白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「新世紀講談大全 神田松之丞」(2015年4月18日)

新世紀講談大全 神田松之丞 [DVD]

新世紀講談大全 神田松之丞 [DVD]

 

 (※「逢魔時の視聴覚室」にて2015年10月に公開されたものの再録記事です)

1909年に“大日本雄辯會”として設立された講談社は、その名の通り講談の速記本で人気を博した出版社だ。だが、講談社の本を愛読している人たちの中に、この事実を認識している者がどれほど居るだろうか。社名に“講談”の二文字がはっきりと記されているにも関わらず、講談と講談社の関連性について考えたことのある者がどれだけ存在しているのだろうか。……別に無頓着を責めようというわけではない。その事実を気付かせないほどに、講談は私たちの日常からかけ離れた演芸になっているということを言いたいのである。落語には日曜の夕方を代表するテレビ番組『笑点』があるが、講談には同趣向のテレビ番組が存在しないことが大きいように思う。演り手も非常に少ない。寄席演芸情報誌の『東京かわら版』が年に一度発行している「東西寄席演芸家名鑑」に掲載されている落語家の数と講談師の数を比較すると、その差は明白だ。……ここでわざわざ数えるような手間暇をかけるつもりはないので、その実態は直に確認してもらいたい。

そんな講談の世界に着目したシリーズ“新世紀講談大全”の第一弾である本作には、現在最も注目を集めている若手講談師・神田松之丞に迫ったドキュメンタリーが収録されている。松之丞がどうして今の時代に講談の世界へと身を投じようと決心したのか、彼の芸はどのように評価されているのか、これから講談の担い手として確固たる目標を抱いているのか、松之丞自身(或いは松之丞の師匠である神田松鯉)の声によって語られている。もちろん、高座もちゃんと収録されている。演じられているのは『違袖の音吉』『天保水滸伝 鹿島の棒祭り』『グレーゾーン』の三席。『音吉』『棒祭り』はいわゆる古典で、『グレーゾーン』は松之丞が自ら手掛けた新作だ。この堅苦しい演題から、時代錯誤の古臭い物語が展開するのではないかと想像した人も少なくないだろう。だが、それは間違った認識だ。確かに物語の舞台は古典的ではあるが、その内容は現代人であっても楽しめる普遍的なものである。

『違袖の音吉』は浪華三侠客の一人と称される“違袖の音吉”の幼少期を描いた演目だ。上方講談の連続物『浪花侠客傳』からの一席で、12歳の音吉が橋のド真ん中で衝突した大親分・源太源兵衛に噛みつく様子を演じている……と書くと、なんとも面倒臭そうな話に見えるかもしれないが、要するに世間から恐れられている親分に向こう見ずな子どもが啖呵を切る話である。この12歳の音吉の減らず口が非常に面白い。相手がどれだけの大物であろうが、脇差を抜こうが、真正面から勝負に持ち込まれようが、とにかく喋ることを止めようとしない。でも、理路整然としているわけではなく、しっかり慌てふためいているところが、また可笑しい。特に笑らせられたのは、大親分に脇差を抜かれて、対抗すべく自身の持ち物の中から窮地を脱するための道具を探す場面だ。大幅に脚色が施されているのだろう、それまでの流れから明らかに突出したバカバカしさだった。

続く『天保水滸伝 鹿島の棒祭り』は実在した侠客・笹川繁蔵と飯岡助五郎の争いを講談化した長編連続講談『天保水滸伝』からの抜き読みで、千葉道場の俊英だったが酒乱が故に破門となった剣客・平手造酒が笹川の用心棒となり、敵方である飯岡の用心棒と一戦を交えるまでの行程が語られている。用心棒同士が接近する様子がなんとも緊張感漂っていて、一般的に講談に持たれているイメージに近い演目だったが、これまた笑えた。しっかりと作り上げられた緊張感があるので、それが緩和される瞬間、何とも言えない面白味になるのである。飯岡の用心棒を切ろうと剣を構えた平手の目の前に謎の人物が飛び出してくる、あの絶妙な間が実にたまらない。確かな手腕に裏打ちされた冒頭の宣言も含め、非常に満足感の残る口演であった。

