「面白いって、なんだろう?」。お笑いを真面目に見るようになって十数年、今頃になって、そんなことを真面目に考えてしまった。優勝した芸人のことは嫌いじゃない。ネタも笑った。優勝したことそのものに関しては不満もない。でも、何かが、しっくりきていない。その理由はなんだろう。自分が好きな笑いが評価されなかったからだろうか。確かに、レイザーラモンRG、ルシファー吉岡、マツモトクラブがさほど評価されなかったことは、私の心をひどく冷たくさせた。でも、笑いの量に関していえば、最終決戦に進出を決めたファイナリストたちのネタの方が多かった。そして、私の思考は、最初の疑問へと戻ってくる。「面白いって、なんだろう?」。笑えればいいのか。それだけでいいのか。これが漫才であれば、それでいいとも思えるだろう。漫才は他の演芸に比べて圧倒的に笑いに特化した演芸だからだ。事実、歴代のM-1王者を見ても、NON STYLEやパンクブーブーのように笑わせることだけに特化したコンビの名前が刻まれている。だが、R-1ぐらんぷり、もといピン芸の世界において、笑わせることだけに特化したパフォーマンスばかりが評価されて、独創的な切り口や卓越した表現方法などがおざなりにされてしまうというのは、どうなのだろう……と、ここまで考えたところで、「別にいいんじゃないですか? 笑いに特化したパフォーマンスが評価されずに、重厚な演芸ばかりが評価されるというのも、それはそれで不健全というものですよ」という反論が自分の中に浮上してきたので、成程と納得することにした。
「ENGEIグランドスラム」(2017年2月25日)
銀シャリ「20万円のドライヤー」
COWCOW「うたの鬼ぃさん」
バイきんぐ「早押しクイズ」
ハライチ「旅館の機械化」
ジャングルポケット「常連客」
ジャルジャル「うろ覚えデュオ」
タイムマシーン3号「不動産の内見」
TKO「義父のSNS」
チュートリアル「パンの王様」
オードリー「監督・主演 春日俊彰」
アンガールズ「友情」
テンダラー「ディナーショー」
品川庄司「漫才(住所・ツッコミ・撃たれる演技)」
吉本新喜劇ユニット「給食にクレーム」
ロバート「アスリートCM講習会」
ナイツ「漫才(俺じゃない?)」
南海キャンディーズ「山里の最期」「理想の女性に看取られたい」
バカリズム「いろは問題」
千鳥「こだわりの寿司店」
エレ片「同窓会」
麒麟「名言を言いたい」「声で人を癒やしたい」
CONTS「取り憑かれた男」
レイザーラモン「ナイキソング」
オリエンタルラジオ「黄金時代」「GOLDEN TOWER」
和牛「洋服店」
東京03「20年来の友人」
木村祐一「“写術”」
中川家「漫才(護身、電車を降りる、不在届)」
久しぶりにリアルタイムで視聴(見られなかったところは録画で補填)。長時間の特別番組ながら、どのユニットもしっかりと面白くて、飽きずに楽しむことが出来た。
色々と発見も多かった。例えば、「ハライチの漫才は視点が現代的になりつつある」「ジャングルポケットはどんどんスタジオコントの似合うユニットに成長してきた」「微かな異常をじわりと楽しむジャルジャルのネタはテレビでの視聴に向いていない疑惑」「チュートリアルは自由になったときが一番面白いし一番ヤバい」「常に一定の軽やかさを保っているオードリーの漫才は、暗殺者のように不気味で恐ろしい」「「チドってる」というニューワードをぶちこんできた博多華丸・大吉の千鳥の知名度に対する信頼感の厚さ」などなど。
