白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「KAJALLA #1「大人たるもの」」(2017年3月15日)

2016年7月から9月にかけて、東京・大阪・横浜・豊橋の四か所で開催されたコントライブを収録。様々な方法でコント表現を模索してきた小林賢太郎による最新の不定形ユニット“KAJALLA”。その第一回公演の模様を収めた本作には、嘘偽りのない至極真っ当で誠実な「大人のコント」が演じられている。

あるモノを買うために並んでいた大人たちが、在庫の有無やバージョンの差異に踊らされるオープニングコント『ならんだ大人たち』、これまでに経験した不幸を埋め合わせる保険「バランス」を契約にやってきた男が、印象的な口癖の男たちからの接客を受ける『しあわせ保険バランス』、子どもたちに甘い飴を分け与える謎の男と甘いと思わせておいて奇妙な味の飴を配っている謎の男が公園で不明瞭な戦いを繰り広げる『味なやつら』、内向的な趣味の男たちが、社交的な友人を通じて苦手な女性と会話する機会を与えられそうになり困惑する『カドマツ君』など、どのネタもシンプルで分かりやすく、それでいて面倒臭さが滲み出ていて、清く正しく「大人のコント」として自立している。とりわけ、とある山小屋で起きた出来事を現在の視点と過去の視点を同時進行に展開するコント『山小屋における同ポジ多重コント』は、過去と現在の人々が入り乱れた小林賢太郎の演出力を堪能できる傑作だ(タイトルも説明もややこしいが、コントそのものは一目瞭然なのでご安心頂きたい)。

ただ、小林賢太郎のコント作家としての表現力が最も反映されていたのは、『頭蓋骨』を皮切りに繰り広げられるシチュエーションコントの数々だろう。「医者と患者」というコントとしては非常にオーソドックスなシチュエーションで統一された一連のネタ群は、その多くが、ちょっとした会話や動作で大きな笑いが生まれていくストロングスタイルになっていて、地味ながらも腹持ちが良い。インパクトよりも質で勝負しているあたり、これもまた「大人のコント」である。特に笑ったのは、安井順平竹井亮介の間に小林賢太郎が割って入る……これはタイトルがネタバレになってしまうところもあるので、どのコントのことを書いているのかは伏せておこう。そのバカバカしさ、下らなさは実際に鑑賞して楽しんでもらいたい。……この直後があのコントというのが、また……揺り戻しが強い……。

ところで、先程からやたらに取り上げている「大人のコント」というワードだが、そもそも「大人のコント」とは何なのか。正直なところ、書いている本人もよく分かっていない。ニュアンスで使っている。もっと掘り下げてしまうと、「大人」とはなんなのか。どういう状態の人間を「大人」と呼べるのか。正しく言語化できる人はいるのか。大きければいいのか。大きい人は大人なのか。では小さい人は大人じゃないのか。そもそも何の大きさの話をしているのか。……考え始めればキリがない。ただ、オープニングコント『ならんだ大人たち』の中で、在庫やバージョン違いに踊らされた小林が店員に訊ねた「あのー、普通のってないんですか? もう、こっから先、十年は変わりませんっていう定番」という台詞が、この勝手に生み出された問題の答えのような気がしないでもない。

「大人のコント」、それは思うに……。

■本編【128分】

「ならんだ大人たち」「しあわせ保険バランス」「味なやつら」「頭蓋骨」「オカルト先生」「もんしん」「BSドラマみたいな男たち」「野生のヤブ医者」「カドマツ君」「山小屋における同ポジ多重コント」「第二成人式」

「笑×演」(2017年3月30日)

芸人がネタを書き役者が演じるバラエティ特番第二弾。

ネタを提供したのは、岩井勇気(ハライチ)、森田哲矢さらば青春の光)、塙宣之(ナイツ)、ニッチェの四組。ネタを演じたのは、迫田孝也池田鉄洋前川泰之木村了不破万作・渡辺哲、西尾まり松井玲奈の八名。二人の役者がユニットを結成し、コンビとしてネタを披露していた。MCは山崎弘也アンタッチャブル)とバカリズム。ちなみに、第一弾は今年の1月5日に放送、石田明NON STYLE)、小峠英二(バイきんぐ)、富澤たけしサンドウィッチマン)、ライスがネタを提供していたらしい。

