳川埋蔵金も出てこない。そもそもの発言に隙があることは否めないが、それはそれとして、主張が示している本質については理解を深めた方が良いのだろう、という話である。……しかし、そもそも「胸を見てくる人」が存在しないにもかかわらず、注目を集めるために虚偽の発言をしている可能性も否定できないから、なんともややこしい。そうして結局、「そういう人がおるかもしらへんけどおらんかもしらんからなんともいえへんけど、そういう風に感じる人もおるかもしらへんから、自分はそういうことをせえへん人になった方がええんやろな」という曖昧としたところに落ち着くのである。……ところで、本文の冒頭に書いた、胸の大きい女性の発言は私の微かな記憶によるものである。「そんなことがあったような気がするなあ」という程度の認識で書き始めている。でも、本当にあっただろうか。読者の皆さんは見かけた記憶があるだろうか。番組のタイトル、放送日時、発言者の名前まで、しっかりと憶えているだろうか。本当にそんなことを言っていた女性はいたのだろうか。まあ、そういう人がおるかもしらへんけどおらんかもしらんからなんともいえへんけど、そういう風に感じる人もおるかもしらへんから、自分はそういうことをせえへん人になった方がええんやろな。