あ、あとアンガールズの『友情』は、よりベストな状態のパフォーマンスが『アンガールズ単独ライブ「~ゴミにも息づく生命がある~」』に収録されているので、気になる方は是非手に取ってみてください。めちゃくちゃ面白いから。
「R-1ぐらんぷり」と女性芸人に関する資料。
【過去のR-1決勝戦における女性率】
■2002年
浅越ゴエ、オール阪神、桂三若、ケンドーコバヤシ、笑福亭三喬、陣内智則、だいたひかる、友近、中田なおき、パペットマペット、水玉れっぷう隊 アキ、南野やじ
ファイナリスト12人中2人が女性。だいたは初代チャンピオンに。
■2004年
ファイナリスト8人中1人が女性。友近は2年連続決勝進出。
■2005年
ファイナリスト8人中1人が女性。友近は3年連続決勝進出。
■2006年
ファイナリスト8人中1人が女性。 友近は4年連続決勝進出。
■2007年
ファイナリスト8人中2人が女性。友近は5年連続決勝進出。
■2008年
ファイナリスト8人中1人が女性。
■2009年
あべこうじ、エハラマサヒロ、COWCOW山田興志、岸学(復)、鬼頭真也(夜ふかしの会)、サイクロンZ、夙川アトム(復)、鳥居みゆき、中山功太、バカリズム
ファイナリスト10人中1人が女性。鳥居は2年連続決勝進出。
■2010年
ファイナリスト9人中1人が女性。
■2011年
AMEMIYA、COWCOW山田興志、キャプテン渡辺、佐久間一行、スリムクラブ真栄田、ナオユキ、バッファロー吾郎 木村、ヒューマン中村
ファイナリスト8人に女性不在。
■2012年
AMEMIYA、いなだなおき、COWCOW多田、キャプテン渡辺、サイクロンZ、スギちゃん、千鳥 大悟、徳井義実、友近、ヒューマン中村、野性爆弾 川島、ヤナギブソン
ファイナリスト12人中1人が女性。友近が05年以来の決勝進出。
■2013年
アンドーひであき、桂三度、雷ジャクソン高本、岸学、キンタロー。、三遊亭こうもり、スギちゃん、田上よしえ、ヒューマン中村、プラスマイナス岩橋、三浦マイルド、ヤナギブソン
ファイナリスト12人中2人が女性。
■2014年
馬と魚、おぐ、小森園ひろし、じゅんいちダビッドソン、スギちゃん、TAIGA、中山女子短期大学、バイク川崎バイク、ヒューマン中村、ミヤシタガク、やまもとまさみ、レイザーラモンRG
ファイナリスト12人に女性不在。
■2015年
アジアン馬場園、厚切りジェイソン、あばれる君、エハラマサヒロ、COWCOW善し(復)、じゅんいちダビッドソン、とにかく明るい安村、NON STYLE石田、ヒューマン中村(復)、マツモトクラブ(復)、やまもとまさみ、ゆりやんレトリィバァ
ファイナリスト12人中2人が女性。
■2016年
厚切りジェイソン、エハラマサヒロ、おいでやす小田、小島よしお、サンシャイン池崎(復)、シャンプーハットこいで、とにかく明るい安村、ハリウッドザコシショウ、マツモトクラブ(復)、ゆりやんレトリィバァ、横澤夏子、ルシファー吉岡(復)
ファイナリスト12人中2人が女性。ゆりやんは2年連続決勝進出。
■2017年
アキラ100%、石出奈々子、三浦マイルド、ブルゾンちえみ、マツモトクラブ、ゆりやんレトリィバァ、横澤夏子、ルシファー吉岡、レイザーラモンRG
ファイナリスト(復活除)9人中4人が女性。横澤は2年連続、ゆりやんは3年連続決勝進出。
【過去大会における主な女性セミファイナリスト】
(カッコ内数字は準決勝進出を果たした年)
赤プル(05、10)
アジアン馬場園(15)
いがわゆり蚊(06、07、09~11)
石出奈々子(16、17)
出雲阿国(06、09)
