白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1ぐらんぷり2019」(2019年3月10日)

司会は雨上がり決死隊三田友梨佳(フジテレビアナウンサー)。審査員は桂文枝関根勤渡辺正行久本雅美陣内智則友近。敗者復活ステージからのリポーターに、竹上萌奈関西テレビアナウンサー)と前回チャンピオンの濱田祐太郎

【Aブロック】
チョコレートプラネット松尾「IKKOさん」(1)
クロスバー直撃 前野悠介「動体視力のテスト」(0)
こがけん「マジカルマイク」(7)
セルライトスパ大須賀「赤ちゃんを寝かしつけながら漫談」(10)

持ちネタのIKKOモノマネに『一休さん』の有名なエピソードを掛け合わせたコントを披露したチョコレートプラネット松尾、動体視力のテストと称して創作性に満ちた小道具を飽きさせない構成で見せつけた(「実印」の重ね技とバームクーヘンの演出は見事!)上で“メルカリ”という旬の要素も取り入れたクロスバー直撃・前野悠介、“どんな曲でもアメリカの80年代の歌手風に歌い上げてしまうマイク”という設定を抜群の表現力で最後まで押し切ったこがけん、大声を出せない状況を作り出してヒソヒソ声でアトランダムな漫談を披露するという新機軸の手法を編み出したセルライトスパ大須賀。既にコンビとしての面白さが認知されているチョコプラ松尾が一段下がって、残り三人で票を取り合うことになる……と想定していたのだが、いざ蓋を開けてみると、こがけん大須賀の一騎打ちに。結果、全審査員に満遍なく評価された、大須賀が最終決戦に進出する。前野……。

【Bブロック】
おいでやす小田「勝ち組の駄々っ子」(6)
霜降り明星 粗品「夢ってなんかヘン」(6)
ルシファー吉岡「共学」(2)
マツモトクラブ(復活2位)「犬」(4)

勝ち組になっても庶民の感覚を捨てられない人間が全力で駄々をこねるという落差のある設定に自身のイジられキャラを上手くはめ込んだおいでやす小田、確固として強烈な発想力をシンプルなイラストで表現しながら更にシンプルなツッコミで畳み掛けた霜降り明星 粗品、その場には存在しない異性に免疫のない男子たちの姿を台詞回しで浮き彫りにするという一人コントの醍醐味を見せつけたルシファー吉岡、真実を見抜く犬を介した友人同士の会話を切なく描き出したマツモトクラブ。ネタを伝わりやすい方向へと寄せ過ぎてしまった感のあったマツモトクラブ、ネタそのものは面白かったが霜降り明星としての漫才の方が圧倒的に面白かった霜降り明星 粗品がやや弱いと感じたので、おいでやす小田かルシファー吉岡が行くだろうと読んでいたのだが、おいでやす小田と粗品が同点という結果に。“より多くの審査員に評価されたほうが勝者となる”という規定ルールに則り、粗品が最終決戦に進出する。

【Cブロック】
◎だーりんず 松本りんす「カツラ芸」(8)
河邑ミク「大阪へ転校」(3)
三浦マイルド広島弁漢字ドリル」(6)
岡野陽一(復活1位)「鶏肉」(1)

丁寧かつ落ち着いた口調でカツラを用いたパフォーマンスを披露するというギャップで笑いを巻き起こした松本りんす(オチ前の悲哀に満ちた一言が素晴らしい)、大阪に対する偏見を正確な再現とともに撒き散らした河邑ミク広島弁アウトローにまみれた漢字ドリルの例文を乱打した三浦マイルド、“鶏肉をもう一度大空に飛ばしてやっているおじさん”というメッセージ性の強い狂った設定のコントを直球で押し通した岡野陽一。笑いの度合いという意味では三浦マイルドが圧倒的。だが、会場の空気を掴んでいたのは、自らの身体を張ったパフォーマンスを披露した松本りんす。どちらかに軍配が上がるだろうと予想していたが……結果は、僅差で松本りんすに軍配が上がる。それはそれとして、友近岡野陽一のコントに一票入れていたのは、なんだかとてもアツかった。

 【最終決戦】
セルライトスパ大須賀「猛獣に囲まれながら漫談」(7)
霜降り明星 粗品「夢ってなんかヘン」(7)
だーりんず 松本りんす「カツラ芸」(4)

一本目とはまったく違ったシチュエーションを提示することでヒソヒソ漫談の内容とのギャップを強めた大須賀、更に磨き上げたネタにバンクシー要素を加えることで完全に獲りに来た粗品、パフォーマンスの間に挟み込まれる喋り部分のクオリティを格段に上げてきた松本りんす。リアルタイムで視聴しているときには、どの芸人が勝つのかまったく予想できなかったのだが、冷静になった状態で観返してみると、粗品のネタの精度が格段に上がっていて、ビックリしてしまった。これは勝たせないわけにはいかないだろう。結果、大須賀と粗品が同点となるも、ルールに則って粗品が優勝。なにやらしこりのようなものを感じなくもないが、優勝は優勝である。おめでとうございます。

ただ、それでも粗品は、ピンでのネタよりも霜降り明星の漫才の方が圧倒的に面白くて、M-1での優勝をきっかけにその事実が多くの人々に認識されている今、敢えてR-1で漫才に見劣りするピンのネタで優勝させてしまう大会としての姿勢に、モヤモヤするものを感じてしまうのは、きっと私の性格が面倒臭いためなのだろう。うん。許せよ。