白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

今になって、枡野浩一の言葉を思い出す。

ふと、本棚の一冊を引っ張り出す。

2005年に発行された『お笑い解体新書』は、お笑いブームの真っ只中で活躍する若手芸人たちについて書かれたコラム集だ。おぎやはぎますだおかだラーメンズといった芸人たちの2005年の状況が、複数のライターたちによって書き留められている。

当時、まだ学生だった私は、本書をバカみたいに読み込んでいた。ブログで公開していたお笑いDVDのレビューを書く際の参考にさせていただいていた。そして、本書の第二弾には、きっと自分がライターとして参加したいと思っていた。事実、プロのライターから誘われ、この企画に参加しているブロガーもいたので、可能性はゼロではなかった。だが、それは叶わぬ夢となった。第二弾が出なかったからだ。風の噂によれば、本書の担当者が移動になったためだという。なんとも残念な話である。

それほど思い入れのある本書だが、気に食わないコラムも掲載されていた。それが、歌人枡野浩一氏によるコラム「日本の笑いは、もちろん世界に通用しない。笑いを語るとき、そんなに威張らなくてもいいのになあと思います。」だった。本文において、枡野氏はだいたひかるのネタを例として取り上げ、それが“無知ゆえのツッコミ”であると批評、また同様の行為に及んでいる芸人たちがたくさん存在すると語り、「「どんなお笑いネタも、受け手の教養や経験値によって、受けとめられ方が変わってしまうものだ」という当たり前のことを、あらためて自覚しないとまずいんじゃないか」とまとめている。

当時の私はとにかく枡野氏に「日本の笑いをクサされた」と感じ、このコラムに嫌悪感を抱いていた。だが、今になって、改めて枡野氏のコラムを読み返してみると、理解できる部分の多さに愕然とした。何故ならば、今まさに日本の笑いは、これまで当たり前と思われてきた笑いの取りかたの是非が問われる変遷の時を迎えているからだ。男だから、女だから、独身者だから、既婚者だから、美人だから、ブサイクだから……ありとあらゆるカテゴライズされた見方による笑いに、メスが入れられようとしている時代だからだ。当時、枡野氏は日本と世界に区分して話を展開していたが、今や私たちは過去と未来の境目に居る。

ところで、そんな枡野氏のコラムに対し、弟子筋のブログ歌人佐々木あらら氏が芸人をフォローするコラムを寄せている。佐々木氏はだいたひかるの笑いの取り方は単なる「発見の披露=単なる無知」ではなく、「ある虚像からの一人称視点での語り」であると指摘する。それはだいた自身から出た言葉ではなく、あくまでも作り上げられた虚像による言葉にしてしまうことで、その無知の責任を虚像に押しつけてしまう。それはずるいけれど、不快じゃない……と。

その「ずるさ」に、私は笑いの未来がある気がする。

「山里亮太の140 高知公演~岐険を乗り越えて~<追加公演>」(2018年6月30日)

山里亮太トークライブがあるというので観に行くことにした。

山里亮太といえば、「M-1グランプリ2004」ファイナリストに選ばれ、脚光を浴びた男女漫才師“南海キャンディーズ”のツッコミ役として知られている。近年は、コンビではなくピンとしての活動に重きを置いており、とりわけ自身がパーソナリティを務めているラジオ番組『山里亮太の不毛な議論』に対する思い入れは強い。そんな山里が、わざわざ高知県までやってきて、トークライブで何を話すというのか。どうしても確認しなくてはならない……というほど、彼に対して思い入れがあるわけではないが、チケット完売後に追加公演の開催を決意する熱意に絆され、鑑賞を決意した次第である。

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「bananaman live Super heart head market」(2018年2月7日)

bananaman live Super heart head market [DVD]

bananaman live Super heart head market [DVD]

 

