白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「コント集団 カジャラ 第四回公演「怪獣たちの宴」」(2019年3月21日)

怪獣を目撃するために大阪へ行くことにした。

無論、ここでいう怪獣とは、いわゆるゴジラモスラキングギドラのような特撮怪獣のことではなく、また、ネッシーヒバゴン、モケーレ・ムベンベのような未確認生命体のことでもない。ラーメンズ小林賢太郎が代表を務めるコント集団・カジャラの第四回公演のことである。タイトルが『怪獣たちの宴』というところから、このように表現した次第である。

カジャラの出演者は回が変わるたびに変動している。今回は、なだぎ武竹井亮介小林健一、加藤啓、辻本耕志、小林賢太郎といった顔ぶれが舞台に上がる。竹井、辻本、小林は第一回から欠かさず参加し続けている皆勤賞だ。……尤も、小林はカジャラの代表なので、絶対に参加しなくてはならない立場なのだが。なだぎ武は史上初の芸人からのキャスティング。以前、かつて“アクシャン”として活動していた安井順平が参加したこともあったが、現役バリバリの芸人が登場するのは初めてのことである(……と、ここまで書いたところで、そういえば辻本が“フラミンゴ”というトリオのメンバーだったことを思い出したが、ここ数年すっかり個々の活動メインになってしまっているみたいなので、敢えて無視する)。

公演前日の三月二十日、仕事を定時で上がった私は大阪へと向かう高速バスに乗り込むため、愛車で善通寺インターバスターミナルへと向かった。職場を出て五十分後、発車時刻の午後六時を迎える五分前ギリギリに到着。危うく遅刻するところだった。愛車を有料駐車場に停め、移動中に立ち寄ったコンビニで買ったおにぎりを車中で食し、そそくさとバスに乗り込む。平日の夕刻だからなのか、やけに空席が目立った。後部座席に人の姿が見えなかったので、緩やかにシートを傾ける。善通寺から大阪の難波まで、三時間半の気楽な旅の幕開けだ。

バスの中では、スマホに入れていたradikoアプリのタイムフリー機能を使って『爆笑問題カーボーイ』『柳原可奈子のワンダフルナイト』を聴きながら過ごした。ご陽気だ。ところが、このradikoアプリの具合が、どうも芳しくない。時折、勝手に再生が止まるのである。いきなり音が止まるので、どうしたことかとスマホの画面をチェックしてみると、勝手にアプリを終了してしまっている。以前から見られた現象ではあるのだが、新しいバージョンに切り替えられたことで、より頻度が高くなってしまったように思う。なんとも頼りない。

午後九時半ごろ、バスの停留所がある〈なんばパークス〉に到着。ひとまずホテルへ向かうべきところだが、せっかく大阪まで来たのだからスケベーな店に行かないわけにはいかないという強い意思の元、行きつけの店が入っている雑居ビルへ。事前に連絡を入れずにフリーで飛び込んだのだが、既に予約が詰まっていて、今日は入れないとのこと。ホームページには、まだまだ余裕があるように書かれていたのに。アウトローな店はこれだからいけない。落胆していると、お詫びにと割引券を頂戴した。こういう状況への対処法を考えているとは、実にしっかりとした店である……と、あっさりと掌を返しながら、受け取ったチケットを確認すると今年の四月まで有効とある。期限が近いよ!

このままスケベーな店で駄々を捏ねていても、スタッフルームで出番を待っているであろう超兄貴の黒光りした上腕二頭筋のパワーで夜の街にクシャクシャにされて捨てられるだけなので、すぐさま店を出て今夜の宿へと向かう。昨年末にも利用したカプセルホテル〈サウナ&カプセル アムザ〉である。広くて明るくて大浴場もあるステキなホテルだ。過去に何度も利用しているので、スムーズにチェックインを済ませる。と、同時に、昨年末に利用した際にうっかり忘れてきてしまった、外出用のメガネを粛々と受け取る。電話のみで存在を確認していたので、「そのメガネは果たして本当に私の所有物なのだろうか?」という疑念を少なからず抱いていたのだが、受け取ってみると、きちんと私のメガネだったので一安心。また忘れてしまわないように、すぐさま鞄の中にそっと仕舞った。

