いつもお世話になっております。菅家です。
ここ最近、ずっと「賞レースの感想を書くよ!」と言っておきながら、まったく書いていない状況が続いていることについて、改めてお詫び申し上げます。原因は私のやる気の無さにあるので、何の言い訳もしようがありません。ということで、これからしばらく、賞レースをリアルタイムで視聴して、放送直後に感じたことをひたすらに書いていくという方法を取ることにしました。少し時間をおいて、熱気が落ち着いた頃合いを見て、改めてネタを確認して、きちんとした感想を書こうとするから、面倒臭くなってしまうのです。とにかく書かないことにはどうにもならんのです。というわけで、とっとと始めていきましょう。ブロックごとの感想です。
・Aブロック
やました「コント:記念日」
ぼる塾「コント:食堂」
にぼしいわし「漫才:シャネル」
もじゃ「コント:回収車」
トップバッターはピン芸人のやました。「新人お笑い大賞」で見たネタと同じ内容だったような気がするけれど、あまり記憶にない。なにせ台詞の量がバカみたいに多いので、どういうネタだったか全体像を記憶する余地が足りない。じゃあ、そのセリフがベラボーに面白かったかというと、そうでもない。ひとつひとつのパンチ力は強いのに、その圧倒的な台詞を詰め込むために、咀嚼する間もなく次の台詞へと入ってしまうので、面白さを楽しみきれない。「新人お笑い大賞」で見たときには、確かR-1での田津原理音を思い出したと書いた記憶があるけれど、田津原は全体をしっかりパッケージ化しているからネタとして成立しているのだろう。もっともネタの質と量のバランスはそのうち保たれていくようになるとは思うけれど。続くぼる塾は四人の個性をふんだんに取り入れたコント。食堂という設定もあって、吉本新喜劇的な空気感に包まれていた。面白くなかったわけではないのだが、賞レースのネタとしてはやや展開が冗長。改めて、ぼる塾のカルテット漫才の無駄の無さに気付かされた。三番手はにぼしいわし。「シャネルのおばんざい」が存在するというにぼしの思い込みが妄想的に膨らんでいく漫才で、とにかく面白かった。とにかく面白かったことしか覚えていない。四番手のもじゃは不可思議な世界観の一人コント。吉田戦車の漫画を彷彿とさせる不条理な空気に包まれており、短い時間ですっかり魅了されてしまった。どことなく『世にも奇妙な物語』のようでもあった。シフトレバーを引く感じが好き。
・Bブロック
レモンコマドリ「漫才:ペット」
おかずクラブ「コント:姉妹」
紺野ぶるま「コント:会社の受付嬢」
キンタロー。「コント:婚活アドバイザー」
先に書いてしまうが、Bブロックはやや低調だった。奇妙なことを言い続ける梶原に丁寧口調の小野寺が振り回されるスタイルの漫才を披露したレモンコマドリは、なかなか悪くなかったのだが、にぼしいわしともじゃの後だったこともあり、ネタの密度が不足していることが浮き彫りになってしまっていたように思えた。とはいえ、二人のキャラクターは立っているし(梶原は女性人気を集めそうだ)、ネタの方向性も定まっているようなので、更に面白くなっていくコンビではあるだろう。続くおかずクラブは、叶姉妹をモチーフとしたキャラクターがインタビューを受けるコント。決してつまらなかったわけではないのだが、ネタの仕掛けがやや安直で、賞レースの決勝で披露されるネタにしては新鮮味に欠ける。この精度のネタならば、むしろモノマネ番組の特番の方が適しているように思う。その意味ではテレビ向けといえるのかもしれない。三番手の紺野ぶるまは同僚の男性社員にアラフォーの受付嬢がモーションをかける一人コント。紺野ぶるまのコントは一言ネタのように羅列になってしまっていることが多く、退屈に感じられてしまうことも少なくなかったのだが、今回のネタはなかなか良かった。古典的な女性社員の振る舞いを適切に(ある意味では不適切に)演じながら、昭和平成ラインを彷彿とさせるワードを軸にした一言ネタを重ねることで、以前よりもネタに一体感が生まれていたように思う。M-1優勝時の錦鯉を彷彿とさせられた。