白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ランジャタイのキャハハのハ!」(2017年4月19日)

2016年11月24日に新宿バティオスで開催された映像収録スペシャルライブ(無料)の模様を収録。

「えー……宇宙大戦争がーっ、来ます……!」。2000年に公開され、日本中で話題騒然となった映画『バトル・ロワイヤル』において、ビートたけし演じる中学教師が3年B組の生徒たちに言い放つ「今日は皆さんに、殺し合いをしてもらいます」という台詞をフラッシュバックさせる、あまりにも衝撃的な一言である。だが、これは映画のワンシーンからの抜粋ではない。オフィス北野所属の漫才師・ランジャタイの漫才『宇宙大戦争』の冒頭で放たれる、ボケ・国崎和也(愛称:クニちゃん)の第一声である。そこに「もしも」や「仮に」、或いは「将来的に」などといった生半可なオブラートはない。とはいえ、冗談で言っているようでもない。

だからこそ、相方であるツッコミ・伊藤幸司は、クニちゃんの言葉に「なに、急に! 来るの!? 何処情報なの!?」とあまりにも真っ当な疑問を投げかける。するとクニちゃんは「アメリカのね、アメリカさまの情報がね……」としれっと答える。では、クニちゃんは如何にして、その情報を秘密裏に入手したのか。曰く、アメリカからの情報は、クニちゃんの頭に赤外線で直接的に送られてくるのだという。……誰がどう見ても完全にイカレている。だが、これ以降、この件に関して追及されることはない。この漫才において重要なのは、あくまでも「宇宙大戦争が来る!」という一大事に対して如何に対応するかという一点のみなのだ。

宇宙大戦争が起こるとUFOがたくさんやってくる。そのUFOを撃墜するのは誰なのか。そう、クニちゃんだ。クニちゃんは日本代表なのだ。各国それぞれに代表がいて、ブラジル代表はロードリーくんである。ロードリーくんは、ニワトリを引き延ばして棒状にした杖を駆使して、棒術でUFOに立ち向かう。クニちゃんも戦うぞ。UFOを掴んでは投げ、掴んでは投げ。その様子をカメラで撮影、アメリカにアピールだ。次々に破壊されるUFO。そのうちの一機がクニちゃんに語りかける。「クニちゃん……結婚しよう……」。あまりにもトリッキーなボケの乱打に、頭がどうかしそうになる。

私が初めてランジャタイの漫才を目にしたのは、「M-1グランプリ2016」準々決勝戦の配信動画だった。当時、彼らが披露したネタは、この『宇宙大戦争』を更に上回る展開を迎えている『カラオケ』。一緒にカラオケに行った友達にイカ墨をぶっかけて目をつぶしたり、イルカとデュエットを始めたり、クリオネに因縁をつけられたり……ストーリーが無いだけに、その世界はとことん無鉄砲に広がっている。

しかし、これほどにハチャメチャなランジャタイの漫才なのに、不思議と無理なく受け入れられる。あまりにも非論理的で破綻した内容なのに、強引に笑わせられてしまう。何故か。その理由は、恐らく独特のテンションを帯びたクニちゃんの語り口にある。私たちが生きている世界とは違う世界が見えているタイプの市井のクレイジーな方々を思わせるクニちゃんの喋りには、ランジャタイの漫才の中で繰り広げられているような出来事が本当に見えているのではないかと思わせられる、ある種の説得力が感じられるのだ。もし、現実に根差した漫才師が、ランジャタイの台本をそのまま再現したとしても、ここまで面白い漫才にはならないだろう。

また、クニちゃんの表現力の高さも無視できない。現実的には有り得ないキャラクターやシチュエーションを自らの肉体だけを駆使して見事に表現している。『宇宙大戦争』でUFOをお風呂につけるくだり、本当に浴槽が見えるんだよな……。加えて、相方の伊藤が、クニちゃんの喋りを強引に止めようとせず、絶妙な距離感を保ちながらツッコミを入れていることで、観客の視点をしっかりと代弁してくれている点も大きい。この絶妙なバランス感が、ランジャタイの漫才を成立させている。

