白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「M-1グランプリ2018」準々決勝進出者・まとめ

M-1グランプリ2018」にて、以前より活躍を期待していたDr.ハインリッヒが初の準々決勝進出を果たしたことに喜び過ぎて、準々決勝進出者たちについてまとめてしまいました。各予選別の勝者、各所属事務所、2017年の戦績などを記録しております。

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「爆笑!スライダー」(2018年10月15日放送)

【1st stage】
レイザーラモンRG細川たかしのトリセツ」(12票)
★丸山礼「モノマネ:私、土屋太鳳」(22票)
やさしいズ「コント:独特な声」(16票)

【2nd stage】
ナイチンゲールダンス「漫才:ガラパゴス体操」(15票)
笑い飯 西田「X JAPANのPATAクイズ」(12票)
★丸山礼(一勝)「コント:お笑いライブの裏方スタッフ」(23票)

【3rd stage】
★チョコレートプラネット「コント:IKKOと狂言アンパンマン」(35票)
ハッピー遠藤「ハッピーなショートコント」(1票)
丸山礼(二勝)「コント:大阪のお祭りで店番をしているギャル」(14票)

【4th stage】
街裏ぴんく「漫談:アッコにおまかせ!のゲスト」(9票)
まちむすめ「女の子はオシャレをサボれない」(7票)
★チョコレートプラネット(一勝)「コント:鼻を高くする整形手術」(34票)

【5th stage】
金属バット「漫才:自分の等身大の人形ラジコン」(6票)
阿佐ヶ谷姉妹「いるいる、こんなおばさん」(14票)
★チョコレートプラネット(二勝)「ドクロのセンターマイク」(30票)

【6th stage】
天竺鼠「漫才:マナー」(28票)
ギフト☆矢野「もののまね」(7票)
吉住「コント:意識高い友人の手術」(15票)

【7th stage】
ピー山ピー之助「正体を隠して自己紹介」(10票)
レッドガオ「EXILE風ショートコント」(12票)
天竺鼠(一勝)「天竺鼠のショートコント」(28票)

MCは伊達みきおサンドウィッチマン)と後藤輝基フットボールアワー)。ゲストに朝日奈央福地桃子。ショートネタで三組の芸人が競い合い、三回勝ち抜いたユニットには金一封が贈呈される。

いわゆるバトル形式の番組だが、放送時間の短さやルールの粗さ(天竺鼠が二回勝ち抜きで番組終了となった点とか)、“金一封”と金額を明示しない賞金などを思うと、単純に若手芸人のネタを見せるためだけに作られた便宜上のシステムという印象を受けた。事実、それぞれの芸人たちの、それほど知られていない側面を上手くアピールできたのではないかと。

個人的に印象に残っているのは、まちむすめとピー山ピー之助。

まちむすめはサンミュージック所属の女性コンビで、お笑い芸人特有の「ちゃんと笑わせようとする」雰囲気がまったく感じられず、その文脈の外に居るような佇まいがなんだか不思議と面白かった。なんでも、ベッキーに憧れてタレントを目指していたところを、事務所にコンビを組むように勧められ、なんとなしにお笑い活動を始めたらしい。お笑い好きな人たちからバカにされそうな雰囲気が凄まじいが、何かがきっかけで爆発しそうな予感も残している。なんだか気になる。

ピー山ピー之助はブラック企業として知られているとある芸能事務所に所属しているピン芸人だ。目元を黒いラインで隠し、音声も加工した、報道ドキュメンタリーに出演している事件関係者を思わせる見た目でネタを披露する様は、まるでバカリズムのコントに登場するキャラクターである。しかし、どうも彼は、このスタイルを芸風として貫いているらしい。なんと制限された芸風か。一本目のネタはなかなかに面白かったが、もしも二本目を披露するという事態になった場合、どのようなネタを演じていたのだろう。とても気になる。

無論、金属バット、街裏ぴんく、吉住など、その実力がネット上のお笑いマニアの間で轟いている芸人たちのネタも面白かった。特に金属バットと街裏ぴんくはスライダーに落とされた後のリアクションも上々で、これを機に、他の番組にも呼ばれることを期待したい。

