白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「バイきんぐ単独ライブ「クローバー」」(2017年10月25日)

バイきんぐ単独ライブ「クローバー」 [DVD]

バイきんぐ単独ライブ「クローバー」 [DVD]

 

「大丈夫じゃねえよ! だってお前、完全に狂ってんじゃねえかよ!」

これは、一日にタバコを八箱も吸っているヘビースモーカーの西村が禁煙を決意するコント『タバコ』において、あまりにもタバコが吸いたくてトイレの中で猿のように吠えてきた西村に対し、その声が全て耳に入っていた小峠が言い放つ台詞である。あくまでも、このコントの中でだけ使われている言い回しだが、この言葉ほど、本作を明確に表しているものはないように思う。そう。本作は狂っている。“クレイジー”などという英語表記で印象を和らげてしまう必要はない。ただ、純粋に狂っている。

以前のバイきんぐはもっとバランス感を意識したコントを作っていたように思う。例えば、彼らの代表作である『卒業生』は、かつての恩師(小峠)の元に卒業生(西村)がやってくる……というありきたりなシチュエーションの舞台を“自動車学校”にズラしているだけなので、西村の言動は常識外れではあるものの、常軌を逸しているいう段階には至らない。個人的には、クレイジーというよりも、むしろ天然と呼ばれる領域に留まっているように見える。その後、西村のボケとしての濃度が高まるにつれて、天然から確固たるクレイジーへと移行していくことになるのだが、よもやここまで純度の高い狂気を見せつけられる日が来ようとは。

なにしろオープニングコントの『退院』からして狂っている。足にギブス、頭にネットを装着している、まさしく満身創痍な状態で病院から出てきた小峠の目の前に、「どっきり!!」と書かれた看板を片手にテレビディレクターの西村が姿を現し、小峠がこんな状態になってしまった原因である落とし穴が番組のドッキリであったことを明かす。ある種、シンプルでありきたりな設定といえるのかもしれないが、まったく謝罪する素振りも見せず、ただただドッキリをかけられた小峠の醜態を評価し続ける姿は、完全に狂っていた。

その後のコントも、ライフル片手にターゲットを狙う殺し屋風の西村が、実はスコープである人物を覗き見していただけだったことが発覚する『屋上』、じっくりと一人でサウナを楽しんでいた小峠の隣に西村がやってきて、ただただ一方的に勝負を挑んでくる『サウナ』、夕飯を食べようとしていた小峠の部屋に、大きなしゃもじを持った西村がやってくる『晩ご飯』などなど……どのコントでも西村がとことん狂っている。とりわけ『落語』には度肝を抜かれた。西村扮する落語家が高座に上がって「時そば」を演じるのだが、声と口の動きが明らかにズレていて……終始一貫して狂い続けている、なんとも恐ろしいコントだった。

この本編に対して、特典映像では小峠が狂っていた。

例年、バイきんぐの単独ライブにおける幕間映像では、二人が何かしらかの遊びに興じている様子が収められているのだが、今回は「はじめて2人で西村プロデュースキャンプ」と題し、今やキャンプ芸人という謎の地位を確立してしまった西村が小峠をキャンプでもてなしている様子が収録されている。西村は様々なアイテムや多様な料理でもてなそうとするのだが、度重なるテレビ収録にストレスが溜まっていたのか、小峠はひたすらに荒くれた言動を取り続ける。ノンアルコールビールを買おうとする西村に長時間の説教を始めたり、西村が来ることにテンションが上がったというキャンプ場のスタッフをブン殴ろうと宣言したり、西村に裏拳を食らわせたり(半ば事故ではあったが)、何処までもアグレッシブ。

しかし、そんなバイオレンス小峠も、いざキャンプが始まると、西村自慢のアウトドアチェアに身を任せて、西村が自慢したサーバーから注がれたビールで喉を潤し、西村の料理に舌鼓を打つ。全ての言動は、長年に渡ってコンビを組み続けている西村に対する信頼感があってこそなのだということが、そのリラックスした姿から伝わってくる。バイきんぐというコンビの愛おしい関係性を再認識させられる映像だった。以前にも書いたような気がするが、このコンビで「気分は上々」みたいなロケをやってもらいたい。関係者各位、どうですか。

◆本編【57分】

「退院」「キャバクラ」「屋上」「サウナ」「キャンプ」「落語」「タバコ」「晩ご飯」「閉店」

◆特典映像【31分】

幕間映像「はじめて2人で西村プロデュースキャンプ」

「THE MANZAI 2017」(2017年12月17日)

