白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」A面」(2017年1月20日)

磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」A面 [DVD]

磁石傑作選ライブ「BEST ALBUM」A面 [DVD]

 

2016年4月30日に新宿明治安田生命ホールで開催された傑作選ライブより、A面(13時開演)の模様を収録。事前に行われたファン投票の結果、上位に選ばれた十本のネタが披露されている。磁石のネタといえば、次々とコントのシチュエーションが転換していく『床屋』、外国人を演じる佐々木のカタコト口調がなんともいえない笑いを生み出す『ホームステイ』、「ブスは待つ!」という佐々木の名言が飛び出す『事故』などの漫才が印象に残っているのだが、これらの中で本作に収録されているのは『ホームステイ』のみ。ファンの方々と自分とでは、まったく見ているところが違うのだなあ……と、少しだけ驚いた。

ライブ本編はランキング形式で構成されており、第10位から第1位まで順番にネタが披露されている。但し、時間の関係か、それとも当人たちのモチベーションの問題なのか、漫才に関しては二本のネタを一つに組み合わせた状態になっている。例えば、第10位の『おとぎ話アトラクション』と第9位の『料理番組』が、それぞれ独立したネタとしてではなく、『おとぎ話アトラクション+料理番組』のように、二本のネタが一本にまとめられているのである。「だからなんだ?」と思われるかもしれないが、それぞれまったく違った傾向のネタを強引に合体しているため、どうしても両者の繋ぎ部分に違和感が残ってしまう。いきなりネタのド真ん中で自己紹介を始めたときは、何が起こったのか一瞬分からなくなってしまった。この違和感が、鑑賞中のノイズとなり、純粋にライブを楽しもうとする気持ちを少なからず阻害した。

とはいえ、ネタそのものに関しては、やはり完成度が高い。常に斜め上の発想で切り込んでくる永沢のボケと、それを的確に受け止めて処理する佐々木のツッコミ、両者の噛み合わせの良さがとにかく光る。タイトルだけを見ても内容は思い出せずにいた上位のネタも、実際に見てみると納得の面白さ。とりわけ、ラジオ番組にゲスト出演している佐々木がとある発言で自爆してしまった直後の狼狽ぶりが笑える『ラジオパーソナリティ』と、延々と続く永沢のボケを泳がすだけ泳がした後で佐々木が一気にツッコミを返していく『感謝の手紙』は、それぞれ見ていてとても懐かしい気持ちにさせられた。リアルタイムで見ているときは、方向性について苦悩していることが伝わってきて不安になったものだが、過去のものとして見ると、本当にただただ懐かしい。これぞ傑作選ライブの醍醐味というものだろう。

ちなみに、幕間映像は過去の単独ライブで流された「幕間VTR傑作選」。こちらに関しては、私も記憶しているものが多く(「佐々木連続ドッキリ」は懐かしかったなー)、それはそれで楽しめた……が、それらは全てソフト化されている過去の単独ライブDVDに収録されているので、個人的な気持ちをいうならば、これまでの16年間の活動を振り返るような新撮映像が欲しかった。或いは、副音声コメンタリーみたいなものがあったりすると、ちょっと嬉しかったかもしれない。