2017年8月10日から13日にかけて俳優座劇場(東京)で行われたライブを収録。

「心さーん! 昔はよく出てきてましたけど、最近はずっと頭さんばっかですねーっ!」。お馴染みのフォークデュオがライブステージを展開するコント『赤えんぴつ』で“おーちゃん”がこんなことを言っていて、なんだか胸に刺さってしまった。とあるお店の店員から少しイヤなことを言われてしまって傷ついたという“ヒーとん”の話を聞いて、心と頭の関係性を説きながら、傷ついたときに心で思ったことをそのまま店員にぶつければ良かったんだよ、とアグレッシブな言葉で説明するおーちゃん。その最中に、おーちゃんがヒーとんの胸倉に向かって、前述した言葉をぶちまける。分かる。確かにそうだ。心で思ったことをそのまま言葉にしないで、それどころか、心にもない頭の中で考えただけの言葉ばかりを口にすることの、なんと多いことだろう。それが大人になることだし、逃れられないことだとは分かっているけれど。この後のおーちゃんの台詞がまたスゴいのだが、ここには書かない。見て。

思えば、オープニングコント『voice from the haeart』からして鮮烈だった。友人の日村のことを「こいつといると楽なんだ」「なんにも考えなくても付き合える掛け替えのない存在」と思っている設楽に対し、当の日村は「こいつの期待を裏切ってはならない」という強迫観念に捉われている。掛け替えのない二人の掛け違った関係性。その後、設楽のちょっとした発言に対し、決して期待を裏切らない返事が出来るように必死になって考える日村の姿は、とても面白い。心の声を表したモノローグだけでも面白いのに、それを表情で巧みに表現する日村の演技が凄まじい。でも、その状況ほどではないにしても、日村にとっての設楽のような人間が自分にもいるよなあと考えると、その必死さが一転して、切なく感じられてしまう。その時、本心は何処かに行っている。心の声は聞こえてくるのに、心は何処かに行っている。

Air head』も印象的なコントだ。同じ職場で働いている先輩・日村の作業が遅れているため、残業に付き合わされている後輩・設楽。そんな最中、日村から飴を貰ったので、食べようとすると「それ手作りなんだよ」と言われ、思わず不快感を表情に出してしまう。実は、その飴は日村がタクシーのおじさんから手作りと聞かされて受け取った飴だったのだが、日村は設楽が不快な表情を浮かべていたことが忘れられず……。その後、どこまでもダメな発言を続ける日村。どうでもいいことに引っかかって、自分の仕事を手伝ってくれている後輩に愚痴をこぼしている姿は、どうしようもなくみっともない。けれど、それでも、日村が「俺の方が真っ当だよ!!!」と大声を張り上げる姿に、ダメな人を見る目で笑いながらも、目じりにうっすらと涙のようなものが浮かんできてしまう。ああ、分かる。分かるんだよ。そんなことを言ってたら世の中を渡り歩いていけないけれど、でも、分かるんだよ。おしっこの入った検尿のカップにパーカーのヒモが入ってて慌ててしまう瞬間は、きっと誰にでもある。

ああ、こんな気持ちになるような大人になるつもりはなかったのに、いつの間にやら共感の坩堝に迷い込んでいる。心の中で思ったことを言葉に出来ずに、頭で考えた最も適切な言葉を吐き出して、いつの間にやら心は何処かに隠れている。そんなこと、自覚せずに生きていたのに、よもや芸人の単独ライブをきっかけに思い出すことになろうとは。勿論、生きていく上で、心にはちょっと引っ込んでいてもらわないといけない場面は少なくないけれど、それでも心を殺さないように気を付けないといけないなあと月並みな感想で本文を締め「おちんちん侍!」「「「「おちんちん侍!!!」」」」

■本編【147分】

「voice from the heart」「Air head」「罰」「different container」「アルフレッドとベン」「何でだ!」「ワニワニパニパニゲーム」「赤えんぴつ」「一番面白いパンストを探そう」「Incident in the mountain」