ちなみに同番組は10月29日までTVerで視聴可能。是非。

「シソンヌライブ[モノクロ] 2018 in 香川」(2018年10月5日)

シソンヌが香川に来るというので観に行く。

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会場は高松オリーブホール。日本一の総延長を誇るアーケードを有する高松中央商店街の一角を担う南新町商店街にある、三十年以上の歴史を誇る老舗のライブハウスだ。

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チームしゃちほこやぼくのりりっくのぼうよみ鳥肌実人間椅子に至るまで、実に様々なアーティストたちに利用されている。私も以前に、柳家三三の独演会を観るために、この会場を訪れた。良くも悪くも節操のない、有り難い会場である。

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午後六時半、近場の駐車場に車を停め、会場前へ。行列が出来ていたので、何の気なしに追随してみる。が、どうも進行する気配が感じられず、なんとなくスタッフの如き雰囲気を醸し出している人たちの動向をそっと伺ってみたところ、どうやらこれは当日券を買い求めている人たちの列のようだったので、前売り券を既に購入していた私は速やかに離脱し、ホールへと繋がっている階段を駆け上がる。すると、再び行列に出くわしたので、改めて後に並ぶ。今度はじんわりと進行し、無事にホールの入り口へ。

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前売り券をもぎってもらい、ドリンク代の500円を支払う。ミュージシャンのライブでは当たり前のワンドリンク制度が芸人のライブでも適応されると、妙にボラれた気がしてしまう。大した金額ではないのだが。そのまま流れでバーカウンターへと移動し、並み居るメニューのラインナップからリアルゴールドを頂戴する。一気に飲み干し、紙コップをゴミ箱へとかなぐり捨てた(別に怒りの感情はない)。

一旦、トイレで用を足してから、いよいよホールへと足を踏み入れる。上等なパイプイスといった風情の簡易イスがズラリと並べられている。実にライブハウスだ。このライブはオール自由席なので、空いているのなら、どの席に座っても構わない。

だが、それよりも、まずは物販である。物販コーナーは客席の手前、入口の脇にあった。手ぬぐい、ご当地ステッカー、長谷川編集のZINE、過去の「シソンヌライブ」DVDなどが売られている。ご当地ステッカー以外は東京で見た単独ライブと同じラインナップだ。「シソンヌライブ」のDVDは全巻揃えているが、ライブ終演後にDVD購入者を対象とした握手&撮影会があるという情報を聞きつけ、それらの中で最初にリリースされた03を購入。布教に使おう。

買い物を無事に終えたところで、そろそろ座る席を選ぼうかと客席を眺めていたら、既に誰かが座ろうと荷物を置いてキープしてある席と今まさにカップルが座ろうとしている席の間に一人分のスペースが空いているのを発見し、ありとあらゆる隙間を埋めなくては気が済まない気質が故に、そのスペースを陣取る。自分たちが席についた途端、いきなり隣の席にやってきた三十代男性の姿に彼らはきっと驚いたことだろう。すまん。

午後七時開演。

舞台上には長机の上に置かれたラジオだけを配置。それとは無関係に、コントが進行していく。演じられているコントは、おそらく今後のモノクロ公演でも披露されるので、ここでは言及しない。ただ、衣装は最初から最後まで同じままだったこと、それでもキャラクターの強いコントも淀みなく成立させられていたこと、ピンマイクの調子が悪くて雑音が目立っていたためか途中から素の声でコントを演じていたこと、長めのコントが四本ほど演じられたこと、どのコントも最高に面白かったことだけは記録しておく。とりわけオーラスのコントは素晴らしかった。バカバカしさの奥底で見え隠れしているメッセージ性の強さ……。

全てのネタが終わると、フリートークへ。シソンヌが香川県を訪れたのは二回目。一回目は綾川イオンでの営業で、チョコレートプラネットと一緒だった。香川にはじろうの大学の先輩が住んでいて、その人の車で移動していると、たくさんの野良犬たちが群れを成しているところに遭遇して「ここ、まだ野良犬とかいるんだ!」と思ったことが、じろうにとっての香川県のイメージなのだとか。その流れから、長谷川が子どもの頃に野良犬を家に持って帰っても飼うことを許してもらえていなかったので、隣の家の人にあげていた話をしていたのだが、そのうち「なんで香川で野良犬の話してんだよ」と冷静に。

