白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「bananaman live 腹黒の生意気」(2017年2月2日)

bananaman live 腹黒の生意気 [DVD]

bananaman live 腹黒の生意気 [DVD]

 

2016年8月12日から14日にかけて俳優座劇場で開催された単独ライブを収録。

もはやコント師としての全盛期を過ぎてしまった感はあるものの、その自然な会話から生み出されるバカバカしい笑いは流石の一言。英会話教室のコスプレパーティに誘われた日村が設楽にどんなコスプレをすればいいのかを社食で相談する『cucko costume party』は、そんなバナナマンの実力が存分に発揮されたコントだ。「ジェイソン」「スーパーマン」「ジェームス・ディーン」などといった設楽の提案を日村が次々にホームラン級の笑いへと昇華していく様は、まさしく圧巻である。

一方、お馴染みの『赤えんぴつ』では、いつものクレイジーなやりとりが繰り広げられている。設楽はいつもと同じようにヤバい発言を繰り返し、日村はいつもと同じように設楽を突き飛ばし、そして日村のタンクトップはいつもと同じようにビリビリに引き裂かれる。……こんなにもクレイジーな内容なのに、このやりとりがもはや様式美となっているところが、最もこのコントのどうかしている部分のような気がしないでもない。

この他のネタは、ちょっとこれまでのバナナマンではあんまり見たことがないタイプのコントが並んでいる印象を受けた。

例えば、カラオケで日村が設楽にある相談を持ち掛けようとすると、設楽が予約してあったWhiteberryの『夏祭り』が始まってしまう『karaoke』。バナナマンのコントで版権曲が使用されているというだけでもかなり珍しいのだが、コントの軸となっている部分があまりにもオーソドックスで、それ故に演者としてのバナナマンが不思議な浮き上がり方をしている。日村演じるファッションデザイナーと設楽演じる助手がファッションショーのモデルを選出する様子を描いたコント『panic Attack』も、バナナマンのコントにしてはロジックがシンプル過ぎて、逆に違和感を覚える。

だが、最も驚かされたのは、オープニングコントでありライブタイトルにもなっている『Haraguro no Namaiki』だ。生意気な後輩社員の設楽が腹黒な先輩社員の日村にちょっかいを出すという内容なのだが、日村の腹黒ぶりを説明する演出がちょっと変わっている。ここで説明してもいいのだが、そうするとコント自体の面白味が薄れてしまうので、これは実際に確認してもらいたい。とにかく、何か、変なのだ。

……もしかすると、バナナマンはまた新たなる進化を遂げようとしているのかもしれない。本作に広く漂う違和感は、その前兆なのかもしれない。まあ、単なる憶測にすぎないが、バナナマンはこれまでもそういう進化を見せてきたコンビなので、ちょっとだけ期待しておきたい。

最後の長尺コント『The pitiful two in the Philippines』は、フィリピン女性に振り回される二人の男の滑稽な姿を描いたもの。夏を上手く再現した舞台演出には目を見張ったが、肝心の内容はべたべたで面白味に欠ける。それでも会話自体に面白味があれば難なく楽しめるのであろうが、ストーリー展開を重視しているためか、あまり遊びどころが作られていないのも厳しい。今回もオークラ脚本なのだろうか。こういう小市民的な設定は、同じく彼が長尺コントの脚本を担当している東京03ならば、もうちょっと上手く笑いに昇華できるのかもしれないが(東京03は普段から小市民的な設定のコントを得意としているからだ)、今のバナナマンのベクトルには向いていないように思う。金と女とダメ男たちの友情……というテーマも食傷気味。バナナマンが経年変化を繰り返して現在の状態へと辿り着いたように、オークラもまた変わらなくてはならない時期が来ているのではないだろうか。……それとも、この変わらなさに、いつか愛おしさを覚える日が来るのだろうか。よく分からんな。