その鞄をロッカーに預け、外出。夕食を取らなくては。既に午後十時を過ぎているというのに、難波の街は沢山の人で溢れていた。同時に、様々な飲食店が、夜光虫の様に街を浮遊する人々を誘惑する。私のような外様の者を迎え入れる寛大な店は何処にあるのか。迷いに迷った挙句、辿り着いたのは、独特な味付けのラーメン屋として知られている〈どうとんぼり神座〉。過去に何度も訪れている、行きつけの店である。結局、この機会に、新しい店を開拓できない臆病な自分が些か情けない。肝心のラーメンは、やたらに熱くて味がよく分からなかった。それでもまた、足を運ぶことになるだろう。

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食後、スケベーな店への思いを捨て切れず、難波の街を彷徨う。飲食店がそうであるように、スケベーな店も数多の客たちを手招きしているが、やはり優柔不断な性格が災いして、何処にも行くことが出来ない。惨めだ。そんな自分にいよいよウンザリしてしまい、戒めとして、〈三豊麺〉でつけ麺を食べる。まさかの深夜にラーメン屋のハシゴである。絶対に身体のためにはならない。だからこそ戒めなのである。本当である。嘘ではない。とても美味しかったけど。とても、とても美味しかったけど。

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満腹になったところで、ホテルに舞い戻る。すっかり汗まみれになった下着と肌着を脱ぎ捨て、大浴場で身体を清め、館内着に着替えてカプセルに滑り込む。翌日の予定を考慮して、この日は早々と就寝……するつもりだったのだが、どうも寝付けない。仕方がないので、手元のスマホTwitterを眺めていると、いつの間にか午前二時を過ぎてしまう。良くない。布団を被って、自分にとって心地良い姿勢を探し出し、どうにかこうにか眠りにつく。

午前四時ごろ、目が覚める。寝た気がしない。再び寝る。

午前六時ごろ、目が覚める。まだ寝た気がしない。再び寝る。

午前八時ごろ、目が覚める。ひとまず寝た気がするので、起き上がる。

華麗に用を足し、自宅から持ってきた電動カミソリで髭を剃る。どうも滑りが良くない。髭剃り専用液も合わせて持参すべきだったか、と知見を得る。館内着から私服に着替え、ロッカーから鞄を取り出し、チェックアウト。曇天の空を睨み付ける。折り畳み傘を用意してはいるものの、出来れば雨は降らずにいてほしい。ひとまず朝食を取るために、二十四時間営業のたくましいラーメン屋〈一蘭〉を訪れる。明らかに年上の東洋人女性から低姿勢な接客を受けて、何故だか申し訳ない気持ちになってしまう。一蘭はカウンター席に仕切りが配置されていて、隣の人のことを意識せずにラーメンを味わうことが出来る……という触れ込みになっている。そこまでしないとラーメンに集中できないものなのだろうか。それぞれの席に一本ずつ水道管が設置されていて、そこでコップに補水することが出来る。工事が大変そうだ。ラーメンはとても美味しかった。替え玉を頼んでしまった。

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食後、どうしてもスケベーな店のことが心残りだったので、心斎橋のとある店へ。都会には午前六時から開けているスケベーな店が幾つも存在している。それだけ早朝から欲望を高ぶらせている人間の需要があるということなのだろう。具体的な相手を指名しないフリーでの突入を受付で宣告し、相手の準備が整うまで客が待機させられる待合室に入ると、そこには七人ほどの先客が。こういう状況下だと、私は他の客に親近感を覚えることが多いのだが、この時はむしろ「なんでこの人たちは、こんな朝からこんな店に来ているのだろう」と、完全に自身を棚に上げていた。思うに、こういう店に来るような客特有の、陰気でむさ苦しい雰囲気を醸し出していなかったためだろう。彼らには今時の若者といった風情の爽やかさがあった。わざわざスケベーな店に来なくとも、相手は幾らでも見つけられそうなものだが……と、偏見を剥き出しに思考する。

十分ほどで呼び出され、お相手と対面。その地味な顔つきに少なからず驚く。公式サイトには、まるでキャバクラ店で人気を競い合っているような、全身からエネルギッシュな光を放っている人たちの画像が並んでいたので、てっきり、そういう系統の相手が来るものだと思っていたのだが。そこに居た相手は、あまりにも地味で控え目な雰囲気の方だった。まあ、予約もせずにフリーで、しかもイベント割引(50分10,000円)を利用する客に宛がう相手など、この程度のものだろう。……などと、完全に侮っていたが、これがまあなんというかとんでもなかった。具体的に書いてしまうと十八禁レポートになってしまうので触れないが、この金額で本当に良いのだろうか?と後ろめたさを感じてしまうほどに、とんでもなかった。サービス後に思わず名刺を要求してしまった。