何年も会っていない友人のタナベに森の中に呼び出された男(池田)が、劇団四季を思わせる全身タイツの猫男(迫田)と遭遇、近況と願望を奇妙なメロディの曲に載せて聞かされる。法則性を認識させてから少しずつ崩していくスタイルは、まさにハライチの漫才そのもの。ただ、もしも迫田が演じている猫男を岩井が演じてみせたとしても、ここまで一定のリズムを保つことは出来なかっただろうし、なにより岩井が猫男に扮しているという背景が主張し過ぎて、ネタの本来の面白さは伝わらないだろう。「当人には出来ないタイプのネタを役者に演じてもらう」という、企画の魅力をきちんと反映したタイプのネタだった。

カフェで原稿を書いている小説家のヒガシノショウゴ(前川)の隣の席にやってきた彼のファンだという男(木村)が、さっき買ったばかりだというヒガシノの小説を速読で次々に読破していく。さらば青春の光の持ちネタ『速読』を思わせる設定だが、内容がまったく違っていたので驚いた。さらばの『速読』は、友人から本当に速読できるのかどうかを疑われている男が、官能小説を速読させられるという下ネタ寄りのコントだった。だが、ここで演じられているコントでは、自身が書き上げてきた小説を速読であっさりと読まれてしまう小説家の複雑な心境が笑いに昇華されている。使っている道具は同じなのに、ここまでまったく違った味わいのコントを完成させてしまう森田の技術力の高さに感心した。

ベテラン役者の二人によるしゃべくり漫才。二人の経歴を取り入れた内容になっていて、如何にもテレビの企画のためにこしらえた漫才という印象を受けた。しかし、それ以上に気になったのは、二人のリズム感の悪さ。いつまで経ってもしっくりこない。ただ、これは二人の演技に問題があるというよりも、むしろ、ナイツの情報をギチギチに詰め込んだ漫才が、如何に彼らの技術でもって成立しているかという証明であるように思う。もしも、他の漫才師が、例えば間をじっくりと使うようなタイプの漫才師がネタを書いていたとすれば、もうちょっとなんとかなっていたかもしれない。こういったズレもまた、企画の魅力である。

遠足が楽しみ過ぎて、三日前から眠れない娘(西尾)に戸惑いを隠せない母親(松井)のコント。事前のVTRで、江上が「マンパワーでなぎ倒していくタイプのコントしか書かない」と語っていたので、どのようなネタが作られたのだろうかと期待していたら、想像していたよりもずっとニッチェのコントだったのでビックリした。西尾が演じる娘も、松井が演じる母親も、キャラクターや言葉遣い、台詞のイントネーションから舞台上での動き方に至るまで、完全にニッチェのコントそのものだ。もはやトレースと言っても過言ではない。それは逆にいえば、ニッチェの個性的なビジュアルが無くても、彼女たちのコントは成立するということになる。それはそれで興味深い事実だ。ニッチェのコントの肝は、むしろ強烈な演技にあるのかもしれない。

番組内では観客投票を実施、ハライチ岩井×迫田孝也池田鉄洋のユニット「鹿児島学園」が優勝した。……どうでもいいけど、【優勝 鹿児島学園】というテロップの甲子園っぽさが、ちょっと面白かった。

なお、「笑×演」は四月からレギュラー放送を開始するらしい。見るかどうかは知らん。

「じわじわチャップリン チャンピオン大会後半戦」(2017年3月25日)

  • イヌコネクション【33】

「自動車学校」。路上教習の時間に遅れてきた生乾木が、教官に謝罪の言葉をかけることなく、ヘラヘラとした態度を取り続ける。感情の起伏が激しい“生乾木”というキョーレツなキャラクターに「平然と嘘をつくが、すぐに嘘であることをバラす」というトリッキーな性格を宿らせることで、絶妙なバランスのキャラクターに昇華させているコント。途中まではかなり面白かったのだが、車に乗り込んだあたりで、なんだか浮ついた空気に。これは憶測に過ぎないが、恐らくこの時、生乾木を演じている杉浦がネタを飛ばしている。だからこそ、戸川のあの強烈な一撃に、あのようなリアルな反応を示したのだろう。それはそれとして、ヤバいキャラクターが自動車教習を受けている姿を見ると、どうもキングオブコメディのことを思い出して仕方がない。よもや意識していたのだろうか。