そんなランジャタイの漫才が一時間に渡って披露されている本作は、何処を切り取ってもクレイジー極まりない。猫を飼いたいクニちゃんが夜中二時のシャッターが下りているペットショップの前で時を止めたり次元を切り開いたり『猫を飼いたい』、アルバイトの面接を受けに行くクニちゃんと一緒に謎の生命体「カツ丼くん」が付いてくる『バイトの面接』、子どもの頃から欽ちゃんのことが大好きなクニちゃんが伊藤と「仏が沼にハマッたよ」で仮装大賞に出場する『仮装大賞』など、まともな漫才が一つもない。とりわけ、イヌとキャッチャーとカラスと伊藤を引き連れたクニちゃんがトロールたちと戦いに行く『仲間が欲しい』は、「桃太郎」的な世界観を再構築したような設定から誰も想像できないであろう結末を迎える、とんでもないネタである。是非、観ていただきたい。

これら本編に加えて、特典映像として謎の落語家「馬車楽亭馬太郎」による謎の新作落語『パカラ』、この『パカラ』を坂巻裕哉(マッハスピード豪速球)に延々と聴かせ続ける『パカラ地獄』を収録している。言わずもがな、馬車楽亭馬太郎の正体はクニちゃんなのだが、漫才とは違って、完全に落語家の口調で『パカラ』を演じているから驚きだ。おかげで、これといった笑いどころもない30分の長編新作落語にも関わらず、妙に聴き入ってしまった。いや、とはいえ……『パカラ地獄』のような目には合いたくないが。視聴後、割と本気で「芸人って、大変なんだな……」と思ってしまった。

追記。私が初めてランジャタイの漫才を目にしたのは、どうやら『ぴんく-1ぐらんぷり』(2016年4月29日リリース)だったらしい。衝撃的な内容のDVDだったので、記憶が飛んでしまったのかもしれない。こちらのレビューも、いずれ……。

■本編【55分】

宇宙大戦争」「猫を飼いたい」「カラオケ」「バイトの面接」「仲間が欲しい」「仮装大賞」「寿司子」「沼」「ザリちゃん」

■特典映像【52分】

「馬車楽亭馬太郎「パカラ」」「パカラ地獄」

2017年6月の入荷予定

21「2017年度版 漫才 爆笑問題のツーショット

21「ネタやらかし」(Aマッソ)

タイムマシーン3号の単独ライブがソフト化されるという情報で浮かれている最中ですが、来月の予定のお報せです。年に一度のお楽しみ、「爆笑問題のツーショット」が今年もリリースされます。この一年間も本当に色んなことがあったので、彼らがどのようにそれらの出来事を調理してくれるのか、本当に楽しみですね。ちょこちょこ挟み込まれるアドリブみたいなやりとり、今回も見せてくれるかな。NHKのドキュメント番組「笑けずり」で人気に火が付いたAマッソは、これが初めての単独作品。今年3月に開催された単独ライブ「買ったらお縄!ホンチャン・ヤルデ株」の内容を再現しているとのことですが……だったら最初から単独ライブの映像で良かったのではないかという気がしないでもないです。スタジオ収録は画が寂しいからアレなんだけどなーどうなんだろーなー。何はともあれ楽しみです。

ラーメンズ「読書対決」(002/100)

それぞれに持参した本のどちらの内容がより面白いかを競い合う。初期のラーメンズを代表するコントのひとつ。彼らの名を世に広めるきっかけとなった『爆笑オンエアバトル』では三タイプの「読書対決」が披露され、いずれも多くの支持を集めた。2001年8月には番組内で映像化され、それを偶然に目撃した当時の私は「なんだこれは?」と不思議にコーフンしたものである。どうでもいい話だけど。

基本的に「読書対決」は三回に渡って繰り広げられる。一回戦と二回戦でそれぞれが勝ち星をあげ、三回戦で決着がつくという筋書きだ。今回の場合、一回戦は「ロミオとジュリエットvs鼻」、二回戦は「山椒魚vs伊豆の踊り子」、三回戦は「レ・ミゼラブルvs罪と罰」が取り上げられている。