午後八時過ぎ、終演。

いよいよ握手&撮影会である。「参加希望者はしばらく客席で待機していてください」とのスタッフの指示を受け、じっと待ち構える。しかし、簡易イスが次々に片付けられているのを見て、だんだんと不安に。本当に私はここに居てもいいのだろうか……と、さながらエヴァの主人公のようなことを考え始めたところで、「参加希望者はこちらの方でお待ちください」と具体的な待機場所の指示が出たので、そちらへ移動する。ここで参加希望者の人数を確認。十人前後といったところで、とても少ない。DVDを一枚買っただけで、あのシソンヌと握手&撮影が出来るというのに、どうして参加しないのか。

しばらくしてシソンヌの二人が登場。間近で見ると、しみじみデカい。短い行列の後ろの方に並んで、他の参加者の様子を見守る。ふと、あることに気付く。先程まで、舞台上であんなに感情豊かな演技を見せていた二人が、完全に無になっている。顔は笑っているが、心が全く動いていない。ピンマイクを付けずに演技をしたことで、身体が疲労しきっていたのかもしれない。

やがて自分の番が。スタッフにカバンを預け、シソンヌの二人と対面する。なんと声を掛ければいいのか分からず、「ピースでいきましょう」とポーズだけを指示する。それにしてもピースって。ベタ過ぎる。撮影の後は握手だ。じろうと握手、長谷川と握手。とりあえず長谷川にだけは「ラジオ頑張ってください」と伝えておいた。「はい」と言っていた。感情は無かった。疲れているのだ。仕方があるまい。でも、次のモノクロ(があるのかどうかは分からないが)では、心の底からの笑顔を見せてもらいたいな、なんて思っちゃったりなんかしちゃったのであった。三十路の男が思うことではないような気がしないでもないけれど。むむ。

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ちなみに、シソンヌのラジオとは、RKBラジオで月曜(日曜深夜)に放送が開始される『シソンヌの“×××の罠”(仮)』のことである。どんな内容になるのやら。今から楽しみだね。

「ENGEIグランドスラム」(2018年9月29日)

ナイツ「漫才:入っちゃってる」

ハナコ「コント:進研ゼミ」

フットボールアワー「漫才:披露宴の司会」

NON STYLE「漫才:もうええわメドレー」

バイきんぐ「コント:閉店」

 歌謡祭「たてとてぃの華」(友近

 歌謡祭「PE!SAITO」(トレンディエンジェル斎藤)

 歌謡祭「聞き取りづらい「アナと雪の女王」」(清水ミチコ

 歌謡祭「G・A・S・U」(野性爆弾くっきー×はなわ

 歌謡祭「うちわ/ひろしのぼうしが飛んでった」(ロバート)

バカリズム「コント:銀行弱盗」

ハライチ「漫才:コミュニケーション能力危険度チェック」

千原兄弟「コント:四十九日」

吉本新喜劇「バイトの面接」(爆乳三姉妹

 本当に面白い芸人・第2位:ラバーガール「コント:ラジオ」

 本当に面白い芸人・第1位:三拍子「漫才:漫才ゲームアプリ」

アンジャッシュ「コント:のぞき」

南海キャンディーズ「漫才:ママタレになるために」

変人(原口あきまさ×山本高広×ホリ×ミラクルひかる)「ものまね」

とろサーモン「漫才:嫌いな先輩・上司に挨拶」

 トライアウト:まんじゅう大帝国「漫才:スマホ

東京03「コント:自慢話の話」

爆笑問題「漫才(安室奈美恵の引退、タッキー&翼解散、パワハラ問題、『カメラを止めるな!』大ヒット)」

司会はナインティナイン松岡茉優。史上初の生放送ということもあってか、過去の放送に比べて芸人たちのグルーヴ感が異常に高まっている印象を受けた。特に前半はとてつもなかった。オープニングアクトのナイツが終盤でとんでもない下ネタを入れちゃったかと思えば、フットボールアワーがウ○コネタで対抗、バイきんぐはいつもよりも何倍も狂った西村を投入し、千原兄弟は徹底的にアウトローなコントをぶち込む。こういうネタ番組としては珍しく、とてもイベント性の高い特番で、Twitterでは「正月が来たみたい」とツイートしている人が多数。確かに。その意味では、面白かったというよりも、楽しかったというべきなのかもしれない。