2018年7月の入荷予定

04「東京03 FROLIC A HOLIC「何が格好いいのか、まだ分からない。」

11「ラバーガールLIVE「シャンシャン」

14「流れ星 単独ライブ 星屑伝説

18「乳首ドリルの逆襲  ~ATTACK OF THE NIPPLE DRILL~」(監督:河崎実

20「落談 ~落語の噺で面白談義~ ♯5「あくび指南」」(ゲスト:大槻ケンヂ

20「落談 ~落語の噺で面白談義~ ♯6「だくだく」」(ゲスト:松尾貴史

25「トンツカタン単独ライブ「トンツカタンII~さよなら さよなら こんにちは~」

25「アンガールズ単独ライブ「びしょ濡れの犬のほうが拾いたくなる」

菅家です。夏ですね。皆さんは夏ですか? そうでもないですか? ですよねえ。まだ梅雨ですものねえ。とはいえ、夏がもう目前にまで迫っているのは事実ですので、ここらで一度、暑い夏を乗り切るために芸人のDVDを見るというのは如何でしょうか。……脈絡がないですか? ですよねえ。こちらも分かった上で書いてます。要するに何も考えていないわけですね。困ったもんだ。

そんなこんなで七月ですが、やたらと人力舎が頑張っています。上旬に東京03、中旬にラバーガール、下旬にトンツカタンというコント濃度の高いラインナップであります。まあ、それぞれ過去にDVDを出した実績がある方々なので、そこまで意外性はありませんが。東京03は今回もDVD版とブルーレイ版の2タイプでリリースするそうです。高画質・高音質でのご提供、有り難いことですね。ラバーガールトンツカタンも真似すればいいのに。無論、他のコント師も。広まれ広まれ。

追記アンガールズ忘れてた。前回は最高傑作だったけど、今回はどうだー?

「にちようチャップリン」(2018年5月20日)

  • 流れ星【94】

「漫才:友達の作り方」。些細なことでケンカを始め、それでも最後は仲直りするヤンキー同士の友達作りをやってみよう。前回の放送とは打って変わって、今回はかなりちゃんとした漫才ネタで勝負。同じシチュエーションを繰り返すたびに別ベクトルのボケを放つタイプのネタで、安定して面白かった。ただ、起爆力となるべきちゅうえいのギャグパートが、個人的にはイマイチ。もはや目が飛び出るギャグに固執しなくても良いような気もするのだが、なかなか捨てられないか。

「コント:覚えてろよ」。ケンカ最強と呼ばれる森本の元には、その称号を目的とした挑戦者が次々にやってくる。そんな男たちの中に、一人だけ独特なファイトスタイルでやってきて……。『トンツカタン単独ライブ「トンツカタンI ~君の笑顔の為だけに~」』のオーラスで披露されていたコント。不良漫画的なシチュエーションが一転、リア充感満載の日々へと繋がってしまう展開が面白い。また、まったく違うはずのそれらを繋げる要素が「名前を覚えてもらう(存在を認識してもらう)=嬉しい」というのも面白い。まるでスターとファンの関係性のようだ。時間の関係上、途中でオチにしてしまったところは残念。

「漫才:鶴の恩返し」。「鶴の恩返し」をやろうとするも、何故かカレーがやってくる。トリッキーな設定なのに、さらりと受け入れてしまえるのは、里の動じないツッコミのおかげだろうか。カレーのビジュアルが妙にリアルに設計されているところに、笑い飯の『鳥人』を彷彿と。ただ、あれに比べると、ディティールはそこまで凝っていないように思う。もっと凝り出したら、大変なことになりそうだ。布団で横になった瞬間からの言い回しが最高。「全て……終わった!」「鶴! ……遅いぞ!」「鶴の恩返しはこんなんじゃあない!」。いやー、面白かった。

「コント:ゾンビ」。ゾンビ映画のようなシチュエーションで、ちょっとイイ感じになっていた女性と和田まんじゅうのところへ、女性と深い関係にある男性が飛び込んできて……。男女の三角関係の中で、あっという間に余り物となってしまった和田まんじゅうの三枚目としての魅力が光るコント。また、男女の設定が、良いとも悪いとも言えないあたりが絶妙で、だからこそ和田のペーソスがはっきりと浮かび上がってくる。あと、和田と男性とどちらかを選べと女性が迫られるくだりが良かった。「和田くん!」「まさかのオレ?」「ごめんなさい!」「あ、「ごめんなさい」ね……」。