「読書対決」には二つのパターンがある。一つは「持ち寄った作品の内容を読み合っていく中で、あるシーンをきっかけにマウントの取り合いが始まる」パターン。もう一つは「小林が読み上げる内容に片桐が寄せていく」パターン。前者のパターンの場合は相手の隙を突いて言いくるめてしまうことが多く、後者のパターンの場合は片桐がオチとなる一言を口にして終わらせてしまうことが多い。今回でいえば、一回戦と二回戦が後者のパターン、三回戦が前者のパターンによる展開を取っている。……このことに、私は少なからず違和感を覚える。というのも、「読書対決」のテーマはあくまでも「どちらの本がより面白いかを競い合う」という点にあるので、基本的には前者のパターンが採用されるべきだからだ。否、もっと言ってしまえば、一本目の勝負「ロミオとジュリエットvs鼻」の結果が、あのようにあやふやで不明瞭なものにはなっている点も引っ掛かる。独自のフォーマットを採用したコントの場合、まず観客にシステムを理解してもらう必要性がある。だからこそ、最初は見本として、はっきり明確で分かりやすい流れを作らないといけない。このバージョンは、そこをすっ飛ばしてしまっている。

恐らく、これは既に「読書対決」のフォーマットが認知されていることを前提として作られた台本なのだろう。それはそれで構わない。そういうコントがあってもいい。ただ、これも「無用途人間」と同様、ラーメンズのベスト盤『Rahmens 0001 select』に選出されていることを思うと、もうちょっと初心者にも優しい内容にしても良かったのではないか、という気がしないでもない。というわけで、先にまだ初心者でも内容を理解しやすい「読書対決news篇」、或いは『爆笑オンエアバトル ラーメンズ』に収録されているバージョンを視聴してから、こちらのバージョンを鑑賞することをお薦めしたい。

まどろっこしい話を長々と繰り広げてしまったが、「読書対決」そのものは優秀なコントである。名作の知名度を利用しているにも関わらず、「対決」という大義名分の元に内容をナンセンスにバカバカしく塗り替えていく発想力も兼ね備えた、非常に優れたコントである。さんざん文句を言ってしまった本作のバージョンも、鼻と耳が惹かれあったり、伊豆の踊り子が変なキノコを食べたり(実際の「伊豆の踊り子」は女性なのに、完全に踊り子=片桐に見えてしまう表現力が素晴らしい!)、ジャンバルジャンが新宿思い出横丁の火事の容疑をかけられたり、とんでもない発想が惜しげもなく放り込まれている。でも、もうちょっと、その魅力的な表現を素直に楽しませられる方法があったのではないか、と感じてしまう。うーむ……。

ラーメンズ「無用途人間」(001/100)

【用途】を持ち合わせていないがために何も出来ずに俯いている“無用途人間”佐藤の元へ、伝達用人間の鈴木が新しい【用途】を伝えにやってくる。ファン投票によるベスト盤『Rahmens 0001 select』に選出されるほどの人気作だが、個人的にはあまり好きなネタではない。否、確かに美しいコントではある。独創的な導入、それなのに分かりやすい展開、それでいて意外性のある結末……その世界には一切の無駄がない。しかし、無駄がないからこそ、物足りなさを感じる。

このコントの肝は最後の台詞だ。「すいません、誰か、私たちに「しなきゃいけないこと」をください!」。この言葉を観客に投げかけることで、自らの【用途】について考えさせようという試みである。それ自体は悪くない。ただ、このオチへと繋がっている道筋があまりにも一直線で、メッセージありきの台本に見える。……むしろ、そのように見せることこそが、目的だったのかもしれないが。単独公演のオープニングを飾るコントとしては、あまりにも衝撃的に作られているのも、そのような意図があってのことだったのかもしれない。あくまで邪推だが。

しかし、冷静に考えてみると、終盤の展開のなんと物悲しいことか。お互いのことを思いやって、【用途】の領域を超えた二人は、結果としてどちらも【用途】を失ってしまう。まるで【用途】を逸脱した二人にバチが当たったかのように。実に恐ろしい。笑っている場合じゃないぞ、ホント。