しかし、本作で最も多くの人たちに観てもらいたい演目は、三席目の『グレーゾーン』である。物語は二人の平凡な中学生・吉田と柿元のやりとりで幕を開ける。彼らは昼休みになると、いつも大好きなプロレスの話で盛り上がっていた。とはいえ、プロレスの話をするのは吉田ばかりで、柿元はそれを聞いて驚くだけの聞き役に徹していた。そんな二人のプロレス談義に水を差そうとする連中もいたが、彼らは……もとい吉田は理屈で言い負かした。吉田はプロレスを信じていた。そんなある日、一冊の暴露本が世に出回ることとなる。プロレスの舞台裏を明かしてしまったミスター高橋の『流血の魔術 最強の演技』である。この本の登場によって、吉田は学校から居場所を失ってしまう。そして彼は、口先だけで生きていける世界へ飛び込むことを決意する……。白とも黒とも分からない曖昧な領域、グレーゾーン。それを外から見ている私たちの勝手な願望と詮索、その中で生きている人たちの葛藤と苦悩、両方の角度から切り取った見事な一席だ。プロレス、大相撲、落語を絡めた少しマニアックな情報も、この物語に厚みを加えている。これは演者の努力ではなく制作側の話になるが、分かりにくい小ネタに解説テロップがついているのも有難い。テレビのようにスタッフの自尊心が垣間見えるような派手なテロップではなく、空気を崩さない程度の違和感無い演出に留めている配慮が素晴らしい。極論、本作はこの演目を記録するためだけに存在していると言っても、過言ではない。それほどに魅了された。熱量に飲み込まれた。後半、やや内輪ネタに偏っているが……それでも十二分に面白い。

講談は古い。そんなイメージがあるのは百も承知だ。でも、一つ思い切って、その敷居を越えてきてもらいたい。一歩、一歩踏み出すだけでいい。その一歩を踏み出す勇気があったなら、最初に本作を足掛かりにしてもらいたい。神田松之丞、1983年6月4日生まれの現代人が、現代の言葉でもって普遍的な笑いを含んだ物語を繰り広げている。これを観れば、きっと講談の世界の自由さに興味を抱くはずだ。いや、抱かなくてもいい。

本作は文字通り、必見である。

■本編【110分】
「神田松之丞インタビュー」

「違袖の音吉(2014年5月10日・末廣深夜寄席)」

「神田松之丞インタビュー」

「師匠 神田松鯉インタビュー」

「天保水滸伝 鹿島の棒祭り(2015年2月14日・末廣深夜寄席)」

「神田松之丞インタビュー」

「グレーゾーン(2014年12月26日・神田連雀亭)」

「神田松之丞インタビュー」

「人を傷つけない笑い」と佐久間一行。

4月7日放送予定の「ENGEIグランドスラム」に佐久間一行が出演する。

他の出演者が推薦する“今、この芸人がすごい!”という特別枠での出演らしい。「R-1ぐらんぷり2011」王者である佐久間が、どうして特別に設けられた枠で出演させられるのか、些か理解に苦しむ。番組に出演するためのハードルを上げて、番組のタイトルをブランド化しようとしているように見える。演芸番組が何を偉そうに……と思わなくもないが、とはいえ影響力のある番組への出演は喜ばしいことである。

しかも、既出の報道によれば、どうやら佐久間は『井戸』ではないネタを披露したらしい。確かに『井戸』はR-1優勝に貢献した名作である。陽気なメロディとともに踊り出す井戸自体のお化けに扮した佐久間の姿は、見ているだけで気持ちがホンワカさせられる。傑作といってもいい。だが、何度も何度も同じネタばかり見させられては、どうしても飽きてしまうのが人の常というものだ。

それなのに、R-1優勝後の佐久間は、とにもかくにも『井戸』のネタをやらされていた。先日もとあるネタ番組で久しぶりに佐久間がネタをするというので見ていたら『井戸』のネタだった。口惜しかった。私は別に佐久間のファンではなかったが、彼が他にも面白いネタを持っていることを知っていた。もっと面白いネタがあるのに、どうして未だに『井戸』をやらなくてはならないのか……否、世間に見せなくてはならないのか。その悔しさが今、ここで晴れるわけである。『井戸』以外での番組への出演をきっかけに佐久間がバカ売れしてくれることを祈るばかりだ。

……と、ここまで私が佐久間を持ち上げるのには理由がある。佐久間はいわゆる「人を傷つけない笑い」をコンスタントに生み出している希有な芸人だからだ。

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「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2017」