  • マツモトクラブ【19】

「笑顔」。ラジオの生放送を終えたパーソナリティを出待ちしていたリスナーが、彼のことを許可も得ずにカメラで撮影し始める。設定そのものは面白い。「「チャーハン」と口にするたびに、カメラのシャッターが押される」というナンセンスなボケと、その行動が意味するものの説得力。自撮りの際には「オムライス」と言いながらシャッターを押すくだりもバカバカしくてとても面白かった。ただ、後半の人情ドラマのような展開と、それを裏切る哀愁漂うオチは、彼のコントにしてはあまりにもセオリー通りで、明らかな失速を見せていた。本来、このような安直な手段を取らずに、ちゃんとしたオチを用意できるタイプの芸人という認識だったのだが……実に残念。

  • プラス・マイナス44

「新しいゲーム」。提示されたお題から想定されるイメージを即座に返し合うオリジナルゲーム「イメージでパンパンゲーム」で遊ぶ。理不尽な暴力で始まるという衝撃的なツカミに始まり、兼光のモノマネ芸を挟み込みつつ、オリジナルゲームの枠内でフザケていくスタイルの漫才。『M-1グランプリ2016』の予選で観たネタなので、彼らの自信作なのかもしれないが、やはりリズムを崩していくスタイルがどうも合わない。また、オリジナルゲームそのものに関しても、そこまで興味を引かれない。もとい、むしろ単なる連想ゲームとしてやってくれた方が、もうちょっとネタに入り込めるような気がする。……と、色々と気になるところはあるが、終盤のさかなクンのくだりで笑ってしまった。兼光の演技をしっかりと確認する岩橋の後ろ姿の面白さたるや。

  • ハライチ

「奥さんの料理」。最終回ということで特別に。お馴染みのノリボケ漫才である。奥さんに出されたら困る料理の話をしていた筈が、だんだんと関係無くなっていく。過去に観たことのあるネタだったが、やはり別格に笑えた。「踏みつけた料理」「よく見たらジャージ」「アメリカはキューバ」「俺だけのキューリ」など、想像力をそそられるワードを上手く体現する澤部の表現力をご堪能。それはそれとして、「ここでハライチが漫才をやってもいいのなら、ピースも出るべきだ!」と思うのは私だけだろうか。忙しいから出られないというのは分かるのだが。

 

【今週のふきだまり芸人】

平野ノラ「バブリーな女の決断」

 

次回からは「にちようチャップリン」として日曜午後10時より放送を開始予定。感想を書くかどうかは知らん。

「じわじわチャップリン 2週ぶち抜きチャンピオン大会」(2017年3月18日)

「次回予告」。田島扮する野沢雅子が、『ドラゴンボールZ』の次回予告風に様々な番組の次回予告を読み上げていく。テレビアニメの次回予告フォーマットにまったく別ジャンルの作品・番組を当てはめる可笑しみと、その中で更にボケを重ねていく構成で笑わせるスタイルの漫才。漫才ならではの掛け合いは楽しみにくいが、とても手堅い作りではある。『ミュージックステーション』『はじめてのおつかい』のくだりで、やや浅めではあるがブラックなボケを放り込んできたところに、漫才師としてのプライドが感じられた。ただ、『ミュージックステーション』のオチ部分で、ちょっと詰まってしまったのがあまりにも勿体無かった。あそこはしれっと言い放つからこそ笑える……などということは、当人たちが一番分かっている。

「最後の試合」。高校始まって以来の問題児と言われていたサッカー部の三年生にとって最後の試合が終わり、顧問の教師が生徒たちにねぎらいの言葉をかける……のかと思いきや……。ドラマにありがちなシチュエーションを徹底的に裏切るという不条理なギャグに見せかけて、その根拠が最後に語られるという構成で落とすコント。ギャグを単なるギャグとして終わらせずに、きちんとケツを拭こうとする姿勢は悪くない。ただ、肝心のオチが、どうも弱い。このオチを採用するのであれば、もっと不条理なギャグが盛り込まれていないと、メリハリに欠けるように思う。或いは、顧問の態度の根拠が明らかになった上で、更に展開した方が良かったのかもしれない。時間の都合もあったのだろうが、設定が良いだけに勿体無い。ただ、電話越しの十回ゲームは笑った。