無題。

昔、聴いていて、衝撃を受けた音源がある。

「この馬鹿野郎、娘一人さらわれたおかげでもって、両親楽で暮らせるように成りやがって……あの拉致太りめ。ええっ、横田某の夫婦の馬鹿野郎……」

これはヘイト・スピーチなどではない。立川流家元・立川談志のマクラである。もう少し、細かく説明すると、2007年12月8日に博品館劇場で高座にかけられた『やかん』のマクラである。死後、キントトレコードからリリースされた追悼盤に収録されている。この家元の発言には、それまで連発されていた上質のジョークで笑っていた観客たちも驚いたようで、この直後、客席はまるで凍り付いてしまったかのように静まり返っている。

家元自薦ベスト やかん/天災 立川談志公式追悼盤(2枚組CD/談志役場・キントトレコード)

家元自薦ベスト やかん/天災 立川談志公式追悼盤(2枚組CD/談志役場・キントトレコード)

 

無論、あの立川談志が言うことなので、何の脈絡もなくこのような暴言を吐いたわけではない。この発言の前後は、以下の流れとなっている。

(数々の猥雑なジョークで観客を笑わせる家元……)

あのね、元来ね、寄席というのはこういうところなんですよ。

この馬鹿野郎、娘一人さらわれたおかげでもって、両親楽で暮らせるように成りやがって……あの拉致太りめ。ええっ、横田某の夫婦の馬鹿野郎……。

これがここ(高座)で言うことなんですよ。

んなもの、あの親には悪いところなんか一つもないですよ、そんなの。可愛い娘がさらわれて、国が相手にしてくれないから、自分たちが立ち上がって、みんなの協力を得ながらやってきた……って、崇高な行為ですよ。

だけど、庶民の腹ん中にゃね、さっきの「あの丸坊主を人殺しにしなきゃ困る」と同じようにね、「あの野郎、拉致太りめ」っていう、この了見があるんですよ。これは一番……良い悪いの問題じゃないんですよね。この了見がね、国からテレビを通じて無くなっちゃったんだね。

昔はそれが寄席にあったしね。寄席に出てくるね、隠居さんとかね、和尚さんにそういう了見があったんだよ。

だから庶民はそこで永遠にガス抜きしてたかな。

実にどうも……べけんやで……。

かつての寄席が庶民から求められていたモノについて話していたのである。

ただ、私が衝撃を受けたのは、この暴言そのものではない。「丸坊主」の件である。ここでいう「丸坊主」とは、高座の音源が収録された時期に話題となっていた殺人事件の関係者のことである。当時、「丸坊主」はその胡散臭い風貌から、インターネット掲示板の書き込みやマスコミから「犯人なのではないか」と疑心暗鬼の目を向けられていたのである。その後、犯人は別の人物だと判明するのだが、この日の談志はマクラで「あれ、なんとか犯人に仕立て上げようじゃねえか」とネタにしていたのである。そして、それを聞いていた観客は、何の躊躇もなく文字通り爆笑している。

なんとも奇妙な話ではないか。横田某にしても、「丸坊主」にしても、まったく無実の人間であることには違いないのに、それぞれ切り口が違っているとはいえ、観客の反応もまるで違ってしまうのだ。同様に罪のない人間をネタにしても、その時その時の時代の流れによって、良しとされることもあれば、悪しとされることもあるということだ。それはまさに「笑い」というあやふやで危うい概念を実感させられた瞬間であった。

……という記憶が、某茂木健一郎の話について考えている最中に甦った。関連性があるかどうかは、知ったことではない。勝手にしやがれ

「サンドウィッチマンライブツアー2016」(2017年3月29日)

2016年8月から10月にかけて全国10ヶ所を巡ったライブツアーより、9月17日に開催された札幌公演の模様を収録。

2016年3月26日に開通した北海道新幹線。当時、その開業を報せる広告ポスターにサンドウィッチマンが採用されたことが、少なからず話題となった。それぞれエメラルドグリーンとパープルのコートを着た二人が楽しそうに各地を巡っている姿が、とても微笑ましかったからだ。それはまさに、友人や家族とはまた一線を画す、他の介入を許さない“相方”の距離感が生み出した愛おしい瞬間だった。当人たちもこの広告を気に入ったのか、本編のオープニングは「広告の二人」が担当している。観光地ではしゃいでいる二人は、広告で見せたような親密な距離感を感じさせることはなかったが、実になんとも楽しそうであった。……無論、ライブ本編ではいつものサンドウィッチマンが登場し、いつものようにネタをやっているわけだが。