「漫才:人間ドック」。まだ人間ドックに行ったことのない川谷のためにシミュレーション。前回のオンエアでは鉄板ネタである『丁度ええ』を披露していたが、今回はきっちりと漫才コント。それも、ベテランだからこそリアリティが出せる設定で、若手との違いをしっかりと見せつけている。芸歴の差だな。ウェルカムバリウムをフリにしたオチも上手い。ただ、設定が設定なので仕方がないところもあるのだが、やや下ネタが多すぎたような気も。

  • ザ・ギース【86】

「コント:焼肉」。一人焼肉をしようと入ったお店で頼んだスペシャルなコースメニューは、予告付きの臨場感溢れるもので……。出されるメニューごとに予告があるというシステムのコント。設定そのものは確かに面白いのだが、「焼き肉屋」という舞台と「悪化し始める次回予告」というテーマを重ね合わせたときに想定される展開のセオリーにあまりにも沿い過ぎ。そういう意味では、突然の「となりの豚トロ」は良いアクセントだったが、もうちょっとトリッキーな展開があっても良かったような気もする。テレビ向けに整理してきたのだろうか。

じゃんけんの結果、ネルソンズが五月の月間チャンピオンに決定。

【次回の出場者】

阿佐ヶ谷姉妹

インポッシブル

オテンキ

ジャンゴ

ニューヨーク

やさしいズ

わらふぢなるお

俺は今日もメシ喰って出かけるぜ!!!

エレファントカシマシの新曲を聴いて、スッ転がった。なんだこれ!

中学生だった頃、エレファントカシマシがテレビ番組で『武蔵野』を歌っているのを見た日から、少なくとも去年ぐらいまで、彼らに対するイメージは一貫していた。上手く言葉には出来ない。「日本語ロック」だとか、「粗野で荒くれたロックンローラー」だとか、「日本文学と和ロックの融合」だとか、どんな言葉にしても嘘くさくなる。だが、自分の中で、エレファントカシマシ(=宮本浩次)に対するイメージは固定されていた。そして時に、新曲を耳にした時などに、「ああ、エレカシだよね」なんて冷笑的にスカした感想をこぼしたりもした。そうそう、これはいつものエレカシだ、確固たる不朽のスタイルだ、などというように。

ところがコレだ。なんだコレは。らしからぬリズム、らしからぬアレンジ。なにより、らしからぬメロコアバンドのような疾走感。近年、特に「さあ がんばろうぜ!」と観客に呼びかける『俺たちの明日』以降、エレカシは完全に年相応のロックバンドに成り上がっていた。その言葉には歳月の重みが宿っていた。この曲でもその姿勢は変わらない。ただ、その言葉はずっと、活力にあふれている。「偶然とノリと思いつきでさあ飛び出せ」というフレーズのなんと力強きこと。「未来こそ俺の本領 無邪気な今日の俺懐かしむだろう」というフレーズのなんときらびやかなこと。そこには、いつも通りのように、いつもとはまったく違っているエレファントカシマシの音楽があった。なんだこれ!

こういう歌を聴きながら、がむしゃらに街を駆け出したい夜がいつか来るだろう。

「にちようチャップリン」(2018年5月13日)

「漫才:遊園地」。遊園地デートをやりたい。ショーゴの笑いに繋がりにくいボケを、健が独特の言い回しによるツッコミを繰り出すことで、笑いを生み出している。方向性としては三四郎ウエストランドに近いのかもしれない。ただ、ボケに対して、まるで決め台詞のように繰り出されるツッコミは、個人的にイシバシハザマのショートコントの名残を残した漫才を彷彿と。肝心のネタは安定の面白さ。自分たちのスタイルをきちんと提示した後で「寝るなーっ!!!」とシンプルなツッコミを繰り出してからの園子温。後半での園子温、良かったなあ。

  • マツモトクラブ【70】

「聞こえない」。祖父を亡くし、久しぶりに故郷へと戻ってきたコイズミは、葬儀の後で昔の友人の家へと向かおうとしていたのだが、スマホ越しに聞く友人の声は電波状態が悪くて聞き取りづらく……。とにかく設定が素晴らしい。他人の声を音源で流しながら演技するマツモトクラブの芸風だからこそ出来るコントをちゃんと作っている。構成もスゴい。電話の聞き取りづらさから電車内アナウンスの聞き取りづらさへと、あまりにもさりげなくシフトチェンジしている。これが上手い。後半のヒューマンドラマ感もスゴい。「コイズミヒサシブリー」の伏線を笑いでなく感動で回収し、その上で、改めて笑いに落とし込む。マツクラのコントは本当に見るたびに驚かされるな。