個人的に印象に残っているのは、『キングオブコント2018』王者のハナコ、岩井が提示するあるあるネタを再現することで澤部のコミカルさが強調されたハライチ、かなりの時間をフリに費やした千原兄弟、ボケとボケが会話を繰り広げる心地良さを見せつけたまんじゅう大帝国。特にハライチは、21世紀の漫才師として完全に仕上がってきた印象を受けた。今年はM-1に出場しないと聞いているが、実に勿体無い。それはそれとして、“芸人が選ぶ本当に面白い芸人アンケート”の結果、三拍子とラバーガールがネタを披露することになったのは嬉しかった。三拍子はもうちょっと評価されてもいい。今回はちょっとまんじゅう大帝国に持ってかれてしまった感があるが……むむむ。

次回も生放送だと嬉しい。

2018年10月の入荷予定

24「穴掘り天国DVD」(モグライダー

24「日本エレキテル連合単独公演「パルス」

31「バイきんぐ単独ライブ「ROYAL」

31「シソンヌライブ[sept]

31「アインシュタインベストネタ収録(仮)

十月ですね。「キングオブコント」も終わりまして、残りの三ヶ月はもはや余韻で乗り切っていこうかしらんといった具合ですが、皆さんは如何ですか。涼しくなってきたことで、夏よりも活発的になっている人もいるかもしれませんが、私の場合は逆で、すっかり低体温の爬虫類野郎と化しております。そのうち加藤英明に捕獲されるかな、とかなんとか言っちゃったりして。

そんな十月ですが、なんだか予定がはっきりしていない作品が。モグライダーのDVDはパッケージ写真が決まっておらず、アインシュタインのDVDはタイトルも決まっていないようです。どこもかしこもやる気なし。早く情報を出しとくれ。バイきんぐの特典映像も公表されていないみたいだけれど、今度の西村は何を画策しているのか……気になるよなあ。対して、既に予定がはっきりしているのがシソンヌライブ。amazonでも絶賛予約受付中ですが、私は既に赤坂レッドシアターで公演を鑑賞した際に予約しているので、不要です。本編で流れた野村くんの歌がけっこう良かったので、皆さんも是非。

最後に余談ですが、先月の12日に磁石が『磁石単独ライブ「Re:play」』をリリースしていました。完全な見逃しなのですが、なにせ彼らは自社レーベルからの発売なので、ちょっと他の作品に比べて情報を掴みにくいのですね。言い訳がましい。テレビ露出は少なくても漫才やコントに関しては確固たる実力者である彼らのネタを、どうぞご覧下さい。

追記。『日本エレキテル連合単独公演「パルス」』の情報が抜けていたので追加しました。コンテンツリーグの専用ページでのみ購入できるらしいですよ。

「キングオブコント2018」(2018年9月22日)

【司会】
浜田雅功ダウンタウン
葵わかな

【審査員】
設楽統(バナナマン
日村勇紀バナナマン
三村マサカズ(さまぁ~ず)
大竹一樹(さまぁ~ず)
松本人志ダウンタウン

【大会アンバサダー】
池田美優(みちょぱ)
小峠英二(バイきんぐ)
西村瑞樹(バイきんぐ)

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「バカリズムライブ「ぎ」」(2017年11月22日)

そんなこんなで木曜日である。

この記事が更新されるのは金曜日だが、書いているのは前日の木曜日である。とはいえ、「キングオブコント2018」決勝戦が、もう明後日には開催される。あと二回ほど寝て起きたら、決勝戦当日だ(昼寝を除く)。それに先駆け、つい先日「漫才師が選ぶ“面白すぎて嫉妬した”コント名作選」という事前番組が放送されたらしい。残念ながら、私の住んでいる地域では放送されなかったのだが、聞くところによると、ナイツ、NON STYLEトレンディエンジェルといった人気漫才師たちが、KOC決勝戦で演じられたコントの中から名作を選出する企画だったらしい。