前回の公演では非常に手堅いネタを披露していたサンドウィッチマンだが、本作でも確実で揺るぎない笑いを見せている。例えば、お見合い写真の撮影にやってきた伊達が、富澤扮する某戦場カメラマン風のカメラマンの言動に翻弄されるオープニングコント『写真館』は、彼ららしさが前面に表れたコントだ。「カメラ」を「キャメラ」と言ったり、写真撮影にタイマー機能を利用したり、ポーズを取っているのになかなかシャッターを下ろさなかったり……悪意を感じさせない天然だからこそ滲み出るタチの悪いボケの連打が非常に面白い。全体を通して悪ふざけが過ぎる印象を受けた『蜂の巣駆除』、M-1優勝前のサディスティックでブラックな笑いを演じていた時代のサンドウィッチマンがほのかに感じられた『保育園』も、それぞれ非常に面白かった。

しかし、やはり漫才の安定感は抜群だ。サンドウィッチマンライブの常連客として知られる小島さんイジりで幕を開ける『漫才(服屋)』は、Tシャツを買いに来た伊達が富澤演じる店員の慇懃無礼な態度に転がされる漫才コント。ちょっとした隙間を埋めるように、次から次へと繰り出されるボケとツッコミの応酬がたまらない。それでいて、「“人間山脈”アンドレ・ザ・ジャイアント仕様じゃねえか!」という一部にしか届かないであろうキラーワードをしれっと潜ませる場面も。大衆向けの漫才を作っているようでいて、こういった個を感じさせるワードを忘れないところが、彼らの良さである。オーラスの『漫才(犬の散歩)』も素晴らしい。犬を散歩させている伊達に富澤演じる通りすがりの人が話しかけてくる……という、自由度の高いシチュエーションであるが故に難しい設定を見事に乗りこなしている。浅く広い笑い、狭く深い笑い、両方を見せてくれた。

これらの本編に加え、特典映像として幕間映像やツアーのメイキング映像などを収録。テレビや映画でお馴染みのスターたちが富澤の出題するご当地クイズで競い合う「スター対抗!日本全国ご当地クイズスペシャル!!」、単独では定番となっている伊達がボケ役を演じるコントシリーズの是非が問われる「本当に必要?男シリーズ徹底討論!」、今回の単独ライブのチラシが某芸人によってパクられたのではないか問題を当事者を迎えて検証する「振り返りトークライブ」など、充実した内容となっている。その中でも驚いたのが、「サンドウィッチマンライブツアー2016 うちわコレクション」。ファンが持参した自作のうちわを振っている姿が、伊達による謎のオリジナルソングとともに淡々と流されていく。このファンからの愛を受け止める懐の広さ、優しさ。毎年、彼らが欠かさず、全国ツアーを敢行している理由が分かったような気がした。

ちなみに、表記されてはいないが、本編ではもう一本だけネタが披露されている。それがどのようなネタなのかは、実際に確認していただきたい。内容については触れられないが……北海道新幹線の広告ポスターが好きだったなら、見て損はないかもしれない。

■本編【61分】

「写真館」「漫才(服屋)」「蜂の巣駆除」「保育園」「漫才(犬の散歩)」

■特典映像【90分】

「スター対抗!日本全国ご当地クイズスペシャル!!」「本当に必要?男シリーズ徹底討論!」「ラジオ(ラジオDJ)」「ラジオ(老舗和菓子店)」「サンドウィッチマンライブツアー2016 うちわコレクション」「振り返りトークライブ」「ツアーメイキング」

「番組バカリズム3」(2015年11月25日)

番組バカリズム3 [DVD]

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2015年3月20日BSプレミアムで放送されたバラエティ番組「番組バカリズム3」を収録。バカリズムがこれまでにライブで演じてきたパフォーマンスの再演に加え、豪華ゲストを迎えた撮り下ろし映像を収録した、充実の内容となっている。演出は「戦国鳥獣戯画 乙」「住住」「架空OL日記」などの話題作を手掛けている住田崇が担当。その他、オークラ(脚本)、カンケ(音楽)、ニイルセン(イラスト)など、過去二回の番組制作にも関わってきたクリエイターたちが参加している。