「護身術」。突発的な事件に巻き込まれたときにちゃんと対応できるのかが不安だという高松に、篠宮が独自の護身術を伝授する。篠宮が教える護身術が、四コマ漫画を思わせるリズミカルな構成でバカバカしいオチを迎える様を描いた漫才。これだけバカバカしいのに、通常回で披露していた漫才よりはちゃんとネタとして成立している。どういうことだ、まったく。構成もしっかりと段階を踏んでおり、漫才師としての了見が正しく表れている。動き重視で正統派のしゃべくり漫才には勝てないだろうが、こういうネタをライブで見ると楽しいだろう。……ところで、高松の頭髪がいよいよ危ういことになっているような気がするのだが、大丈夫なのだろうか。

  • しゃもじ【22】

「ファンの女」。二代目王者。売れない芸人のしゅうごパークの自宅にヤバいファンの女が押し掛けてくる。たーにー演じる奇抜なキャラクターを全面に押し出したコント。何故か片乳だけが異常に大きいというビジュアル、ブサイクに映るのをスマホのせいだと決めつけた上でスマホを叩きながら「これ野球部がグローブのせいにするヤツみたいですわ」と発言させる絶妙な視点のズラし、ビニール袋を使ったしょーもないギャグなど、キャラクターを軸に多種多様のボケを盛り込んでいる。やりたい放題だ。最後のくだりが無ければ、もっと高得点を狙えたのかもしれないが、あれはきっとわざとだろう。器用に笑いを取ることの出来る芸人としてのクリエイターとしての矜持を見た。……大袈裟。

「思春期」。初代王者。思春期真っ只中の高校生な筈の息子があまりにも素直過ぎて、母親が逆に不安を覚え始める。従来、起きるべき状態とは逆の展開を迎えていることが笑いに昇華されているという意味では、先のうしろシティのコントに似ているといえるのかもしれない。ただ、こちらはより個人の感覚的なところに焦点を当てているため、根拠そのものが存在しない(存在するのかもしれないが観客は気にならない)ので、その不条理な状況の面白さだけを純粋に楽しめるように出来ている。ハートフルなオチも上手い。売れる要素しかないので、頑張って売れてほしい。これで売れなかったら悲惨だ。

 

【今週のふきだまり芸人】

平野ノラ「バブリーな女の決断」

 

次回は後半戦。イヌコネクション、プラス・マイナス、マツモトクラブがネタを披露する。

2017年4月の入荷予定

05「シソンヌライブ [cinq]

19「ランジャタイのキャハハのハ!

19「マッハスピード豪速球

お馴染み、始まりの季節がどーたらこーたらという前文で始めざるを得ないことで知られる四月が今年もやってきたわけだが、今回は新入生や新社会人にオススメ出来るようなラインナップではないので、この言い回しをバカみたいに使い回すのも考えモノだなと思っている。まあ、それでも来年も、きっと同じような言い回しを使い回すのだろうが。今月は「キングオブコント2014」王者・シソンヌの単独公演と、「M-1グランプリ2016」準々決勝戦敗退者である二組の漫才による作品リリースである。ランジャタイの漫才は予選の動画を鑑賞したのだが、とことんブッ飛んだ発想から繰り出される奇妙奇天烈な世界観がたまらなかったので、それなりに楽しみ。特典映像がなんだか不穏だけれど。

「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2016」

どうも、菅家です。久しぶりのアレです。

久しぶりのアレなので、宣言もいつものアレをナニしたやつです。

一、このランキングは2016年にリリースされた全ての作品を対象としているわけではない。
一、このランキングは筆者が一方的に決め付けたランキングでしかない。
一、このランキングは雰囲気で決めているので、後で意見が変わる可能性も否めない。

こんな感じで今回もやらせていただいております。

あ、そういえば、本来ならば一月中に開催するつもりだったものが遅れてしまって、申し訳ありません。ついつい仕事にうつつを抜かしてしまいまして、ブログの更新をすっかりおざなりにしてしまいました。でも、まあ、年末にやるべきところを年始にやるよりも、いっそ年度末にやってしまった方が、逆にしっくりくるような気がしないでもないです。うん。

それでは、いつものアレです。どーぞ。

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旧作プレイバック(三本セット)

最近、未知なるDVDを鑑賞することに疲労感を覚え始めてきたので、このままではいけないと思い、かつての情熱を取り戻すべく、まだまだ心に熱を帯びていた時代に触れていた昔の作品を戸棚の奥から引っ張り出してみた。その感想を以下に書き留める。

 