こういう企画が放送されるたびに、「もしも自分が漫才師の側だったら、どのネタを選ぶだろう?」という妄想に駆られる。東京03の『コンビニ』か、キングオブコメディの『教習所』か。かもめんたるの『白い靴下』もいいし、シソンヌの『タクシー』もいい。いや、どうせなら、チャンピオン以外のネタを選びたい。しずるの『能力者』、インパルスの『面接』、モンスターエンジンの『Mr.メタリック』……。記録には残らなかったものの多くの人々の記憶に残ったコントが、頭の中でグルグルと駆け巡っていく。無論、私は漫才師ではないので、このような企画に駆り出されることはない。それなのに、そんな「もしも」について、一生懸命に考えてしまうことがある。

思えば、お笑いファンには色んな「もしも」がまとわりついている。例えば、「もしもあのコンビがキングオブコントに出場していたら」。シティボーイズ、さまぁ~ず、ネプチューン千原兄弟ラーメンズおぎやはぎ……キングオブコントへの出場経験のない芸人たちが、もしも大会に出場していたとしたら、どんなネタを披露し、どんな評価を得ていただろう。そんな「もしも」を考える。「もしもあのコンビが解散しなかったら」。ツインカム底ぬけAIR-LINE、プラスドライバーなど、キングオブコントが開催されるよりも前に解散してしまったユニットが出場していたら。そんな「もしも」を考える。

そして最終的に、一つの「もしも」に辿り着く。「もしもバカリズムがコンビを解消せずに、今でも二人で活動していたとしたら、キングオブコントでどのように評価されていただろうか?」。無論、この疑問に答えは出ないし、今やバカリズムは既に賞レースの枠組みを超えた存在に成っている。だが、だからこそ、そんな「もしも」について考えてしまう。今の彼なら、コンビとしてどんなコントを書いてくれるのだろう?

バカリズムライブ「ぎ」 [DVD]

バカリズムライブ「ぎ」 [DVD]

 

バカリズム升野英知松下敏宏によって1995年に結成されたお笑いコンビだった。「爆笑オンエアバトル」第一回チャンピオン大会出場、「第1回お笑いホープ大賞」決勝進出など、シュールな芸風のコント職人として一定の評価を得るも、2005年に松下の引退を受けてコンビとしての活動を休止。以後、バカリズムは升野のピンでの芸名となる。

同年、『R-1ぐらんぷり2006』に出場。初出場でありながら決勝進出を果たし、フリップネタ『トツギーノ』で総合4位という結果を残す。以後、『爆笑レッドカーペット』『IPPONグランプリ』『人志松本のすべらない話』などの番組に出演、その才能を如何無く発揮している。また、近年では脚本家としての評価も高まっており、2018年には自身が原作・脚本・主演を務めたテレビドラマ『架空OL日記』が「第55回ギャラクシー賞・テレビ部門特別賞」および「第36回向田邦子賞」を受賞している。まさに“天才”と呼ぶにふさわしい八面六臂の活躍ぶりである。本作には、そんなバカリズムが2017年5月17日から20日にかけて、草月ホールで開催した単独ライブの模様が収録されている。

バカリズムといえば「類い稀なる発想力」が評価されているイメージがあるのだが、その点でいえば、本編で演じられているコントはむしろ平凡である。想像していた以上に余命が短いことに驚きを隠せない病人の動揺を描いた『過ぎてゆく時間の中で』、あまりにも長くて回りくどい料理名が淡々と読み上げられていく『難儀と律儀』、派遣型の女王様を自宅に呼び寄せたところ見知らぬ中年の男性がやってくる『六本木の女王』など、着眼点の意味ではさして驚かされるものではない。では、本作は退屈でつまらない内容なのかというと、そうではない。本作において、発想はあくまでもスタートを切るためのきっかけに過ぎず、その設定の上で繰り広げられるコミュニケーションの豊潤さにこそ魅力が詰まっている。思うに、当時『黒い十人の女』『住住』などのドラマの台本を手掛けていた経験が、ここに活かされているのだろう。その舞台には、人間が生きている。流石だな向田邦子賞作家(このライブの時点ではまだ受賞していないが)。