なお、序盤にタイトルを挙げたネタに関しては……B面へ続く。

■本編【89分】

オープニングVTR

「10位:おとぎ話アトラクション」「9位:料理番組」

「酔ってチャレンジ前編」

「8位:CM」「7位:アイドルになりたい」

「酔ってチャレンジ後編」

「6位:超無駄塾」

「詩の全国大会」

「5位:ホームステイ」「4位:メガネライダー」

「佐々木連続ドッキリ」

「3位:永沢遊園地ランドマーク」「2位:ラジオパーソナリティ

「1位:感謝の手紙」

エンディングトーク

2017年2月の入荷予定

02「bananaman live 腹黒の生意気

08「ダイアン 1st DVD/DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション~

15「ナイツ独演会 この山吹色の下着

17「【予約購入者特典付き】ちょっぴり恥ずかしいけど笑ってほしいから見てほしい -SMAお笑いカーニバル総集編-

22「だーりんずベストネタ集「カツライブ」

22「天竺鼠5

22「第18回東京03単独公演「明日の風に吹かれないで」

24「カンニング竹山 単独ライブ「放送禁止2015」

二月です。二月というのは、なんとも地味な月だと思っています。なんか他の月よりも短いし。ただただ寒いし。節分とか、バレンタインデーとか、色々と行事もありますけれど、ひな祭りやクリスマスに比べて、なんとなく二軍感が漂っていますし。そんな二月なのに、めちゃくちゃDVDが出ます。しかも、けっこう質の高いことが予想される作品が、一気にどどんと投下されます。どういうつもりなんでしょうか。バナナマン東京03なんて、購買層が被ってそうだから、リリース時期をもっとズラした方がいいと思うんですが(レーベルが違うからどうにもこうにもな話だけれど)。なんだか、あまりにも強豪が揃っていて、初めてのDVDをリリースするだーりんずが可哀想になってきます。いやー、それにしても……大変だな(財布の中身を確認しながら)

追記。「カンニング竹山 単独ライブ「放送禁止2015」」がソフト化されるようです。カンニング竹山の単独ライブがソフト化されるのは2014年9月以来。何故にこのタイミングなのかは分かりませんが(版権的な何かが引っ掛かっていたのか?)、お楽しみください。

「志の輔らくご in NIPPON 岡山公演」(2017年1月29日)

志の輔らくご in NIPPON」を観に行く。

毎年お正月に渋谷パルコ劇場において「志の輔らくご in PARCO1ヶ月公演」を敢行していた立川志の輔。同公演の開催は2005年から2016年までの11年間に及び*1、もはや師匠にとってパルコ劇場はホームと呼ぶに相応しい場所となっていた。ところが、渋谷パルコの建て替えに伴い、パルコ劇場も2016年8月をもって一時的に休館。ホームを失ってしまった師匠だったが、ここでふとひらめいた。「そうだ、このタイミングに御礼に出かけよう!」と。そこで2017年1月は「志の輔らくご in NIPPON」と題し、これまで東京のパルコ劇場へと足を運んでくれた日本各地のファンたちの元へ、師匠自らが出向くという全国ツアーを展開することとなったのである。

今回、私が参加することにしたのは、全12公演中11番目の開催地・岡山での公演だ。交通の便でいえば、5番目の開催地である愛媛での公演を鑑賞すべきだったのだろうが、その時期はちょうど仕事が立て込んでいたため、わざわざ瀬戸大橋を乗り越えて、岡山くんだりまで行くことになってしまった。……と、なにやら岡山に対する悪態をついてみたが、今回の会場が過去に何度も訪れている「岡山市民文化ホール」という見慣れた場所であったことを思うと、むしろ岡山公演を選んだのは正解だったといえるのかもしれない。

そんな会場に到着したのは、開演の十分前。チケットをもぎってもらって、ロビーを駆け抜けようとすると、志の輔師匠の落語会としては珍しく物販コーナーが設けられていたので、慌てて立ち止まる。売られていたのは、過去にリリースされたCDやDVD・Blu-ray、手ぬぐい、パンフレットなどなど。物珍しさから、何の気なしにパンフレットを立ち読みしてみると、過去の「志の輔らくご in PARCO」で演じられた演目や演目の解説、舞台美術家・堀尾幸男氏へのインタビューから関係者スタッフのコメントまで掲載されていて、とても充実した内容だったので購入(1,000円)。入口を通った際に渡されたクリアファイル(「in NIPPON」仕様)に挟み、ホールへと向かった。客席は二階だったが、さほど高座との距離を感じさせない、なかなかの好位置だった。

午後三時、開演。演目は以下の通り。

「質屋暦」

ゲスト:和力による「獅子舞」

「モモリン」

仲入り

ゲスト:和力による「三味線と歌と踊り」

「紺屋高尾」

通常の独演会とは違い、前座は無し。最初の演目は『質屋暦』。明治五年の師走、政府がいきなり旧暦から新暦に替えると宣言したために起こってしまったとある出来事を描いた新古典(舞台は一昔前の新作落語)である。設定はちょっとややこしいのだが(事実、マクラでは旧暦と新暦の説明に、かなりの時間を割いていた)、とどのつまりは質屋と貧乏夫婦を巡るドタバタ騒動劇で、とても面白かった。噺が終わると、ゲストの和力による獅子舞のパフォーマンスが。一月ももう終わろうとしているのに、賑やかな正月の頃へと感覚を押し戻してくれるような、とても御目出度さと躍動感に満ちたパフォーマンスだった。