こんばんは。

一年ぶりにアレをやります。ではルール。

・このランキングは筆者が一方的に決め付けたランキングである。

・このランキングは2017年にリリースされた全ての作品を対象としているわけではない。

・このランキングは雰囲気で決めているので、後で意見が変わる可能性も否めない。

・だからあんま真に受けるなよ。

こんな感じです。

あ、そうだ。謝罪があります。今年こそ、もっと早めに開催するつもりだったのですが、まさかまさかの昨年よりも遅くなってしまいました。申し訳ないです。まあ、この企画のことを、そこまで本意気に捉えている人もいないでしょうし、だからこそ、今頃になっての2017年総決算企画であります。

それにしても、2017年の選出は大変でした。あまりにも豊作で。正直、「あっ、これはベスト10に入るレベルの出来だな」と思っていた作品が、第11位以下にズラリと並んでおります。具体的に挙げると、『小林賢太郎最新コント公演 カジャラ #1 『大人たるもの』』『だーりんずベストネタ集「カツライブ」』『シソンヌライブ [cinq]』『天竺鼠5』あたりは、例年ならば余裕で入っていたと思います。……いや、実際のところは、どうなっていたのか分からないですけどね。でも、それぐらいに、どの作品も面白かったです。逆にいえば、いっくらでも変動するであろうランキングになっております。

なので、ユルーい感じで、お楽しみください。

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2018年4月の入荷予定

11「南海キャンディーズ初単独ライブ「他力本願」

25「ハリウッドザコシショウのものまね100連発ライブ!SEASON2

「一月は行く、二月は逃げる、三月は去る」とはよく言ったもので、気が付けば四月である。新年度ということで、社会人としては多少は盛り上がるべきなのだろうが、生憎の体調不良でとてもじゃないがテンションは上がらない。もとい三月中は基本的にそういうトーンになっていた。よもや花粉症にでもなってしまったのであろうか。勘弁してほしいなあ。とにもかくにもやってきた四月。新しい年度の始まりに相応しく、あの人気男女コンビ・南海キャンディーズの初めてのソフトが遂にリリース! M-1の衝撃から十五年と半年も経っていることを思うと、どんだけ待たせたんだと思わなくもないけれど、何はともあれ楽しみ楽しみ。もちろん、ザコシの新作も楽しみ楽しみ。まさか第二弾がリリースされるとは思わなかった……!

「KAJALLA #3 働けど 働けど」鑑賞旅行(2018年3月24日~25日)

午前六時、起床。

午前七時、家を出る。朝食は前日に購入していたコンビニのおにぎりで済ませる。チキン南蛮、ベーコン鰹、鶏肉三昧の三種。朝から食べるには油っこいチョイスになってしまったことを少し後悔する。

午前八時、出発地である善通寺高速バスターミナルに到着。

午前八時半にバスがやってきたので、速やかに乗り込んで出発する。移動中はradikoで「古館伊知郎のオールナイトニッポンGOLD」を聴く。真面目な話も下品な話も自然に乗りこなすバランス感が心地良い。

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「KAJALLA #2「裸の王様」」(2018年2月28日)

小林賢太郎コント公演 カジャラ#2『裸の王様』Blu?ray [Blu-ray]

小林賢太郎コント公演 カジャラ#2『裸の王様』Blu?ray [Blu-ray]

 

2017年3月から5月にかけて、東京・豊橋・大阪・静岡を巡った公演を収録。

ラーメンズの頭脳として、数多くの名作コントを生み出してきた小林賢太郎が作・演出を手掛けているコントユニット“KAJALLA”による二度目のコントライブの模様が収められている。出演は、久ヶ沢徹竹井亮介菅原永二、辻本耕志、小林賢太郎の五名。竹井、辻本、小林は第一回公演『カジャラ #1 『大人たるもの』』に引き続いての出演となる。……その前回において、久しぶりにラーメンズの共演を目の当たりにして激しくコーフンした者としては、片桐仁の不在が些か残念。また、いつの日か、召喚される日が来ればいいのだが。

『大人たるもの』はオーソドックスなコントの再構築を目指した公演だったように感じられたが、それに比べて、本作で演じられているコントは良くも悪くも力が抜けている。小林賢太郎による演劇公演“KKP”において、筋肉アニキキャラが浸透していた久ヶ沢の登板によって、些か空気が和やかになったためかもしれない。自分の国“オレランド”があったとしたら、そこにはどのような施設や娯楽が溢れているだろうか……と想像する『オレランド』。用があって外出するという鍛冶屋の親方が、三人の弟子たちに毒の入った壺には絶対に触れないようにと気になる言いつけを残す『毒と鍛冶屋ら』。理不尽な言動で相手を再起不能に追い詰める格闘技“RIFUZIN”の緊迫した試合を展開させる『RIFUZIN』。何処を切ってもバカバカしい笑いで満ち溢れている。