いとうあさこ(05~08、10)
ウメ(06~09、12~14)
エド・はるみ(08)
川村エミコ(07)
キンタロー。(13~15)
国崎恵美(05、06)
黒沢かずこ(08)
紺野ぶるま(17)
桜 稲垣早希(10~15)
島田珠代(12)
だいたひかる(02)
たかまつなな(13)
田上よしえ(04、05、09~11、13~16)
ツジカオルコ(08)
椿鬼奴(06)
友近(02~10)
鳥居みゆき(08~10)
長江もみ(10、11、13)
中村涼子(16、17)
にしおかすみこ(07、10)
ニッチェ江上(09)
ニッチェ近藤(15、17)
平野ノラ(17)
北陽 虻川(12)
まちゃまちゃ(05)
松本美香(04、05)
森田まりこ(08、12)
やしろ優(15)
柳原可奈子(07)
ゆりやんレトリィバァ(15~17)
横澤夏子(15~17)
ロリィタ族。(07)
渡辺直美(09、10)
今年の「R-1ぐらんぷり」は女性芸人が豊作だという話を受けて、ちょっと調べてみた。で、どうやらその通りなのだが、こうしてズラッと並べてみると、別に今年が豊作というよりも、これまであんまり女性芸人が選出されていなかっただけなんじゃねえの的な気持ちがムクムクと。04年~12年まで女性芸人のファイナリストが0人ないし1人だったのって、やっぱりなんだかおかしい(実際の予選を見ていないから断言はできない)。……まあ、別にいいんだけど。うん。
追記。「M-1グランプリ」や「キングオブコント」で女性コンビが決勝に進出した例が少ないことを思えば、むしろ「R-1ぐらんぷり」は女性芸人の門戸を開いている方なのではないか……という指摘を受け、確かにそうだなあと少し思い直した。とはいえ、女性コンビに比べれば、女性ピン芸人の方が層は厚いのではないか?という気もしないでもないのだが。難しい。
2017年3月の入荷予定
15「小林賢太郎最新コント公演 カジャラ #1 『大人たるもの』 Blu-ray」
年度末ということで、労働に勤しむ身と致しましては、なにやら身が引き締まるようなそうでもないような感じがしないでもないですが、当ブログの読者の皆様方はどんなもんでしょうか。年度末だからって、特に何も感じませんか。どうでもいいですか。どうでもいいですね。正直、私もどちらかというと、どうでもいいです。でも、まあ、こういう文章を書くときには、なにかしらかの挨拶文がないと、どうしても全体が引き締まらないというか……とりとめのない話を無駄に続けてしまいました。そろそろ本題に入ります。
三月のラインナップは以上になります。注目すべきは、やはりKAJALLAですかねえ。小林賢太郎と片桐仁が久しぶりに共演を果たしたということで、けっこう話題になりました。昨年、私も大阪公演を観に行きましたが……いいライブでしたねえ。お芝居とも、一人舞台とも違った、ちゃんとしたコントライブでした。シティボーイズがファイナルを宣言してしまった今、その後を引き継いでもらいたいものです。この他、「M-1グランプリ」王者のサンドウィッチマン、「R-1ぐらんぷり」王者の佐久間一行が、それぞれ自身の公演をソフト化。サンドは10枚目、佐久間は6枚目のリリースとなります。今年もきちんと発売してくれて、ありがたいですね。じゅんいちダビッドソンはベストライブ……ではなく単独ライブを初のソフト化。ここで無難なベスト盤ではなく個性際立つ単独ライブ盤をチョイスする攻めの姿勢……まだまだ伸びしろ、ありますねえ!
そして四月は……あの衝撃的な漫才師たちが初のDVDをリリースだ!