  • だーりんず【66】

「コント:公園」。公園のベンチで休憩していたサラリーマンに、お笑い芸人が近付いてきて「ネタを見てくれないか」と頼み込み……。ここも設定が上手い。「一人で演じているけれど別にもう一人いる設定」の一人コントを見させられているサラリーマンが、客観的には「もう一人」であるように見えるように仕向けている着眼点が素晴らしい。ただ、「もう一人」がサラリーマンにとってあまり芳しくないタイプの人物で、事情を知らない人たちに慌ててコントであることをアピールする……というボケに一貫していたのが残念。もうちょっと展開に強弱をつけられる設定だと思う。ダメ押し感のあるオチはかなり好き。

「コント:野球」。九回裏ツーアウト満塁という状況で代打を任された白井だったのだが、彼が頭にかぶせたのはヘルメットではなく、ヘルメットのように仕立て上げた米だった。ストーリーではなくボケを展開させる、関西圏の芸人が得意とする手法のコント。ちょっとでも油断をするとパターンに飽きられてしまいかねないところを、ボケの絶妙なバリエーションの広げかたと里の絶対に外さないツッコミで確実に笑いをもぎ取っている。ちょっと嬉しそうに「さっきのよりちょっと大っきいねぇ~」は良かったなあ。特に終盤のボンバーマンのくだりは笑った。笑ったなあ……。

  • トム・ブラウン【58】

「漫才:キングムーミン」。ムーミンを五体集めてキングムーミンを作りたいというみちおだったが、うっかり一体だけユーミンが混ざってしまい……。「M-1グランプリ2017」準々決勝敗退ネタ。設定と二人のキャラクターのヤバさが際立つが、ネタの内容そのものは「キングムーミンを作ろうとするも上手く作れない」という純粋に期待を裏切るタイプのシンプルなネタ。否、ネタの軸がしっかりしているからこそ、設定や二人のキャラクターがヤバくても、きちんとネタとして成立させられていると考えるべきなのかもしれない。最後に引っ叩かれる意味の分からなさもまたたまらんかったな。しかし、もうちょっと見たかった。

  • LOVE【60】

「コント:警備員」。昨日は通らせてもらえた工事現場を、今日の女性警備員は通してくれない。そこで、そっと誘惑して……。頭の堅い生真面目な女が男の色仕掛けにまんまと引っ掛かってしまい、心を溶かしていく様子をコミカルに描いたコント。工事現場を通り抜けるために色仕掛けで女を落とす……という費用対効果の低さは笑えるかもしれないが、特に落ち度もなく仕事をこなしている恐らくは異性に慣れていないだろうタイプの人をおちょくるような姿勢はあまり好きではない。男の方が明確な悪党であればそれなりに納得もできるのかもしれないが(実際、こういうのは峰不二子とかがやるヤツだ)。ただ、警棒を光らせようとするくだりの「昼はダメ……」は笑った。ああ、下ネタには弱い。

  • 流れ星【80】

「漫才:プーさんゲーム」。ちゅうえいが考案した“プーさんゲーム”をやってみる。「爆笑オンエアバトル」でしっかりとオリジナリティあふれる世界観のネタを作っていた時代を知っているため、こういう営業みたいなネタを堂々とテレビでやっている姿を見させられると、なんだかとっても切ない気持ちになってしまう。プーさんからの林家へと展開する前半はまだしも、 “ちゅうえいゲーム”にウッチャンや土田を巻き込んでいく後半はちょっと見ていてキツかった。その場で見ている人たちには臨場感もあってウケるのかもしれないが、視聴者にはその空気感は伝わってこない。このネタに東京ホテイソンとマツモトクラブが落とされたのかと思うと……うーん……。

