白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

夜を漂う『エイリアンズ』

ああ、キリンジいいなあ、と思うわけですよ。

LINE mobileのCMをご覧になられましたか。いいですよねえ。のん(能年玲奈)が出演しているってだけでも話題性は十二分ですが、楽曲にキリンジの『エイリアンズ』を使っているというのが大変に宜しいです。現世とはかけ離れた世界にいるかのようなのんの非現実感と真夜中の街の情景を繊細に切り取った『エイリアンズ』の歌詞が素晴らしい融合を見せております。

まるで僕らはエイリアンズ
禁断の実 ほおばっては
月の裏を夢みて

それはなんだか、のんという女優の不可思議な境遇を物語っているようにも見えて、もしかしたら送り手の意図以上の深みを感じさせられてしまうのでありました。

……と、こうして記事にするのはタイミング的に遅すぎるのではないかと思われるかもしれない。はい。つい先ほど、このLINE mobileのスペシャルCMが流れているのを見かけて、同CMの通常版を目にしたとき以上に感動してしまったので、思わずこのような文章を書き上げてしまったのでした。いやー、いいシリーズだ。

映画を観に行った話。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス・VOL.2(オリジナル・サウンドトラック)

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス・VOL.2(オリジナル・サウンドトラック)

 

週末。「SHOW COM」用の原稿でモチベーションを使い切ってしまったことに加えて、仕事中に上司からまあまあ理不尽にブチギレられたので(若い頃は、あんな風にキレられるような人生を送ることになるとは思わなかったな)、あらゆる感情が絞りカスのようになってしまっていたのだが、適当に時間を作って『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を観に行ったおかげで、いくらか気持ちが晴れた。いやー、いい映画だった。事前に前作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観て、キャラクターたちの関係性を再確認しておいたことが非常に良かった。

否、そもそもの話をすると、私は前作を映画館で観賞したとき、それほど感動できなかったのである。勝手にコメディ調のSF映画なのだろうと決めつけて、最初から最後までそういう視点から鑑賞してしまったからだ。確かにコミカルなシーンは多い映画なのだが、それでもコメディではない。今回、この意識を完全に切り替えて、前作と本作を洋画版「カウボーイ・ビバップ」を観るような感覚で観賞したところ、実に良かった。まぁー、良かった。前作からのキャラクターたちが次々に登場するのだが、そこから更に全員の心の深いところにまでしっかりと触れていて、でもキャラクターを崩壊させるようなことはしてなくて、後半はとにかく胸が熱くなるばかり。終盤10分くらいは、文字通り号泣が止まらなかった。これでもかと流れる名曲の数々も素晴らしく、帰りに何故かボブ・マーリィのライブアルバムを買ってしまった。なんでだよ。サントラ買えよ。

Live

Live

 

でも、アルバム自体は良かった。これはあくまで自論なのだが、お互いをディスりあうフリースタイルの流行が終わったら、次は平和的で優しいレゲエが流行るのではないかと思う(湘南乃風とかみたいな感じではなく、もっと身近で日常に根付いた感じの)。今年の夏はレゲエだ。

何が言いたいかというと、気分が腐っているときは映画がいいぞ、という話でした。

「学天即「マンザイ・オン・デマンド」」(2015年8月5日)

2015年4月29日にルミネtheよしもとで開催された収録用ライブの模様を収録。

学天即は同じ中学校の同級生である四条和也奥田修二によって2005年に結成された。コンビ名の由来は1928年に昭和天皇即位を記念して催された大札記念京都博覧会に出品された東洋初のロボット“學天則”から。「M-1グランプリ2005」への出場を目的にコンビを結成、アマチュアながらも準決勝戦への進出を果たしている。その後、オーディションを経て、2007年に現在の事務所であるよしもとクリエイティブ・エージェンシーへと所属。本作は、そんな彼らが過去に出場してきた賞レースで披露した、漫才・コントを再演しているベスト盤だ。