そのまま間を空けずに、続いての演目は『モモリン』。ちょっとした気の迷いから、人気のゆるキャラ・モモリンの頭を被ってしまった市長が、そのまま抜けなくなってしまって困窮する姿を描いた新作落語である。シンプルな設定、シンプルな展開、シンプルなドタバタ劇と、何から何までシンプルなつくりになっているのだが、それでもしっかりと面白い。こういうシンプルな演目の時にこそ、芸人の実力は如実に表れる。次の展開も、オチも、なんとなく予想が付いていて、まさにその予想通りの展開を迎えているのに、どうにもこうにも笑ってしまった。市長の声が低くて渋いのが、また笑える……。

仲入りを挟んで、続いては和力による三味線、歌と踊りのパフォーマンス。正直、音楽の良し悪しに関しては、よく分からない。まあ、こういった類いのものは、何も考えずに素直に飲み込むのが正しいのと、私は思う。最後の演目は古典落語『紺屋高尾』。好きな演目だ。庶民には手の届かない花魁・高尾太夫に惚れてしまった染物屋の職人・久蔵が、必死になって貯め込んだ十五両を手に、身分を偽って吉原へと乗り込む……という恋愛大スペクタクル落語である。正直、この時点で少し疲れてしまって、ややウトウトしかけていたのだが、一番の見どころである久蔵が高尾に真実を語るシーンではっきりと覚醒、終盤の展開をしっかりと楽しめた。……正直、師匠の花魁は、あんまり色っぽくはなかったが。志の輔師匠の声は、中年に特化し過ぎているのかもしれない。

志の輔らくご in NIPPON」。2017年1月中に全国12都市を巡るというあまりにも精力的な本公演は、1月31日の大阪公演で千秋楽を迎える。パルコ劇場のリニューアルオープンが予定されている2019年まであと二回、とりあえず、来年1月をどう乗り切るつもりなのか……今から楽しみだ。

*1:これは「1ヶ月公演」に限った話で、パルコ劇場での独演会を開始したのは1996年から

「じわじわチャップリン」(2017年1月21日)

  • センサールマン31

「うさぎとかめ」。有名な童話のひとつ『うさぎとかめ』を競馬実況風に読み聞かせる。非現実的な童話の世界観を現実的な競馬実況のトーンで読むというギャップを軸とした漫才である。このギャップだけで、それなりに笑いが起きる程度の上手さはあるのだが、それ以外のボケにさしたる工夫が感じられない(競馬実況のネタで「ディープインパクト」「ウサイン・ボルト」は発想として手堅過ぎる)ため、笑えるけれども物足りないという残念な印象が残ってしまう。喋りに地力があるコンビだと思われるので、もっとフザケた方が良いのかもしれない。

 

  • ワールドヲーター38

「葛藤~ファイティング~」。黒縁メガネにネルシャツの裾をしっかりとジーパンに収めるという古き良き時代のオタクを彷彿とさせる見た目に無言のダンスパフォーマンスを絡めるというギャップで笑いを取るスタイル。先程のセンサールマンと同様、手法としてはあまりにもシンプル過ぎて物足りないのだが、余計な雑味が加えられていないためか、ひたすらに続く無言のパフォーマンスがじわりじわりと効いてくる。正直、声を出して、笑ってしまった場面もあった。ただ、今回のように、「眼鏡をかけている」という点だけをクローズアップしたようなパフォーマンスで止まってしまうと、先細ってしまうような気もする。これからの進展がどうなっていくのか気になるところ。

 

【ふきだまりコーナー】

インポッシブル、うしろシティえんにちオジンオズボーン、カミナリ、サンシャイン池崎、下村尚輝、すゑひろがりず、てんしとあくま、なすなかにしハリウッドザコシショウ、ばーん、プラス・マイナスが登場。「ライバルに捧げるギャグ」というテーマの元、えんにちなすなかにし、プラス・マイナスがギャグを披露した。とうとう平野ノラがいなくなってしまった。ちょっと寂しい。

