2016年11月24日に新宿バティオスで開催された映像収録スペシャルライブ(無料)の模様を収録。
「えー……宇宙大戦争がーっ、来ます……!」。2000年に公開され、日本中で話題騒然となった映画『バトル・ロワイヤル』において、ビートたけし演じる中学教師が3年B組の生徒たちに言い放つ「今日は皆さんに、殺し合いをしてもらいます」という台詞をフラッシュバックさせる、あまりにも衝撃的な一言である。だが、これは映画のワンシーンからの抜粋ではない。オフィス北野所属の漫才師・ランジャタイの漫才『宇宙大戦争』の冒頭で放たれる、ボケ・国崎和也(愛称:クニちゃん)の第一声である。そこに「もしも」や「仮に」、或いは「将来的に」などといった生半可なオブラートはない。とはいえ、冗談で言っているようでもない。
だからこそ、相方であるツッコミ・伊藤幸司は、クニちゃんの言葉に「なに、急に! 来るの!? 何処情報なの!?」とあまりにも真っ当な疑問を投げかける。するとクニちゃんは「アメリカのね、アメリカさまの情報がね……」としれっと答える。では、クニちゃんは如何にして、その情報を秘密裏に入手したのか。曰く、アメリカからの情報は、クニちゃんの頭に赤外線で直接的に送られてくるのだという。……誰がどう見ても完全にイカレている。だが、これ以降、この件に関して追及されることはない。この漫才において重要なのは、あくまでも「宇宙大戦争が来る!」という一大事に対して如何に対応するかという一点のみなのだ。
宇宙大戦争が起こるとUFOがたくさんやってくる。そのUFOを撃墜するのは誰なのか。そう、クニちゃんだ。クニちゃんは日本代表なのだ。各国それぞれに代表がいて、ブラジル代表はロードリーくんである。ロードリーくんは、ニワトリを引き延ばして棒状にした杖を駆使して、棒術でUFOに立ち向かう。クニちゃんも戦うぞ。UFOを掴んでは投げ、掴んでは投げ。その様子をカメラで撮影、アメリカにアピールだ。次々に破壊されるUFO。そのうちの一機がクニちゃんに語りかける。「クニちゃん……結婚しよう……」。あまりにもトリッキーなボケの乱打に、頭がどうかしそうになる。
私が初めてランジャタイの漫才を目にしたのは、「M-1グランプリ2016」準々決勝戦の配信動画だった。当時、彼らが披露したネタは、この『宇宙大戦争』を更に上回る展開を迎えている『カラオケ』。一緒にカラオケに行った友達にイカ墨をぶっかけて目をつぶしたり、イルカとデュエットを始めたり、クリオネに因縁をつけられたり……ストーリーが無いだけに、その世界はとことん無鉄砲に広がっている。
しかし、これほどにハチャメチャなランジャタイの漫才なのに、不思議と無理なく受け入れられる。あまりにも非論理的で破綻した内容なのに、強引に笑わせられてしまう。何故か。その理由は、恐らく独特のテンションを帯びたクニちゃんの語り口にある。私たちが生きている世界とは違う世界が見えているタイプの市井のクレイジーな方々を思わせるクニちゃんの喋りには、ランジャタイの漫才の中で繰り広げられているような出来事が本当に見えているのではないかと思わせられる、ある種の説得力が感じられるのだ。もし、現実に根差した漫才師が、ランジャタイの台本をそのまま再現したとしても、ここまで面白い漫才にはならないだろう。
また、クニちゃんの表現力の高さも無視できない。現実的には有り得ないキャラクターやシチュエーションを自らの肉体だけを駆使して見事に表現している。『宇宙大戦争』でUFOをお風呂につけるくだり、本当に浴槽が見えるんだよな……。加えて、相方の伊藤が、クニちゃんの喋りを強引に止めようとせず、絶妙な距離感を保ちながらツッコミを入れていることで、観客の視点をしっかりと代弁してくれている点も大きい。この絶妙なバランス感が、ランジャタイの漫才を成立させている。
そんなランジャタイの漫才が一時間に渡って披露されている本作は、何処を切り取ってもクレイジー極まりない。猫を飼いたいクニちゃんが夜中二時のシャッターが下りているペットショップの前で時を止めたり次元を切り開いたり『猫を飼いたい』、アルバイトの面接を受けに行くクニちゃんと一緒に謎の生命体「カツ丼くん」が付いてくる『バイトの面接』、子どもの頃から欽ちゃんのことが大好きなクニちゃんが伊藤と「仏が沼にハマッたよ」で仮装大賞に出場する『仮装大賞』など、まともな漫才が一つもない。とりわけ、イヌとキャッチャーとカラスと伊藤を引き連れたクニちゃんがトロールたちと戦いに行く『仲間が欲しい』は、「桃太郎」的な世界観を再構築したような設定から誰も想像できないであろう結末を迎える、とんでもないネタである。是非、観ていただきたい。
これら本編に加えて、特典映像として謎の落語家「馬車楽亭馬太郎」による謎の新作落語『パカラ』、この『パカラ』を坂巻裕哉(マッハスピード豪速球)に延々と聴かせ続ける『パカラ地獄』を収録している。言わずもがな、馬車楽亭馬太郎の正体はクニちゃんなのだが、漫才とは違って、完全に落語家の口調で『パカラ』を演じているから驚きだ。おかげで、これといった笑いどころもない30分の長編新作落語にも関わらず、妙に聴き入ってしまった。いや、とはいえ……『パカラ地獄』のような目には合いたくないが。視聴後、割と本気で「芸人って、大変なんだな……」と思ってしまった。
追記。私が初めてランジャタイの漫才を目にしたのは、どうやら『ぴんく-1ぐらんぷり』(2016年4月29日リリース)だったらしい。衝撃的な内容のDVDだったので、記憶が飛んでしまったのかもしれない。こちらのレビューも、いずれ……。
■本編【55分】
「宇宙大戦争」「猫を飼いたい」「カラオケ」「バイトの面接」「仲間が欲しい」「仮装大賞」「寿司子」「沼」「ザリちゃん」
■特典映像【52分】
「馬車楽亭馬太郎「パカラ」」「パカラ地獄」