白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

俺は今日もメシ喰って出かけるぜ!!!

エレファントカシマシの新曲を聴いて、スッ転がった。なんだこれ!

中学生だった頃、エレファントカシマシがテレビ番組で『武蔵野』を歌っているのを見た日から、少なくとも去年ぐらいまで、彼らに対するイメージは一貫していた。上手く言葉には出来ない。「日本語ロック」だとか、「粗野で荒くれたロックンローラー」だとか、「日本文学と和ロックの融合」だとか、どんな言葉にしても嘘くさくなる。だが、自分の中で、エレファントカシマシ(=宮本浩次)に対するイメージは固定されていた。そして時に、新曲を耳にした時などに、「ああ、エレカシだよね」なんて冷笑的にスカした感想をこぼしたりもした。そうそう、これはいつものエレカシだ、確固たる不朽のスタイルだ、などというように。

ところがコレだ。なんだコレは。らしからぬリズム、らしからぬアレンジ。なにより、らしからぬメロコアバンドのような疾走感。近年、特に「さあ がんばろうぜ!」と観客に呼びかける『俺たちの明日』以降、エレカシは完全に年相応のロックバンドに成り上がっていた。その言葉には歳月の重みが宿っていた。この曲でもその姿勢は変わらない。ただ、その言葉はずっと、活力にあふれている。「偶然とノリと思いつきでさあ飛び出せ」というフレーズのなんと力強きこと。「未来こそ俺の本領 無邪気な今日の俺懐かしむだろう」というフレーズのなんときらびやかなこと。そこには、いつも通りのように、いつもとはまったく違っているエレファントカシマシの音楽があった。なんだこれ!

こういう歌を聴きながら、がむしゃらに街を駆け出したい夜がいつか来るだろう。

「にちようチャップリン」(2018年5月13日)

「漫才:遊園地」。遊園地デートをやりたい。ショーゴの笑いに繋がりにくいボケを、健が独特の言い回しによるツッコミを繰り出すことで、笑いを生み出している。方向性としては三四郎ウエストランドに近いのかもしれない。ただ、ボケに対して、まるで決め台詞のように繰り出されるツッコミは、個人的にイシバシハザマのショートコントの名残を残した漫才を彷彿と。肝心のネタは安定の面白さ。自分たちのスタイルをきちんと提示した後で「寝るなーっ!!!」とシンプルなツッコミを繰り出してからの園子温。後半での園子温、良かったなあ。

  • マツモトクラブ【70】

「聞こえない」。祖父を亡くし、久しぶりに故郷へと戻ってきたコイズミは、葬儀の後で昔の友人の家へと向かおうとしていたのだが、スマホ越しに聞く友人の声は電波状態が悪くて聞き取りづらく……。とにかく設定が素晴らしい。他人の声を音源で流しながら演技するマツモトクラブの芸風だからこそ出来るコントをちゃんと作っている。構成もスゴい。電話の聞き取りづらさから電車内アナウンスの聞き取りづらさへと、あまりにもさりげなくシフトチェンジしている。これが上手い。後半のヒューマンドラマ感もスゴい。「コイズミヒサシブリー」の伏線を笑いでなく感動で回収し、その上で、改めて笑いに落とし込む。マツクラのコントは本当に見るたびに驚かされるな。

  • だーりんず【66】

「コント:公園」。公園のベンチで休憩していたサラリーマンに、お笑い芸人が近付いてきて「ネタを見てくれないか」と頼み込み……。ここも設定が上手い。「一人で演じているけれど別にもう一人いる設定」の一人コントを見させられているサラリーマンが、客観的には「もう一人」であるように見えるように仕向けている着眼点が素晴らしい。ただ、「もう一人」がサラリーマンにとってあまり芳しくないタイプの人物で、事情を知らない人たちに慌ててコントであることをアピールする……というボケに一貫していたのが残念。もうちょっと展開に強弱をつけられる設定だと思う。ダメ押し感のあるオチはかなり好き。