その中でも、笑いながらも大いに驚かされたコントが『バニーガード』。全ての社員が頭にバニーの耳を装着している不思議な警備会社“バニーガード”へと再就職にやってきたナゴヤが、バニーたちのナンセンスな会話のやり取りに翻弄され続ける様子が描かれている。このコントには、なんと過去のラーメンズの単独公演に登場した、とあるキャラクターが再登場しているのである。ネタバレになってしまうので、具体的な内容については伏せておくが(タイトルで既にバレてしまっている気がしないでもない)、連続して開催される単独ライブ内でシリーズとして取り扱っていたならいざ知らず、もう十年以上も前の単独ライブに登場した名物キャラクターをいきなり復活させてきたのには驚いた。否、復活したこと以上に、あの小林賢太郎が復活させたことに驚いた。もっと普遍的で観客を差別しない笑いを志しているイメージがあったのだが。年齢を重ねたことで、より柔軟なスタンスを取れるようになったのだろうか。だとすれば、大変に喜ばしいのだが。

ただ、最も楽しませてもらったのは、前回の公演でも披露された「特定のシチュエーション」の中で行われる様々なショートコント集。前回は「診察」に限定した数々のナンセンスコントが演じられていたが、今回の舞台は「オフィス」。スーツを着たサラリーマンたちが、会社の中で縦横無尽にボケまくる。どのネタも面白かったが、個人的には『丘を越えゆこうよ』がベスト。三人のプロフェッショナルによる極上の悪ふざけを堪能させてもらった。

そしてオーラスのコント『裸の王様 ~春夏秋冬~』。正直なところ、極上と呼ぶに相応しいコントでとことん笑わせられた後で、ここまでシンプルな寓話を見せつけられると、なんだか少し興醒めしてしまう。無論、笑いどころは多かったし、最後のダンスパフォーマンスも楽しかったのだが……なんというか「言われなくても分かってるよ、そんなことは」と思ってしまう。それでも、上手く噛み合わないからこそ、世の中はややこしく、だからこそ面白い側面もあるんじゃないか、と。無論、寓話として作られた物語に対して、このようなツッコミを入れるのは無粋なのだろうが、これを良しとするスタンスはどうも私は受け入れがたい。……あくまで、私が受け入れがたいというだけの話であって、こういうのが好きだという人がいても何も問題はない。念のため。

とはいえ、全体的に見れば、楽しい公演である。久ヶ沢は人柄の見えるキャラクターで笑いを巻き起こしているし、辻本は意外なほど多種多様な演技で笑いを引き出すし、竹井はボケもツッコミも器用にこなすし、菅原はいわゆる芸人のものではない演技で観客を世界へと引き入れている。それぞれがそれぞれに魅力を放っている。それだけで、まあ、良しとしてもいいのかもしれない。……でもなあ。

■本編【114分】

「オレランド」「毒と鍛冶屋ら」「尋問」「RIFUZIN」「社長の例え話/馬鹿部長馬鹿部下/名刺交換/丘を越えゆこうよ/入れ替わる社長」「考える人」「バニーガード」「裸の王様 ~春夏秋冬~」

「所ジョージ LIVE 絶滅の危機」(2018年3月21日)

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

 

2000年2月9日にサウンドインスタジオで行われたスタジオライブを収録。

1998年4月から2000年3月にかけて放送されていた音楽番組「MUSIC HAMMER」でメインパーソナリティを務めていた所ジョージが、番組の企画として半ば強制的に敢行させられたライブの模様が収められている。前半は朋友・坂崎幸之助とのアコースティックギター弾き語りデュオ、後半は井上鑑らプロのミュージシャンを招いてのバンド演奏という構成。当時、番組の公式サイト限定で販売されていたVHSが、この度DVD化されて市販化された次第である。何故に今。

披露されている楽曲は、当時リリースされたアルバム『洗濯脱水』の収録曲を中心に、過去の名曲や新曲が散りばめられている。

洗濯脱水

洗濯脱水

 