とりわけ印象に残っているのは『志望遊戯』というコント。舞台は高校の教室。教師と生徒と母親による三者面談の場だ。成績が優秀であるにもかかわらず、進学をせずに就職したいという生徒に驚きながらも落ち着いて話を聞きだす教師。「お前、何になりたいんだ?」と教師が質問すると、生徒は靴屋だと答える。「確かにお前は、スニーカーが好きだもんな……うーん、なるほど。じゃあ、ちょっとやってみよう!」。そういうと教師はおもむろに立ち上がり、実在しない靴屋の自動ドアを「ウィン」と開けるのであった。漫才にありがちな、コントのシチュエーションに入るくだりを日常的な風景の中に取り入れたコントで、その違和感が生み出す面白味もさることながら、漫才コント的なネタを教師のキャラクターを演じたまま表現してみせるバカリズムの演技力に舌を巻く。コントの中のコントをそのまま笑えるネタとして演じているスゴさ。たまらない。そして、このコントはある種、「もしもバカリズムがコンビを続けていたら」の一つの答えになっている。否、当然、そんなことは有り得ないのだが……途中からコントに巻き込まれる母親が、だんだんと今はカタギに戻っているあの男の顔に……。

ちなみに、本作にはライブ本編で演じられているコントの他に、幕間映像としてバカリズムメインのアニメーションが収録されているのだが、これらも全て出来が良い。「なにかになること」を夢見て上京する学生がクラスメートに向かって語り続ける『卒業』、区役所に向かうまでの道に関する様々な質問を延々と受け続ける男の『律儀』、とあるテレビドラマに寄せられた批評が読み上げられていく『疑惑の螺旋』など、どのアニメもコントに負けず劣らず面白かったのだが、その中でも、ありとあらゆる事象に対して疑いの目を向ける男がとことんウザったい『疑い男疑う』が揺るぎない名作である。これのために本作を鑑賞しても良いというぐらいに面白かった。是非ともご覧いただきたい。

ちなみに、バカリズムは新作『バカリズムライブ「ドラマチック」』を2018年11月28日をリリースする予定である。向田邦子賞受賞後の彼がどんな舞台を構築したのか、今から確認するのが楽しみだ。いやホント。

■本編【104分】

「プロローグ」「オープニング」「過ぎてゆく時間の中で」「ギガ」「難儀と律儀」「銀」「ふしぎ」「卒業」「の?」「律儀」「六本木の女王」「疑惑の螺旋」「志望遊戯」「疑い男疑う」「疑、義、儀」「エンディング」「エピローグ」

「ラバーガールLIVE「大水が出た!」」(2016年10月26日)

2016年8月17日・18日に座・高円寺2で行われた単独ライブを収録。

近年、「シティボーイズミックス」「男子はだまってなさいよ!」などの舞台を手掛けてきた細川徹を作・演出に迎えたライブ【ラバーガール solo live+】を行ってきたラバーガールだが、本公演では四年ぶりに二人だけで作り上げたコントが披露されている。そのためか、ここ数年の公演にほんのりと漂っていた哀愁のようなものが、本作からはすっかり失われている。残されているのは、純然たるナンセンスな笑いだけだ。この点をどう評価するかは、好みによって分かれるところだろう。私は正直なところ、細川徹演出も嫌いじゃないので、初見時には少しだけ物足りなさを感じてしまった。だが、しばらく時を置いて、改めて本作を鑑賞して見たとき、その揺るぎない狂気性に気付かされた。はっきり言って、本編のコントに登場する大水は、どいつもこいつも危うい。人間として根本的な部分が欠落したヤバさがある。

その傾向は、オープニングコント『大水が出た!』の時点で、早くも顕著に表れている。夜中に「大水が出たぞーっ!」と叫びながら、飛永の家を訪れる大水。ここでいう「大水」とは、比喩でも便宜上の表現でもない、純粋な「大水」である。自分が、自分の家に、自分が出てきたから、慌てながら「大水が出たぞーっ!」と叫んでいるのである。真夜中に。実にヤバい。そんな大水の相手をしてあげている飛永のなんと優しいことか。しかし、このコントの真の恐ろしさは、お互いに何も進展しないところにある。大水が自身の間違いに気付くこともなければ、よりヤバくなることもない。ただ、純粋無垢にヤバい大水が、「大水が出た!」と伝えるためだけに飛永の家を訪れ、そして去っていくだけである。何のストーリーもない。だからヤバい。