演じられているコントは全六本。過去の放送回のボリュームを思うとやや少なめに感じられるが、それぞれじっくりと時間をかけた味わいある作品に仕上げられている。

若林正恭(オードリー)をゲストに招いた『TAKE-2』は、ドキュメンタリー番組の撮影が入ることになってテンションが上がってしまったスーパーの店長が、万引き主婦と店員のやり取りをテレビ受けするように演出するコント。視聴率を取れると判断されるような演出を考案する店長(バカリズム)もさることながら、ツッコミを入れつつもしっかり店長に巻き込まれてしまう店員(若林)がいい。日ごろ、春日俊彰という怪人を相手にしているだけあって、実に適切な態度を見せている。

一般の素人がテレビ的なるものに呑み込まれていく展開から、おそらくこのコントは『万引きGメンターテイメント』(テレビの密着取材が入っているのに万引き犯罪がまったく起こらないことに焦りを感じた万引きGメンが、一般客を万引き犯を仕立て上げてしまうコント。『バカリズムライブ「キックオフ!」』収録)をモチーフとしているのだろう。だが、徹底的に不条理な展開にすることでバカリズムが一人でボケを背負い込んでいた『万引きGメンターテイメント』に対し、『TAKE-2』は若林という受け手が存在することで、かなり見やすくなっていたように思う。

ピンとコンビの違いといえば、様々な角度から歴史上の出来事を考察する歴史番組において、バカリズム演じる大学教授が「“本能寺の変”をどっきり特番とした場合においける当日の収録スケジュール」について解説する映像コント『考える歴史』でも同様のことを感じた。元ネタは『バカリズムライブ番外編「バカリズム案7」』で披露された『歴史に関する案』である。元ネタでは、バカリズムが客席に向かって一方的に先述の解説を行うのだが、『考える歴史』では相手役としての伊藤綾子を配置することで、より重層的な笑いを生み出している。……というわけで、従来はボケもツッコミもそれ以外も全て一人で処理しなくてはならない、ピン芸人の立ち位置の難しさについて考えさせられてしまった。大変だな。

個人的に一番好きだったコントは、オーラスの『田口の恩返し』。一人暮らしの男の家に、何の前触れもなく美女(菜々緒)がやってくる。実は彼女の正体は、男が数日前に財布を拾って交番に届けてあげた中年男・田口だった。田口は美女に変身し、男の元を訪れたのである……。有名な童話「鶴の恩返し」を人間に置き換えたコント。人間(中年男)が人間(美女)に化けるという設定がとても異常に感じられるが、それでは鶴が女に化けて恩返しにやってくるというオリジナルの展開はどうなるのだということになる。この隙を突いてくる感じがとてもいい。ただ、なにより私が気に入っているのは、オチの描写だ。あまり細かいことは書けないが、とても鮮やかだが不思議な後味も残るオチとなっている。是非、ご確認いただきたい。

これら本編に加えて、本作にはバカリズム自身による副音声コメンタリーも収録されている。基本的にはコントで共演した芸人・役者たちについての話を展開しているのだが、唯一の舞台コント『女子と女子』のコメンタリーに入ると、途端に空気が変わる。なんと、あのシニカルなイメージの強いバカリズムが、かなりマジメなトーンで『女子と女子』が生み出された経緯について細かく語り始めるのである。当時、「ENGEIグランドスラム」(2015年5月30日放送)でこのコントを披露し、「女子への恨みが滲み出ている」云々と言われたことが、よっぽど本人にとって心外だったのだろう。クリエイターとしてのプライドが剥き出しになった、とても珍しいワンシーンだった。

……ところで、『番組バカリズム4』はもうやらないのだろうか。今や脚本家としても多忙を極めるバカリズムには、もはやこういった番組を手掛ける余裕は無いのかもしれないが……忘れた頃に戻ってきてもらいたいものである。

