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土曜深夜の視聴覚室

芸人のDVDを見てなんやかんやいうブログ

「志の輔らくご in NIPPON 岡山公演」(2017年1月29日)

イベント

志の輔らくご in NIPPON」を観に行く。

毎年お正月に渋谷パルコ劇場において「志の輔らくご in PARCO1ヶ月公演」を敢行していた立川志の輔。同公演の開催は2005年から2016年までの11年間に及び*1、もはや師匠にとってパルコ劇場はホームと呼ぶに相応しい場所となっていた。ところが、渋谷パルコの建て替えに伴い、パルコ劇場も2016年8月をもって一時的に休館。ホームを失ってしまった師匠だったが、ここでふとひらめいた。「そうだ、このタイミングに御礼に出かけよう!」と。そこで2017年1月は「志の輔らくご in NIPPON」と題し、これまで東京のパルコ劇場へと足を運んでくれた日本各地のファンたちの元へ、師匠自らが出向くという全国ツアーを展開することとなったのである。

今回、私が参加することにしたのは、全12公演中11番目の開催地・岡山での公演だ。交通の便でいえば、5番目の開催地である愛媛での公演を鑑賞すべきだったのだろうが、その時期はちょうど仕事が立て込んでいたため、わざわざ瀬戸大橋を乗り越えて、岡山くんだりまで行くことになってしまった。……と、なにやら岡山に対する悪態をついてみたが、今回の会場が過去に何度も訪れている「岡山市民文化ホール」という見慣れた場所であったことを思うと、むしろ岡山公演を選んだのは正解だったといえるのかもしれない。

そんな会場に到着したのは、開演の十分前。チケットをもぎってもらって、ロビーを駆け抜けようとすると、志の輔師匠の落語会としては珍しく物販コーナーが設けられていたので、慌てて立ち止まる。売られていたのは、過去にリリースされたCDやDVD・Blu-ray、手ぬぐい、パンフレットなどなど。物珍しさから、何の気なしにパンフレットを立ち読みしてみると、過去の「志の輔らくご in PARCO」で演じられた演目や演目の解説、舞台美術家・堀尾幸男氏へのインタビューから関係者スタッフのコメントまで掲載されていて、とても充実した内容だったので購入(1,000円)。入口を通った際に渡されたクリアファイル(「in NIPPON」仕様)に挟み、ホールへと向かった。客席は二階だったが、さほど高座との距離を感じさせない、なかなかの好位置だった。

午後三時、開演。演目は以下の通り。

「質屋暦」

ゲスト:和力による「獅子舞」

「モモリン」

仲入り

ゲスト:和力による「三味線と歌と踊り」

「紺屋高尾」

通常の独演会とは違い、前座は無し。最初の演目は『質屋暦』。明治五年の師走、政府がいきなり旧暦から新暦に替えると宣言したために起こってしまったとある出来事を描いた新古典(舞台は一昔前の新作落語)である。設定はちょっとややこしいのだが(事実、マクラでは旧暦と新暦の説明に、かなりの時間を割いていた)、とどのつまりは質屋と貧乏夫婦を巡るドタバタ騒動劇で、とても面白かった。噺が終わると、ゲストの和力による獅子舞のパフォーマンスが。一月ももう終わろうとしているのに、賑やかな正月の頃へと感覚を押し戻してくれるような、とても御目出度さと躍動感に満ちたパフォーマンスだった。

そのまま間を空けずに、続いての演目は『モモリン』。ちょっとした気の迷いから、人気のゆるキャラ・モモリンの頭を被ってしまった市長が、そのまま抜けなくなってしまって困窮する姿を描いた新作落語である。シンプルな設定、シンプルな展開、シンプルなドタバタ劇と、何から何までシンプルなつくりになっているのだが、それでもしっかりと面白い。こういうシンプルな演目の時にこそ、芸人の実力は如実に表れる。次の展開も、オチも、なんとなく予想が付いていて、まさにその予想通りの展開を迎えているのに、どうにもこうにも笑ってしまった。市長の声が低くて渋いのが、また笑える……。

仲入りを挟んで、続いては和力による三味線、歌と踊りのパフォーマンス。正直、音楽の良し悪しに関しては、よく分からない。まあ、こういった類いのものは、何も考えずに素直に飲み込むのが正しいのと、私は思う。最後の演目は古典落語『紺屋高尾』。好きな演目だ。庶民には手の届かない花魁・高尾太夫に惚れてしまった染物屋の職人・久蔵が、必死になって貯め込んだ十五両を手に、身分を偽って吉原へと乗り込む……という恋愛大スペクタクル落語である。正直、この時点で少し疲れてしまって、ややウトウトしかけていたのだが、一番の見どころである久蔵が高尾に真実を語るシーンではっきりと覚醒、終盤の展開をしっかりと楽しめた。……正直、師匠の花魁は、あんまり色っぽくはなかったが。志の輔師匠の声は、中年に特化し過ぎているのかもしれない。

志の輔らくご in NIPPON」。2017年1月中に全国12都市を巡るというあまりにも精力的な本公演は、1月31日の大阪公演で千秋楽を迎える。パルコ劇場のリニューアルオープンが予定されている2019年まであと二回、とりあえず、来年1月をどう乗り切るつもりなのか……今から楽しみだ。

*1:これは「1ヶ月公演」に限った話で、パルコ劇場での独演会を開始したのは1996年から