特典映像は幕間に使われた映像。オリジナルゲームに興じる二人の音声を収録した「ゲーム」、日村がテレビではあんまり出来ないような挑戦をする映像コーナー「クシャミでカップ焼きそばは眉間につくのか?」、日村が頻繁に着用しているパーカーのヒモが長すぎる問題を取り上げる「パーカー」……などの映像が収録されている。基本的には、過去の単独でも見たような企画のバージョン違いなのだが、ある映像だけはとあるコントと密接な関わりが……これ以上は書けないので、各自でご確認を。

■本編【115分】

「Haraguro no Namaiki」「オープニング」「cukoo costume party」「ゲーム」「karaoke」「クシャミでカップ焼きそばは眉間につくのか?」「panic Attack」「パーカー」「赤えんぴつ」「仮装体操」「The pitiful two in the Philippines」

「じわじわチャップリン」(2017年2月4日)

「結婚のあいさつ」。一週勝ち抜き。娘との結婚を許してもらいたいとやってきた青年の仕事がYouTuber。「娘との結婚の許しを得に来た若者が軽率」というありがちなシチュエーションに、今の時代を表すキーワードのひとつ「YouTuber」を絡めることで、とても現代性の高いコントに仕上げている。ただ、よくよく見てみると、意外性という意味ではそれほど切り込んでいない。「お金のためにやっていない」「結婚のお願いをネット配信」「最初は批判的だった彼女の父親がだんだんとノリノリに」などの展開には、むしろセオリー通りの手堅さを感じさせられる。だが、今の時代にこのコントを作り上げた、対応力の早さは評価されるべきだろう。「カメラを振るな!」は笑ったな……。

 

  • ばーん【23】

「はじめてのおつかい」。結婚して子どもを「はじめてのおつかい」に出すことが夢だという高田の話を聞いて、高坂が感情を爆発させる。カンニングスパローズのように、売れない若手芸人であることを逆手に取った漫才。この手法では、既にアルコ&ピースが『忍者』で「見せ方に捻りを加えれば面白くなる可能性を秘めている」という新たな道筋を開拓しているのに、どうして売れない芸人ドキュメンタリー止まりで満足している漫才師が後を絶たないのか、不思議でならない。今回のばーんの漫才に至っては、そもそもきっかけとなる「結婚して子ども作って「はじめてのおつかい」に出したい」という設定に対するツッコミがおかしいのだ。そこは「なんで、スタジオで子どもを見守る側じゃなくて、子どもを出させる側になりたいんだよ!」だろ! 高坂が津軽弁で喋り始めたあたりから盛り返していたが(「煮ても焼いても開かねえな~」「全盛期のサモ・ハン・キンポー」には笑った)、それでもU字工事ロケット団、カミナリが出現した現在の状況を思うと、些か弱い。もっと本意気の感情を漫才に込めて、向き合ってもらいたい。

 

【ふきだまりコーナー】

インポッシブル、えんにち、ワールドヲーター、オジンオズボーン、カミナリ、サンシャイン池崎、下村尚輝、すゑひろがりず、てんしとあくま、なすなかにしハリウッドザコシショウ、ペコリーノ、プラス・マイナスが登場。「春を感じられるギャグ」というテーマの元、カミナリ、ハリウッドザコシショウ(タイガーステップ)がギャグを披露した。

 

  • センサールマン【26】

「3匹の子ぶた」。二週勝ち抜き。童話「3匹の子ぶた」におけるオオカミの訪問を『渡辺篤史の建もの探訪』風に描写する。過去二回の放送で披露した漫才のように、従来の童話に「競馬実況」「怪談話」などのような別の要素を当てはめるスタイルではなく、童話の世界に持ち込まれた別の要素をむしろ軸としたネタで、これまでで一番バカバカしいネタに仕上がっていたように思う。「ブタ臭いな~」「豚小屋そのものです」「こらしめるための罠なんですね」など、童話の世界に上手く切り込んだワードも炸裂していた。ただ、童話をモチーフにしていることを前提としているネタなのに、「3匹の子ぶた」におけるのメインイベントの一つである「オオカミの息でわらの家、木の家を吹き飛ばす」シーンがカットされていたことに少なからず違和感を覚えてしまった。小さなことではなあるが、この違和感が案外バカに出来ないのである。もう少し元ネタに忠実なシーンを加えていれば、また違った結果になっていたかもしれない。あと、ここはもう勢いで行ってやろうってつもりだったんだろうけど、やっぱりオオカミが罠に自ら掛かりに行くシーンは、ちょっと無理があるよなあ……(笑)