1位の大自然、2位の流れ星が勝ち上がり。

【次回の出場者】

ザ・ギース(1週目1位)

大自然(3週目1位)

トンツカタン(1週目2位)

流れ星(3週目2位)

2丁拳銃(2週目1位)

ネルソンズ(2週目2位)

アキラ100%「裸の王様」(2017年7月26日)

裸の王様 [DVD]

裸の王様 [DVD]

 

R-1ぐらんぷり2017」王者、アキラ100%による初めての単独DVD作品である。彼の芸といえば、全裸の状態でも股間だけは隠し通してみせるパフォーマンス『絶対見せない de SHOW』、武器も衣服も身に着けない刑事の活躍ぶりを描いた『丸腰刑事』など、基本的には“全裸になって、お盆で股間を隠す”という一点にのみ集中している。逆にいえば、それしかない。そんな彼のロンリーワンな芸風で、果たして本当に単独作品を成立させることが出来るのか。結論から言おう。出来ていない。本編に収録されているアキラ100%のネタは、先に挙げた『絶対見せない de SHOW』と『丸腰刑事』のみで、残りの容量は企画映像で占められている。だが、この企画映像がベラボーに面白かった!

本編では二つの企画が行われている。一つは「How to アキラ100%講座 ~これであなたもお盆芸の達人~」。文字通り、日本で最もお盆芸を得意とするアキラ100%がインストラクターとなって、そのコツやテクニックをレクチャーする映像である。また、この講義を受ける受講生として、西村瑞樹(バイきんぐ)と松本りんす(だーりんず)がゲストとして出演している。講義そのものはとても真面目で実用性の高い内容になっている。もし、本当に忘年会・新年会などの集まりで、アキラ100%のネタを模倣しようと考えている人がいたら、間違いなく参考になるだろう。しかし、実際問題として、画面上に映し出されているのは三人の地味な見た目のおじさんたちが全裸に近い状態で股間のブツをこぼしまくっている映像である。端的に言ってドイヒーだ。なので、例えば日曜正午の自宅のリビングなどで視聴するのは避けた方がいいかもしれない。回転したお盆が西村瑞樹の"先端"を強打する音を響かせていい時間帯ではないだろう。

もう一つの企画は「新技実験 de SHOW」。『絶対見せない de SHOW』ではお盆以外の道具を使って股間を隠すこともあるアキラ100%が、これまで扱ったことのないアイテムを駆使して股間を隠せるかどうか、実際に関係者を集めた会場で試してみる……という映像である。これがストレートに面白かった。本編では「紙風船」「ドライアイス」「ドローン」が使われているのだが、これらの使用法についてのアイディアには素直に感心させられた。シンプルだけど奥が深い。その奥深さを強調するかのように、この企画だけドキュメンタリータッチで編集されている。時々、アキラ100%の天然をイジるくだりもあるが、基本的には真剣な内容となっている。ただ、やっていることはあくまで股間を隠すお盆芸なため、どうしても空気感と画の間にギャップが生じてしまい、どうにもこうにもたまらない映像になってしまっている。特に、挑戦に失敗してしまった際の心境を語るアキラ100%の映像は必見だ。

これら本編に加えて、特典映像としてアキラ100%が裸にならない一人コント『星に願いを』を収録。幼い子どもが「大人にしてください」と星に願いを込めたところ、なんとその願いが聞き入れてもらえて……。アキラ100%にとっては、いわゆる本芸ではないネタに当たる正真正銘の一人コントだが、その完成度はなかなかに高い。ただ、ストーリーから漂うペーソス感は、良くも悪くも所属事務所であるソニー・ミュージック・アーティスツの芸人としての個性が色濃く出過ぎていて、この芸風のままだと売れずに埋もれていたことだろう。ここから這い上がってくるためにアキラは裸になったのだと思った途端、なんだかちょっと背筋が伸びてしまった。もう。

■本編【77分】

「絶対見せない de SHOW」「新技実験 de SHOW」「丸腰刑事」

「How to アキラ100%講座 ~これであなたもお盆芸の達人~」

■特典映像【3分】

「星に願いを(着衣ひとりコント)」