2016年4月30日に新宿明治安田生命ホールで開催された傑作選ライブより、B面(17時開演)の模様を収録。事前に行われたファン投票によって演じられるネタが選出されたA面に対し、B面は磁石自らがネタを選んだ自選ベストとなっている。正直なところ、「ファンベストよりも自選ベストの方がA面と呼ぶに相応しいのではないか?」と思わなくもない。とはいえ、芸人は客商売なので、客の印象こそが第一であるという観点からいえば、ファンベストをA面とするという判断も別に間違ってはいないのだが。しかし、個人的な印象としては、こちらの方がベスト盤と呼ぶに相応しいラインナップになっているような気がしている。感じ方は人それぞれなのだろうが。
本編は古いネタから新しいネタへと流れるように展開する。過去から現在への行程を歩んでいるような感覚を覚えさせる、とてもベーシックな構成だ。一本目の漫才は最初期の傑作『彼女が家に来る』。永沢演じる秋田美人の女性が佐々木の部屋で自由奔放な行動に出る姿を描いた、シンプルにバカバカしいネタである。永沢のボケの不条理さは相変わらずだが、その内容はサディスティックだったり下ネタだったりして、明らかに粗削り。でも、そんな粗さが、磁石という漫才師が決して一朝一夕で出来上がったコンビではないことを証明してくれる。私が初めてテレビで磁石の漫才を見たとき、既に彼らの芸風は完成していたが、そんな彼らにも当然のように、未熟な時代があったのだ。ちなみに、この漫才のオープニングで、磁石が結成当初にやっていたという挨拶ギャグ「Nと!Sで!ビタッ!」が再現されている。こちらもやはり粗削りだが、だからこそ味わい深い。
この後も、面白い漫才が続く。永沢が様々な理由から色々なお店を次々に移動していく『床屋』。カタコト日本語の外国人に扮した佐々木が日本からホームステイにやってきた永沢に手を焼かされる『ホームステイ』。不良映画に出たいという永沢が良い不良となって悪い不良である佐々木に立ち向かう『不良映画』。観客にアイドルのライブの客のようなリアクションを求めている永沢が、観客や佐々木を指導する『アイドル化』。どのネタもガチッとツボにハマる面白さ。唯一、残念だったのは、優柔不断な永沢が実際に事故を起こしたとき対応に困らないようにするため、漫才の中で事故のシチュエーションを再現する『事故』。言わずと知れた佐々木の名言が引き出されるネタなのだが、永沢が手痛いミスを犯してしまい、まさかの不発という事態に。佐々木の特質を最も活かした、あのフレーズが傑作選に収録されないとは……実に惜しい。
特典映像は「思い出の地を巡ろう!」。磁石にゆかりのある場所へと赴き、当時の思い出を振り返るロケーション映像である。かつて二人が所属していた三木プロダクションに始まり、「爆笑オンエアバトル」へ出始めた頃に同じネタを延々と練習していた公園、M-1やTHE MANZAIの予選会場であるルミネから近かったことから最終練習のために利用していたカラオケ館などなど……当時の思い出話も興味深いものが多く、とても見応えのある映像だった。
……やっぱり、こっちがA面じゃないか?
■本編【72分】
オープニングVTR
2000年~2005年:「彼女が家に来る」「床屋」
2006年~2010年:「ホームステイ」「CM」「事故」
本人たちの一番好きなコント:「海外旅行」
2011年~2015年:「プロポーズ」「不良映画」「不動産屋」
2016年:「アイドル化」「訪問」
エンディングトーク
■特典映像【16分】
「思い出の地を巡ろう!」