■本編【59分】

「TAKE-2」「歌う人生劇場」「女子と女子」「烈火の如く」「考える歴史」「田口の恩返し」

■特典

バカリズムによる音声解説

「ENGEIグランドスラム」(2017年5月6日)

中川家「漫才:新幹線」

陣内智則「コント:カラオケ」

COWCOW「うたの鬼ぃさん」

かまいたち「コント:受験」

ペナルティ「コント:ヒゲグリア」

U字工事「漫才:田舎への移住」

ゆりやんレトリィバァ「落ち着いていきや~」

バイきんぐ「コント:オーダー」

キャイ~ン「コント:ものまね芸人 鈴木三郎」

ミキ「漫才(寝かせたカレー)」

パンクブーブー「漫才:お化け屋敷」

銀シャリ「漫才:ハンバーグカレーライス」

アキラ100%「コント:まるごし刑事」

NON STYLE「漫才:ヒーローに変身」

スピードワゴン「漫才:四季 折々の恋」

トレンディエンジェル「漫才(アメリカ・飛行機に乗る)」

博多華丸・大吉「漫才:ミステリーハンター

友近×ロバート秋山「コント:夫婦タクシー」

柳原可奈子「コント:自称毒舌サバサバ女」

和牛「漫才:彼女の手料理」

ナイツ「漫才(ピンク)」

アンジャッシュ「コント:チカン裁判」

吉本新喜劇ユニット「座禅」

月亭方正「落語:天国か地獄か」

ウーマンラッシュアワー「漫才:ファンクラブ」

東京03「コント:角田の紹介」

シソンヌ「コント:ボクシング」

しずる「コント:立てこもり」

ダイアン「漫才:ひとりカラオケ」

爆笑問題「漫才(北朝鮮のミサイル、意識高い系、坂口杏里)」

フジテレビが誇る演芸番組の第八弾。司会はナインティナイン松岡茉優。初登場は、アキラ100%(「R-1ぐらんぷり2017」王者)、かまいたち、しずる、ダイアン、月亭方正友近ロバート秋山、ペナルティ、U字工事ゆりやんレトリィバァ。落語家の出演は、第二回放送に登場した桂三度、第六回放送に登場した三遊亭圓楽に続く三人目となる。

純粋にネタが面白かったのはスピードワゴン。小沢の妄想世界に井戸田が入り込んでしまう展開は、表現の自由度が高い漫才ならではの手法といえるだろう。その時、井戸田のファンだという妄想世界の住人が、ちゃんとファンとして井戸田に接していたのが、なんとも可笑しかった。こういうディティールの細かいところ、好きだ。そこから、「好きになった女がたまたま女優だったーっ!」という叫び、そして「あまーい!」「ハンバーグ!」と何故か井戸田のこれまでの芸能活動が一気に集約されていく謎の大団円的展開に、ちょっとだけグッときてしまったり。妄想と現実が合致した、スピードワゴンにしか出来ない見事な漫才だった。

その他、印象に残っているのは、例の一件を完全に井上のイジりネタの一つとして昇華させていたNON STYLE、タクシーという閉鎖的な空間の中で夫婦という濃密な関係性から生まれる狂気を押し付けられるというヤバすぎるシチュエーションをキャラクター演技で笑いに変えていた友近×ロバート秋山。まだまだ鮮度の落ちていないニュースを臆することなくネタに取り込むというアグレッシブな姿勢がたまらなかったウーマンラッシュアワー、池田の最高な演技をまざまざと見せつけたしずるも良かった。

でも、一番記憶に残ったのは、月亭方正の高座。見た目も話の内容も完全にタレントの山崎邦正なのに、語り口が完全に落語家のそれだった。しかも、演じたネタが、あの世を舞台とした新作落語である。上方落語の、それも米朝門下という立場から、あの世を舞台に時事ネタが飛び交う落語を演じるという行為の重みは、落語ファンであれば誰でも理解できるところであろう。正直、オチはちょっとしっくりこなかったが、実になんとも凄かった。

ところで、エンドロール中に、西村瑞樹(バイきんぐ)が目の腫れについてスタッフから質問されているところが映し出されたのは、何か意図があってのことだったのだろうか。いや、別に、どうでもいいことなんだけど。