令和元年の視聴覚室

平静を装いながら突き進め。

「ハナコ「しぼりたて」」(2019年2月27日)

しぼりたて [DVD]

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思い返してみると、2018年は若手が台頭した年だった。

R-1ぐらんぷり」を制した2013年デビューの濱田祐太郎、「キングオブコント」王者に選ばれた2014年結成のハナコ、「M-1グランプリ」で優勝を果たした2013年結成の霜降り明星……いずれも芸歴10年未満の若手である。お笑い芸人の増加に伴い、ベテラン~中堅層が詰まっていると嘆かれている昨今の芸能界において、これは特筆すべき事態といえるだろう。無論、これはあくまでもきっかけに過ぎず、彼らの戦いはまだ始まったばかり。これから更に、並み居る強敵を相手に戦う日々が待っているのである。とりあえずオールスター感謝祭での立ち振舞いから考えていかねばならないだろう。本作は、そんな若きチャンピオンの一角、ハナコの代表作を収録したベスト盤である。

ハナコ菊田竜大秋山寛貴、岡部大によるトリオだ。三人は2011年にワタナベコメディスクールを卒業、菊田と秋山はコンビ"ウエストミンスター"として、岡部はコンビ"エガラモガラ"のメンバーとして、それぞれ活動していた。しかし、エガラモガラは、惜しまれながらも2013年に解散。一人になった岡部がウエストミンスターに加わる形でハナコが結成された。所属事務所は、ホンジャマカネプチューンを有するワタナベエンターテインメント。ハライチやロッチのように、ネタが高く評価されている芸人も少なからず在籍しているが、基本的にはタレント志向の強い事務所である。このような事務所から、職人気質なハナコのような芸人が輩出されたのは正しく幸運といえるだろう。宝の持ち腐れとならないことを祈るばかりである。

本編に収録されているネタは十本。全てコントである。演芸番組で目にしたことのあるネタが多いことから、ファンではない人間にも見せられるようなベスト盤に相応しいネタがきちんと編み上げられていることが分かる。但し、彼らが『キングオブコント2018』決勝の舞台で披露した『犬』『追いかけっこ』はいずれも未収録。コンテンツリーグが発行しているフリーペーパー『SHOW COM』に掲載されているインタビューで、彼らがその理由について語っている。曰く「『スラムダンク』も、最後の山王戦の試合を超えられないから井上雄彦先生は描くのをやめたって言われてるんですよ。あの試合以上は描けないって。だから、ハナコ、一緒です」とのこと。要するに、キングオブコントの決勝戦で披露したパフォーマンスがベストで、これ以上のものは出せないということなのだろう。気持ちは分からなくもないが、それでも、コレクターとしては、彼らの才能を証明した素晴らしき名作をソフトとして手元に置いておけない悔しさを噛み締めずにはいられない(ただ『犬』に関しては、同じ事務所に所属しているトリオ漫才師・四千頭身との合同ライブの模様を収録した『ハナコ・四千頭身合同公演「ハナ頭身 ~夏の思い出~」』に収録済)。いずれ、何かの気まぐれに、ソフト化してくれると有難いのだが。

とはいえ、収録されているネタは、いずれもソツなく面白い。久しぶりに連絡を貰った友人と待ち合わせているという男から延々と人違いされ続ける『待ち合わせ』、博士が発明したタイムボックスに乗り込んで石器時代へと旅立った助手が当時の人間を連れ帰ってきてしまう『タイムワープ』、結婚式の最中に飛び込んできた男が花嫁を奪おうとするも断られてしまう『結婚式』など、多種多様なシチュエーションをしっかりと活かした上で笑わせている。ハナコのコントでは、基本的に岡部と秋山の対比が描かれている。独特の熱を帯びた岡部のキャラクターと、そんな彼に巻き込まれている一般人としての立ち振る舞いを崩さない秋山の差異が、笑いへと昇華されているのである。それだけでも十分に面白い。

しかし、そこに菊田という第三の男が上手く調合されることによって、状況に更なるブーストが掛かる。例えば、空手の師範(秋山)が行っている体験教室に、我流で空手を覚えて師範を気取っている生徒(岡部)がやってくる『空手体験教室』というコントでは、菊田はただ単に一般の生徒として登場する。本来ならば、居ても居なくてもいいようなポジションである。だが、所用で秋山がその場を離れ、岡部がこっそり師範のように空手を指導し始めると、菊田は微塵も抵抗することなく言う通りに間違った空手の動きを練習し始めるのである。その瞬間、それまで無用の長物だった菊田に意義が生じ、岡部のクセのあるキャラクターに支配されていたコントの面白味にブーストが掛かる。どうしても必要な存在ではないかもしれないが、もしも菊田がいなければ、ハナコのコントはここまで面白くなることはなかっただろう。

個人的に好きなネタは『カレー』。親しみやすいキャラクターでとても優しいカレー屋のご主人が、ナンのお替わりを注文されたときだけ、何故か強く激昂する……というコントである。カレー屋のご主人を演じている岡部による見事な感情表現もさることながら、そのインド風な衣装の説得力がたまらない。そして、どんなに怒鳴られようが、屈することなく淡々とナンを頼み続ける菊田。アンガールズ『カレー』、シソンヌ『インドカレー』とともに、日本三大カレーコントとして語り継いでいきたい。また、テーマパークのアトラクションに気持ちが入り込み過ぎている一般客(岡部)が、キャスト(菊田)と同じ世界観に溶け込んでしまう『アトラクション』も印象的。こちらの菊田はきちんとキャストとしての演技をこなしていて、だからこそ、一般人なのに演技に加わっている岡部と競合している様が面白い。

ただ、どれほど面白くても、本作はあくまでベスト盤。「面白くて当たり前」なのである。芸人が自らの才気を如何無く発揮できる単独ライブでこそ、その真価が発揮されるというもの。というわけで、次回は是非とも単独ライブのソフト化を願いたいところなので、本作がバカみたいに売れてくれることを祈るばかりである。

これら本編に加えて、特典映像として「秋山の地元 岡山県に戻って家族&親戚一同にKOC優勝報告」を収録。文字通り、ハナコの三人が秋山の実家に戻って、KOC優勝の報告をする……というロケの模様が収められている。テレビで放送されているような和やかな田舎のイメージからかけ離れた、人気も生活音もまるで感じられない秋山の地元のリアルな田舎ぶりに、テレビ画面の中で苦笑している岡部と菊田とまったく同じ表情になってしまった。ここまで寂れている田舎がストレートに撮影されることなんて、なかなかに珍しいのではないだろうか。いやー……頑張ってほしい。

◆本編【61分】
「待ち合わせ」「空手体験教室」「タイムワープ」「カレー」「結婚式」「依頼」「アトラクション」「なによ」「ゴリポン」「見送り」

◆特典映像【14分】
「秋山の地元 岡山県に戻って家族&親戚一同にKOC優勝報告」