「コント:野球」。九回裏ツーアウト満塁という状況で代打を任された白井だったのだが、彼が頭にかぶせたのはヘルメットではなく、ヘルメットのように仕立て上げた米だった。ストーリーではなくボケを展開させる、関西圏の芸人が得意とする手法のコント。ちょっとでも油断をするとパターンに飽きられてしまいかねないところを、ボケの絶妙なバリエーションの広げかたと里の絶対に外さないツッコミで確実に笑いをもぎ取っている。ちょっと嬉しそうに「さっきのよりちょっと大っきいねぇ~」は良かったなあ。特に終盤のボンバーマンのくだりは笑った。笑ったなあ……。

  • トム・ブラウン【58】

「漫才:キングムーミン」。ムーミンを五体集めてキングムーミンを作りたいというみちおだったが、うっかり一体だけユーミンが混ざってしまい……。「M-1グランプリ2017」準々決勝敗退ネタ。設定と二人のキャラクターのヤバさが際立つが、ネタの内容そのものは「キングムーミンを作ろうとするも上手く作れない」という純粋に期待を裏切るタイプのシンプルなネタ。否、ネタの軸がしっかりしているからこそ、設定や二人のキャラクターがヤバくても、きちんとネタとして成立させられていると考えるべきなのかもしれない。最後に引っ叩かれる意味の分からなさもまたたまらんかったな。しかし、もうちょっと見たかった。

  • LOVE【60】

「コント:警備員」。昨日は通らせてもらえた工事現場を、今日の女性警備員は通してくれない。そこで、そっと誘惑して……。頭の堅い生真面目な女が男の色仕掛けにまんまと引っ掛かってしまい、心を溶かしていく様子をコミカルに描いたコント。工事現場を通り抜けるために色仕掛けで女を落とす……という費用対効果の低さは笑えるかもしれないが、特に落ち度もなく仕事をこなしている恐らくは異性に慣れていないだろうタイプの人をおちょくるような姿勢はあまり好きではない。男の方が明確な悪党であればそれなりに納得もできるのかもしれないが(実際、こういうのは峰不二子とかがやるヤツだ)。ただ、警棒を光らせようとするくだりの「昼はダメ……」は笑った。ああ、下ネタには弱い。

  • 流れ星【80】

「漫才:プーさんゲーム」。ちゅうえいが考案した“プーさんゲーム”をやってみる。「爆笑オンエアバトル」でしっかりとオリジナリティあふれる世界観のネタを作っていた時代を知っているため、こういう営業みたいなネタを堂々とテレビでやっている姿を見させられると、なんだかとっても切ない気持ちになってしまう。プーさんからの林家へと展開する前半はまだしも、 “ちゅうえいゲーム”にウッチャンや土田を巻き込んでいく後半はちょっと見ていてキツかった。その場で見ている人たちには臨場感もあってウケるのかもしれないが、視聴者にはその空気感は伝わってこない。このネタに東京ホテイソンとマツモトクラブが落とされたのかと思うと……うーん……。

1位の大自然、2位の流れ星が勝ち上がり。

【次回の出場者】

ザ・ギース(1週目1位)

大自然(3週目1位)

トンツカタン(1週目2位)

流れ星(3週目2位)

2丁拳銃(2週目1位)

ネルソンズ(2週目2位)

アキラ100%「裸の王様」(2017年7月26日)

裸の王様 [DVD]

裸の王様 [DVD]

 

R-1ぐらんぷり2017」王者、アキラ100%による初めての単独DVD作品である。彼の芸といえば、全裸の状態でも股間だけは隠し通してみせるパフォーマンス『絶対見せない de SHOW』、武器も衣服も身に着けない刑事の活躍ぶりを描いた『丸腰刑事』など、基本的には“全裸になって、お盆で股間を隠す”という一点にのみ集中している。逆にいえば、それしかない。そんな彼のロンリーワンな芸風で、果たして本当に単独作品を成立させることが出来るのか。結論から言おう。出来ていない。本編に収録されているアキラ100%のネタは、先に挙げた『絶対見せない de SHOW』と『丸腰刑事』のみで、残りの容量は企画映像で占められている。だが、この企画映像がベラボーに面白かった!