 

  • イヌコネクション41

バイトの休憩」。少し早めにバイト先に来てしまったため、新人バイトの“生乾木”と気まずい時間を過ごすことに。ちょっとしたことですぐにイライラしてしまう生乾木の姿を描写したキャラクター色の強いコント。ネタの内容だけを見るとそれほど密度は高くないのだが、杉浦演じる生乾木の挙動で強引に笑わせられる。内容が薄いからこそ、キャラクターの突出性が浮き彫りになる。かつて、この番組におけるイヌコネクションといえば、ただただ気持ち悪いだけの薄ら寒いパフォーマンスを披露していた印象だったのだが、こんなにちゃんとコントで魅せられるコンビだとは思わなかった。彼らが変わったのか、それとも元から素質があったのか。いずれにせよ、認識を改めなくてはならないだろう。イヤホンのケーブルを引きちぎろうとする様、ビニールを剥がせずに思わず叩き割ろうとしてしまう様、その全てが危うく、面白かった。お見事。

 

  • ペコリーノ【21】

「M」。一週勝ち抜き。マゾヒストの恋人が「イヤなことをされたいのに、イヤなことをされているとイイと思ってしまうから、私の脳がイイって感じる前にやめて!」と面倒臭い要望を押し付けてくる。冒頭、クロコダイル ミユが植木おでんの素足を舐めるという画の異様さで、すっかり気持ちが引いてしまった観客を引き戻しきれなかったという印象(どうでもいいけど、個人の芸名どうなってんだよ)。ただ、ネタそのものは悪くなかった。イヤなことをされると快感を覚えてしまうから「イヤなこと=イイこと」になってしまうマゾヒストの葛藤を描く……という着眼点は、とても面白かった。とはいえ、その感覚は共感されるにはあまりにもややこしくて、最後まで説明で終わってしまった気もする。その上で、更にもう一歩踏み込んだモノがあれば、もう少し結果が違っていたかもしれない。

 

【今週のふきだまり芸人】

うしろシティ「ゲームセンター」

オジンオズボーン元気玉

サンシャイン池崎「人間ポンプ」

 

次回の出場者は、イヌコネクション(一週勝ち抜き)、うしろシティ、センサールマン(一週勝ち抜き)、ワールドヲーター(一週勝ち抜き)。

「アンガールズ単独ライブ「~ゴミにも息づく生命がある~」」(2016年7月27日)

2016年4月25日・26日に本多劇場で開催された七年ぶりの単独ライブを収録。かつて、「キモかわいい」ともてはやされていた頃のアンガールズは、独特の間と言葉選びによって生み出される不思議なセンスに満ち溢れたコントを演じていたが、幾年月を経て、バラエティ番組で田中が「キモい」芸人としての需要を獲得するようになったためなのか、本作で披露されているネタには、かつてのコントには見られなかった泥臭さが入り混じっている。

家が火事になってしまい、自作のマネキン人形を使ってSMごっこをしていたことが近所の人たちにバレてしまった町内会長の悲哀を描いた『火事がもたらしたもの』。小学校の時からの親友がちょっとした気の迷いから自分の財布を盗んでいるところを目撃した男が、頭の中では許そうとするも心からは許すことが出来ず、二人の関係が崩壊してしまう『友情』。女を研究し、女と付き合う前から女のことを知り尽くしてしまったという男が、レンタル彼女を雇って研究の成果を見せつけようとするも、山根演じる女性の異様なテンションに飲み込まれそうになる『レンタル彼女』。どのコントも、当事者たちが激しく自己主張していて、野暮ったい。だが、その本音を隠そうとしない姿に、人間の真意のようなものが感じ取れ、妙に心をざわつかせる。

それでいて、ワードセンスもまるで衰えていない。無論、それは笑いの意味でも活躍を見せているのだが、本作ではむしろパンチラインとして発揮されている印象を受けた、例えば、『友情』において、どうしても財布を盗んだ山根を許すことが出来ないことに悶える田中が言い放つ「友達の始まりに理由なんてないなあって思っていたけど、終わりには理由があるんだなあ」という台詞には、とても心に響くものを感じた。もしも普通のテレビドラマで同じ台詞が採用されていたとしたら、多くの視聴者の涙を誘ったことだろう。無論、本作においては、あくまでも笑いの火種になっているのだが。