 

  • イヌコネクション42

「ケンカ」。二週勝ち抜き。二人のヤンキーが山の中で決闘を始めようとするが、たびたび虫が服に付いてくるので話が進まない。ケンカをしている二人が妙にほのぼのとしたやりとりを繰り広げる……という設定のコントは、過去にも幾つか存在している(個人的にはホーム・チームのイメージが強いけど、天竺鼠の『定食屋』の方が有名か)。そして、イヌコネクションのこのコントも、その流れの中にあるものだと思う。ただ、このコントがスゴいのは、ケンカの緊張感を緩和するものが「虫」に限定されているところ。それ以外に展開がない。これがスゴい。こんなに条件を絞っているのに、しっかり面白いコントに成っている。背を向けた杉浦に対する戸川のリアクション、「刺すヤツ?」という確認、「開いてきた!」という不穏なワードに対してほのぼのとしたオチまで、とても面白かった。正直、全体の整合性はあんまり取れていなかった気もするが(「ありがとう」って言った直後にブン殴りに行くのは変だろう!)、そのことに目をつぶっても、良いコントだった。三週連続勝ち抜きでチャンピオン大会出場決定!

 

【今週のふきだまり芸人】

えんにち「道案内をする矢沢永吉

プラス・マイナス「楽屋挨拶シリーズ+体型ものまね」

 

次回の出場者は、うしろシティ(二週勝ち抜き)、オジンオズボーン、てんしとあくま、ハリウッドザコシショウ

「じわじわチャップリン」(2017年1月28日放送)

「入れ替わり」。お互いの不注意でぶつかってしまった二人の中身が入れ替わってしまう。映画『君の名は。』の影響を感じさせられる設定だが、それよりもずっと以前に作られたネタだったように記憶している。むしろ、当時は古臭いベタな設定の一つでしかなかった筈で、その状況がほんの数年のうちに一変してしまったわけだ。二人の中身が入れ替わってしまうという非常事態に対し、意外と大丈夫かもしれない……と、すぐさま落ち着きを取り戻してしまうギャップが笑いとなっている。また、お互いの仕事、恋人、住居などを確認し合っても、さほど支障は無さそう……と簡単に納得してしまう姿に、ほのかなシニカルさを感じさせられた。案外、人間の個性なんてものは、この程度の代物なのかもしれない。

 

  • センサールマン33

「かさ地蔵」。一週勝ち抜き。前回のオンエアでは「うさぎとかめ」を競馬実況中継風にお届けするという、競争をテーマにした昔話に現実の競争を当てはめた意外性の薄いネタを披露していたセンサールマンだったが、今回のネタは面白かった。“恩返し”をテーマにした昔話の定番として知られる「かさ地蔵」の世界でしれっと受け入れられている「地蔵が動いて、家にやってくる」という設定をクローズアップ、怪談話風に仕立て上げている。基本的には、前回のオンエアと同様「元ネタの昔話とのギャップ」を軸としたネタなのだが、ほのぼのとした昔話を恐ろしい怪談話に変えてしまう意外性が、より大きな笑いを生み出していたように思う。お経を読み上げたり、家の前で「ここじゃ!ここじゃここじゃ!」と大声でがなり散らしたり、恐怖描写をリアルで良かった。表現力の高いコンビなので、切り口が上手くハマると、本当に面白くなるな。

 

【ふきだまりコーナー】

インポッシブル、ペコリーノ、えんにちオジンオズボーン、カミナリ、サンシャイン池崎、下村尚輝、すゑひろがりず、てんしとあくま、なすなかにしハリウッドザコシショウ、ばーん、プラス・マイナスが登場。「特技を使ったギャグ」というテーマの元、プラス・マイナス、ばーん、オジンオズボーン、インポッシブルがギャグを披露した。

 