本編では二つの企画が行われている。一つは「How to アキラ100%講座 ~これであなたもお盆芸の達人~」。文字通り、日本で最もお盆芸を得意とするアキラ100%がインストラクターとなって、そのコツやテクニックをレクチャーする映像である。また、この講義を受ける受講生として、西村瑞樹(バイきんぐ)と松本りんす(だーりんず)がゲストとして出演している。講義そのものはとても真面目で実用性の高い内容になっている。もし、本当に忘年会・新年会などの集まりで、アキラ100%のネタを模倣しようと考えている人がいたら、間違いなく参考になるだろう。しかし、実際問題として、画面上に映し出されているのは三人の地味な見た目のおじさんたちが全裸に近い状態で股間のブツをこぼしまくっている映像である。端的に言ってドイヒーだ。なので、例えば日曜正午の自宅のリビングなどで視聴するのは避けた方がいいかもしれない。回転したお盆が西村瑞樹の"先端"を強打する音を響かせていい時間帯ではないだろう。

もう一つの企画は「新技実験 de SHOW」。『絶対見せない de SHOW』ではお盆以外の道具を使って股間を隠すこともあるアキラ100%が、これまで扱ったことのないアイテムを駆使して股間を隠せるかどうか、実際に関係者を集めた会場で試してみる……という映像である。これがストレートに面白かった。本編では「紙風船」「ドライアイス」「ドローン」が使われているのだが、これらの使用法についてのアイディアには素直に感心させられた。シンプルだけど奥が深い。その奥深さを強調するかのように、この企画だけドキュメンタリータッチで編集されている。時々、アキラ100%の天然をイジるくだりもあるが、基本的には真剣な内容となっている。ただ、やっていることはあくまで股間を隠すお盆芸なため、どうしても空気感と画の間にギャップが生じてしまい、どうにもこうにもたまらない映像になってしまっている。特に、挑戦に失敗してしまった際の心境を語るアキラ100%の映像は必見だ。

これら本編に加えて、特典映像としてアキラ100%が裸にならない一人コント『星に願いを』を収録。幼い子どもが「大人にしてください」と星に願いを込めたところ、なんとその願いが聞き入れてもらえて……。アキラ100%にとっては、いわゆる本芸ではないネタに当たる正真正銘の一人コントだが、その完成度はなかなかに高い。ただ、ストーリーから漂うペーソス感は、良くも悪くも所属事務所であるソニー・ミュージック・アーティスツの芸人としての個性が色濃く出過ぎていて、この芸風のままだと売れずに埋もれていたことだろう。ここから這い上がってくるためにアキラは裸になったのだと思った途端、なんだかちょっと背筋が伸びてしまった。もう。

■本編【77分】

「絶対見せない de SHOW」「新技実験 de SHOW」「丸腰刑事」

「How to アキラ100%講座 ~これであなたもお盆芸の達人~」

■特典映像【3分】

「星に願いを(着衣ひとりコント)」

「にちようチャップリン」(2018年5月6日)

  • レインボー【82点】

「人を愛するということ」。初めて自宅に招き入れた職場の後輩は、彼女の失敗を全て「愛すな~」と言いながら受け入れてしまうステキな男性で……。初見。いわゆるボケとツッコミの関係性を見せるコントではなく、日常に起こり得る失敗をまったく咎めることなく受け入れていく実方の演技が笑いを生み出している。その姿は異常でもなければ風刺でもない、シンプルにコミカルで楽しい。コントというよりもハートフルコメディを見ているような感覚に近いかもしれない。ネタ後のトークで「『お金がない!』の時の織田裕二を参考にしている」と語っていたが、まさにその世界観を再現しているといえるだろう。ソフトな感触は昨今のコンプライアンス重視の流れに適しているが、個人的にはもうちょっとパンチが欲しいところ。

  • 宮下草薙【76点】

「漫才:ハワイ旅行」。先輩からハワイ旅行へと誘われた草薙だが、どうして自分が選ばれたのかが分からないため、徐々に不安が募っていく。初見。面白かった。どうしてハワイに誘ってもらえたのかを不安に感じているだけではなく、ハワイではないところへと連れていかれるのでは……と妄想を繰り広げるところなどはたまらなかった。「俺、珍しいカブトムシよりは、高いと思って生きていたい……!」という台詞のバカバカしさよ。フリートークでも結果を残していて、売れる予感しかしなかったが、点数はあまり伸びず。終盤、予定調和の展開になったことで、やや失速していたのが影響したのだろうか。

