白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「うしろシティ単独ライブ「どこが海のみえるまち」」(2018年11月14日)

うしろシティ単独ライブ「どこが海のみえるまち」 [DVD]

うしろシティ単独ライブ「どこが海のみえるまち」 [DVD]

 

2018年6月16日から7月29日にかけて全国五都市をツアー展開した単独ライブより、同年8月8日に座・高円寺2で行われた追加公演の模様を収録。

うしろシティといえば、「キングオブコント2012」決勝の舞台で披露された『転校生』(阿諏訪演じる目立ちたがり屋な転校生が、金子演じるもう一人の転校生の転校生としてのステータスの高さに恐れ戦くコント。コントの中で不意に登場する謎のアイテム“もぎぼっこり”が話題となった)のイメージが今でも根強いのではないだろうか。しかし、近年の彼らは、そういったナンセンスな面白さだけに重点を置いたコントから脱却し、人間同士の考え方のズレによって生じる理不尽をテーマにした深みのあるコントを表現しようと努めている。

本作でも、その傾向は色濃い。例えば『焼き鳥屋』。焼き鳥をメインで取り扱っているのに、常連だけに出していた裏メニューのラーメンが焼き鳥以上の人気を集めてしまった焼き鳥屋(阿諏訪)に、ラーメンを目当てにやってきた客(金子)が入店するコントだ。お店の新しい魅力を次々に見出していく客に対し、お店を褒められながらもメインの焼き鳥がどんどん放置されていってしまうことに釈然としない店主の構図がたまらない。また、山奥で絵を描き続けている画家(阿諏訪)の元へ、とある客(金子)が画家のまったく想像していなかっただろう理由で彼の絵を買いにやってくる『山奥の画家』というコントも、とてもイヤらしい切り口で実に面白かった。このコントに関しては、詳細を書いてしまうと面白さが半減してしまうので、実際に確認していただきたい。

ただ、全体を通してみると、まだまだスタイルを掴み切れていない印象を与えられた。いずれのコントも、確かに安定して面白い。だが、人間同士のギクシャクを描いたコントにしては、同様の方向性で大きな笑いを掴み取っている、東京03さらば青春の光に比べると、明らかに笑いの量が少ない。思うに、この二組がコントの切り口の核となっている部分と実直に向き合っているのに対して、うしろシティは設定を深追いしようとしていないためだろう。先の『焼き鳥屋』にしても、本来ならば焼き鳥屋の店主の複雑な心境に注目すべきところを、お店の新しい魅力を次々と発見してしまう客の異常性を広げてしまっている。そのため、折角の設定が活かしきれていない。いわば、彼らが以前から大事にしていた、ナンセンスな表現に固執してしまっているのである。そこにこだわるのであれば、無理に凝った着眼点を見せる必要はない。面白い視点で日常を切り取るか、ヘンテコな人たちのナンセンスな笑いを繰り広げるか、どちらかを選ぶべきだろう。勿論、このまま続けることで、まったく新しい地平を見つけることが出来る可能性は否定できないが。……いや、しかし、そうなると、そこにはシティボーイズがいるのでは……。

これら本編に加えて、ライブの幕間映像に使用された「ルールも分からずやってみた」(未公開映像含)と副音声解説が収録されている。幕間映像は毒にも薬にもならないようなゆるい内容だったが、副音声解説はなかなかに面白かった。なんと、この副音声の音声録りの日に阿諏訪が遅刻、その後の予定も控えていたため、急遽として金子とコンテンツリーグ関係者の平山聡氏が収録に臨んでいるのである。なかなかに珍しい事態だ。しかも、この金子と平山氏のコメンタリーが、かなり興味深い。ライブを鑑賞した一個人としての立ち位置を崩さない平山氏の素朴な質問に対し、金子がフザケることなく、かなりきちんと答えている。DVDコレクターとしては、「他の芸人のDVDを観ることはあるんですか?」という質問にはちょっとシビれた。しばらく録音したところで、阿諏訪が遅れてやってくるのだが……正直、来なくても良かったのでは(流石にそれはダメか)。

◆本編【101分】
「帰省」「予約の青木です」「焼き鳥屋」「駄菓子屋」「僕は変わるんだ」「おじいちゃん大好き」「山奥の画家」「ひさしぶり」「陶芸家」「才能とは」

◆特典映像「ルールも分からずやってみた」【23分】
「はじめての空手の形」「はじめての新体操」「はじめての空手 1回目 フルVer.」「はじめての新体操 リボン編」「はじめての痛い空手編」

◆音声特典
うしろシティの副音声解説」