某月某日。
沖縄の妖怪こと“芽むしり”氏から「次のタイタンシネマライブに出るスペシャルシークレットゲスト、十中八九たけしだから観に行くべきですよ!」との助言を受ける。爆笑問題を筆頭とした芸能事務所・タイタンの所属芸人たちによるライブを映画館で生中継するイベント、タイタンシネマライブ。私も以前に一度だけ鑑賞したことがあるのだが、どの芸人のネタもとても面白くて、上演後は全身が強い満足感で満たされた記憶がある。ただ、四国では高知でしか上映されていないという地理的な理由から、それ以来、すっかり足が遠のいてしまっていた。しかし、あの天才が出演するとなれば、無視するわけにはいかない。私は「これは天命である!」と勝手に解釈し、「行けたら行く」から「絶対に行く」へと気持ちを切り替えたのであった。
ところが、前日になって、まさかまさかのシークレットゲストのドタキャンが発表。27時間テレビの影響なのか、ここしばらく不眠不休の日々が続いていたため、肝心要のネタを覚えられず、泣く泣く出演を辞退した……というのは、後から聞いた話である。とはいえ、こちらはすっかりお笑いスーパーエクスプレスモードに入ってしまっている。なんなら、せっかく高知まで行くのだから一泊してやろうと、ホテルまで予約してある。もはや、ノービートであろうとも、行かないという選択肢は有り得ないのである。
そして当日。コンビニで購入した菓子パンをかじりながら、私は高速道路を飛ばしていた。私の仕事場からタイタンシネマライブが上映されるイオンモール高知まで、車で一時間弱ほどかかる。この日、私は午後五時半に仕事を切り上げていたので、午後七時半からの上演には絶対に間に合う計算になる。とはいえ、予期せぬ事態が発生する可能性も否定できない。何事も油断は禁物である。
高知インターを降りて、国道に入る。時刻は午後六時半を過ぎたころ。こうなると絶対に遅刻することはない……と思っていたのだが、うっかり右折すべき道で右折レーンに入りそびれてしまう。高知インターを降りた後の道は少しだけ分かりにくいのである。いや、ホント。その後も、なんとかしてイオンモール高知に向かう道へ戻ろうと試行錯誤を重ねるのだが、どうにもこうにも戻れそうにない。気が付くと、どんどん奥まった道に入ってしまって、完全に迷子になってしまっていた。仕方がないので、一度車を適当な場所で停車し、スマホでナビ機能を立ち上げ、その指示に従って移動することに。……これが機械に支配されるということか。実に恐ろしい時代である。とはいえ、そのおかげで、無事に上演時刻までにイオンモール高知に到着することが出来た。機械サイコー。
駐車場に車を停め、時刻を確認すると午後七時を過ぎたばかり。まだまだ余裕はある。とりあえずチケットを購入するため、三階の映画館へ。途中、河島あなむがフリーライブを敢行している姿を見かけるが、見ている余裕はないからスルーだ(心の中では「うわーっ、アナム&マキの人や!」と少なからずテンションが上がっていた)。自動券売機のタッチパネルを巧みに操り、無事にチケットを手に入れる。チケット代は通常の映画よりも少し割高な2,200円。とはいえ、実際に行われているライブを生中継するために必要な予算などを思うと、まったくもって安いとしか言いようがない。うっかりハンカチ類を車に忘れてきてしまったため、二階のヴィレッジ・ヴァンガードでマフラータオル(500円)を購入。直前、トイレで用を足し、いざシアタールームへ。既に中は消灯されていて、巨大なスクリーンには自身の単独ツアーを宣伝する日本エレキテル連合の姿が映し出されていた。観客の数はまばら。昨年に来たときよりは人が入っていたような気がする。
午後七時半、開幕。
ゆりありく「コント:シンデレラ」
瞬間メタル「漫才:陸上競技」
シティホテル3号室「コント:カップルと火事」
パペットマペット「このハゲーッ!」
ウエストランド「漫才:イケメン」
脳みそ夫「ラーメンヤンキーすすり」
まんじゅう大帝国「漫才:ものまね」
日本エレキテル連合「コント:イギリス」
つぶやきシロー「むかつくとき」
タイムマシーン3号「漫才:太い陸上・デブニーランド」
長井秀和「(雑に)間違いない・フリップ芸」
ハライチ「漫才:宇宙人に寄生されたら」
BOOMER&プリンプリン「コント:天才棋士」
爆笑問題「漫才:世間を騒がせた人たち・北朝鮮・間接自慢」