「漫才:ちょうどええ」。歌っている最中にむき出しになる小堀の歯ぐきイジりを経て、クイズ「ちょうどええ」へ。ただ小堀の歯ぐきが出ている・出ていないのやり取りだけで笑いをかっさらってしまう様は流石ベテランといったところ。そこにダメ押しで安定感バツグンのフォーマットネタ「ちょうどええ」を重ねてくるのだから、そりゃウケて当然というものだ。実際、かなり面白かったのだが、とはいえ若手たちが競い合う場において、彼らレベルのベテランが出てくるのはどうなんだろうかと思わなくもない。

「漫才:フラれた友達を慰める」。夕焼けに包まれながら、フラれた友達を慰めるシーンを再現しようとするのだが、「女なんて星の数ほどいるよ!」という台詞に対するかーしゃのツッコミが止まらなくなってしまい……。番組でも紹介されていたように、漫才の中に雑学が盛り込まれていて、それが彼ら自身の個性になっている。ただ、少なくとも今回のネタに関しては、雑学の意外性がそれほど笑いに繋がっていないように思えた。雑学を取り入れるように決めていることで、むしろ漫才師としての可能性を抑え込んでしまっているところもあるのかもしれない。それはそれとして、以前に比べて、かーしゃのボケとしての佇まいが、ウド鈴木っぽくなっていたような。浅井企画の空気に染まってきたのだろうか。

「漫才:オムライス」。色んな卵料理の中でもオムライスが好きな二人だが、オムライスにかけるものがケチャップとデミグラスソースで対立し……。以前のヤーレンズは、漫才とは少し違ったとりとめのない雑談を繰り広げるスタイルを取っていたが、今回のネタはきちんと漫才の枠内に収まっていて、人は変わるものなのだなあと妙にシミジミとしてしまった。結果、ヤーレンズらしさが少し薄まってしまったが、漫才としてはシュッとキレイに収まったものになっていたように思う。卵料理ランキング・天国地獄大地獄のくだりも良かったが、なによりオチが美しかった。こういうオチをしれっとやってのけるところがまさにスタイリッシュ。「ケチャップの最後(の音)で悔しがるなよ!」。

  • 小島よしお【82点】

「クラシックミュージカル 浦島太郎」。童話「浦島太郎」のストーリーをクラシックの名曲に合わせてミュージカル風にお送り。一見、強引にクラシックと童話を織り交ぜた力技にしか見えないが、クラシックの選曲と台詞回しのボケはきちんと相性が良い。特に乙姫のくだりはあまりにもバカバカしくて声を出して笑った。通常のコントとして見ると足りないものばかりだが、その至らなさが小島よしおの場合は強みになっていて、その辺りを自覚的にこなしているという印象。クレバーだなあ。

「コント:コンビニ」。始めたばかりのバイト先のコンビニの店長は、どんな嘘も失敗も「だいじょぶだいじょぶ~」と全て受け入れてしまう人だった。とりあえず、小島よしおの後にこの台詞が軸のネタというところに、引き運の良さを感じた。或いは、小島が出演する回だと知った上で、このネタをぶつけたきたのだろうか。そういう勝負勘はありそうだが。ネタそのものに関しては、和田まんじゅう演じる店長のコミカルなキャラクターが魅力的ではあったけれども、それ以外の部分はかなりコントとして手堅い作りになっていて、意外性という意味では弱かったかも。机を飛び越えるシーンは笑った。

1位の2丁拳銃、2位のネルソンズが勝ち上がり。

【次回の出場者】

だーりんず
大自然
東京ホテイソン
トム・ブラウン
流れ星
マツモトクラブ
LOVE

2018年6月の入荷予定

20「落談~落語の噺で面白談義~♯3「紙入れ」

20「落談~落語の噺で面白談義~♯4「芝浜」

20「永野と高城。

27「きらきらパチパチしゅわしゅわ」(パーパー

27「Gentlemen」(ルシファー吉岡

菅家です。いよいよ六月ですね。……いや、特に何かイベントを抱えているわけではないのですが、六月を迎えると「もう一年の半分が過ぎてしまうんだなあ」と感じませんか? この半年間、自分は何をどうして生きていたのか……色々と後悔に苛まれる一ヶ月となることでしょう。……なりませんか?