「R-1ぐらんぷり2017」ファイナリスト発表の件。
アキラ100%(SMA)
石出奈々子(浅井企画)
ブルゾンちえみ(ワタナベエンターテインメント)
マツモトクラブ(SMA)
三浦マイルド(よしもとクリエイティブ・エージェンシー 東京)
ゆりやんレトリィバァ(よしもとクリエイティブ・エージェンシー 大阪)
ご覧のメンツとなった。
まずは決勝進出経験者から。昨年大会3位の「ゆりやんレトリィバァ」、ファイナリストの「マツモトクラブ」「横澤夏子」「ルシファー吉岡」が今年も決勝進出。「マツモトクラブ」「ゆりやんレトリィバァ」は三年連続の決勝進出である。どちらも最終決戦進出経験があり、優勝候補と言ってもいいのでは。「三浦マイルド」は2013年のチャンピオン。以来、4年ぶりの決勝進出である。優勝後、まったく名前を聞かなくなってしまっただけに、なんだか頑張ってもらいたい気がしないでもない。「レイザーラモンRG」は2014年以来の決勝進出。当時はスティーブ・ジョブズに扮していたが……今回は?
残りの三人は初の決勝進出者。「アキラ100%」はお盆で股間を隠すという宴会芸の可能性を追い求める、男性ピン芸人。前張りなどを要さず、本当に裸でネタに臨んでいるという話を聞いたことがあるが……生放送で大丈夫なのだろうか。「石出奈々子」はモノマネ芸で注目を集めている、女性ピン芸人。過去の大会では、モノマネ芸で優勝しているピン芸人も少なくないので、ここが優勝する可能性もある。「ブルゾンちえみ」は今まさに旬の女性ピン芸人。いつもはバックにダンサー二人を引き連れているが、今回のような賞レースではどうだろう。
以上がファイナリスト。ブロック分けはこのように決定している。
■Aブロック
(復活ステージ3位)
■Bブロック
石出奈々子
(復活ステージ2位)
■Cブロック
ブルゾンちえみ
マツモトクラブ
アキラ100%
(復活ステージ1位)
ひたすらに一番手を選び続けるRGのカッコよさに惚れ惚れしそうだが、最後に出番を選んだゆりやんが「ここで!」と言いながら、トーナメント表の優勝のところに自分の名前を貼ろうとしたことも記録として残しておきたい(身長の問題で届かなかったが)。
以下、復活の可能性がある、準決勝戦敗退者の皆さん。
アイデンティティ田島
あばれる君(15年ファイナリスト)
AMEMIYA(11年、12年ファイナリスト)
エハラマサヒロ(09年、10年、15年、16年ファイナリスト)
おいでやす小田(16年ファイナリスト)
キャプテン渡辺(11年、12年ファイナリスト)
クロスバー直撃前野
ZAZY
サンシャイン池﨑(16年ファイナリスト)
スリムクラブ真栄田(11年ファイナリスト)
粗品(霜降り明星)
とにかく明るい安村(15年、16年ファイナリスト)
ナオ・デストラーデ
中山功太(09年チャンピオン)
西村ヒロチョ
ニッチェ近藤
パーマ大佐
バイク川崎バイク(14年ファイナリスト)
パタパタママ木下
ヒューマン中村(11年~15年ファイナリスト)
平野ノラ
藤崎マーケットトキ
ぶらっくさむらい
まとばゆう
もう中学生
守谷日和
決勝戦の模様は2月28日19時から放送予定。
「バカリズムライブ「類」」(2016年11月23日)
2016年6月23日から26日にかけて草月ホールで行われたライブを収録。
「類」というライブタイトルを見て、最初に思い出したのはラーメンズのコント『無類人間』だった。『無類人間』は、用途を与えられないと何をすればいいのか分からなくなってしまう人たちを描写した社会派コント『無用途人間』の設定を更に掘り下げたネタで、"哺乳類”“男性類”などといった“類”を与えられることで生物としてのアイデンティティを確立していく人たちの姿を描いている。ラーメンズのブレーン・小林賢太郎とは旧知の仲であるバカリズムのことなので、ひょっとしたら彼らを意識して……というのは、些か勘繰り過ぎというものだろう。