3月9日視聴。当時のレビューはこちら。前回の公演『シティボーイズミックス PRESENTS 『西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を』』が鋭い風刺と機知に富んだ表現に満ち溢れた大変に素晴らしい出来だったため、本作の緩やかな空気感に当時の私は強い違和感を覚えたものだが、幾年月が経過して、先の公演からの流れが気にならなくなった状態で観賞してみると、これはこれで良いのだと素直に感じられるようになった。ただ、本作を受け入れられるようになった理由は、それだけではない。本作の作・演出の担当している前田司郎が手掛けたネプチューン主演のテレビドラマ『空想大河ドラマ 小田信夫』(2017年2月放送・全四回)を視聴して、氏が「ダメな人たちによる仲睦まじいやりとり」を表現することに長けていると理解できたことが非常に大きい。提示された作品に対し、どのようなスタンスで向き合えば心から楽しめるのか、視聴者としての在り方について改めて考えさせられた。

 

3月15日視聴。当時のレビューはこちら。とんでもない発想に満ち溢れた作品で、当時の私も009年の年間ベストに選んでいるのだが、その内容をあんまり覚えていなかったため、それなりに新鮮に本作を楽しんでしまった。ダメだよなあ。それにしても面白い。何もないのに有るかのように演技してみせる“無対象演技”であらゆる状況を表現する家族を描いた『無対象家族』だの、あらゆる仕草をより強調させるための道具を取りそろえた『仕草の装飾品店』だの、芸人ではなく役者として活動してきた吹越氏ならではの視点が無ければ生み出されないであろうパフォーマンスの数々は、芸人のそれに慣れた目にはとても新鮮に映る。とりわけ、当時も衝撃を受けた『命を賭けてみる。その、一』には、今回も当時と変わらずに笑わせられた。命を賭ける……とまでは言わないにしても、下手すれば大怪我しかねないような状況下で、どうしてあんなバカなことが出来るのか! およそ八年ぶりの視聴だったが、やはり最高の作品である。

 

千原兄弟コントライブ「ラブ 」[DVD]

千原兄弟コントライブ「ラブ 」[DVD]

 

3月20日視聴。当時のレビューはこちら。ブラックな趣きの強いコントを得意としている千原兄弟が、ポップな笑いを目指している作品である。事実、本編で演じられているコントには、シンプルで分かりやすいネタが多い。子どもたちの父親が思い思いのカッコイイ恰好をして父兄参観にやってくるオープニングコント『父兄参観』を皮切りに、ケータイの予測変換が彼女の正体を明かしてしまう『ボクカノ』、捜査一課の面々が立てこもり犯の前で延々と小学生のようなノリを繰り広げる『けいしちょうそうさいっか』など、誰が見ても内容を理解できるし、誰が見ても笑うことが出来るだろう。ただ、当時もきちんと理解できなかった『ザ・ドキュメント』の意図は、今回も掴むことは出来なかった。ジュニアは教師のインタビューと実際の授業風景を描いた理由はなんなのか。いずれ分かる日が来るのか、それとも、分からないままなのか。もとい、分かろうとすること自体が、ナンセンスなのかもしれない。

「日本エレキテル連合単独公演「電氣ノ社~掛けまくも畏き電荷の大前~」」(2016年12月21日)

2016年7月14日から17日にかけてシアターサンモール(東京)、同年9月1日から4日にかけてABCホール(大阪)で開催された単独公演を収録。日本エレキテル連合の単独公演がソフト化されるのは、2015年12月にリリースされた『日本エレキテル連合単独公演「死電区間」』以来、およそ一年ぶり。今回、彼女たちは“日本の神様”というテーマの元に、「イザナキとイザナミの国産み」「天岩戸伝説」「因幡の白兎」などの神話をモチーフとしたコントを披露している。コンテンツリーグのサイトに掲載されているインタビューによると、「中野:私たちがいろいろなキャラクターを生み出すこともするし、キャラクターをネタの中で殺しちゃったりもするので、たくさんのファンの方から「神様とやってることが一緒だ」と言っていただいて。それなら神様をテーマにしてみよう」という経緯によるものらしい。どんなファンだ。

