白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「江戸むらさき 単独ライブ「20a」」(2016年11月4日)

江戸むらさき単独ライブ「20a」 [DVD]

江戸むらさき単独ライブ「20a」 [DVD]

 

2016年6月3日から5日にかけて、ウッディシアター中目黒で開催された単独ライブ(全四公演)を収録。

よもや江戸むらさきの新作を一年のうちに二作品も鑑賞できる時代が来るなんて、思ってもみなかった。再ブレイクしているわけでもなければ、賞レースで結果を残したわけでもないのに、どうしてこんなにも優遇されるようになったのか。二人がホリプロの弱みを握ったとしか思えない。……何はともあれ、他のホリプロコム所属芸人たちの作品も、この調子で続々とリリースされると嬉しい。

この年、結成二十周年という節目を迎えることとなった江戸むらさき。そのため、本作で披露されているコントは、いつも以上に気合が入ったものになっている……と思いきや、その内容は相変わらずのゆるゆるぶり。設定そのものは面白いのに、それらをまるで詰めようとしていない。だが、内容に重みを持たせない、徹底して身軽であり続けることこそが、かつて“ショートコントの王様”と呼ばれた彼らの本質といえるのかもしれない。その軽やかさが故か、本作には現代性を取り入れたコントが少なくない。例えば、引っ越しの挨拶にやってきた隣人がやたらとスマホで写真を撮影する人で……『隣人』、SNSを駆使して会社の後輩たちが付き合っているのかどうかを詮索する『伊藤ちゃんと木下』、居酒屋で待たせている友人からアプリで遊んだ自撮り写真が送られてくる『LINE』などは、現代的なアイテムを上手に駆使しているように見えた。……そういえば、やはりショートコントの名手として注目を集め始めたウッチャンナンチャンもまた、「コンビニ」「ファミレス」など当時の社会性を取り入れたネタで評価されたコンビだったと聞いたことがある。もしかしたら、ショートコント師は時代を先取りする才能に秀でているのだろうか?

ちなみに、個人的に好きだったのは『ランチ』。後継者不在のため、その日で店じまいすることが決まっていた洋食店の最後の客としてやってきた野村が、後を継がないかと延々聞かれ続けるコント。行き当たりばったり感漂う強引な設定の下らなさが、如何にも江戸むらさきらしくて面白かった。さまぁ~ずリスペクトなボケも最高。でも、一番笑ったのは、『プレゼン』のダンス。後輩社員が試しに作ってきたという自社製品のコマーシャルをチェックするコントなのだが、磯山の熱演ぶりがあまりにもヒドくて、大声をあげて笑ってしまった。

これらのコントとは別に、本作では少し面白い試みがなされている。通常、芸人の単独ライブでは、コントとコントの合間に幕間映像が用意されている。演者が衣装を着替えたり水分を補給したりする時間を確保するためだ。しかし、本作には、幕間映像と呼べるものが存在しない。コントが終わり、舞台が暗転すると、演者である江戸むらさきは次のコントの立ち位置に移動して、コントで使用していた小道具はスタッフによって片付けられる……そんな暗転中の裏方作業がそのまま撮影されている。正直、この試み自体は、そう珍しいものではない。イッセー尾形ラーメンズのように、舞台を中心に活動している芸人たちが当たり前のようにやっていることだ。でも、江戸むらさきは、そういう舞台志向の芸人ではない。先述したように、軽やかで楽しいショートコントを繰り広げるナイスガイである。だからこそ、このストイックな演出には驚いた。しかも、本作は野村演じるサラリーマンの一日を描くように進行しているので、野村はほぼ舞台に出ずっぱり。きっと、裏では並々ならぬ努力をしていたに違いない……全然そうは見えないけれど……。

特典映像はなし。但し、副音声として、江戸むらさきの二人によるコメンタリーが収録されている。コントが作られたときの裏話や、DVDに収録されなかった回での出来事、本編に収録されていないゲストたちの話などがじっくりと語られている。特に印象に残っているのは、ちょっと感動的な最後のコントを見た同期の島田秀平が、公演後に「泣いちゃったよ!」と声をかけてきたという話。当初、単なるリップサービスだろうと思っていた二人だったが、やがてコントの内容と島田の状況に共通点があることに気が付いて……。毎週欠かさず「爆笑オンエアバトル」を見ていた人間としては、ちょっと心がざわついてしまった。

なお、明記されていないが、ちゃんとショートコントも披露されているのでご心配なく。

■本編【79分】

「隣人」「ショウロンポウ」「伊藤ちゃんと木下」「プレゼン」「ランチ」「電車アナウンス」「未来から来た訪問者」「TV電話」「道案内」「運命の人」「出し物」「LINE」「タイムカプセル」

 

■音声特典

江戸むらさき本人によるコメンタリー