店を出て、最寄りのなんば駅から御堂筋線中津駅、従兄弟が働いているラーメン屋〈麦と麺助〉へと向かう。昨年末、大阪に遊びに行ったときにも訪れたのだが、その時は行列に並んでいるうちにバスの発車時刻が来てしまったので、入店することが出来なかったのである。「今度こそは!」と息巻いていたのだが、店の前に到着すると、開店から十五分も経過していないのに、既に二十人ほどの行列が。その人気ぶりに改めて驚かされながら、今回も撤退。開演時刻まで三時間の猶予があったが、それでも前回、二時間ほど待たされても店内に入れなかったことを思うと、なかなか難しいだろうと判断した次第である。もう少し予定に余裕がある状態で来なくては……。

とはいえ三時間は長いので、梅田の街を散策して時間を消費することに。ひとまず阪急三番街のコインロッカーに鞄を預け、身軽になったところで前回も訪れたメロンブックスを再訪。学生時代はアダルトな版権モノ同人誌にばかり熱を上げていたが、年を重ねたせいか、最近はニッチなジャンルを掘り下げる一般向けオリジナル同人誌が自分の中で面白くなっている。結果、五冊ほど購入。合わせて、施川ユウキの傑作『鬱ごはん』の第三巻を見つけたので、これも入手する。

スマホを確認すると、そろそろ昼食を取らなくてはならない時刻。食事を取れそうな店を探索する。しかし、昨夜と同様、優柔不断な性格が災いして、ここぞという店が決められない。結果、三十分ほど彷徨ったところで、カジャラの公演会場であるサンケイホールブリーゼへと向かう道の途中にあった〈焼賣太樓〉に入る。実は一度、サンケイホールブリーゼを有するブリーゼブリーゼ内にある飲食店を利用しようとも考えたのだが、あまりにも高かったので(パスタ一皿二千円は私の金銭感覚に高すぎる)、わざわざ来た道をUターンしてしまった。日替わり定食を注文。担々麺とチャーハン、焼売が二個。なんとも慎ましい組み合わせである。気付けば開場時刻を過ぎていたので、これらをササッと口の中へ。

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速やかに昼食を終え、サンケイホールブリーゼへ。チケットをもぎってもらい、ロビーに入ると、すぐ目の前に物販コーナーが。何が売られているのかを確認せずに、とにかく列に並ぶ。終演後に買い求めることも可能なのだろうが、それが気になってライブに集中できなかったら元も子もない。前回公演の上演台本、ボールペン、バインダーを購入。……今にして思うに、バインダーは別に買わなくても良かったような気がしないでもない。購入後、それらの一部を肩掛けバッグに詰め込んでいると、ロビーの一角に【終演後、なだぎ武吉本坂46のCDを手売りします】と書かれたメッセージカードを発見する。これもまた過去のカジャラでは見たことのないシチュエーションである。

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一度、トイレで用を済ませて、自らの指定席へ。事前に手に入れていたチケットに一階席のT列(二十列目)と記載されていたので、かなりステージから離れているのではないかと危惧していたのだが、いざ座ってみると、さほど遠くに感じられなかったので安心した。ステージとの距離が開き過ぎると、ライブ特有の一体感から疎外されたような気分になるので、こういった些細なところがどうも気になってしまう(前回の公演で二階席だったときには、そのことを痛感させられた)。座っている間、入場時に受け取ったライブのフライヤーを眺める。ケラリーノ・サンドロビッチの名作『フローズン・ビーチ』の再演が気になる。あの世界観ならば、ブルゾンちえみは適役だろう。

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午後二時開演。午後四時過ぎ終演。

きっとソフト化されるので詳細な感想は避けるが、なかなかに面白かった。ほぼほぼレギュラーメンバーと呼んでいいだろう辻本耕志・竹井亮介小林賢太郎は地盤固めのためのフォローする側に回り、二度目の参加となる小林健一、初参加となるなだぎ武・加藤啓の魅力を放出していた回だったように思う。特になだぎは素晴らしかった。標準語で喋る面々の中で、唯一の関西弁が醸し出す絶妙な違和感。また、芝居の人間とは明らかに一線を画した、芸人特有のコミカルな所作。どちらも、これまでの小林賢太郎の舞台には無かったもので、まさしく新しい風(それも突風)となっていた。無論、小林、加藤の活躍ぶりも素晴らしかった。