そんな六月の注目作は、なんといってもアイドル・高城れにももいろクローバーZ)と芸人・永野によるツーマンライブを収録した『永野と高城。』でしょう。アイドルが笑いの舞台に挑戦するという企画は有り得ますが、完全なツーマンライブなんて、そう簡単に見られるものではありませんからね。しかも相手は、一度は売れっ子になったにも関わらず、昔と変わらぬカルト芸人ぶりを見せつけている永野というのだから、そりゃ観ないわけにはいかないでしょう。今年、第二回も開催されたそうで、そちらもソフト化されるかどうか分かりませんが、今から楽しみです。

あと、「キングオブコント」ファイナリストのパーパー、「R-1ぐらんぷり」ファイナリストのルシファー吉岡がそれぞれベスト盤をリリースします。発売のタイミングとしては少し遅いような気がしないでもないですが、こちらも楽しみですね。ちなみに、今年はモグライダーのDVDも制作されるとのことで、なにやらマセキ芸能社が頑張っていますね。現在、マセキはバカリズムとナイツのDVDを定期的にリリースしていますが、そこに新たに加えられる芸人は現れるのでしょうか。けっこう出し渋るイメージが強いので、なんとかしてほしいところではありますが。

「にちようチャップリン」(2018年4月29日)

  • ザ・ギース【90】

「コント:笛」。放課後の教室に残ってリコーダーを吹いている生徒のことを心配した担任が「いじめられているのではないか?」と訊ねるのだが、生徒は笛でしか返事してくれない。今年の単独で披露されていたコント。リコーダーを使って会話を持ちかけるコミカルな設定もさることながら、コントの中で演じるレベルを振り切れたリコーダーの演奏技術の高さが笑える。結果、メロディが美しければ美しいほど、大きな笑いが起きるという不思議な状況に。とりわけ尾関が二本目のリコーダーを取り出したシーンは素晴らしかった。不意を突かれた。

「漫才:カーナビ」。野沢雅子がカーナビの声をやったら。ベタな設定にベタなツカミで笑いを取りながらも、「画面にずっと野沢雅子が映っている」「多岐に渡る声優レパートリーの最後に普段の野沢雅子が登場」「野沢雅子がカーナビから飛び出して後部座席に一声」など、単なるモノマネの領域を超えたボケを随所に散りばめているあたりに、漫才師としてのプライドを感じさせられる。終盤の畳み掛ける展開も漫才師らしかった。ただ、オチは微妙。意外性という意味でも、ドラゴンボールネタという意味でも弱く、わざわざオチに持ってくることもなかったような。

  • はなしょー【72】

「コント:恋愛相談」。友達に教育実習の先生を好きになってしまったことを相談すると、「先生に恋するの広瀬すずみたいな美人じゃないと許されない」と断言されてしまう。友達の提言に振り回される女生徒を演じる杵渕はなの演技力が、観客から強引に笑いをもぎ取っていく様は見事としか言いようがないが、テレビで目にしたはなしょーのネタの多くが、本作のような「ブスがブスであることの立場をわきまえるように抑え込まれる」設定で、他にバリエーションはないのかと心配になる。彼女たちと同じく演技力で笑いを引っ張り出すニッチェがとっくにそのスタンスから脱却していることを思うと、この方向性以外のネタもやっていかないと……厳しい。

  • 天狗【70】

「漫才:物忘れ」。物忘れがヒドくて一週間の曜日を英語で言えなくなってしまった川田に、相方の横山が思い出せるようにレクチャーする。愚鈍で不出来な川田を優しい目で見守っている横山というコンビの関係性を見せたい漫才だというのは理解できたのだが、肝心の内容が頭に入ってこない。思うに、導入の「頭を引っ叩く→耳鳴り」のくだりのテンポが悪くて、それ以降の流れに関心を持てないためだろう。もとい、はっきり言って、あのくだりは必要無い。オチへの伏線のつもりなのだろうが、そこまで笑いに昇華されていなかったし。そんな小細工がないほうが、この漫才は見やすかったように思う。ただ、横山が観客に「なんでみんな応援したらへんのーっ!?」と訴えかけるくだりは、それまでの流れからの意外性があって笑った。