学天即の芸風は、いわゆる“しゃべくり漫才”である。うっかりすると聞き逃してしまいかねない程にしれっと繰り出される四条のボケを、奥田がたくさんの言葉を用いてツッコミを入れて笑いへと昇華するスタイルを取っている。本編では、映画を見た本数や寝ていない時間などといった下らないことを自慢げに話す四条に対して奥田が鋭いツッコミを入れる『しょうもない自慢するやつ』、旅行に行きたいという四条が目的地を選んだ理由を説明するたびに奥田からツッコミを受ける『旅行』、アトランダムにどうでもいいことを言い続ける四条に奥田は困惑を隠せない『どうでもいいこと言うてくるやつ』、語られるエピソードがどれもこれも四条の老人化を物語っている『じじい』、奥田がクイズ番組に出場したとしても緊張しないように予習として四条がクイズを出題する『クイズ』など、12本のしゃべくり漫才が演じられている。

いずれのネタも非常に面白いのだが、何度か物足りなさを感じる瞬間も。恐らく、学天即の漫才における、四条のボケと奥田のツッコミのバランスに問題があるのだろう。四条のボケは一瞬では理解し辛いものも多く、奥田がツッコミを入れることでようやくボケの意味を理解できるようになることも少なくない。それ故に、四条よりも奥田の方が目立ってしまい、どうにもパワーバランスの悪さを感じてしまうのである。彼らと同様、ツッコミの方が目立ち過ぎている印象の強かった銀シャリが、この点を上手く解決して「M-1グランプリ2016」で優勝を果たしたことを思うと(一本目の『ドレミの歌』のバランスは完璧の一言)、学天即もこの問題点と向き合う必要があるだろう。まあ、現状のままでも、さしたる問題も無いほどには面白いのだが。

これらの本編に加えて、特典映像として過去の単独ライブで流された幕間映像を収録した「ブリッジVTR傑作選」、奥田が某ミノさんの野球好プレーと某トバリさんの海外ゴルフトーナメントそれぞれのナレーションをモノマネで再現する「奥田のナレーションモノマネ」を収録。いずれも安定して面白いが、とりわけ四条が語る父親のエピソードが信じられないという奥田が二人で何故か岡山に住んでいる四条の父親の元を訪れる「四条の父」の衝撃たるや。妙にオシャレな恰好で、沢山の犬を飼いならし、キャバ嬢が吸うような種類の煙草を愛用している元プロボクサーの父……ド田舎の濃密な暮らしをしているオヤジをそのまま具現化したような映像は、なかなかにたまらなかった。私も老後はああいう暮らしをしたい気がしないでもない。……そうでもないか。

■本編【67分】

「しょうもない自慢するやつ」「ついてない一日」「桃太郎」「オリジナルヒーロー」「弁当」「旅行」「どうでもいいこと言うてくるやつ」「モテ方」「結婚」「じじい」「クイズ」「ポジティブな奴」「コント「お葬式」」

■特典映像【67分】

「ブリッジVTR傑作選」(奥田修二探検隊/学天即、母校に帰る/四条の父)

「奥田のナレーションモノマネ」(プロ野球・好プレーの雰囲気/海外のゴルフトーナメントの雰囲気)

ブログを続けるということ。

ブロガーにとっての最終地点は何処だろう。
そんなようなことを考えるようになったのは、きっと自分がブログから少しずつ心が離れ始めているからなのだろう。
私がブログを始めた頃は、文章で何かを表現したい人たちは誰も彼もブログを運営していた。当時、TwitterFacebookはまだ一般的ではなかったので(ひょっとしたらまだ存在もしていなかったのかもしれない)、自分でホームページを開設するか、ブログを始めるしかなかったのである。
あれから幾年月が過ぎ。当時、ブログを通じて知り合った人とは今でも繋がりがあるけれど、未だにブログを更新している人は、なんだか少なくなってしまった。もっと手軽に自己表現できる媒体が増えたことも大きいのだろうが、なにより、それぞれの事情が変わってしまったのだろう。気軽に意見を述べられるTwitterとは違い、ブログは文章の構成から何から考えなくてはならない。はっきり言ってしまえば、面倒だ。そのような面倒なことを、特に目的も持たずに続けるなんて、そうそう出来ることではない。……なんだか自慢話のようになってしまった。何の自慢にもならないけれど。
何が言いたいのかというと、いずれ自分にも、そういう日が来るであろうことを考えてしまった、という話である。今の私はもはや意地でブログを続けているようなところがある。せっかく続けてきたのだから、ここで止めてなるものかと思っている。でも、何事にも、最期の時は訪れる。それがいつになるのか。
そんなに遠くないような気がする。