一方で、山根に憑りついた悪霊を払うため、幽体離脱した田中が山根の意識の中に入り込む……という設定の元、実際に山根が着ているジャージの中に田中が物理的に入り込む『悪霊退散』のように、画の面白さを重点的に描いたコントや、アンガールズ田中が出川哲朗からの紹介で、テレビタレントがバラエティ番組では視聴者の目を気にして躊躇してしまうことを自由にやらせてもらえるお店を訪れる『バラエティショップ』のように、コンプライアンスに締め付けられているテレビタレントとしての田中を前提としたコント(「アツアツおでんのリアクションで、最近「地面に落とさないでください」と言われる」という話にはちょっと驚いた)など、分かりやすくて面白いネタも。この浅さと深さ、軽さと重さのバランス感がとても良い。

そして、最後は『田中が考え中 特別編~ドレッシングルーム~』。田中が座長を務め、作・演出を手掛けている舞台「田中が考え中」単独ライブ仕様のショートバージョンが披露されている。出演は、アンガールズの二人に加えて、鈴木拓ドランクドラゴン)、アイアム野田(鬼ヶ島)、川原豪介(ブルーリバー)、鳥居みゆき

「田中が考え中」本編を一度も見たことがなかったので、果たしてその内容はどのようになっているのかと気合を入れて鑑賞に臨んだところ、冒頭、ストーリーテーラーとして登場した田中が、いきなり「残念ながら、「田中が考え中」メンバーの一人が、昨年末、警察に逮捕されてしまいまして……」と語り始めたので、思わずずっこけそうになった。その様子は、明らかに悲しみに暮れている風でもなければ、怒りではらわたが煮えくり返っている風でもない。明らかにイジっている。人力舎の芸人が二人も参加している舞台で、2016年4月の段階で、完全にイジっている。劇中でもかなり積極的にイジっている。初見時は、そのことに驚いて、肝心の舞台の内容をすっかり忘れてしまった。元も子もない。

物語の舞台は同窓会。かつて大学の「ゴミ人間サークル」に所属していた面々が集まっている。その名の通り、当時の彼らは“ゴミ人間”と呼ぶに相応しい人間だったのだが、今ではそれぞれすっかり大人になってしまった。鈴木は数学者、山根はグラフィックデザイナー、川原は貿易会社の部長、みゆきは普通のOL……相変わらずゴミ人間なのは、ばりばりのニートで十年ぶりに外出したという野田だけ。そんな彼らが集められたのには、ある理由があった。今では科学者だという田中が発明した「他人の能力をコピーできるボックス」を使い、今はただのゴミ人間でしかない野田が集めた皆の能力を取り込むことで、現状から脱却しようとしていたのである。ところが、これをきっかけに、全員の化けの皮が剥がれていく……。途中までは、ダメな人間たちのみじめな姿を晒しものにしているような印象を受けたが、終盤の展開で明らかになる真意。お金や成功を目指して人間らしさを失ってしまった人たちに向けた寓話のような、とても優しい物語だった。いきなり変わろうとしなくてもいい。ちょっとずつ、変わればいい。

「キモカワいい」の皮を脱ぎ捨て、その内側にある「キモい」本質を掻き出そうともがいているアンガールズのコントは、当時ほどポップではないが、当時よりもずっとドープだ。

■本編【96分】

「火事がもたらしたもの」「友情」「お母さんに電話①」「悪霊退散」「お母さんに電話②」「レンタル彼女」「山根ゴミ」「バラエティショップ」「メロンパンと」「田中が考え中~ドレッシングルーム~」

■特典映像【3分】

「お母さんに電話③」「お母さんのネタ再現」

 

「じわじわチャップリン」(2017年1月14日)

