土曜深夜の視聴覚室

Saturday midnight audio-visual room.

「バカリズムライブ「ぎ」」(2017年11月22日)

そんなこんなで木曜日である。

この記事が更新されるのは金曜日だが、書いているのは前日の木曜日である。とはいえ、「キングオブコント2018」決勝戦が、もう明後日には開催される。あと二回ほど寝て起きたら、決勝戦当日だ(昼寝を除く)。それに先駆け、つい先日「漫才師が選ぶ“面白すぎて嫉妬した”コント名作選」という事前番組が放送されたらしい。残念ながら、私の住んでいる地域では放送されなかったのだが、聞くところによると、ナイツ、NON STYLEトレンディエンジェルといった人気漫才師たちが、KOC決勝戦で演じられたコントの中から名作を選出する企画だったらしい。

こういう企画が放送されるたびに、「もしも自分が漫才師の側だったら、どのネタを選ぶだろう?」という妄想に駆られる。東京03の『コンビニ』か、キングオブコメディの『教習所』か。かもめんたるの『白い靴下』もいいし、シソンヌの『タクシー』もいい。いや、どうせなら、チャンピオン以外のネタを選びたい。しずるの『能力者』、インパルスの『面接』、モンスターエンジンの『Mr.メタリック』……。記録には残らなかったものの多くの人々の記憶に残ったコントが、頭の中でグルグルと駆け巡っていく。無論、私は漫才師ではないので、このような企画に駆り出されることはない。それなのに、そんな「もしも」について、一生懸命に考えてしまうことがある。

思えば、お笑いファンには色んな「もしも」がまとわりついている。例えば、「もしもあのコンビがキングオブコントに出場していたら」。シティボーイズ、さまぁ~ず、ネプチューン千原兄弟ラーメンズおぎやはぎ……キングオブコントへの出場経験のない芸人たちが、もしも大会に出場していたとしたら、どんなネタを披露し、どんな評価を得ていただろう。そんな「もしも」を考える。「もしもあのコンビが解散しなかったら」。ツインカム底ぬけAIR-LINE、プラスドライバーなど、キングオブコントが開催されるよりも前に解散してしまったユニットが出場していたら。そんな「もしも」を考える。

そして最終的に、一つの「もしも」に辿り着く。「もしもバカリズムがコンビを解消せずに、今でも二人で活動していたとしたら、キングオブコントでどのように評価されていただろうか?」。無論、この疑問に答えは出ないし、今やバカリズムは既に賞レースの枠組みを超えた存在に成っている。だが、だからこそ、そんな「もしも」について考えてしまう。今の彼なら、コンビとしてどんなコントを書いてくれるのだろう?

バカリズムライブ「ぎ」 [DVD]

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バカリズム升野英知松下敏宏によって1995年に結成されたお笑いコンビだった。「爆笑オンエアバトル」第一回チャンピオン大会出場、「第1回お笑いホープ大賞」決勝進出など、シュールな芸風のコント職人として一定の評価を得るも、2005年に松下の引退を受けてコンビとしての活動を休止。以後、バカリズムは升野のピンでの芸名となる。

同年、『R-1ぐらんぷり2006』に出場。初出場でありながら決勝進出を果たし、フリップネタ『トツギーノ』で総合4位という結果を残す。以後、『爆笑レッドカーペット』『IPPONグランプリ』『人志松本のすべらない話』などの番組に出演、その才能を如何無く発揮している。また、近年では脚本家としての評価も高まっており、2018年には自身が原作・脚本・主演を務めたテレビドラマ『架空OL日記』が「第55回ギャラクシー賞・テレビ部門特別賞」および「第36回向田邦子賞」を受賞している。まさに“天才”と呼ぶにふさわしい八面六臂の活躍ぶりである。本作には、そんなバカリズムが2017年5月17日から20日にかけて、草月ホールで開催した単独ライブの模様が収録されている。

バカリズムといえば「類い稀なる発想力」が評価されているイメージがあるのだが、その点でいえば、本編で演じられているコントはむしろ平凡である。想像していた以上に余命が短いことに驚きを隠せない病人の動揺を描いた『過ぎてゆく時間の中で』、あまりにも長くて回りくどい料理名が淡々と読み上げられていく『難儀と律儀』、派遣型の女王様を自宅に呼び寄せたところ見知らぬ中年の男性がやってくる『六本木の女王』など、着眼点の意味ではさして驚かされるものではない。では、本作は退屈でつまらない内容なのかというと、そうではない。本作において、発想はあくまでもスタートを切るためのきっかけに過ぎず、その設定の上で繰り広げられるコミュニケーションの豊潤さにこそ魅力が詰まっている。思うに、当時『黒い十人の女』『住住』などのドラマの台本を手掛けていた経験が、ここに活かされているのだろう。その舞台には、人間が生きている。流石だな向田邦子賞作家(このライブの時点ではまだ受賞していないが)。

とりわけ印象に残っているのは『志望遊戯』というコント。舞台は高校の教室。教師と生徒と母親による三者面談の場だ。成績が優秀であるにもかかわらず、進学をせずに就職したいという生徒に驚きながらも落ち着いて話を聞きだす教師。「お前、何になりたいんだ?」と教師が質問すると、生徒は靴屋だと答える。「確かにお前は、スニーカーが好きだもんな……うーん、なるほど。じゃあ、ちょっとやってみよう!」。そういうと教師はおもむろに立ち上がり、実在しない靴屋の自動ドアを「ウィン」と開けるのであった。漫才にありがちな、コントのシチュエーションに入るくだりを日常的な風景の中に取り入れたコントで、その違和感が生み出す面白味もさることながら、漫才コント的なネタを教師のキャラクターを演じたまま表現してみせるバカリズムの演技力に舌を巻く。コントの中のコントをそのまま笑えるネタとして演じているスゴさ。たまらない。そして、このコントはある種、「もしもバカリズムがコンビを続けていたら」の一つの答えになっている。否、当然、そんなことは有り得ないのだが……途中からコントに巻き込まれる母親が、だんだんと今はカタギに戻っているあの男の顔に……。

ちなみに、本作にはライブ本編で演じられているコントの他に、幕間映像としてバカリズムメインのアニメーションが収録されているのだが、これらも全て出来が良い。「なにかになること」を夢見て上京する学生がクラスメートに向かって語り続ける『卒業』、区役所に向かうまでの道に関する様々な質問を延々と受け続ける男の『律儀』、とあるテレビドラマに寄せられた批評が読み上げられていく『疑惑の螺旋』など、どのアニメもコントに負けず劣らず面白かったのだが、その中でも、ありとあらゆる事象に対して疑いの目を向ける男がとことんウザったい『疑い男疑う』が揺るぎない名作である。これのために本作を鑑賞しても良いというぐらいに面白かった。是非ともご覧いただきたい。

ちなみに、バカリズムは新作『バカリズムライブ「ドラマチック」』を2018年11月28日をリリースする予定である。向田邦子賞受賞後の彼がどんな舞台を構築したのか、今から確認するのが楽しみだ。いやホント。

■本編【104分】

「プロローグ」「オープニング」「過ぎてゆく時間の中で」「ギガ」「難儀と律儀」「銀」「ふしぎ」「卒業」「の?」「律儀」「六本木の女王」「疑惑の螺旋」「志望遊戯」「疑い男疑う」「疑、義、儀」「エンディング」「エピローグ」