終演後、CDを手売りするというなだぎ武のことを、ひっそりとロビーの壁際で待ち構える。五分ほど待機していると、前説・舞台転換を担当していた黒子が登場。壁にぴったりとくっつけていた机を引き出して、その上に数十枚のCDをセット。更に、お釣り用と思われる小銭がびっしり入っている小箱を用意。これは出るヤツだ。出てくるヤツだ。じっと見ていると、カジャラの公演Tシャツを着たなだぎがしれっと登場。驚くべきオーラの無さ。否、これぞ舞台人の有り様というべきか。目の前の女性二人組がさっと前に出て、CDを購入、なだぎと雑談を交わしている。場慣れしている。こういう場に上手く対応している。どれほどの経験を積めば、そんな風に自然に芸能人に話しかけられるのか。私は毎公演舞台を鑑賞している東京03と握手するときですら緊張の坩堝に飲み込まれるというのに。羨ましい。人だかりが出来る前に済ませてしまおうという浅ましい考えが脳裏を過ぎったので、彼女たちの脇に待機する。前に出て、1,200円を支払い、CDを受け取る。「お疲れさまでした! キレッキレでした!」とだけ伝えて、立ち去る。どうにもこうにも無難なコメントに逃げてしまう自分がひたすらに情けない。ううっ。今回は情けないポイントがたまり過ぎている。そろそろ情けなクーポンが発行されるに違いない。要らない。

くよくよしていても仕方がない。バスの発車時刻までに、やるべきことをやらなくては。まず私が向かったのは〈グランフロント大阪〉内にある紀伊國屋書店ヨーロッパ企画のDVDが置いてあるのではないかと思い、フラッと立ち寄ってみたところ、初期作品を複数枚発見。しかし、ここは以前から気になっていた作品を優先し、比較的最近の公演を収録した『月とスイートスポット』を購入。続いて向かったのは〈ヨドバシ梅田〉。八階のレストラン街に赴き、〈伝説のすた丼屋〉にて初めて“すた丼”を食べる。想像以上にニンニク臭が強く、これから高速バスに乗り込む人間が食べるべき代物ではないなと反省する。

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食後、阪急三番街へ。バスの発車予定時刻は午後七時。この時点で、時刻は午後五時半を回ったところ。ちょっと時間が余ってしまった。仕方がないので、バス乗り場のすぐ近くにあった喫茶店〈VICTOR〉で休憩。アイスコーヒーといちごパフェ(セット)を注文する。ひとまずパフェから食べる。甘い。適度に甘い。甘さと幸せは同義である。しかし、パフェを掘り進めていくと、なんと中身はいちご風味の寒天。これは果たしていちごパフェと呼んでいいのかどうなのか。まあ、この際、味の方はさして気にしない。あくまでも目的は休憩を兼ねた時間の消耗である。

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午後六時半ごろ、店を出る。発車予定時刻まで三十分。お土産を買って、トイレを済ませて、それでも時間は十分に余る。会社用と家族用のお土産をそれぞれに購入し、待合室へ。ここで、ふとバスの時刻表が目に留まる。午後七時発、香川行のバスが見当たらない。はて。どういうことなのか。もしや出発地点を間違えたか。慌ててバスのチケットを確認すると、午後七時ではなく午後七時半出発だということが発覚。「なんだ。場所を間違えた訳ではないのか」と一安心……と同時に、まだ一時間も待たなくてはならないことに気付き、どっと疲れが押し寄せる。仕方がないので、ロッカーから荷物を出して中身を整理したり、スマホをイジったりしながらひたすらに待ち続けた。

午後七時半、バスに乗り込む。行きと同様、シートを静かに傾けたところ、後ろの席の人に「ちょっと上げてもらってもいいですか……?」と注意された。てっきり誰も居ないと思っていた。誠に迂闊である。バスは阪急三番街を出発し、なんば駅ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、三宮バスターミナル、高速舞子を経て、午後十一時半ごろに善通寺インターバスターミナルへ到着。長旅だった。移動中はradikoのタイムフリー機能で『ラジ(コ)フェス』を聴いていた。ことあるごとにピエール瀧の話題を放り込む太田光が流石だった。

午前零時、帰宅。お疲れさまでした。