白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「アンガールズ単独ライブ「~ゴミにも息づく生命がある~」」(2016年7月27日)

2016年4月25日・26日に本多劇場で開催された七年ぶりの単独ライブを収録。かつて、「キモかわいい」ともてはやされていた頃のアンガールズは、独特の間と言葉選びによって生み出される不思議なセンスに満ち溢れたコントを演じていたが、幾年月を経て、バラエティ番組で田中が「キモい」芸人としての需要を獲得するようになったためなのか、本作で披露されているネタには、かつてのコントには見られなかった泥臭さが入り混じっている。

家が火事になってしまい、自作のマネキン人形を使ってSMごっこをしていたことが近所の人たちにバレてしまった町内会長の悲哀を描いた『火事がもたらしたもの』。小学校の時からの親友がちょっとした気の迷いから自分の財布を盗んでいるところを目撃した男が、頭の中では許そうとするも心からは許すことが出来ず、二人の関係が崩壊してしまう『友情』。女を研究し、女と付き合う前から女のことを知り尽くしてしまったという男が、レンタル彼女を雇って研究の成果を見せつけようとするも、山根演じる女性の異様なテンションに飲み込まれそうになる『レンタル彼女』。どのコントも、当事者たちが激しく自己主張していて、野暮ったい。だが、その本音を隠そうとしない姿に、人間の真意のようなものが感じ取れ、妙に心をざわつかせる。

それでいて、ワードセンスもまるで衰えていない。無論、それは笑いの意味でも活躍を見せているのだが、本作ではむしろパンチラインとして発揮されている印象を受けた、例えば、『友情』において、どうしても財布を盗んだ山根を許すことが出来ないことに悶える田中が言い放つ「友達の始まりに理由なんてないなあって思っていたけど、終わりには理由があるんだなあ」という台詞には、とても心に響くものを感じた。もしも普通のテレビドラマで同じ台詞が採用されていたとしたら、多くの視聴者の涙を誘ったことだろう。無論、本作においては、あくまでも笑いの火種になっているのだが。

一方で、山根に憑りついた悪霊を払うため、幽体離脱した田中が山根の意識の中に入り込む……という設定の元、実際に山根が着ているジャージの中に田中が物理的に入り込む『悪霊退散』のように、画の面白さを重点的に描いたコントや、アンガールズ田中が出川哲朗からの紹介で、テレビタレントがバラエティ番組では視聴者の目を気にして躊躇してしまうことを自由にやらせてもらえるお店を訪れる『バラエティショップ』のように、コンプライアンスに締め付けられているテレビタレントとしての田中を前提としたコント(「アツアツおでんのリアクションで、最近「地面に落とさないでください」と言われる」という話にはちょっと驚いた)など、分かりやすくて面白いネタも。この浅さと深さ、軽さと重さのバランス感がとても良い。

そして、最後は『田中が考え中 特別編~ドレッシングルーム~』。田中が座長を務め、作・演出を手掛けている舞台「田中が考え中」単独ライブ仕様のショートバージョンが披露されている。出演は、アンガールズの二人に加えて、鈴木拓ドランクドラゴン)、アイアム野田(鬼ヶ島)、川原豪介(ブルーリバー)、鳥居みゆき

「田中が考え中」本編を一度も見たことがなかったので、果たしてその内容はどのようになっているのかと気合を入れて鑑賞に臨んだところ、冒頭、ストーリーテーラーとして登場した田中が、いきなり「残念ながら、「田中が考え中」メンバーの一人が、昨年末、警察に逮捕されてしまいまして……」と語り始めたので、思わずずっこけそうになった。その様子は、明らかに悲しみに暮れている風でもなければ、怒りではらわたが煮えくり返っている風でもない。明らかにイジっている。人力舎の芸人が二人も参加している舞台で、2016年4月の段階で、完全にイジっている。劇中でもかなり積極的にイジっている。初見時は、そのことに驚いて、肝心の舞台の内容をすっかり忘れてしまった。元も子もない。

物語の舞台は同窓会。かつて大学の「ゴミ人間サークル」に所属していた面々が集まっている。その名の通り、当時の彼らは“ゴミ人間”と呼ぶに相応しい人間だったのだが、今ではそれぞれすっかり大人になってしまった。鈴木は数学者、山根はグラフィックデザイナー、川原は貿易会社の部長、みゆきは普通のOL……相変わらずゴミ人間なのは、ばりばりのニートで十年ぶりに外出したという野田だけ。そんな彼らが集められたのには、ある理由があった。今では科学者だという田中が発明した「他人の能力をコピーできるボックス」を使い、今はただのゴミ人間でしかない野田が集めた皆の能力を取り込むことで、現状から脱却しようとしていたのである。ところが、これをきっかけに、全員の化けの皮が剥がれていく……。途中までは、ダメな人間たちのみじめな姿を晒しものにしているような印象を受けたが、終盤の展開で明らかになる真意。お金や成功を目指して人間らしさを失ってしまった人たちに向けた寓話のような、とても優しい物語だった。いきなり変わろうとしなくてもいい。ちょっとずつ、変わればいい。

「キモカワいい」の皮を脱ぎ捨て、その内側にある「キモい」本質を掻き出そうともがいているアンガールズのコントは、当時ほどポップではないが、当時よりもずっとドープだ。

■本編【96分】

「火事がもたらしたもの」「友情」「お母さんに電話①」「悪霊退散」「お母さんに電話②」「レンタル彼女」「山根ゴミ」「バラエティショップ」「メロンパンと」「田中が考え中~ドレッシングルーム~」

■特典映像【3分】

「お母さんに電話③」「お母さんのネタ再現」