「コント:クズ男」。幼馴染みが紹介したいという彼氏は、身なりはきちんとしていないわ、彼女の金でギャンブルに手を出すわ、彼女に手をあげるわ、どっからどう見ても典型的なクズ男で……。とにかく設定が上手い。一般的なクズのイメージをそのまま反映したような男に怒りの鉄槌を振り下ろそうとするも、意外と堅実でちゃんとしている人間と知り、何も言えなくなってしまう。なにやら、ある特定の状況を一般化して、紋切り型に批判してしまいがちなネットユーザーのことを皮肉っているようにも見えて、その意味ではとても現代的なコントといえるのかもしれない。ネタの内容もさることながら、振り上げた拳の行き場を見失って、ただただ口ごもる森本の演技も良い。

「漫才:弔辞」。相方の葬式で読む予定の弔辞を完成させたので読み上げる。勝手に相方の弔辞を考えてきて、漫才師のように「どうもーっ!」と声高に読み始めるまでのくだりが漫才のピーク。それ以降はボケを混ぜ込んだ弔辞が読み上げられるだけで、特に目立つところはなし。正真正銘、絵に描いたような竜頭蛇尾。そもそも、ツッコミの後にボケが提示されるトリッキーなスタイルの漫才で注目を集めたコンビなのだから、もっとひたすらにムチャクチャなことをやってしまってもいいと思うのだが。どうして、ここにきて無難で手堅い漫才をやろうと思ってしまったのか。

「丸腰侍」。全裸にお盆の丸腰侍が今日も行く。人斬りの犯人を追いかけるストーリーであることを考慮すると、主人公は侍じゃなくて岡っ引きのような気がしないでもないが……細かいことは置いておこう。基本的には全裸の刑事が犯人を追いかける『丸腰刑事』とやっていることは同じなのだが、妙に濃くなっている化粧とヘンに仰々しい台詞回しのせいで、なんとなく差別化されているような気がしないでもない。気のせいかもしれない。

1位のザ・ギース、2位のトンツカタンが勝ち上がり。

【次回の出場者】

小島よしお

ジャイアントジャイアン

2丁拳銃

ネルソンズ

宮下草薙

ヤーレンズ

レインボー

「にちようチャップリン」(2018年4月22日)

  • インディアンス【90点】

「漫才:きむが元気ない」。相方がコンビを結成したころに比べて元気が無くなってきたという田渕に対し、元気いっぱいの姿を見せようとする木村だったが、何を言ってもやっても反論されてしまう。通常、インディアンスの漫才は木村の話が先行し、田渕がそれにいらぬボケを付け足していくスタイルを取っていたが、今回は木村の言い分に対して田渕がボケやツッコミを打ち返していくスタイルにシフトチェンジ。結果、従来のネタよりも漫才として噛み合っているし、田渕のスタンスも木村を追い詰めるという点では統一されているので違和感がない。新しいインディアンスの扉が開いたような漫才だった。

「コント:サプライズ」。テキトーな理由で家に呼んだ友達に、サプライズパーティを用意している二人。ケーキもプレゼントも用意して、二人の間でしか通じない暗号も考えて、しっかり準備万端で待ち構えていたのだが、そこで思わぬハプニングが……。明らかにチョイスミスな暗号のフリが大き過ぎて、そちらにばかり意識がいっていたところ、その隙を突くかのように繰り出された「緊急事態の合図」「オリジナルのバースデーソング」などの表現力重視のボケにまんまと飲み込まれてしまった。否、むしろ暗号ボケがきちんと機能するように作られているからこそ、伝わるかどうか分からない表現力重視ボケを安心してぶつけられるのだろう。序盤のどうでも良さそうなボケをフリにしたオチも上手い。