そもそも、このライブタイトルは、「類(るい)」ではなく「類(たぐい)」と読むらしい。ライブのプロローグで、バカリズム自身がそう説明している。音読みではなく訓読みである。……だからなんだといえば、だからなんだという話なのだが。ところで、このプロローグというのが、なかなかに挑戦的である。何がどう挑戦的なのかというと、この男、ライブについてやたらと自画自賛を繰り返すのである。まず、ライブタイトルである「バカリズムライブ「類」」の素晴らしさについて語り、ココ・シャネルの名言を引用しながらオシャレなチラシについて語り(DVDのパッケージと同じヤツ)、シンプルな舞台美術から漂う孤高感について語り……これでもかと図々しくも喋り続ける。『キッズ・リターン』の名台詞とともにツッコミを入れたくなるが、言うまでもなく、これもまたバカリズムの意図するところである。ここから更に、「類」に関する話へと展開するのだが……まあ、その辺りは、実際に見てもらうとして。
肝心のコントだが、これがまぁーっ……小憎らしいほどに面白い。ここ数年で一番面白いライブになっていたのではないだろうか。確認はしてないけれど。そう思わせられている時点でバカリズムの勝ちである。敗北者である我々は、ただひたすらに腹を見せる服従のポーズのまま恍惚の表情を浮かべるしかない。……いや、そもそもの話、勝負ですらないのだが。
一本目のコント『友達の類』。これがいい。実にいい。端的に説明すると、“リア充”を憎んでいる非リアな友人に、自分がリア充であることを告白するコントである。わざわざリア充であることを友人に告白するというシチュエーションだけでもナンセンスで面白いのだが、その理由が「後ろめたさ」からきているというのが、また面白い。要するに、自らが友人が憎んでいるリア充であることに後ろめたさを覚え、その罪を告白し、謝罪しているのである。でも、実際にやっていることだけを見てみると、まったくの無害。この落差が、現実におけるリア充が抱かれている嫌悪感への風刺として、上手く表現されている。そこにあるのは、単なる僻みでしかない……と、結論付けさせようとしておきながら、思わぬオチで印象が大逆転。一本目に相応しい、分かりやすくてパンチの効いたコントである。
これ以降のコントも、なかなかに素敵なネタが続いている。手品師が手品ではなくトークを披露し続ける『手品の類』、「会社を辞めたい」と願い出た社員が上司に辞めたい理由をプレゼンし始める『上司の類』、革ジャンにサングラスという典型的なロックシンガーが自身の方向性の紆余曲折を自作の楽曲とともに振り返る『反逆の類』など、どのコントもなにやら人を食ったような内容のものばかり。これらのコントの幕間を埋める映像も完成度が高い。学校教師に扮したバカリズムがとある基準で出席を取る「教師の類」、昔話に似ている自身のエピソードを紹介する「類物語」、サッカーボールと様々な関係にある人たちのドロドロとした関係性を描いた「ボールは誰の何の類」など、コントにも引けを取らない完成度の映像が作られている。地味に「思い出の類」が好きなんだよなあ……ほぼバカリズムの顔芸みたいな映像だけど……。
ただ、本作を語る上で、忘れてはならないのは、やはり最後のコント『40LOVE~幸福の類~』だろう。このコントの主人公は、恋人も妻も持たない独身男・オカバヤシテルヒサ。40歳を過ぎて、出会う機会も少なくなってしまった今、彼はもはや結婚することを諦めてしまったという。しかし「幸せ」そのものを諦めたわけではなかった。彼は「幸せ」になるために、物理的な結婚を諦めて、精神的な結婚をすることにしたのである。それは、とどのつまり、「想像で作り上げた妻とともに生活する」ということだった……。このライブが行われていた頃、まさに40歳の独身男性だったバカリズム。このコントに反映されているのは、彼の思想、信念なのかもしれない。そして、それは事実、とても楽しそうに見えた。想像で作り上げた妻との慎ましくも愛おしい日々。だが、ふとした瞬間、その想像上の日々は脆く崩れてしまう。その空虚感、哀愁たるや。このコントを、バカリズムがどのような気持ちで作り上げたのか、まったく分からない。ただ、まさに当事者である彼の、なんともいえない凄味のようなものがじわじわっとにじみ出ていた、実にオソロシイコントであった。