以降のコントも揺るぎなくヤバい。値段が“時価”の寿司屋を訪れた飛永が、お会計の際に提示された金額に驚かされる『時価の店』は、とにかくオチがヤバい。オチに至るまでの行程もそれなりにヤバいのだが、最後の最後に発せられる、大水演じる寿司屋の大将の呟きの悪意の無さがヤバい。あまりにも自然に気持ちを声に出しているので、余計にヤバさが引き立っている。ハワイ旅行の準備をしていた大水が、出発の予定日を勘違いしていたことが発覚する『ハワイ旅行』は、それでもまったく動じずに、その勘違いすらも旅行の醍醐味として楽しもうとする大水の感覚がヤバい。もとい、全体を通して、どうして大水がハワイ旅行に出かけようとしているのか、その理由がまったく分からない。通常、旅行というのは、行きたいから行くのではないのか。旅先ならではの場所やお店を巡ることに喜びを覚えるものではないのか。それなのに、大水はハワイでの時間の大半をホテルで過ごし、食事をココイチ丸亀製麺で済ませようとしている。ある意味、大物感があるということなのか。どうなのか。いずれにせよヤバい。

これらのネタの中でも、とりわけヤバさが引き立っていたのが『レビュアー』。グルメ雑誌のコーナーで取り上げられることになった、食べログの人気レビュアー・大水。それに伴い、雑誌の記者(飛永)からインタビューを受けるのだが、「金銭的に大変だったりしませんか?」という記者の質問に対し、大水は驚くべき回答を提示する。他のコントに登場する大水は、あまりにも現実離れし過ぎしていて、ちゃんと笑いを生み出す存在として描かれているのに対し、このコントに登場する大水はリアルにヤバい。何がヤバいって、こういう人が実際に食べログに居そうなところがヤバい。否、食べログどころか、ありとあらゆるSNSに存在していそうなところがヤバい。その行為に悪意も何もなく、本当に読者のためだけを考えているというあたりもヤバい。金銭や自己顕示欲を目的としていないところがマジでヤバい。でも、そういう人もやっぱり、今の時代のインターネットの世界には何人も居そうな気がする。うーむ。ヤバいというか、もはやコワい。

ただ、ラバーガールの真のヤバさが最も表れているのは、オーラスのコント『結婚』だ。結婚式を明日に控えている新郎の飛永と友人の大水が、式当日のことをざっくりと話し合っているのだが、その内容は常に何処かが間違っていて、なのにどちらもツッコミを入れようとせず、延々とボケだけが積み重ねられていく。単独ライブのオーラスのネタといえば、ちょっとドラマティックで人情味溢れるストーリーを構築した長尺コントになりがちだが、ここでラバーガールはツッコミ不在のボケフルスロットルコントを演じている。ボケとツッコミの組み合わせの方が間違いなく安定して面白いコントになる筈なのに、敢えてそれを選ばない。このコント師としての姿勢がヤバい。素晴らしい。こういう、一見するとスタイリッシュだけれど、実はコント師としての芯の強さがあることを見せつけられると、なんだかとても嬉しくなってしまうのは私だけだろうか。私だけか。うむ。

……と、いうわけで、水曜日である。記事が更新されるのは木曜日だろうが、書いているのは前日の水曜日である。今回、過去三回と違う構成の文章になったのは、以前に書こうとして頓挫していた本作のレビューの書きかけ文が残っていたためだ。導入だけ書いていたため、そこを残して、後半部分を一気に書き殴った。いつも文章の導入部分に頭を悩ましているので、今回はとても楽に書けた。ありがとう、当時の私。

ちなみに、ラバーガールは既に新作『ラバーガールLIVE「シャンシャン」』をリリースしている。こちらもいずれレビューしたいと思っているのだが、果たしていつになることやら。

■本編【82分】

「大水が出た!」「時価の店」「クイズ!何のお寿司を食べたでSHOW!」「引っ越し」「眠い」「ハワイ旅行」「MCバトル」「アハ体験」「レビュアー」「聞いてくれよ」「夢」「結婚」

■音声特典

ラバーガールによる副音声コメンタリー