「イタコ」。一週勝ち抜き。「究極のモノマネはイタコ」という持論を展開する池崎が、霊を身体に宿して究極のモノマネを披露する。昨年五月に千利休の霊を下ろしていた池崎が、今回は二宮金次郎の霊を身体に落としていた。一応、ネタの内容には多少の違いがあったのだが、やっていることは基本的に前回と同じなので、さほど盛り上がれず。同じく歴史上の人物をテーマにしているコントを演じる脳みそ夫が登場したことも、多少は影響しているのかもしれない。あと、やはりネタが短い。異常に短い。テンションを保てないのかもしれないが、そういう方向性を選んでしまったのは自分なんだから、もうちょっと頑張ってもらいたい。

 

  • TEAM近藤【29】

「結婚式の余興」。結婚式の余興にハンドベル木村カエラの『Butterfly』を演奏しようとするのだが、どうしても長州力の入場テーマ曲『パワーホール』になってしまう。おぎやはぎの『結婚式の司会』という漫才で入場曲がどうしても猪木ボンバイエになってしまうというボケがあったが、その部分だけを薄く広げたようなコント。実際、うすーくじんわーりと面白かったのだが、肝となる部分がなかったため、決め手に欠けた感が。長州力が元カレだったという部分をもう少し膨らませていると良かったかもしれない。

 

【ふきだまりコーナー】

サンシャイン池崎ラフレクラン、平野ノラ、ハブサービス、鬼ヶ島、カミナリ、ワールドヲーター、ゆにばーす、イヌコネクション、スーパーニュウニュウハリウッドザコシショウ、センサールマンが登場。「愛と希望と勇気を与えるギャグ」というテーマの元、鬼ヶ島、平野ノラ、ハブサービス(大人のニキビ)、ラフレクラントロール人形)が逆を披露した。

 

  • プラス・マイナス50

「野球」。二週勝ち抜き。野球が得意な岩橋のバットのスイングを見せるために、兼光がモノマネで球場の雰囲気を再現する。一回目の挑戦ではボケとツッコミの役割がごっちゃになり、二回目の挑戦ではボケとツッコミの役割が不明確だからこそ面白い漫才を見せたプラス・マイナスだが、まさかここにきて徹底的にオーソドックスな漫才を見せてくるとは思わなかった。岩橋が特技を披露しようとしているのに、兼光が異常なほど完成度の高いモノマネをすることがボケになっているという、二人の特性をしっかりと示した漫才で、きちんと面白かった。特に笑ったのは、ピッチャーがボールを二個同時に投げるという、何の意味もないくだり。ボケそのものも不意打ち過ぎて笑ったが、ボールを二個同時に投げつけるピッチャーを再現する岩橋のコミカルな動きもたまらなかった。で、きちんとした漫才には、これまたきちんとした評価が下るものである。納得の高評価、納得の満点。お見事でした。三週連続勝ち抜きでチャンピオン大会出場決定!

 

  • ペコリーノ33

「リコーダー」。放課後の教室で植木が好きなクラスメートのリコーダーを舐めているところを同じクラスのミユが目撃するのだが、ミユもまたリコーダーを持っていて……。コントの設定としてはありがちなシチュエーションなので、なんとなくこういう感じのコントだろうと想像しながら見ていたら、あまりにも予想外の展開だったので、ついつい笑ってしまった。気になる異性のリコーダーを舐める二人の高校生が、リコーダーを巡る謎のラブロマンスを展開するなんて、ド変態にも程がある。でも、男女コンビという個性が、その変態度数の高い内容から、上手く嫌悪感を除去している。とりわけ、まるでキスするかのように、ミユにリコーダーを舐めさせるくだりは色んな意味でたまらないものがあった。笑えるんだけど、同時に、何かエロかったよなあ。だから合格は納得なんだけど、視聴後、川瀬名人(ゆにばーす)が荒れている姿を想像してしまった。先週、あれだけの漫才をやっておきながら、落とされてたからなあ……色々と思うところはあっただろうなあ……。

 

【今週のふきだまり芸人】

ハブサービス「地下鉄・飯田橋駅

ワールドヲーター「いたずら」

 

次回の出場者は、イヌコネクション、センサールマン、ペコリーノ(一週勝ち抜き)、ワールドヲーター。

「人志松本のすべらない話」(2017年1月7日)

