白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー「mr.モーション・ピクチャー」」(2006年11月22日)

2005年8月10日に青山スパイラルホールで開催された公演の映像に、吹越自身が総合演出した新撮映像を加えた作品。かつて日本コロムビアからリリースされた三作品「フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー 「mr.モーション・ピクチャー」」「フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー『XVIII』バシュ!シュバ!・バシュチャッ!・スタ・スタ・スタ…COMEDY」「フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー シモキタ・コメディ・ナイト・クラブ 今夜の出演:吹越満」が今年八月に再発売されると聞いたので、その第一弾作品である本作を久しぶりに鑑賞した。もっとも、吹越のパフォーマンス作品としては、第四弾である「フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー吹越満【タイトル未定】~このライブのタイトルはタイトル未定です~」こそが傑作なのだが、こちらはどうやら発売元が違うために再発売されないらしい。改めて購入するつもりはないのだが、なにやら残念である。

本作がリリースされたのは今から十一年前になるというから、私が初めて本作を鑑賞したのも同時期だろう。当時の私は本作のことを退屈に感じていた。気持ちは分からなくもない。笑いにのみ執着した視点で吹越満のパフォーマンスを切り取ろうとしても、その面白さを正しく理解することは出来ないだろう。ただ、それが単なる笑いを目的としたパフォーマンスではなく、一つの演技表現として繰り広げられているものとして捉えた場合、吹越のステージはとても愉快で芳醇に感じられる。例えば、各登場人物が発言するたびに、暗転と明転を駆使することで、吹越が複数の人物を自然に演じているように観客を錯覚させる『踊る会議』。笑いのロジックとして見ると単純だが、演技として見ると、各人物を揺るぎなく演じてみせる確かな技量が感じられる。そして、それだけの技量を駆使して、一人で複数の人物を演じてみせようというバカバカしさに笑ってしまう。

この他にも、有名映画のタイトルがそのまま演目のタイトルとなっているショートコント『TITLES』、吹越が舞台上で演じているある男の自室での行動における重要なシーンが舞台上のモニターにカット・インされる『カット・イン』、舞台上のモニターに表記された擬音が何を表している言葉なのかを吹越がシチュエーションを再現しつつ回答していく『擬音に関するいくつかの質問』など、各パフォーマンスで興味深い表現方法が披露されている。

とりわけ『カット・イン』は興味深かった。吹越が演じている舞台の上には最低限の小道具しか配置されていないため、それだけだと、室内がどういう状態なのかを観客は明確に想像することが出来ない。しかし、そこに具体的な部屋の映像がカット・インされることで、吹越が実際にどういう状況下にあるのかが遅れて明らかになる。この構成がたまらない。否、この構成自体は、一人コントの分野においてはさして珍しいものではない。ただ、吹越は映像を映画的なアングルによって切り取ることで、より視覚的な魅力に満ちた仕掛けを施している。全体に流れる絶妙な緊張感も含め、是非とも楽しんで頂きたい。

総合的に見て、なんだか非日常的でヘンテコな作品である。疲れたときに観るとよい。

■本編【約105分】

「オープニング」「メイン・タイトル」「会議は踊る」「バック・ステージ i」「黒から始まる作品」「バック・ステージ ii」「TITLES Ⅰ」「バック・ステージ iii」「カット・イン」「バック・ステージ iiii」「擬音に関するいくつかの質問」「黒から始まる作品2」「バック・ステージ iiiii」「ミツコシ フキル 初監督作品」「TITLES Ⅱ」「黒から始まる作品 3」「カーテン・コール」「バック・ステージ iiiiii」「エンディング」