特典映像は無し。だが、充実感はスゴい。あと、RAM RIDERが手掛けたオープニングテーマ『そういう類の歌』が、コントライブのテーマソングとは思えないほどにムチャクチャ格好良いので、そこもしっかりと味わってもらいたい。いや、マジで、RAM RIDER氏、あれ音源化しませんか。
■本編【95分】
「プロローグ」「オープニング」「友達の類」「教師の類」「手品の類」「類物語」「上司の類」「おまけコーナー こんな上司はいやだ!(見せそびれたやつ)」「正義の類」「ボールは誰の何の類」「背徳の類」「類物語」「反逆の類」「思い出の類」「40LOVE ~幸福の類~」「エンディング」
「ダイアン 1st DVD DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション~」(2017年2月8日)
ダイアン 1st DVD/DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション~
- 出版社/メーカー: よしもとアール・アンド・シー
- 発売日: 2017/02/08
- メディア: DVD
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2016年10月10日にルミネtheよしもとで開催された単独ライブの模様を収録。
“ベストネタセレクション”と銘打っているが、「M-1グランプリ2007」で披露された『スカウト』、「M-1グランプリ2008」で披露された『サンタクロース』、「THE MANZAI 2014」で披露された『職務質問』など、彼らが賞レースの決勝戦で披露してきた漫才は、いずれも収録されていない。どうしても観たかったというわけではないが、それぞれの時期のダイアンの漫才を代表するだろうネタが収録されていないというのは、なにやら寂しい。
収録されている漫才は全八本。これといったスタイルを持たないダイアンの自由奔放な漫才を楽しむことが出来る。どのネタも安定して面白かったのだが、コンビニの店員にクレームを入れる様子を描写した『コンビニ』は昨年11月に放送されたM-1特番内で演じられていたので、彼らにとっての自信作なのかもしれない。確かに、中盤あたりで西澤が演じ始める、コンビニ店員の振り切れたクレイジーぶりには、目を見張るものがあった。そんな西澤の狂気的な言動に震える津田のリアクションも楽しい。
個人的に面白いと感じたのは、『模様替え』『娘さんをください』『カバ』の三本。
最近ストレスがスゴいという西澤に津田が模様替えを薦める『模様替え』は、口頭で説明される西澤の現在のリビングの内装からある施設が想起させられるネタ。要するに、ちょっと回りくどい“あるあるネタ”なわけだが、何故か西澤のリビングが無意識のうちにそういう状況になっているという不条理さがたまらなく面白い。ネタの後半では、このシステムを観客に理解させたうえで、更にブッ飛んだ展開になっていくところも実に好ましい。
まだ結婚していないが恋人の父親に「娘さんをください」と頼むのは得意だという西澤が、津田に父親に見立てて同様の状況を再現する『娘さんをください』は、西澤のクレイジーぶりが全面に押し出されたシチュエーションコント。既にこちらを振り向いている父親に対して「お父さん! お父さん!? お父さーん!」と連呼、「君にお父さんなんて言われる筋合いはない」と言われて「じゃあお母さん! お母さん! ボーイッシュなお母さん!」と即座に切り替え、恋人のお腹の中に新しい生命が宿っていると聞かされて困惑しながら「なんでそんなことになったんや!」と声を震わせる父親に「二ヶ月くらい前に僕、誕生日やって……」と詳細を語り始める。この時点で相当にクレイジーだが、ここからもっともっとタカが外れていく。何がおっかないって、どんなに言動がクレイジーになっていっても、当の西澤はまったく素の状態を維持しているのがおっかない。