「ラバーガールソロライブ「ブラッシュバック・スピノーネイタリアーノ」」(2007年7月27日)

ラバーガール ソロライブ ブラッシュバック・スピノーネイタリアーノ [DVD]

ラバーガール ソロライブ ブラッシュバック・スピノーネイタリアーノ [DVD]

 

2007年3月に恵比寿・エコー劇場で開催されたライブを収録。

ベストネタシリーズ ラバーガール』のリリースを受けて、久しぶりに視聴。当時、同年8月にリリース予定だった『キングオブコメディ 第5回単独ライブ「誤解」』、同年9月にリリースされた『東京03 単独ライブVOL.5 傘買って雨上がる』と合わせて、"人力舎芸人のDVDを三ヶ月連続リリース!”と連動企画のように取り扱われていた記憶がある。ただ、キングオブコメディに関しては、メンバーの高橋健一が痴漢容疑で逮捕されてしまったため、発売延期になってしまったのだが……それがもはや十年前の話である。時の流れの速さに驚かずにはいられない。

収録されているコントもいちいち懐かしい。ドリフ的なオチがバカバカしかった『歯医者』、素っ頓狂な大水のボケと懇切丁寧な飛永のツッコミが冴え渡る『電報』、いつものようにバカなボケを演じているように装っていた大水がふとした瞬間からサディスティックになる『足裏マッサージ』……これらのネタは「爆笑オンエアバトル」でも披露されていたため、特に記憶に残っている。ねぶた祭りの中継で肝心のねぶたをうっかり撮影し忘れてしまう『祭りの中継』、昭和のスターについて解説するはずだった大水が完全に別の話で盛り上がってしまう『昭和のスターBEST10』も、彼らのらしさが光る傑作だ。

ただ、本編で披露されているコントの中で、最も脳裏に強く焼き付いているのは『電車のマナー』だ。当時もとにかく衝撃を受けた記憶があるが、今回の視聴でも激しく脳を揺さぶられるような感覚を覚えた。舞台は駅のホーム。音楽スタジオ帰りのパンクロッカー風の二人組が、下らない話で盛り上がっている。若者らしい、周りの目を気にしていないような振る舞いだ。ところが、いざ電車に乗り込むと、それまで一緒になって騒いでいた筈の飛永の態度が急変する……。この後の展開がまさに“驚愕”の一言なのだが、ここでネタバレしてもその良さは伝わらないと思うので、機会があれば一度ご覧いただきたい。そうだ、この頃のラバーガールには、まだこういったアヴァンギャルドな味わいがあったのだ……。

特典映像は初単独ライブで演じられたコント『ピザ屋』を映像化した作品。ライブバージョンも『ラバーガール ソロライブ「ジェイコブ」』の特典映像で視聴することが出来るので、比較してみると楽しいかもしれない。

■本編【63分】

「歯医者」「電報」「足裏マッサージ」「祭りの中継」「電車のマナー」「昭和のスターBEST10」「ゆう子ちゃん」「すごい人選手権」

■特典映像【10分】

「撮り下ろし映像ネタ「ピザ屋」」

オールタイムベストの件について。

コンテンツリーグから、芸人のオールタイムベストが出るらしい。

ベストネタシリーズ アンジャッシュ

ベストネタシリーズ ラバーガール

ベストネタシリーズ バイきんぐ

ベストネタシリーズ うしろシティ

コンテンツリーグのホームページで確認したところ、「これまでにリリースしたDVDから選りすぐりのネタをそれぞれ1枚のDVDに凝縮」した内容になっているらしい。既出のソフトから映像を引っ張ってくるタイプのベスト盤は意外と珍しく、過去の例でいえば、『Rahmens 0001 select』『サルマンとバカジュリエット』『ロバート ベストコント作品集1998~2013』くらいしか思いつかない。このうち、再録映像だけで構成されているのは『Rahmens 0001 select』だけなので、そう考えると、かなり珍しい試みといえるだろう。否、ベスト盤を出せるほど、単独ライブをソフト化できる時代になったということなのかもしれない。