  • プラス・マイナス【92点】

「漫才:街づくり」。自分で街を切り開いていくゲームにハマッているという岩橋が、舞台上でお互いに街を作っていって、どちらがより良い街を作ることが出来るか勝負しようと提案する。慣れた手つきで街に必要な施設を建築していく岩橋に対して、我が道を突き進んでいく兼光の奔放さが楽しい。そんな朗らかな気持ちをブチ壊すように始まる「大仏・小仏」についての激論を重ねていくくだりは、これまたあまりの下らなさに笑ってしまった。どうでもいい。心底どうでもいい。それでいて終盤、「おぎゃあ」のくだりにはちょっと感動を覚えてしまった。これほどまでに観客の視点を右へ左へ転がしてくれる漫才も珍しい。面白かった。

  • ペンギンズ【82点】

「アニキ漫才 ~小道具卒業~」。小道具に頼り過ぎだとアニキに注意されたノブオが、泣きながらアニキに小道具を手渡していく。用意してきた小道具のチョイスと所持している小道具の異常な多さが笑いに昇華されているネタ。決して賞レースで勝てるタイプのネタではないが、こういう場だからこそ出来るイレギュラーなネタを用意してきたことに好感を覚えるし、道具のチョイスもきちんと考えられていて(ゴムチキン三連発は笑った)、楽しかった。アニキのオチも見事。

  • 鬼越トマホーク【84点】

「漫才:キャラがほしい」。コンビにキャラが無いと思っている坂井が、様々なキャラクター要素をコンビに付け加えていこうとする。何の説明もなく坂井が「双子設定の漫才」「ハーフ設定の漫才」を始めようとするくだりがたまらなく好き。見た目がアウトローなのに、意外とこういうベーシックなくだりをそつなくこなすコンビである。そこからコントに入るまでのくだりはやや歪な流れになっていたが、それら全てを「コワモテが出来る全ての漫才コントはサンドウィッチマンがやってるよ」の一言で集結させてしまったのは凄かった。妙に内容に熱が篭っているのは、幾らか本音も反映しているからなのだろうか。そして終盤、まさかの展開で一気に畳み掛ける。売れない芸人ならではの悲哀をテーマにしているのに、それをまったく感じさせない安定感。良かったな。

  • しずる【80点】

「コント:高橋英樹」。二人が入った喫茶店に偶然にも高橋英樹が。でも、当人か他人の空似か分からない。そこで池田が確認に行くことに……。既に高橋英樹ではないと分かっているにも関わらず、村上に促されて何度も何度も確認に行かされる池田の不条理な境遇がたまらない。ただ、池田は池田で、不満を口にしながらもまるで積極的に確認しに向かっているように立ち振る舞っているため、不快感のようなものは覚えない。このバランス感が良い。ただ、ややブラック色の強いオチは、しずるの得意な手法をそのままお手軽に持ち込んだだけのように見えて、なんだか勿体無い。

1位のジェラードンが四月の月間チャンピオンに決定。

【次回(4月29日)の出場者】

アイデンティティ

アキラ100%

笑撃戦隊

天狗

トンツカタン

はなしょー

「にちようチャップリン」(2018年4月15日)

  • インディアンス【96点】

「漫才:高級レストランでデート」。ホテルの最上階にある高級レストランでデートしたらモテるんじゃないかという木村の提案に対して、フザケたボケで対応していく田渕。以前に同じ設定の漫才を演っていた彼らを見たことがあるような記憶があるのだが、当時よりもずっと田渕のボケが暴走していて、それなのに適度に元の話題へと戻ってくるバランス感がきちんと向上している点にうっすらと感動を覚えた。ただ、それが却って、田渕の暴走を予定調和であるように見えてしまって、それに伴い、面白いのだけれども乗り切れない部分を作ってしまっているようにも感じられた。結果、改めてアンタッチャブルの偉大さに気付かされている。厳しい道だ。

  • しずる【90点】

「コント:蜂」。追試中、教室に入ってきた蜂に何故か先生ばかりが刺され続けるのだが、平静を装い続ける。生徒の前で平静であり続けようとしているのに、蜂に刺されるたびについつい「んっ」と濁った声でリアクションを取ってしまうギャップが可笑しみに昇華されているコント。切り口は面白いし、それなりに丁寧に作り込まれてはいるが、最後の最後で「先生だけが何故か蜂に刺され続けている」という設定の粗に言及するオチは、上手い落としどころを見つけられなかったが故の苦肉の策という風で勿体無い。