出演は、松本人志千原ジュニア宮川大輔バカリズム渡部建アンジャッシュ)、カンニング竹山劇団ひとり、カズレーザー(メイプル超合金)、好井まさお(井下好井)、阿生(ミキ)。このうち、劇団、カズ、好井、阿生は初登場。これらのメンバーに加え、漫談家綾小路きみまろスペシャルゲストとして登場した。きみまろといえば、昨年11月に放送された「ダウンタウンなう」のロケ企画「はしご酒」に出演した際、松本から「きみまろさんと志の輔さんは別格なんです」と讃えられていたことが記憶に新しい。前回はフリートークで共演していたが、今回はお互いの本分である話芸での共演となったわけだ。……この流れで、いつか志の輔師匠も出てくれないかな(まあ出ないだろうな)。

印象に残っている話は、カンニング竹山前田健の仮通夜、カズレーザーの花火、宮川大輔ほっしゃん。松本人志のトイレが近くなっている話(「チンビル」というワードの素晴らしさ)、好井まさおの演出家。特にカズの話は、小学生時代の思い出ということもあって、絶妙なジュブナイル感がたまらなかった。一部では評判が良くないようだが、綾小路きみまろの話も面白かった。オチのキレ味で笑わせるというより、その如何ともし難いシチュエーションのあっけらかんとした面白味がたまらなかった。MVSは好井の「結婚式」。好井の売れない芸人ならではの卑屈さが前面に押し出された話で、確かに面白かったのだが、個人的には少ししんどかった。……というか、まだコンビ結成11年目なのに、卑屈に走るのはちょっと早すぎる。上を見上げれば、そこには結成20年目を迎えてまだ売れる気配のないスパローズが……上か?

ところで、この番組内で披露された、カンニング竹山による前田健の話に対して「笑えなかった」という旨の文章が、ちょっと前に話題になっていたことを最近になって知った(不愉快なのでリンクは貼らない)。笑える・笑えないの感覚は人それぞれである。山崎まさよしが自身の楽曲『セロリ』で「育ってきた環境が違うから 好き嫌いはイナメナイ」と歌っていたように、それぞれの人生によって培われてきた感覚の差異から、どうしても笑える・笑えないの誤差は生じてしまう。だから、それ自体は仕方がない。

ただ、あの話を受けて、竹山が「男同士の恋愛感情を笑う」「マエケンが男性じゃなくて女性だったら、この話は笑いにならない。マエケンは男だから、みんなが笑ってもいい扱いしている」「マエケンの恋心を馬鹿にしている」という旨の意図を持っていた……などと言い草は、とてもじゃないが無視できるものではない。竹山自身も語っていたように、二人は親友であり、芸人仲間だった。そして、これも竹山自身が語っていたように、マエケンは自身の竹山に対する愛情を決して隠そうとはしなかった(なんなら番組やライブの企画でもその思いを暴発させ、積極的にエンタメ化していた)。くだんの記事は、前田健というエンターテイナーのことを“同性愛者”という枠組みでしか捉えられていない、むしろ故人に対して失礼な解釈ではないかと私には感じられた。

ちなみに、竹山の話を簡潔に説明すると、「以前から自分のことを好きだと言っていた親友・前田健の実家で内々に行われた仮通夜に出向くと、故人の側で「健はね、人生を全うしましたよ!」と弔問客の一人一人に向かって気丈に挨拶をしていたマエケン父親が、自分の番になるといきなり号泣し始めて、「竹山くん!健はね!健はね!竹山くんを愛してたんだよ!」と叫ばれたので、どうすればいいのか分からなくなってしまって逃げ出した」というもの。この話が笑えるのは、仮通夜の場において、沢山の弔問客が訪れている中、マエケン父親に息子の気持ちを絶叫されてしまった当事者たちの困惑が想像できるから……だと、個人的には解釈している。ここでいう当事者とは、竹山とマエケンのことである。お互いがお互いの気持ちをどれほど認識し合っていたのかは分からないが、そのセンシティブな関係性に身内が割って入ることほど、気恥ずかしいものはない。思わず「ババァ、ノックしろよ!」と言いたくなる(この話のメインは父親だが)。でも、マエケンはもうこの世にはいないし、だからこそマエケン父親もそれを言わずにはいられなかったのだろう。その状況、全てが哀しくて、切なくて、やりきれなくて、でも……面白い。