それはそれとして、コンテンツリーグとうっすら仕事をさせていただいている身としては(「SHOW COM」でのコラム連載、もうすぐ第20回目に突入するぞ!)、このオールタイムベストシリーズのネタ選びをさせてもらえないものかと思うわけである。いや、いやいや、読者の皆さんが言いたいことは重々承知だ。お前のような場末のしみったれたブログを運営している人間が、大企業のレーベルから重要な仕事を任せられるわけがないだろうと。そんなことは自分でも分かっているのである。だが、あえて言わせてもらいたい。これは私の夢なのだ。ドリームなのだ。お笑い芸人のDVDをレビューするという行為の到達点が、コレなのだ。……いや、あくまで、個人的にそう思っているというだけで、これが絶対的な到達点とは言わないけれど……そういう細かい話は置いといて。とにかく、私はコレをやりたいということだけ、ここに書き記しておく。うむ。言うだけならタダだからな。うむ。

……と、願望というか、妄想というか、そういうようなことを書き殴ってみたが、実際問題として、ネタを誰が選ぶかというのは重要だ。芸人自身が選ぶのであれば何も問題はない。どのようなネタが選ばれても、演じている当人が好きなネタだと思えば、そういうものかと納得できる。ファン投票という方法もある。これもまた手堅い。その芸人のファンが投票でもって選ぶのだから、多少の違和感は残るかもしれないが、それなりにしっくりくる結果にはなるだろう。ややこしいのは、誰がどういう意図で選んだのかも分からないようなセレクションになった場合だ。その不満を何処に向ければいいのか。誰に向ければいいのか。釈然としない感情が宙ぶらりんになってしまう。

もうちょっと掘り下げると、収録時間はどうなるのか。100分ぐらいは与えられるのだろうか。だとすれば、ちょっと長めのネタも収録できそうだが、60分くらいでまとめられそうな気もする。ていうか、アンジャッシュコンテンツリーグから三枚しかDVD出してないけど、そこからだけの選出だと中身が薄くなってしまうのではないだろうか。大丈夫か。パッケージはどうだろう。オールタイムベストとはいえ、それなりにしっかりとした写真を使ってほしい。まさか、過去のソフトをベタベタと貼り付けているだけの、「ゴールデン☆ベスト」みたいなパッケージではあるまいな。特典映像はあるのだろうか。未公開映像などが入っていると、購買意欲は格段に上がるのだが。まして、過去の公演を芸人自身が振り返るような新撮映像が入っていれば、なお嬉しい。……と、なんやかんやと言っているけれど、結局は単なる寄せ集めになってしまいそうな気もする。でも、チープな感じにだけはしないでほしいなあ……。

あ、このオールタイムベストは、8月23日リリースとのこと。詳細を待つ。

ラーメンズ「映画好きのふたり」(003/100)

洋画好きな二人がちょっとしたやりとりをきっかけに狭い部屋の中で映画ごっこ。『爆笑オンエアバトル』第二回チャンピオン大会の決勝戦で披露されたコントである。結果は自身最低記録の201キロバトル。笑いどころの掴みにくいネタなので、どう楽しめばいいのか観客も理解し辛かったのだろう。

このコントの肝は、日常と非日常の切り替わりにある。アパートの部屋という日常的な空間の中で雑談を重ねていた二人が、ふとしたきっかけで映画のワンシーンを再現し始める。その瞬間、これまで日常的に描かれていた空間は、あっという間に非日常的な空間に変貌を遂げてしまう。舞台衣装や小道具を使わずに、二人の身体だけでシチュエーションを表現するという手法を取っているからこそ成立する表現方法だといえるだろう。