猿回しの新しいカタチを模索しているゆりありくは、童話「シンデレラ」をモチーフとしたコント。メチャクチャ面白かったのだが、今のテレビではコンプライアンスとかに引っかかりそうな気がしないでもない。実際の問題としてどうなのだろう。瞬間メタルはベーシックなしゃべくり漫才。いつ「男のコント」が始まるのかと身構えながら見ていたら、本当に純粋なしゃべくり漫才だったから驚いた。タケタリーノ山口が陸上競技にナンセンスな難癖をつけるというスタイルで、完全に芸風をシフトチェンジできれば、化ける可能性もありそう。とはいえ、終盤の前田ばっこーの妙な行動には、かつての彼ららしい粗さを感じさせられた。これからもあの雰囲気は残しておいてほしい。シティホテル3号室は火事で部屋を焼け出された同棲カップルの女が、何故か結婚情報誌だけを持って逃げ出していたというシチュエーションから始まるコント。ほんのりと狂気を帯びていて、不気味で可笑しいコントだった。ここはあと一歩で化けそうな予感。
パペットマペットはメタ的なやりとりの漫才と思わせておいて、うしくんの発言が某政治家の発言を匂わせている……という知性的なネタ。昨年のタイタンシネマライブでも時事を絡めたネタをやっていたので、もはやそういう方向性の笑いを志向しているのだろう。面白かった。ウエストランドはブサメンの卑屈な感情をこれでもかと煮詰めた漫才。井口の言っていることが正しいか正しくないかではなく、熱弁している姿がたまらなく面白い。今年こそはM-1グランプリで結果を残してもらいたいが……。脳みそ夫はいつもの一人コント。コントの内容と絡めたダジャレが安定して面白い。あと、ウケが弱かったときに発せられる「こんちわ~す」が、個人的にはツボ。スペシャルシークレットゲストのドタキャンにより、突如として出演が決まったまんじゅう大帝国は「ものまね」をテーマにした漫才。ただ、単純に誰かのものまねをするというわけではなく、誰が誰のものまねをやって、それが人気を集めるようになって……と、一つの設定がじっくりと掘り下げられていく奇妙な内容のネタで、とてつもなく面白かった。いずれ出るであろう単独DVDを心待ちにしよう。
日本エレキテル連合は2015年にリリースされた『グッバイヒューズ』に収録されているコント。彼女たちのファンではない観客の前で披露された場合、どのようなリアクションになるのかワクワクしながら観ていたが、思っていたよりもしっかりと爆笑をかっさらっていたので一安心。流石だ。終盤、とあるスキャンダルに見舞われた芸人のことを、しれっとイジッたのも笑った。つぶやきシローはいつもの漫談。ただ、妄想ネタには突入せずに、最初から最後までがっつりと“あるあるネタ”だけで乗り切っていた。あの質の高さと量の多さは異常としか言いようがない。ある種のバケモンだ。タイムマシーン3号は「どぅっかん!どぅっかん!」でもやっていた、世の中の人たちが太ってきたら生まれるであろう「太い陸上」「デブニーランド」のネタ。「デブニーランド」はかなり昔のネタなのだが、ここにきてリバイバルされるとは。
長井秀和は観客の期待に応えるカタチで「間違いない!」を連発し、そこから「ピン芸人ならフリップネタも出来ないと……」と、絶対にテレビでは放送することの出来ない「こんな(某宗教団体)はイヤだ!」を披露。それから更に「こんな(某宗教団体名誉会長)は(某宗教団体総裁)だ!」と更に悪意に満ちたネタを始め、一部の観客の腹を爆発させていた。そろそろ暗殺されるんじゃないか。そんな長井の後の空気をものともしなかったハライチは、「○○のヤーツ」フォーマットではない新しいスタイルの漫才で勝負。他に類を見ない設定もさることながら、澤部をどんどん追い詰めていくボケの方法がトリッキーで最高に面白かった。ただ、こういうネタは、M-1グランプリだと過小評価されそうな気もする。負けるな! BOOMER&プリンプリンはお馴染みのカルテットコント。藤井四段をテーマにした内容で、とことんバカバカしかったのに、四人の芸人としての風味が染み込みすぎていて軽いのやら重いのやら分からないトーンが不思議な後味に。そういうところがまた楽しい。
トリを飾った爆笑問題は、今まさに世間を騒がしている人たちの一人一人をクローズアップしていく漫才。まさに爆笑問題の本領発揮といったところ。しかし、不倫絡みの人たちが大半だったためか、漫才の内容の八割が下ネタというえげつない状況へ。更に、我らがウーチャカこと田中が大胆にネタを飛ばすも素知らぬ顔をしてネタを続けようとするも、観客には完全にバレバレという事態が発生。そんなこんなで色々と荒くれていたのだが、それすらもやたらに面白かった。
時間の関係上、エンドトークは短め。日本エレキテル連合が朱美ちゃんと細貝さんにフルチェンジしていて、そのサービス精神に少し感動めいた感情が湧き上がる。
午後九時四十五分、閉幕。
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