白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

サツマカワRPG『パン』の話。


芝居において最も観客が注目するのは役者の演技である。

どんなにハデな音楽が流れようとも、どんなに豪華なセットが組まれていようとも、観客は役者の一挙手一投足にこそ目を見張る。多くの芝居において、物語は演者を中心に展開するものであると認識しているからだ。舞台上に流れるモノローグ(心の声)にも同様のことがいえる。それは舞台を彩る演出の一つであって、主軸は芝居そのものにある。

サツマカワRPGの『パン』は、そんな芝居のイメージを逆手に取ったコントだ。帰宅した会社員がカバンからパンを取り出して、ひたすら貪り食う……その姿を演出するために流れている筈のモノローグが、気付けば役者の演技を飛び越えてしまう。先へ先へと進もうとするモノローグに役者は振り回される羽目になるが、やがて抗うことも諦めてしまう。やがて訪れる虚無。それでもモノローグは流れ続ける。しかし舞台に残るのは虚無。その姿は理想と現実の厳しさのメタファーのようでもある。

だが、このコントの真の主題は、このモノローグに何の目的もないところにある。このモノローグの通りに役を演じ切ったからといって、そこに何が残るというのか。いずれにしても残されるのは虚無である。分け入っても分け入っても虚無。サツマカワが舞台上で食っていたのは、実はパンではなくて、観客であり視聴者だったのかもしれない。まったく人を食ったような話である。

ベストシーンは三個目のパンを食べているときの「あぁー、美味しかった」。