  • イヌコネクション34

「職員室」。一週勝ち抜き。クラスメートの遅刻について意見するために職員室の担任の元を訪れた生乾木。しかし、そのクラスメートには、遅刻せざるを得ない理由があった……。前回のオンエアでも登場したキャラクターが再登場。しかし、簡単に激高してしまう性格をシンプルに描いていた前回に対し、今回はありがちな設定に気持ち悪いキャラクターを配置するだけの面白味に欠けたコントで終わってしまっていた。自分たちの何がウケているのか、何が受け入れられているのか、あんまりよく分かっていないのかもしれない。次回は果たして、どんなネタを……(って、もう既に見てるんだけども)。

 

  • ワールドヲーター【18】

「浪漫~ロマネスク~」。一週勝ち抜き。古き良き時代のオタクを思わせるビジュアルの四人組によるダンスパフォーマンス。前回のオンエアで先細りを心配したが、まさか早くもネタ切れを起こすとは思わなかった。それだけならまだしも、傘で姿を隠すというパフォーマンスに関しては、まったく意味が分からなかった。オタクな見た目の人たちがダンスパフォーマンスを行うから笑いが起こるのに、それを隠してしまうとはどういう了見だ。最後に傘回しをするかのように見せかけてやらない(出来ない)というくだりは面白かった。ああいうボケを上手く散りばめられていれば、もう少し良い試合が出来たかもしれない。

 

【今週のふきだまり芸人】

てんしとあくま「ラッパー」

ハリウッドザコシショウ「誇張し過ぎた五郎丸」

カミナリ「アメリカに行くのを止める」

 

次回の出場者は、イヌコネクション(二週勝ち抜き)、うしろシティ(一週勝ち抜き)、センサールマン(二週勝ち抜き)、ばーん。

「磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」B面」(2017年1月20日)

磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」B面 [DVD]

磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」B面 [DVD]

 

2016年4月30日に新宿明治安田生命ホールで開催された傑作選ライブより、B面(17時開演)の模様を収録。事前に行われたファン投票によって演じられるネタが選出されたA面に対し、B面は磁石自らがネタを選んだ自選ベストとなっている。正直なところ、「ファンベストよりも自選ベストの方がA面と呼ぶに相応しいのではないか?」と思わなくもない。とはいえ、芸人は客商売なので、客の印象こそが第一であるという観点からいえば、ファンベストをA面とするという判断も別に間違ってはいないのだが。しかし、個人的な印象としては、こちらの方がベスト盤と呼ぶに相応しいラインナップになっているような気がしている。感じ方は人それぞれなのだろうが。

本編は古いネタから新しいネタへと流れるように展開する。過去から現在への行程を歩んでいるような感覚を覚えさせる、とてもベーシックな構成だ。一本目の漫才は最初期の傑作『彼女が家に来る』。永沢演じる秋田美人の女性が佐々木の部屋で自由奔放な行動に出る姿を描いた、シンプルにバカバカしいネタである。永沢のボケの不条理さは相変わらずだが、その内容はサディスティックだったり下ネタだったりして、明らかに粗削り。でも、そんな粗さが、磁石という漫才師が決して一朝一夕で出来上がったコンビではないことを証明してくれる。私が初めてテレビで磁石の漫才を見たとき、既に彼らの芸風は完成していたが、そんな彼らにも当然のように、未熟な時代があったのだ。ちなみに、この漫才のオープニングで、磁石が結成当初にやっていたという挨拶ギャグ「Nと!Sで!ビタッ!」が再現されている。こちらもやはり粗削りだが、だからこそ味わい深い。

この後も、面白い漫才が続く。永沢が様々な理由から色々なお店を次々に移動していく『床屋』。カタコト日本語の外国人に扮した佐々木が日本からホームステイにやってきた永沢に手を焼かされる『ホームステイ』。不良映画に出たいという永沢が良い不良となって悪い不良である佐々木に立ち向かう『不良映画』。観客にアイドルのライブの客のようなリアクションを求めている永沢が、観客や佐々木を指導する『アイドル化』。どのネタもガチッとツボにハマる面白さ。唯一、残念だったのは、優柔不断な永沢が実際に事故を起こしたとき対応に困らないようにするため、漫才の中で事故のシチュエーションを再現する『事故』。言わずと知れた佐々木の名言が引き出されるネタなのだが、永沢が手痛いミスを犯してしまい、まさかの不発という事態に。佐々木の特質を最も活かした、あのフレーズが傑作選に収録されないとは……実に惜しい。