興味深いのは、前半と後半で見せている部分が違っている点である。

前半部分で見せているのは、日常的な空間で非日常的なやりとりを繰り広げることで生じるギャップの面白さだ。二人が演じているのは人質を取り戻しに行く西部劇(?)のシチュエーションなのに、登場するアイテムは「醤油入れ」「体温計」「耳かき」「ロケット鉛筆」とまるで冴えない。しかし、二人は臆することなく、あくまでも映画ならではの大袈裟な演技によって会話を重ねていく。このギャップが面白い。

対して、後半部分で見せているのは、“映画ごっこ”という制約を持たない遊びならではの自由度の高い展開である。映画についてのやりとりを経て、二人が最初に選んだシチュエーションは「麻薬中毒患者」だった筈なのに、すぐさま「エイリアンに身体を乗っ取られてしまった大統領を救った男」に切り替わる。更に、いくつかのまったく別々の映画を彷彿とさせるようなさせないような言葉のやりとりを交わし、最後に流れる音楽は明らかに某有名映画のアレ……色んな映画のイイところだけを切り取ったMAD映像のように、二人の映画ごっこは自由な展開を迎える。この閉鎖的な空間だからこそ可能な無制限の表現がバカバカしく……それでいて愛おしい。何故か。思うに、後半での二人のやりとりから、二人が作品に対する共通したイメージを持っていることを感じさせられるためだろう。こういう友達が身近にいると、人生は何倍も楽しくなる。

これほどまでに、日常の中で非日常を繰り広げていた二人が、最後の最後でド日常的な事件に打ちのめされ、ひっくり返ってしまうオチもたまらない。そうそう、録画した番組の上からうっかり別の番組を録画することって、あるよねえ……と書こうとしたところで、気が付いた。当時はビデオテープで録画することが当たり前だったから、このオチは成立したのである。だが、HDDで録画するようになった今、このオチはもはや旧時代の遺物でしかない。今、こういうことは、起こり得ないのである。意図せずして17年という月日の長さを噛み締めてしまった。ううむ……。

ちなみに、先述の『爆笑オンエアバトル』第二回チャンピオンには、あの立川談志が特別審査員として参加しており、ラーメンズはこのコントで「審査員特別賞」を受け取っている。

「マッハスピード豪速球」(2017年4月19日)

マッハスピード豪速球 [DVD]

マッハスピード豪速球 [DVD]

 

2016年11月24日に新宿バティオスで開催された映像収録スペシャルライブ(無料)の模様を収録。

私が初めて目にしたマッハスピード豪速球のネタは、動画配信されていた「M-1グランプリ2016」準々決勝戦で披露されていた漫才『カポエイラ』である。このタイトルが正式名称なのかどうかは分からない。ただ、とにかく、『カポエイラ』のネタだ。ダンスと格闘技の間のものである“カポエイラ”という不明瞭な存在をテーマにした漫才で、そのニッチな着眼点に感心し、また坂巻の洗練されていないビミョーなカポエイラの動きで笑ったように記憶している。しかし一方で、ニッチなテーマをあまり掘り下げられていない詰めの甘さに、物足りなさを感じていた。そのため、本作のリリースが発表されたときも、同じ日に発売される『ランジャタイのキャハハのハ!』の方にばかり関心を寄せていた。

しかし、いざ視聴してみて、その複雑な面白さに驚かされた。そう。彼らのコントは複雑だ。例えば、一本目のコント『マナー』。電車に入ってきた老婆(坂巻)が、まったく席を譲ろうとしない若者(ガン太)に対して愚痴をこぼし始めるのだが、当の若者がまるで独り言のように自らがいかに疲労しているのかを語り出し、そのことを知らずに批判していた老婆へ罪悪感を残そうとするコントである。当初は、相手の事情も知らずに一方的な論理を押し付けてくる老婆に対して若者がカウンターを仕掛けている“スカッとジャパン”的な姿が笑えるのだが、一方で、若者を杖でぶん殴るという攻撃的な手段に出る老婆のファイターぶりに爽快感を覚える。果たして、本当におかしいのはどちらなのか。この不明瞭であやふやな関係性が、たまらなく面白い。