最後に余談。くだんの文章の中に“「お笑いの解釈は見た側の個人でしていい」って通説”という一文があったのだが、この通説は何処で通っているのだろうか。まあ、それがまかり通っている場所があったとして、少なくとも、今回は前田健という故人についての話なので、当事者でも親族でもない無責任な第三者である私たちは、竹山自身がどのようなつもりで語っていたとしても、当事者たちの姿勢を批判するような内容にする場合においては、どれだけ配慮しても足りないというくらいに配慮しなくてはならないことは明白で、「竹山がマエケンの想いを笑った」などと解釈する際にはそれこそ神経をすり減らすほどに気を遣わなくてはならないわけで……つまるところ、その程度の覚悟しかないのなら語ってくれるな。いや、本当に。

ラーメンズ『シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』に関するひとつの考察。

2017年1月1日。この日、コントユニット「ラーメンズ」が、これまでに開催した単独公演で演じてきた100本分のコント動画の無料配信を開始した。動画はYouTubeにアップされ、視聴による広告収益は日本赤十字社を通じて各地での災害の復興に役立てられるそうだ。

このニュースが伝えられた時は、ただただ「スゴいぞラーメンズ!」と感心するばかりだった。テレビやラジオといったメディア媒体ではなく、舞台を中心に活動しているラーメンズ(というかブレーンの小林賢太郎)にとって、過去のコントを収録したソフトは主たる収入源の一つの筈。それを惜しげもなく無料で配信してしまう、この思い切りの良さ。今後の活動に対する強い自信がなければ、そうそう実行出来ることではないだろう。

……と、まるで他人事のように、このニュースをしれっと受け流した当時の私だったのだが……あちらこちらのサイトで【オススメのラーメンズコント!】という旨の記事を見かけるようになって、はたと気が付いた。「せっかく色んな人がラーメンズのコントを気軽に見られる環境が整っているのに、どうしてお笑いのレビューを手掛けるウチのブログが率先して入門講座的な記事を書かなかったのか!」と。

しかし、今頃になって、オススメのコントを並べているようでは、どうにもこうにも手遅れの感が否めない。それに、これから記事を書くにしても、昔のラーメンズのコントについてはすっかり忘れてしまっているモノも少なくない(特にDVD化が遅れた『home』『FLAT』『news』に関しては記憶が曖昧だ)。それらの確認を思えば、書き終えるまでに更なる時間を要することは明白である。……というわけで、私は今回のビッグウェーブに乗るのを早々に諦めたのであった。

そうして無念な気持ちに囚われながら、なんとなしに「ラーメンズ」のコントがYoutubeで公式配信!初心者にもおすすめな13作という記事を読んでいたときのことである。ふと、なんとなく、記事の中で紹介されていたコントの一つシャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』の存在が妙に引っ掛かった。『シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』は、現時点での最新公演『TOWER』(2009年4月~6月)で披露されたコントだ。この公演でラーメンズは全国ツアーを展開、私も高松公演を鑑賞した。その時に観たネタの中でも『シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』はどちらかというと地味な印象が残っていて、わざわざ記事で取り上げるほどのコントではないと思ったのである。“「無いものがあるかのように見える」という、パントマイムの面白さが全面に出た作品。生で公演を観たときは2人の精密なパフォーマンスに感嘆したのを覚えています。”という紹介文にも引っ掛かった。パントマイムという側面から見るならば、他にも適切なコントがあった筈だ。なのに、どうして。……恐らく、この時の私は、流れに乗り遅れたことで少しだけ不貞腐れていたのだろう。

このような経緯から、私は恐らくDVDがリリースされた2010年9月以来、久しぶりに『シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』を鑑賞した。……で、ことのほか、思っていたよりもずっと強い引力でもって、目を奪われた。否、当時の私の見立てが、まったくもって勘違いだったわけではない。確かに『シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』は地味なコントだった。だが、その裏には、とてつもない技術が注ぎ込まれていたのである……。

 以下、考察。

 

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