特典映像は「思い出の地を巡ろう!」。磁石にゆかりのある場所へと赴き、当時の思い出を振り返るロケーション映像である。かつて二人が所属していた三木プロダクションに始まり、「爆笑オンエアバトル」へ出始めた頃に同じネタを延々と練習していた公園、M-1THE MANZAIの予選会場であるルミネから近かったことから最終練習のために利用していたカラオケ館などなど……当時の思い出話も興味深いものが多く、とても見応えのある映像だった。

……やっぱり、こっちがA面じゃないか?

■本編【72分】

オープニングVTR

2000年~2005年:「彼女が家に来る」「床屋」

2006年~2010年:「ホームステイ」「CM」「事故」

本人たちの一番好きなコント:「海外旅行」

2011年~2015年:「プロポーズ」「不良映画」「不動産屋」

2016年:「アイドル化」「訪問」

エンディングトーク

■特典映像【16分】

「思い出の地を巡ろう!」

「磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」A面」(2017年1月20日)

磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」A面 [DVD]

磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」A面 [DVD]

 

2016年4月30日に新宿明治安田生命ホールで開催された傑作選ライブより、A面(13時開演)の模様を収録。事前に行われたファン投票の結果、上位に選ばれた十本のネタが披露されている。磁石のネタといえば、次々とコントのシチュエーションが転換していく『床屋』、外国人を演じる佐々木のカタコト口調がなんともいえない笑いを生み出す『ホームステイ』、「ブスは待つ!」という佐々木の名言が飛び出す『事故』などの漫才が印象に残っているのだが、これらの中で本作に収録されているのは『ホームステイ』のみ。ファンの方々と自分とでは、まったく見ているところが違うのだなあ……と、少しだけ驚いた。

ライブ本編はランキング形式で構成されており、第10位から第1位まで順番にネタが披露されている。但し、時間の関係か、それとも当人たちのモチベーションの問題なのか、漫才に関しては二本のネタを一つに組み合わせた状態になっている。例えば、第10位の『おとぎ話アトラクション』と第9位の『料理番組』が、それぞれ独立したネタとしてではなく、『おとぎ話アトラクション+料理番組』のように、二本のネタが一本にまとめられているのである。「だからなんだ?」と思われるかもしれないが、それぞれまったく違った傾向のネタを強引に合体しているため、どうしても両者の繋ぎ部分に違和感が残ってしまう。いきなりネタのド真ん中で自己紹介を始めたときは、何が起こったのか一瞬分からなくなってしまった。この違和感が、鑑賞中のノイズとなり、純粋にライブを楽しもうとする気持ちを少なからず阻害した。

とはいえ、ネタそのものに関しては、やはり完成度が高い。常に斜め上の発想で切り込んでくる永沢のボケと、それを的確に受け止めて処理する佐々木のツッコミ、両者の噛み合わせの良さがとにかく光る。タイトルだけを見ても内容は思い出せずにいた上位のネタも、実際に見てみると納得の面白さ。とりわけ、ラジオ番組にゲスト出演している佐々木がとある発言で自爆してしまった直後の狼狽ぶりが笑える『ラジオパーソナリティ』と、延々と続く永沢のボケを泳がすだけ泳がした後で佐々木が一気にツッコミを返していく『感謝の手紙』は、それぞれ見ていてとても懐かしい気持ちにさせられた。リアルタイムで見ているときは、方向性について苦悩していることが伝わってきて不安になったものだが、過去のものとして見ると、本当にただただ懐かしい。これぞ傑作選ライブの醍醐味というものだろう。