NON STYLE「ヒーローインタビュー」

 最高顧問ビートたけし開会宣言

フットボールアワー「道案内」

とろサーモン「万引きGメン」

トレンディエンジェル「流行語」

千鳥「好きな娘の前でカッコつけたい」

テンダラー勝利者インタビュー」

サンドウィッチマン「家庭訪問」

タカアンドトシ「突撃インタビュー」

矢野・兵動「新幹線」

キャイ~ン「セクハラ/アルハラ/カラオケハラスメント」

銀シャリ「子どもの頃の遊び/ピアノ」

海原やすよ ともこ「大阪と東京の違い」

 プレ:流れ星「お祭り」

 プレ:和牛「牧場デート」

 プレ:ジャルジャル「決めポーズ」

ナイツ「新スタイル」

博多 華丸・大吉「名言を残したい」

おぎやはぎ「グルメレポーター」

パンクブーブー「驚かせてしゃっくりを止める」

ウーマンラッシュアワー福井県の話/愛さえあれば」

ハマカーン「意見を合わせたい」

笑い飯「昔話にハエ」

チュートリアル「炊飯器」

中川家「温泉の従業員」

爆笑問題紅白歌合戦/流行語/AI/日馬富士の暴行問題/AbemaTV」

とりあえず言わせてほしい。プレマスターズシステムいらないだろ! まだまだ名前の知られていないウエストランドやAマッソ、霜降り明星トットあたりが予選を受けさせられるのはかろうじて分かるけれど、既にテレビで売れっ子の尼神インターや三四郎ジャルジャルM-1ファイナリストのカミナリや和牛を同様に扱うのはどうにも納得できない。特にフジテレビの特番「笑わせたもん勝ちトーナメント KYO-ICHI」王者であるタイムマシーン3号とミキは、むしろここで出すことで、自社ブランドとしての強みをアピールできると思うのだが。大会に権威付けしたい気持ちがあるのだろうが、それにしても、色々とヘタを打ち過ぎではないだろうか。いやホント。

印象に残っているのは、M-1優勝直後ということもあって脂が乗りまくっていたとろサーモン、センスよりもバカバカしさを強調することでよりポップになっていた千鳥、バカバカしい下ネタで一気に駆け抜けたタカアンドトシ、『トムとジェリー』ギャグの連発する力技で観客の笑いをもぎ取った流れ星、自己紹介ギャグの押し合いへし合いぶりの意味の無さがたまらなかったジャルジャル、フォーマットで売れた芸人として現代の漫才を自己流に再構築したナイツ、まさかの完全新作漫才コントを見せつけたおぎやはぎ。どのコンビもサイコーにバカバカしく、面白かった!

……そして、自身の芸風を社会問題を切り取る漫才へと上手く改変してみせたウーマンラッシュアワー。見事だった。正直、漫才のクオリティとして見ると、まだまだ完成度は高くない。村本自身の生まれ故郷である福井県の現状を訴えかけた前半パートではシャープな視点が見られたが、日本全体の問題について訴えかける後半パートはただただ運動家の青年によるシュプレヒコールの域を出ていなかった。とはいえ、これはあくまで発展途上。あえて強く否定することはない。これからの進展を期待したい。

ただ、文化人と呼ばれているような人たちが、この漫才をむやみやたらに絶賛されている姿を見ていると、「この人たちは社会を切っているという行為、とりわけ“日本の真実”とかいう代物を大衆の面前に晒している行為だけを評価しているのではないだろうか……」と、なんともいえない気持ちになる。かつて、同じような人たちが、爆笑問題が出てきたときに同じようなことを言っていたんだろうな。まあ、別にええねんけど……。

しかし、こういう風刺ネタが出た回に、ますだおかだの不在は残念。

「M-1グランプリ2017 敗者復活戦」(2017年12月3日)

01.ランジャタイ「ポンポンヨガ」

02.笑撃戦隊「取り調べ風ヒーローインタビュー」

03.からし蓮根「転校生とぶつかって…」

04.Aマッソ「文化に触れな侍」(タイムオーバー)

05.三四郎「ファンに声をかけられて」

06.東京ホテイソン「山の生き物を捕まえに」

07.アイロンヘッド「バイト先の無口で不愛想な先輩」

08.セルライトスパ「レンタカーを借りる」

09.囲碁将棋「スポーツに関する四択クイズ」

10.天竺鼠「もう38歳」

11.霜降り明星「小学校」

12.見取り図「大人の色気」

13.ハライチ「未知の生物が身体に寄生する」(タイムオーバー)

14.南海キャンディーズ「ママタレント」

15.アインシュタイン「オラオラ系」

16.さらば青春の光「ボクシング」(タイムオーバー)

17.大自然「鶴の恩返し」

18.ニューヨーク「フラれたときの練習」

19.相席スタート「ネオ肉食女子

20.スーパーマラドーナ「借金取りの主人公」

メチャクチャなことをやってはいたけれども漫才の枠組みの中に収まっていた天竺鼠、純粋に熱量が高くボケの数も異常に多かった霜降り明星、時間制限のあるM-1というステージでじっくりと時間をかけたボケを見せていたハライチに投票。ただ、安定感という意味では、からし蓮根、セルライトスパ、見取り図、ニューヨーク、スーパーマラドーナも良かった。おそらくはスーパーマラドーナが勝ち上がるのだろうが、果たして?

2017年12月の入荷予定

06「TKO ゴールデン劇場6

20「佐久間一行SHOW2017 BOHOL~ボホール~

20「さまぁ~ずライブ11

27「日本エレキテル連合単独公演「地獄コンデンサ」

年末である。年の瀬である。この時期になると、如何に自分が何も考えずに生きているかをまざまざと思い知らされる。なにせ早い。時の流れと体感速度が明らかに違っている。その結果として、自分の周囲の環境にまったく変化が見られない。否、起きている変化に、ただ単に気が付いていないだけなのか。そんなフクザツな気持ちを抱え込んでしまいがちな年末のリリース予定は、地獄である。よりにもよって地獄である。TKOの手堅いコント、さっくんのハッピーなステージ、冬なのにさまぁ~ずと続いて、地獄である。堕落した人生をなぞるように生きている私には地獄が似合いということか。……などと卑屈な言葉を並べている合間にも、また時はひっそりと過ぎていくのである。いざ行け2017年、ラストスパートを駆け抜けろ。