  • 三拍子【82点】

「漫才:遊び」。「馬跳び」を知らないという高倉に久保が遊び方をレクチャー。いつだったかのM-1グランプリ敗者復活戦で披露されていた記憶がある。動きメインのネタだが、「おしりどんぐり」「馬インザスカイ」など、ところどころに引っ掛かる表現をきちんと残しているところに、三拍子の漫才らしさを感じさせられた。後半の「助走をつけている高倉のボケが気になって馬の姿勢を崩してツッコミを入れる久保」のやり取りもバカバカしくて面白かった。ただ、動き重視のネタになっていたため、あんまりボケの本数を詰め込めなかったのが残念。あと、“正統派漫才師”として紹介されていたのに、躍動感にあふれる漫才をやっていたのは、ややチョイスミスのような気がしないでもない。

ポール牧野」。ポール牧野によるポールダンス風のパフォーマンスとともに繰り広げられる一言ネタ。「THE W」決勝戦のステージでも披露されていたパフォーマンス。ポジティブな視点からの自虐ネタと不思議なビジュアルによる洗練されていない仕草が笑いに昇華されている。逆にいえば、それを事前の説明もなく、観客に伝えられる表現力が評価されるべきなのかもしれない。ひょっとするとハリウッドザコシショウレベルの芸人に成り得るといえるのか。ただ、先にも書いたように、ネタの内容はあくまで自虐ネタなので、そこのオリジナリティに欠けるのが勿体無い。

「コント:二人羽織」。新人歓迎会で二人羽織をすることになった二人が、早速練習を開始するのだが……。二人合わせて体重二百キロ超えを自称しているコンビだけあって、ネタの内容も自身のビジュアルに特化したものが主。ただ、どちらも太っているためか、それぞれのデブ発言に対してツッコミを入れず、呑気に爆笑で乗り切ってしまうところに、現代性を感じる(ネタの後、小池栄子の体型を褒める流れには笑った)。とはいえ、ネタの内容に意外性が感じられず、もう少しオリジナリティを見せていくようにしないと単なるデブキャラで終わってしまいそうな気もする。タイムマシーン3号のような語彙力を身につけられるかどうか。

「コント:バスガイド」。東京を案内する観光バスのガイドの左手が明らかに人間のモノではなく、名物名所よりもそっちの方が気になって仕方がない。「左手が明らかに人間のモノではない」というボケを延々と消費し続ける手法は如何にもジグザグジギーらしいが、そのしつこさが上手く表現されておらず、ただ単純にボケのバリエーションが少ないだけのコントに見えてしまう。また、これと同じ傾向のコントを、既にしずるが演ってしまっていたので、余計に物足りなさを感じた。手にまつわるエピソードをもう少し掘り下げていれば、より印象にも残ったのだろうが、それはそれでジグザグジギーらしさが失われてしまいそうでややこしい。

  • 永野【72点】

「おもしろネタ4連発」。「TSUTAYAのテーマソング」「ノリノリで香水をつけるとこ」「コント:台風の中、キャバクラに行く人」「くまさん応援大会」の四本を披露。メディア的にはすっかり飽きられてしまった感のある永野だが、こうしてパフォーマンスを見ると、当時と違わぬポップさとキレ味を兼ね備えていて、まるで色褪せていない。このまま色褪せることなく、静かにメディアから姿を消していくのだろう。それでいいのか。それにしても、千鳥大悟もコメントしていたが、「くまさん応援大会」だけはこの場で披露する理由がまったく分からない。ライブであれば、会場の空気を一つにまとめるための準備として理解できるのだが、テレビの舞台で披露する意味とは。

1位のインディアンス、2位のしずるが勝ち上がり。

【次回(4月22日)の出場者】

インディアンス(3週目1位)

鬼越トマホーク(2週目2位)

しずる(3週目2位)

ジェラードン(1週目1位)

プラス・マイナス(2週目1位)

ペンギンズ(1週目2位)