ちなみに、幕間映像は過去の単独ライブで流された「幕間VTR傑作選」。こちらに関しては、私も記憶しているものが多く(「佐々木連続ドッキリ」は懐かしかったなー)、それはそれで楽しめた……が、それらは全てソフト化されている過去の単独ライブDVDに収録されているので、個人的な気持ちをいうならば、これまでの16年間の活動を振り返るような新撮映像が欲しかった。或いは、副音声コメンタリーみたいなものがあったりすると、ちょっと嬉しかったかもしれない。

なお、序盤にタイトルを挙げたネタに関しては……B面へ続く。

■本編【89分】

オープニングVTR

「10位:おとぎ話アトラクション」「9位:料理番組」

「酔ってチャレンジ前編」

「8位:CM」「7位:アイドルになりたい」

「酔ってチャレンジ後編」

「6位:超無駄塾」

「詩の全国大会」

「5位:ホームステイ」「4位:メガネライダー」

「佐々木連続ドッキリ」

「3位:永沢遊園地ランドマーク」「2位:ラジオパーソナリティ

「1位:感謝の手紙」

エンディングトーク

2017年2月の入荷予定

02「bananaman live 腹黒の生意気

08「ダイアン 1st DVD/DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション~

15「ナイツ独演会 この山吹色の下着

17「【予約購入者特典付き】ちょっぴり恥ずかしいけど笑ってほしいから見てほしい -SMAお笑いカーニバル総集編-

22「だーりんずベストネタ集「カツライブ」

22「天竺鼠5

22「第18回東京03単独公演「明日の風に吹かれないで」

24「カンニング竹山 単独ライブ「放送禁止2015」

二月です。二月というのは、なんとも地味な月だと思っています。なんか他の月よりも短いし。ただただ寒いし。節分とか、バレンタインデーとか、色々と行事もありますけれど、ひな祭りやクリスマスに比べて、なんとなく二軍感が漂っていますし。そんな二月なのに、めちゃくちゃDVDが出ます。しかも、けっこう質の高いことが予想される作品が、一気にどどんと投下されます。どういうつもりなんでしょうか。バナナマン東京03なんて、購買層が被ってそうだから、リリース時期をもっとズラした方がいいと思うんですが(レーベルが違うからどうにもこうにもな話だけれど)。なんだか、あまりにも強豪が揃っていて、初めてのDVDをリリースするだーりんずが可哀想になってきます。いやー、それにしても……大変だな(財布の中身を確認しながら)

追記。「カンニング竹山 単独ライブ「放送禁止2015」」がソフト化されるようです。カンニング竹山の単独ライブがソフト化されるのは2014年9月以来。何故にこのタイミングなのかは分かりませんが(版権的な何かが引っ掛かっていたのか?)、お楽しみください。

「志の輔らくご in NIPPON 岡山公演」(2017年1月29日)

志の輔らくご in NIPPON」を観に行く。

毎年お正月に渋谷パルコ劇場において「志の輔らくご in PARCO1ヶ月公演」を敢行していた立川志の輔。同公演の開催は2005年から2016年までの11年間に及び*1、もはや師匠にとってパルコ劇場はホームと呼ぶに相応しい場所となっていた。ところが、渋谷パルコの建て替えに伴い、パルコ劇場も2016年8月をもって一時的に休館。ホームを失ってしまった師匠だったが、ここでふとひらめいた。「そうだ、このタイミングに御礼に出かけよう!」と。そこで2017年1月は「志の輔らくご in NIPPON」と題し、これまで東京のパルコ劇場へと足を運んでくれた日本各地のファンたちの元へ、師匠自らが出向くという全国ツアーを展開することとなったのである。

今回、私が参加することにしたのは、全12公演中11番目の開催地・岡山での公演だ。交通の便でいえば、5番目の開催地である愛媛での公演を鑑賞すべきだったのだろうが、その時期はちょうど仕事が立て込んでいたため、わざわざ瀬戸大橋を乗り越えて、岡山くんだりまで行くことになってしまった。……と、なにやら岡山に対する悪態をついてみたが、今回の会場が過去に何度も訪れている「岡山市民文化ホール」という見慣れた場所であったことを思うと、むしろ岡山公演を選んだのは正解だったといえるのかもしれない。

