白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「エレキコミック結成20周年記念! ~3公演まとめてお得パック~」(2017年11月1日)

2017年に結成20周年を迎えたエレキコミックが2014年~2016年の間に開催した単独公演「等等」「東京」「金星!!」を三枚組のセットにした作品集。“お得パック”といえば聞こえはいいが、単純に売り上げが見込めなかったからリリースを差し止めていただけなのではないか……という疑念を抱かなくもない。とはいえ、もう出ないのだろうと思っていたものを出してくれたのだから、ここは素直に有り難いと言っておこう。うん。有り難い。ちなみに、エレキコミックの単独がソフト化されるのは、『エレキコミック 第23回 発表会「Right Right Right Right」』以来、およそ三年ぶり。

【第24回発表会「等等」】

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2014年10月に東京・大阪・名古屋で計10公演が行われたライブより、銀座・博品館劇場で開催された東京公演の模様を収録。

「♪さよならだけが人生だお!」と軽妙に歌い上げる冗談のような悪ふざけのようなテーマソングが、彼らの芸風そのものを表しているようで、それだけでなんだか笑えてしまう。ただ、演じられているコントはそれほどふざけておらず、むしろコント職人としての技術がしっかりと反映されている印象を受けた。まったく世話をしていなかったくせに、他の学生たちが育ててきた牛が出荷される日にだけ姿を現して、その感動の旨味だけを味わおうとするクソ女のヤバみが凄いオープニングコント『どなどな』、血の繋がっていない息子とお手製のモグラたたきゲームで遊ぼうとする父親の奮闘ぶりがなんとも切ない『モグラたたき』、ハロウィングッズの販売店で本来のハロウィンについて熱弁する男の目的とは?『ハロウィン教授』等等、描きたいテーマを明確に掲げているコントが楽しめる。これぞ熟練の深み。特に印象的なのは、今立が奇妙な寿司屋に迷い込むシチュエーションコント『寿司屋』。基本的なボケは一つだけなのに、それでも笑わせられてしまう技術が駆使されたコントである。予想外なオチも上手い。

特典映像は、やついいちろうの結婚披露パーティで最も場内を沸かせたという、後輩芸人・おくまんによるスピーチの模様を撮影した「やつい結婚パーティー」。学生時代に出会い、最もやついのことを知っているというおくまんが語るエピソードの数々があまりにも衝撃的で、その内容は思わず進行役の今立が「ちょっとした告発でしたけどね」とコメントするほど。ある意味、本編以上に面白かった。

・「等等」本編【69分】

「どなどな」「YD」「モグラたたき」「寿司屋」「退屈」「ハロウィン教授」「三日月の夜」「特典映像:やつい結婚パーティー」

 

【第25回発表会「東京」】

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2015年10月に東京・大阪・名古屋・福岡・北海道で計12公演が行われたライブより、下北沢・本多劇場で開催された東京公演の模様を収録。

とにかくオープニング映像が魅力的。鶯谷のカプセルホテル・サウナセンター大泉の中から、館内着のまま街へと繰り出す二人。そのままカメラはゆっくり上昇し、映し出されるのはジオラマのように雑多とした東京のビル群。そして浮かび上がるライブタイトル「東京」の二文字……。ああ、これだけで、たったこれだけで、すっかり心を奪われてしまった。地方民の私にとって、東京という街は居住する場所ではなく来訪する場所でしかないのだが、そこに映し出された映像は完全に具現化された「東京」だった。テーマソングに使われている曽我部恵一の「春風Lonley」がまた東京の景色とよく馴染む。

この素晴らしいオープニング映像に対して、コントの内容は全体的にやや落ち着いてしまった印象。東京で負った心の傷を癒やすために日本一周の旅を続けている今立が田舎の知られざる真実の姿を知ってしまう表題作『東京』、疎遠になっていた息子の友人だという青年が弔辞を読ませてほしいと申し出てきたのだが、彼はちょっとアヴァンギャルドなバンドマンで……『弔辞』、バイトの面接にやってきたのはアイドルを目指している31歳!『くーちゃん』、過去のライブにも登場したあの名優が今回は童話「桃太郎」の世界観を自己分析する『帰ってきた全力俳優』など、どのコントも面白いのだけれど、突出するものが見られない。ただ、タイトルのイメージに気持ちが引っ張られてしまっているのか、残念なバンドマンも、残念なアイドル志望も、残念な俳優も、東京という街に生きている人々の生き様を表しているように見えた。きっと気のせいだろう。

特典映像は、やついと後輩の武蔵(Yes-man)の二人が、作家・小川の友人(アラフォー女子)が結婚相手を見つけたというお見合いサイトに今立も登録させようとする「今立の恋人探し」を収録。三人で自己紹介の文章を考えたり、今立のプロフィール画像をWeb上から探したりしている様子が収められている。四十年の人生を二十文字で表した言葉がちょっと衝撃的。どんなアラフォーだ。

・「東京」本編(67分)

「東京」「違う誰かに」「弔辞」「渕(※諸事情により割愛)」「くーちゃん」「帰ってきた全力俳優」「TJP」「特典映像:今立の恋人探し」

 

【第26回発表会「金星!!」】

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2016年10月に東京・愛知・大阪・福岡の4会場で行われたライブを収録。

先の二公演に比べて、コントの雰囲気が重たい。“イントロ屋”と称した祭りの出店に今立がまんまと引っ掛けられて、お金を巻き上げられていく『イントロ屋』、物語の中に登場する動物たちへの虐待を取り締まる部署“MDAI(物語動物愛護委員会)”所属となった今立が、メドゥーサというあだ名の女上司からの指示で次々に物語を規制していく『MDAI』、久しぶりに再会した友人が新たに立ち上げた葬儀社は、これまでのイメージを一変させた葬式プランを考えているという……『カリスマ』などなど、どのコントもコミカルに作られてはいるものの、そこはかとなく後味が苦め。「詐欺」「過剰な規制」「死」と、ちょっとネガティブな印象を与えるテーマがそれぞれに掲げられているためなのかもしれない。

それでもエンディングを迎えるころには清々しい気持ちに変わっているのは、全体を包み込んでいる『君の名は。』パロディの影響だろう。目覚めとともに自らの身体の特徴を確認する男女の姿が印象的な『天体観測の朝』、素敵な異性との出会いを夢見る二人の女子高生が、神社に伝わる予言の流れ星に願いを込める『天体観測』、そしてお馴染みのバカ学生コンビ“やっつんだっつん”が話題の映画を見るために映画館を訪れる『映画の秋』……そこでは単なるパロディの領域を超えた、元ネタのストーリーへの強いオマージュを感じさせられる。

そんな本編に負けず劣らず、特典映像「今立大作戦」も激しくドラマティック。お笑いとテレビゲームとキン肉マンが大好きな今立が、ソーシャル・ネットワーキング・サービスで知り合って結婚を前提にお付き合いしている女性にプロポーズする様子がおよそ三十分かけて収録されている。やついによって半ば強引に結婚させられるという理不尽な展開ではあるものの、やつい・片桐(あとピョコタン先生)に見守られながら不器用に告白する姿には感動と苦笑いが止まらない。

・「金星!!」本編【85分】

天体観測の朝」「天体観測」「イントロ屋」「MDAI」「カリスマ」「映画の秋」「特典映像:今立大作戦」

ちなみに、エレキコミックは2017年11月に第27回発表会「Lemon Lime 100%Girl」を開催している。こちらのソフト化はいつになるのだろう。早いといいけどなあ。