白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

ネットカフェに行ったというだけの話。

このところ、ブログの更新が格段に滞っているのは、お笑いに対する興味が失われてしまったわけではなく、お笑い芸人のDVDをレビューすることに対するモチベーションが行方不明になってしまっただけなので、そういったものを欲求なさっている読者の皆様方は是非とも心配なさって頂きたいところ。なにより私自身が心配している。困ったものだ。それでも文章を書きたいという執筆欲と文章を読まれたいという承認欲は中学生の性欲レベルにまで高まっているので、先日久しぶりにネットカフェへと出かけた話を書き残してみようと思う。私の旅行記は一部に人気があるらしいので、こういうのもそれなりに楽しいだろう。

2017年6月17日、ネットカフェに行く。私は田舎での生活を余儀なくされている似非サブカル野郎なので、定期的にネットカフェのような地方の泥臭さから隔絶された空間に身を置かないと、憤死してしまうのである。この日、私が訪れたのは、香川県宇多津市にある「快活CLUB 宇多津店」。より自宅に近い場所に他のネットカフェチェーン店も幾つか存在しているのだが、それらの店舗はダーツやビリヤードに興じるようなリアル充実エンターテインメント人生を送っているような人たちを優先した構造になっているので、私のような心も身体も性欲も陰惨を極めている身としては、憂鬱と嫉妬にまみれて自害してしまいかねない。その点において、快活CLUBは安心だ。アジア的なインド的な何かをモチーフとした怪しげな空間作りが実にたまらないし、店内を徘徊している同胞たちの人生を上手く生きることが出来ていないことが全身から滲み出ているのも嬉しい。ああ、私はこの世で独りぼっちじゃない!

自宅から車を走らせて約一時間後、「快活CLUB 宇多津店」に到着したのが午後1時半を迎えたころ。国道十一号線からスムーズに駐車場へと飛び込む。この店の駐車場の収容台数は微妙に少ないので、ひょっとしたら駐車できないのではないかという不安もあったのだが、かろうじて一台分だけ空いていたので、そこに停める。その直後、財布の中身が心許なかったことを思い出す。否、気のせいではないかと思い、きちんと長財布を開いて確認してみると、千円札が一枚しか入っていない。気のせいではなかった。ううむ。無論、千円だけでも、ネットカフェを楽しむことはそれなりに可能だ。とはいえ、心から楽しむには、やはり多少の余裕をもって臨みたいというのが人の心というものである。そこで車内に小銭は残っていないかと調査してみたところ、ダッシュボードで五百円玉を発見する。勝機は我にあり! 千円と千五百円とではまったく事情が変わってくる……という話を文章で説明するのは非常に業務的な面倒臭さを伴うので、各自で快活CLUBの利用料金をチェックしていただけると有り難い。

そんなこんなで店内へ。ここでは「オープンシート」「リクライニングシート」「フルフラットシート」「マッサージシート」などの席を選ぶことが出来る。「ソファシート」「ペアフラットシート」などの二人用の席もあるらしいが、そんなものは知ったことではない。帰れ。普段の私は「フルフラットシート」(お座敷タイプのブース席)を選んでいるのだが、この日は私と同様に堕落を貪りたい人間のボーダーライン上に居る方々が他にも多数来店していたらしく、満席だったため「リクライニングシート」(リクライニングチェアタイプのブース席)を選んだ。余談だが、もしも宿泊を目的にネットカフェを利用するならば、絶対に「フルフラットシート」を選ぶべきである。それ以外の席だと、翌朝になって首がちぎれかけているからだ(寝方が良くないのかもしれない)。

受付を済ませたら、まずは席へと移動する。持参した荷物を置くためである。ドリンクバーと書棚の間にある通路を通り抜け、ブース席が並んでいるフロアへ。ブース席の中からはまったく人の気配がしない。だが、確実に、そこには何者が存在する。ことによると、そこにいるのは人間ではないのかもしれない。私の席はブース席の中でも端っこの席だった。端っこの席は後ろを通過する人間が少なくなるので、防犯面においては安心だ。ただ、反対側の席が「ソファシート」で、時たま男女のヒソヒソ声が聞こえてきたのでとてもワイセツだった。私がセコンドならタオルを投げて追い出すところである。投げるな。荷物を置いたら、飲み物を取得するためドリンクバーへと戻る。人間の身体の約60%は水分で出来ているという。水が無ければ人は生きていけない。それはネットカフェであっても同様だ。下劣で無様な漫画を読みふけることよりも、インターネットでアダルト動画を入手することよりも、まずはライフラインたる飲み物である。この日は客としての権限を大いに振るい、多量のジンジャーエールを搾取、甘い汁を注ぎ込んだコップを持って席へと戻った。

あとは漫画である。以前から気になっていた漫画を書棚から回収し、ただひたすらに読み進める。以下、読んだ漫画。

ナナメにナナミちゃん(1) (ヤングマガジンコミックス)

ナナメにナナミちゃん(1) (ヤングマガジンコミックス)

 
ぽちゃこい 1

ぽちゃこい 1

 

ネットカフェに来ると、いつもクール教信者ばかり読んでいる気がする。ネットカフェという場所の雰囲気と氏のネットユーザー特有の出鱈目に埋没していく思考が不思議と合致しているのかもしれない。『ナナメにナナミちゃん』は一部内容がネット上に流出して、ちょっとだけ炎上しそうな雰囲気になっていた作品。事実、amazonレビューはほんのり荒れているのだが、根本的な読み方が誤っている気がしてならない。ムラタコウジはエロとアホが混在した作品を得意とする漫画家だが、『ぽちゃこい』はエロを抜いてアホだけで成立させている。独特のテンションが面白い。オジロマコトは傑作『富士山さんは思春期』の作者。『富士山さん~』がそうであったように、『猫のお寺の知恩さん』も青春の瑞々しさとちょっとエッチな描写が上手く噛み合っていて、面白かった。三巻の終盤の不穏な空気も気になるところなので、これは単行本を買うかもしれない。『ポプテピピック』は初読。噂通りにヒドかった。

午後3時50分ごろ、店を出る。ネットカフェに長居してしまうと、本当に一日があっという間に過ぎてしまうので、三時間ほどの滞在が丁度良いのである。ネットカフェに長居していいのは、そこに宿泊する覚悟が整っている場合だけだ。

行きも帰りも車内には私立恵比寿中学の最新アルバム『エビクラシー』が流れていた。

エビクラシー(期間生産限定盤)

エビクラシー(期間生産限定盤)

 

毎度、明るく楽しい音楽に包み込まれているエビ中のアルバムだが、本作は全体を通して切なさが滲んでいるような印象を受けた。否、その原因はなんとなく分かっているのだが、だからこそ、それは単なる思い過ごしでしかないような気もしている。このアルバムを聴いている私の中に残っている記憶が、このアルバムを切なくさせているだけなのかもしれないからだ。でも、それでも、『感情電車』の「感情電車は特快で今 もう もう どこにも止まれないよ」という歌詞に、『紅の詩』の「油断して知らない歌で泣きそーうだ」という歌詞に、『フォーエバー中坊』の「永遠に 永遠に 永遠に 中坊」という歌詞に、“今”に連れてくることの出来なかったメンバーを重ねてしまう。

なんだか感傷的になりながら、家路をゆらゆら向かったのであった。