そんな会場に到着したのは、開演の十分前。チケットをもぎってもらって、ロビーを駆け抜けようとすると、志の輔師匠の落語会としては珍しく物販コーナーが設けられていたので、慌てて立ち止まる。売られていたのは、過去にリリースされたCDやDVD・Blu-ray、手ぬぐい、パンフレットなどなど。物珍しさから、何の気なしにパンフレットを立ち読みしてみると、過去の「志の輔らくご in PARCO」で演じられた演目や演目の解説、舞台美術家・堀尾幸男氏へのインタビューから関係者スタッフのコメントまで掲載されていて、とても充実した内容だったので購入(1,000円)。入口を通った際に渡されたクリアファイル(「in NIPPON」仕様)に挟み、ホールへと向かった。客席は二階だったが、さほど高座との距離を感じさせない、なかなかの好位置だった。

午後三時、開演。演目は以下の通り。

「質屋暦」

ゲスト:和力による「獅子舞」

「モモリン」

仲入り

ゲスト:和力による「三味線と歌と踊り」

「紺屋高尾」

通常の独演会とは違い、前座は無し。最初の演目は『質屋暦』。明治五年の師走、政府がいきなり旧暦から新暦に替えると宣言したために起こってしまったとある出来事を描いた新古典(舞台は一昔前の新作落語)である。設定はちょっとややこしいのだが(事実、マクラでは旧暦と新暦の説明に、かなりの時間を割いていた)、とどのつまりは質屋と貧乏夫婦を巡るドタバタ騒動劇で、とても面白かった。噺が終わると、ゲストの和力による獅子舞のパフォーマンスが。一月ももう終わろうとしているのに、賑やかな正月の頃へと感覚を押し戻してくれるような、とても御目出度さと躍動感に満ちたパフォーマンスだった。

そのまま間を空けずに、続いての演目は『モモリン』。ちょっとした気の迷いから、人気のゆるキャラ・モモリンの頭を被ってしまった市長が、そのまま抜けなくなってしまって困窮する姿を描いた新作落語である。シンプルな設定、シンプルな展開、シンプルなドタバタ劇と、何から何までシンプルなつくりになっているのだが、それでもしっかりと面白い。こういうシンプルな演目の時にこそ、芸人の実力は如実に表れる。次の展開も、オチも、なんとなく予想が付いていて、まさにその予想通りの展開を迎えているのに、どうにもこうにも笑ってしまった。市長の声が低くて渋いのが、また笑える……。

仲入りを挟んで、続いては和力による三味線、歌と踊りのパフォーマンス。正直、音楽の良し悪しに関しては、よく分からない。まあ、こういった類いのものは、何も考えずに素直に飲み込むのが正しいのと、私は思う。最後の演目は古典落語『紺屋高尾』。好きな演目だ。庶民には手の届かない花魁・高尾太夫に惚れてしまった染物屋の職人・久蔵が、必死になって貯め込んだ十五両を手に、身分を偽って吉原へと乗り込む……という恋愛大スペクタクル落語である。正直、この時点で少し疲れてしまって、ややウトウトしかけていたのだが、一番の見どころである久蔵が高尾に真実を語るシーンではっきりと覚醒、終盤の展開をしっかりと楽しめた。……正直、師匠の花魁は、あんまり色っぽくはなかったが。志の輔師匠の声は、中年に特化し過ぎているのかもしれない。

志の輔らくご in NIPPON」。2017年1月中に全国12都市を巡るというあまりにも精力的な本公演は、1月31日の大阪公演で千秋楽を迎える。パルコ劇場のリニューアルオープンが予定されている2019年まであと二回、とりあえず、来年1月をどう乗り切るつもりなのか……今から楽しみだ。

*1:これは「1ヶ月公演」に限った話で、パルコ劇場での独演会を開始したのは1996年から

「じわじわチャップリン」(2017年1月21日)