本編で演じられているコントは、基本的にシンプルな作りとなっている。海に向かって矛をかき回しているイザナキとイザナミのやりとりが男女のマンネリ化した性行為を思わせる『国産み』、愛する男に様々な方法で殺されようとしている女がそれでも何度も蘇生して立ち上がる『ハチマタノオンナ』、大衆の面前になかなか姿を見せようとしない卑弥呼さまに起きた事件とは『真島吉三』……いずれのコントも、序盤に表明された設定が、これといった捻りを加えられることなく最後まで演じられている。それなのに、それらのコントがきちんと魅力的に感じられるのは、彼女たちの表現力によるところが大きい。コント的にデフォルメされたメイクを施した中野聡子橋本小雪の二人が、激情の演技によって演じることで、そのあまりにもシンプル過ぎるコントは、きちんとした“日本エレキテル連合のコント”に仕上げられる。おそらく、これらのコントの台本だけを読んでみたとしても、ここまで面白くはならないだろう。ただ、個人的に一番好きなネタは、部屋にひきこもっている息子の部屋に乗り込んできた母親が、暴言を撒き散らすだけ撒き散らして去っていく『ひきこもり』。二人のひきこもり経験が反映されているのか、ネタに漂う絶妙なリアリティがたまらなかった。

これらのコントが演じられている舞台を彩るセットも、とても魅力的だ。背景は真っ白な壁面になっており、その真ん中には巨大な円が描かれている。恐らくは日の丸をイメージしているのだろう。このシンプルで美しいセットに、コントが進行していくにつれて、少しずつアイテムが加えられていく。例えば、『ひきこもり』のコントから、二羽のにわとりのオブジェが円を囲むように天井から吊るされる。これは、コントのモチーフとなっている「天岩戸伝説」における、天岩戸に引きこもった天照大神を外へ出すために鶏を集めたことを受けてのものだろう。これ以降も、雲、月、稲穂などのアイテムが加えられ、舞台を華やかに飾っていく。コントを演じている二人が、それぞれピンク色(中野)と水色(橋本)に髪を染めていることも、全体の空間作りにおいて、大きな役割を果たしている。非日常的で、まるでこの世のものとは思えない、奇妙で不可思議なステージ……この画の説得力が、日本エレキテル連合のコントをよりいっそう怪しく輝かせているのだ。

その上で、コントそのものの自由度が高まっている点も、なかなかに興味深い。しれっとコントの中で物販の宣伝をしたり、日本エレキテル連合のバラエティ耐性の無さを自虐的に笑ったり、二人の間で起こった大事件におけるお互いの言い分をぶつけ合ったり……キャラクターを身にまとった状態を維持しているとはいえ、かなり奔放な印象を受ける。それでも、確かな画の説得力によって築き上げられた、日本エレキテル連合の世界観は崩れない。実に素晴らしい。

……と、長々と曖昧な解説を書き並べてみたが、どうも言葉では彼女たちの本質的な魅力を説明しきれないような気がしてならない。なので、ここはもう、本編の幕間映像でもあるこちらのプロモーションビデオを貼ってしまおう。

これに興味を持てたなら、日エ連の世界観との相性は悪くないのかもしれない。……それにしても、完成度が高い。楽曲そのものも非常に魅力的だが、衣装、キャラクター造形、声の凄味(特に中野の声はどうやって出しているのか?)に至るまで、その表現力の高さに驚かされる。

なお、日本エレキテル連合は今年も単独公演を開催する予定である。ライブタイトルは「日本エレキテル連合単独公演『地獄コンデンサ』岩下の新生姜と共に」。2017年9月8日から10日にかけて新宿シアターモリエール(東京)、15日・16日にABCホール(大阪)、17日に東広島芸術文化ホール くらら(広島)、18日に高松festhalle(香川)、22日に日立システムズホール仙台シアターホール(宮城)、23日にいわきアリオス小劇場を回る全国ツアーを敢行することになっている。

その表現力に満ちたステージは、きっと生の舞台でこそ真髄を堪能できるものだろう。私も一度行ってみようか……。

■本編【105分】

「イザナキとイザナミの国産み」「一、国産み」「OP」「二、宮司と巫女」「J-GODS「HARAITAMAE KIYOMETAMAE」ミュージックビデオ」「天岩戸伝説」「三、ひきこもり」「因幡の白兎」「四、神と兎」「ドキュメンタリー「キトウレイコという女」」「五、ハチマタノオンナ」「ヤマタノオロチ」「六、真島吉三」「触らぬ神に祟りなし」「七、都美子と比呂美~社編~」「月読命」「どぶぬめり」「CM」「J-GODS「HARAITAMAE KIYOMETAMAE」~社編~」