動物園に行ってきたという西澤が動物の中でも特に好きだというカバの話を始めるのだが、その話に、途中でそっと挟み込んだ「飼育員のおじさんが西田敏行に似ている」という話が混ざり込んでしまう『カバ』は、M-1グランプリの予選用に作られたかのような漫才。コンセプトは明確だし、二人の個性も光っているし、なにより四分でまとめられている。ダイアンは2015年にM-1出場権を失っているが、もしも今年も出られたとしたら……このネタで決勝戦を目指していたのかもしれない。
これらのバリエーション豊富な漫才の合間には、幕間映像が収録されている。メイン企画は「ダイちゃんのおもしろVTR」。誕生日にファンからバースデープレゼントを二個しか貰えなかった津田(ちなみに西澤は三個)のために、ファンが0人だと思われる芸人たちから話を聞くという超失礼な企画である。これがなかなかに意外な人選になっており、見応えのある内容になっている。先輩・後輩関係無く、堂々と「ファン0人ですよね?」と訊ねる西澤の太々しさも素晴らしい。ただ、個人的に笑ったのは、ダイアンの二人が動物の写真をコメンタリーでイジり倒す「ダイちゃんのおもしろ動物図鑑」。動物の写真だけでも相当に衝撃的なのだが、そこにダイアンのコメントが加わることで、面白味が倍増していた。お互いの会話の距離感から、二人の仲の良さも伝わってくるのも良かった。ラジオ向きのコンビなのかもしれない。
また、特典映像として、ダイアンの二人がかつて住んでいた町を歩くロケの模様を収めた「初めてひとり暮らしをした大阪・平野をぶら歩き」、バレンタインデーにチョコを一個しか貰えなかった津田のためにファンが0人と(以下略)「『ABCホールのダイちゃん』おもしろVTR~聖バレンタイン~」を収録。「平野をぶら歩き」は、ロケ芸人としてのダイアンの一般人に対する感度の良さと底意地の悪さが垣間見える、とても楽しい映像になっているので、是非に。
■本編【105分】
「漫才「本屋」」「ダイちゃんのおもしろVTR①」「漫才「模様替え」」「ダイちゃんのおもしろVTR②」「漫才「コンビニ」」「ダイちゃんのおもしろVTR③」「漫才「娘さんをください」」「ダイちゃんのおもしろ動物図鑑」「漫才「バーベキュー」」「ダイちゃんのおもしろVTR④」「漫才「カバ」」「ダイちゃんのおもしろVTR⑤」「漫才「保安検査場」」「ダイちゃんのおもしろ写真館」「漫才「美容室」」
■特典映像【48分】
「始めてひとり暮らしをした大阪・平野をぶら歩き」
「『ABCホールのダイちゃん』おもしろVTR~聖バレンタイン~」
「じわじわチャップリン」(2017年2月11日)
- てんしとあくま【37】
「チューリップの歌」。幼稚園の先生になりたかったというかんざきが、きちんと子どもたちを楽しませるための曲を歌えるかどうかを確認してもらおうと、相方の川口に『チューリップの歌』を聴かせるのだが、その音程が何処かおかしい。大きなズレではなく、原曲と少しだけ違っている(マイナーアレンジ?)という微妙なズレが、ほのかな違和感を生み出していて、たまらなく面白い。しかし、このネタが凄いのは、そんな微妙なズレの面白味を最後まで貫いているところにある。その異様な音程に対して確固たる自信が無ければ、とても成し遂げられる所業ではない。実際、面白かったのだが、とはいえ同じボケを延々と繰り返しているだけと捉えることも出来るので、観客にどう評価されるのかは最後まで分からなかった。合格していて一安心。あと、これは完全に余談だが、かんざきの『チューリップの歌』の妙な引きの強さに終始戸惑いの表情を浮かべていた川口が、最後に「どうもありがとうございました」と言って客席に頭を下げる直前に一瞬だけ凄いドヤ顔を見せていたのが、ちょっとだけ面白かった。