四番手はキンタロー。今大会の台風の目となるのではないかと言われていた……が、これがまったくハマらず。自身の芸をベーシックなモノマネ芸のフォーマットに落とし込むスタイルのネタだったのだが、従来のバラエティ番組におけるツッコまれることを前提とした自由奔放な立ち振る舞いがネタにまったく反映されておらず、またひとつひとつのネタに明確なオチが設けられてもいなかったため、あまり良くない意味で混沌とした状態に陥っているように見受けられた。逆にいえば、もはや賞レースにあがってくる必要のない状態に仕上がっている、ともいえるのだが。
・Cブロック
忠犬立ハチ高「コント:答弁」
エルフ「コント:ハトの恩返し」
足腰げんき教室「漫才:王子系レンタル彼氏」
河邑ミク「コント:証言台」
ちょっと長くなってきたので、短くまとめていこう。忠犬立ハチ高は与党と野党の答弁を設定としたコント。こういう設定は今の時代だと(何故か)炎上する傾向にあるため、ちょっとハラハラしながら見守ってしまったが、まったくの杞憂だった。オーソドックスな笑いの手法で丁寧にそれぞれの役割を演じていて、地味ながらも満足度の高いコントに仕上がっていたように思う。トゲはないけど強度はある、なかなかスゴいネタだった。続くエルフは、飲みすぎて昨夜の記憶がないギャルの元に、命を助けてもらったというハトが恩返しにやってくる……というコント。これはエルフのネタ全般にいえることなのだが、彼女たちのネタは荒川の博愛主義的なギャルのキャラクターが前提となっているために、どうしても設定に幅を作りにくい傾向がある。今の時点ではそれが個性として昇華されているようだが、結果として、エルフのネタはハートフルなオチにならざるを得ないという制限が生まれてしまっているようにも見受けられる。その状態は、果たしてギャルの思想に適合しているといえるのだろうか。足腰げんき教室は次から次へと強引に設定が展開していくハイテンション系センス漫才。ネタの良し悪し以前に、二人のビジュアルやテンションがボキャブラ天国時代に見ていた若手芸人のそれを彷彿とさせ、なんだかとっても懐かしい気持ちになってしまった。番組内ではイジられ役に回されていたけれど、このタイプは後から爆発する可能性を秘めているから油断できない。河邑ミクは裁判所の証言台を舞台としたコント。緊張感溢れる設定を取り扱っているという意味では、同じブロックの忠犬立ハチ高と似ているといえるのかもしれない。ただ、確かなツカミ、確かなシフトチェンジで、しっかりとコントを加速させていた忠犬立ハチ高に対して、河邑のコントはシフトチェンジがシフトチェンジになっていない(設定の延長線上としてド真ん中の方向へと突き進んでいるため、展開としての意味をなしていない)ため、尻すぼみに終わっていったように見えた。例えば、宮本亜門以外の演出家が傍聴席がいることに気付いて、そういう演技に切り替えるとか、そういう根本的からの変化が欲しかった……かもしれない(無責任)。
・最終決戦
にぼしいわし「漫才:アイドル」
紺野ぶるま「コント:総務部」
忠犬立ハチ高「漫才:官能小説」
一本目のフォーマットに「アイドルはうんこしない」という幻想を取り入れることでアホさを倍増させたにぼしいわし、一本目のフォーマットをそのままにワードの深みを増すことで明らかな差別化を図った紺野ぶるま、一本目のコントとはまったく違った切り口の完パケされた漫才で芸の幅をアピールした忠犬立ハチ高、いずれも非常に面白かった。ただ、にぼしいわしが、あまりにも素晴らしすぎた。素晴らしいほどにアホだった。もし、これで優勝を逃したとしても、笑い飯の『チンポジ』と同じくらいに崇高なパフォーマンスを見せつけたと誇ってもらいたいくらいに、アホに振り切ったネタだった。アイドルが引退する真の理由を推察するくだりとか……たまらなかった。
というわけで、優勝はにぼしいわし!おめでとう!
追記。「忠犬立ハチ高」を「忠犬立ハチ公」と書き間違えていたので訂正しました。皆さんもこれを機会にしっかりと頭に叩き込みましょう(読者を巻き込むな)。