この他のコントも傑作揃いだ。路上で倒れたところを助けてくれた命の恩人がどうしても生理的に受け付けない『命の恩人』は、坂巻演じる恩人の不快感を催す演技が素晴らしい。水筒でお茶を飲んでいるだけなのに、どうしてあんなに不愉快に感じられるのだろう。この行き過ぎた不快感が、たまらない面白い。個人で勝手に自転車を撤去しているおじさんを描いた『自転車撤去』は、設定の絶妙さが光るコント。もとい、本当にこういうことをやって、生計を立てている人が実在しそうである。このリアリティ溢れる危うさが実に良い。ストーカー行為を働いた落語家の裁判にファンが押し掛けてくる『裁判』は、落語家と常連客の間に培われてきた密な関係性を笑いに昇華している。本編に収録されているコントの中では、ある意味で最も危険性の高いネタといえるのかもしれない。……というか、実際にストーカーで逮捕された落語家がいたよなあ……。

中でも、強烈な印象を残したのは、深夜のコンビニでテキパキと働いているアルバイト(坂巻)のことを、ホテルグループの会長(ガン太)が新しいホテルの従業員としてスカウトしようとするのだが、あっさりと断られてしまう『下の上』。このコントは是非とも実際に視聴してもらいたいので、具体的な内容については触れないが、彼のような感覚の人間は意外と世の中に少なくないのではないかと思う。もとい、個人的にも、どちらかというとそっち寄りの思想を持っているので、なんだか激しく共感してしまった。その着眼点もさることながら、コントの構成も魅力的である。どういうコントなのかが分かってからも、しっかりと驚きの情報をこちらに提供してくれる。オチの切れ味もサイコーだ。傑作だと思う。

ちなみに、冒頭で挙げた「M-1グランプリ2016」準々決勝戦で披露された漫才も、本作に収録されている。『親子喧嘩』がそれだ。基本的なやりとりは同じなのだが、やや強引にハートフルに仕上げられているオチがたまらなくバカバカしかった。カポエイラの曖昧模糊としたアイデンティティを最後まで活かしていた。恐らく、M-1で披露していた漫才は、これを手直ししたものだったのだろう。……だが、どうせ出場するのであれば、ちゃんとオリジナルのネタを作った方が良い。私のように、M-1の動画を通じて、本来の魅力を知ることなく良し悪しを判断してしまう人間も少なくないだろうから……。マッハスピード豪速球、ランジャタイに負けるとも劣らない名演ぶりだった。

これら本編に加えて、特典映像として「検証「ガン太に対する坂巻の愛が足りないんじゃないか問題」」が収録されている。「坂巻は自分に対して愛がないのではないか?」と感じているガン太が、坂巻にドッキリを仕掛けて、愛があるのかどうかを検証するという企画である。どういうドッキリなのかは実際に観ていただくとして、このネタバレを映像内では行わず、完成した映像を確認するというカタチで坂巻に真実が告げられるという底意地の悪い報せ方をしていたというのが興味深い。絶対に面白いじゃないか。その時の様子はビデオカメラに収められているのだろうか。収められていたとすれば、それはいずれリリースされるであろう第二弾の特典映像にきちんと収められるのだろうか……。この他にも、単独ライブでは面白い企画を幾つも手掛けているというマッハスピード豪速球。その模様がドキュメンタリータッチにソフト化される日が、いつか来ないものだろうか。

■本編【43分】

「マナー」「こんな夜は」「命の恩人」「自転車撤去」「ゲームセンター」「効果以上」「裁判」「下の上」「親子喧嘩」

■特典映像【28分】

「検証「ガン太に対する坂巻の愛が足りないんじゃないか問題」」