- うしろシティ【33】
「引っ越し」。二週勝ち抜き。引っ越し当日、ワンルームだと思って住んでいた部屋に別の部屋があったことが発覚する。リアルタイムで観賞している際に「傑作だ!」と感動し、後になって録画で確認した際にも「やっぱり傑作だ!」と感心させられたネタである。パソコンやファックスのような複雑な機能を持つ電化製品に起こりがちな「うっかり見逃していた機能を発見したときの驚き」を、上手く自宅に置き換えて表現したコントだ。金子によって部屋が発見されるまでの流れもさることながら、部屋を発見した際の阿諏訪のリアクションが素晴らしい。あまりにも驚くべき事態に遭遇したとき、人間は即座にリアクションを取ることが出来ないものなのだなあと、しみじみと思わせられた。「俺、前室みたいなところで、八年居たのー!?」というコメントも最高だ。向こうの八畳、失くした財布の発見、東京湾の花火と、だんだんと部屋の輪郭が明確になっていくのも良い。惜しむらくは、オチを少し急ぎ過ぎたように感じたところか。少し間を空けて、じわっとオチの言葉を口にしていれば、もうちょっと魅力的なオチになっていたと思う。それにしても……点数が低い! こういう想像力を引き立てるタイプのネタは一般ウケしづらいのだろうか。三週連続勝ち抜きでチャンピオン大会出場決定。
【ふきだまりコーナー】
インポッシブル、えんにち、ワールドヲーター、カミナリ、サンシャイン池崎、下村尚輝、すゑひろがりず、ばーん、なすなかにし、センサールマン、ペコリーノ、プラス・マイナスが登場。「あま~いギャグ」というテーマの元、カミナリ、すゑひろがりず、インポッシブルがギャグを披露した。すゑひろがりず、緊張からか甘噛みしていたが、本ネタはめちゃくちゃ面白いコンビなので、早く本戦に登場してもらいたいところ……。
- オジンオズボーン【30】
「大きなカブ」。「オジンオズボーン」を「イジンイジビーン」と本場の発音で喋ることの出来る篠宮が、そんな本場の発音で『大きなカブ』のストーリーを語り始める。『大きなカブ』のストーリーをなぞるように展開しているシンプルな漫才が、「イジンイジビーン」システムによって包み込まれることで、まったくの混沌世界に変貌を遂げている。その意味の無さ、バカバカしさがたまらなく面白いのだが、発言の意味がよく分からない状態で同じような作業が延々と繰り返されているため、中盤辺りで飽きがきてしまう。高松のツッコミが上手くフォローしているが、説明が入ってしまっている時点で、序盤の破壊力はすっかり弱まってしまっている。実に勿体無い。このどうかしているとしか思えない発想自体は悪くない(むしろ好き)ので、何かしらかの改善を施してもらいたい。まあ、そこまで固執するようなシステムかというと……うん。
- ハリウッドザコシショウ【30】
「ものまね大連発」。お馴染みの「ものまね芸」。今回の放送では「誇張しすぎたPPAP」「誇張しすぎたパッション屋良」「ヒロシ」「誇張しすぎた麒麟の川島」「誇張しすぎた長嶋監督」を披露した。やっていることは基本的にいつもと同じ。見て、大笑いして、すぐ内容を忘れさせてくれる、素晴らしき意味の無さ。特に、最後の最後に登場した、誇張しすぎた長嶋監督は凄かった。じんわりと錯乱しているようにしか見えない。あと、最初は目を閉じているのに、途中から目を開けるところが、地味にたまらないんだよなあ……。
【今週のふきだまり芸人】
イヌコネクション「初バイトにイタズラ」
インポッシブル「ゾンビ映画」
なすなかにし「じゃんけん」
次回の出場者は、えんにち、オジンオズボーン(一週勝ち抜き)、てんしとあくま(一週勝ち抜き)、ハリウッドザコシショウ(一週勝ち抜き)。