特に前半パートにおける吉田拓郎リスペクト(?)曲は聴きごたえがある。『リンゴ』から生まれた『西瓜』、『せんこう花火』から生まれた『打ち上げ花火』、『まにあうかもしれない』から生まれた『まにあわない』などなど……原曲を知っていても、知らなかったとしても、なんだかバカバカしくてニヤケてしまう。その一方で、『後悔してます』『酒と肴と酒と酒』『ご自由にどうぞ』のような、真面目な曲はしっとりと。オジサンが年相応に歌っている姿が、なんだか不思議と愛おしい。

ところで、このライブの音源が二枚組のCDとして2000年3月にリリースされているのだが、そちらには収録されていなかった二人が原曲を口ずさむくだりが、こちらにはバッチリ収められている。この他にも、けっこうな量のカットシーンが見受けられた。よもや『ポテッ!』がピーター・ポール&マリーの『パフ』から来ているとは思わなかった。不老のドラゴンがふくよかな女性に大変身である。どうしてそうなった。

LIVE 絶滅の危機

LIVE 絶滅の危機

 

見どころはやはり、所と坂崎の軽妙なやりとりだろうか。テッテ的にテキトーなことを言い続ける所の発言に対して、ツッコミを入れるでもなく、とはいえ乗っかるでもなく、柔らかな物腰で受け止めていく坂崎の絶妙なバランス感がたまらない。お互いに気を使わない地の関係性が伺える。音楽面としては、坂崎のギターテクニックがあまりにもすんごい『泳げたいやき屋のおじさん』が至極。それから、バックバンドを従えての『恋の唄』。坂崎とコーラス参加の篠原ともえのハーモニーが美しい。もとい、バックバンドを従えてからの演奏は、どれもこれも素晴らしい。『ラクダの商人』『僕の犬』『農家の唄』……たった五人のメンバーによる演奏とは思えない重厚さ。

しかし、一番の見どころは……そんなバックバンドによる演奏が終わり、最後は弾き語りによる『春二番』が披露される……前に、所と坂崎がお互いの関係性について語り始め、なんと坂崎の演奏による『bittersweet samba』に載せて、所が提供読みを始めるくだり! これもCDにはないシーンだったので、素直にコーフンしてしまった。

アーティストとして最も豊潤だった時代に、氏の代表曲と軽妙なスタンスを適切に切り取っている本作は、ミュージシャン・所ジョージを知るに最適な入門書といえるだろう。普段のバラエティでは決して見せることのない、所の自然体の奥に潜む作り手としての深みを感じてほしい。

これからもブルーなレイにしてくれますか?

今年、芸人の映像作品を主に取り扱っているレーベル“コンテンツリーグ”から、初めてのブルーレイ作品がリリースされた。

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

 

嬉しい。とても嬉しい。昨今、映画やテレビドラマがブルーレイでリリースされるのが当たり前になってきているにも関わらず、こと芸人の映像作品に関しては、その需要の少なさからか大半がDVDのみのリリースに留まっていた。しかし、本来ならば、高画質・高音質を謳っているブルーレイこそ芸人の舞台を映像で再現するに相応しい媒体なのである。その偉大なる一歩をコンテンツリーグは踏み出したわけだ。しつこく言おう。嬉しい。とても嬉しい。

しかし、その一方で気になっていることもある。恐らく、今後も東京03の作品に関しては、DVDとブルーレイが同時にリリースされていくのは間違いない。売り上げが大幅に減少するようになれば話は別だが、少なくともこれっきりということはないだろう。では、このブルーレイでのリリース、他の芸人にも適用されるのだろうか?

本文の冒頭でも書いたように、コンテンツリーグは芸人の映像作品を主に取り扱っているレーベルである。無論、東京03だけではなく、他にも様々な芸人の映像を世に送り出している。そんな彼らの作品がどれほどの売り上げを叩き出しているのか、門外漢である私には分かりかねるが、一年に一枚のペースで新作を発売している芸人も少なくないことを思うと、決して悪くはないのだろうと思われる。

否、そもそも当の芸人にとって、自身の作品をブルーレイにするということは、どういう感覚なのだろうか。高画質・高音質で楽しんでもらいたいと思っているのだろうか。それとも、映像ソフトはそれなりの画質・音質で、ナマの舞台こそを見てもらいたいと考えているのだろうか。或いは、何も思い入れなどはなく、とりあえず小銭を稼ごうという程度にしか考えていないのかもしれない……と、こちらが忖度すればするほど、他の芸人によるブルーレイ展開が無さそうな気がしてならない。

でも、やっぱり、どうせならブルーレイで出してほしいんだよなあ。舞台の空気が再現された瞬間を味わいたいんだよなあ。