  • センサールマン31

「うさぎとかめ」。有名な童話のひとつ『うさぎとかめ』を競馬実況風に読み聞かせる。非現実的な童話の世界観を現実的な競馬実況のトーンで読むというギャップを軸とした漫才である。このギャップだけで、それなりに笑いが起きる程度の上手さはあるのだが、それ以外のボケにさしたる工夫が感じられない(競馬実況のネタで「ディープインパクト」「ウサイン・ボルト」は発想として手堅過ぎる)ため、笑えるけれども物足りないという残念な印象が残ってしまう。喋りに地力があるコンビだと思われるので、もっとフザケた方が良いのかもしれない。

 

  • ワールドヲーター38

「葛藤~ファイティング~」。黒縁メガネにネルシャツの裾をしっかりとジーパンに収めるという古き良き時代のオタクを彷彿とさせる見た目に無言のダンスパフォーマンスを絡めるというギャップで笑いを取るスタイル。先程のセンサールマンと同様、手法としてはあまりにもシンプル過ぎて物足りないのだが、余計な雑味が加えられていないためか、ひたすらに続く無言のパフォーマンスがじわりじわりと効いてくる。正直、声を出して、笑ってしまった場面もあった。ただ、今回のように、「眼鏡をかけている」という点だけをクローズアップしたようなパフォーマンスで止まってしまうと、先細ってしまうような気もする。これからの進展がどうなっていくのか気になるところ。

 

【ふきだまりコーナー】

インポッシブル、うしろシティえんにちオジンオズボーン、カミナリ、サンシャイン池崎、下村尚輝、すゑひろがりず、てんしとあくま、なすなかにしハリウッドザコシショウ、ばーん、プラス・マイナスが登場。「ライバルに捧げるギャグ」というテーマの元、えんにちなすなかにし、プラス・マイナスがギャグを披露した。とうとう平野ノラがいなくなってしまった。ちょっと寂しい。

 

  • イヌコネクション41

バイトの休憩」。少し早めにバイト先に来てしまったため、新人バイトの“生乾木”と気まずい時間を過ごすことに。ちょっとしたことですぐにイライラしてしまう生乾木の姿を描写したキャラクター色の強いコント。ネタの内容だけを見るとそれほど密度は高くないのだが、杉浦演じる生乾木の挙動で強引に笑わせられる。内容が薄いからこそ、キャラクターの突出性が浮き彫りになる。かつて、この番組におけるイヌコネクションといえば、ただただ気持ち悪いだけの薄ら寒いパフォーマンスを披露していた印象だったのだが、こんなにちゃんとコントで魅せられるコンビだとは思わなかった。彼らが変わったのか、それとも元から素質があったのか。いずれにせよ、認識を改めなくてはならないだろう。イヤホンのケーブルを引きちぎろうとする様、ビニールを剥がせずに思わず叩き割ろうとしてしまう様、その全てが危うく、面白かった。お見事。

 

  • ペコリーノ【21】

「M」。一週勝ち抜き。マゾヒストの恋人が「イヤなことをされたいのに、イヤなことをされているとイイと思ってしまうから、私の脳がイイって感じる前にやめて!」と面倒臭い要望を押し付けてくる。冒頭、クロコダイル ミユが植木おでんの素足を舐めるという画の異様さで、すっかり気持ちが引いてしまった観客を引き戻しきれなかったという印象(どうでもいいけど、個人の芸名どうなってんだよ)。ただ、ネタそのものは悪くなかった。イヤなことをされると快感を覚えてしまうから「イヤなこと=イイこと」になってしまうマゾヒストの葛藤を描く……という着眼点は、とても面白かった。とはいえ、その感覚は共感されるにはあまりにもややこしくて、最後まで説明で終わってしまった気もする。その上で、更にもう一歩踏み込んだモノがあれば、もう少し結果が違っていたかもしれない。

 

【今週のふきだまり芸人】

うしろシティ「ゲームセンター」

オジンオズボーン元気玉

サンシャイン池崎「人間ポンプ」

 

次回の出場者は、イヌコネクション(一週勝ち抜き)、うしろシティ、センサールマン(一週勝ち抜き)、ワールドヲーター(一週勝ち抜き)。