白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

アーティストとSNSの乖離とかなんとか。

SNSでネガティブなことを発信したアーティストに対して、ファンでもなんでもない人たちが肯定したり否定したりする現象をたびたび目にする。時には、そのアーティストのことを、ネガティブな発信に関連するシチュエーションにおける定番のネットミームとして、無責任に消費するような事態に発展することも起きている。その様子を見ていると、なんだかんだ大衆がSNSでの彼らに求めているのは「私たちが理想とする“アーティスト”としての振る舞い」なのだと痛感させられる。かつては、芸能人がテレビでは言えないような私的な考えを発信する場として、SNSは重宝されるだろうと思われていたように記憶しているのだが、結局のところ、大衆はアーティストの滅多に聞けない素の言葉よりも表に立つ人間の本音に虚飾をまぶしたような言葉を有り難がるのである。……だとすれば、それはテレビやラジオのような既存メディアがアーティストに求めていることと同等である、ともいえる。ただただアーティストが近くにいる握手会のような感覚で、SNSというものを捉えているのかもしれない。実際問題、騒ぎ立てている人の多くは、ファンでもなんでもない無自覚な評論家気質の門外漢のように見受けられるので(ファンやアンチはそれなりにアーティストの解像度が高いので、その言動の理由について考える余地もあるのだろう)、無料化した高速道路のように有象無象が寄ってたかって縦横無尽に走り回るような状況になってしまうのも致し方のないことなのだろう。というわけで、アーティストの本当の気持ちを発信できる場は、最終的にはファンクラブ通信みたいなところに戻っていくのかもしれない。それがいいことなのかどうかは知らん。